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正義の条件  作者: ありと@
第1章『激突する憎悪と正義』
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2.エースと落ちこぼれ

――――第2グラウンド


 天野学園が普通校と異なる点、その1つがこのグラウンドである。新2年生達が集まっているこの場所は広大な土地を十分に活かしたつくりとなっている。


 本来だったら高校生として青春を謳歌する年代、その気遣いか、外見はごく普通のグラウンドだ。ただ、トラックは一周で1キロメートルだと特筆しておきたい。


 これは、ヒーロー候補生たる彼らが通常の訓練に加えて戦闘演習を行えるようにとのことである。また"第2"とあるように、こういったグラウンドが学園内に3つある。




「うおおおおおおおおおおおお!」


 雄たけびと共に肩を唸らす。飛び出したソレは空気を切り裂き高く飛び出す。主を離れたソレは目一杯もがき、やがて放物線を描き始めた。


「いっけえええええええええ!!」


 もっと気合を見せてみろ――そういわんばかりに叫ぶ、青髪から汗が弾ける。彼のトレードマークでもある鼻頭の絆創膏に血が滲む。飛び出したソレは期待に応えんと力を振りしぼり、最期まで重力に抗って見せた。


――トン。コロコロコロ……


『17mです。』




「納得いかねぇ!絶対もっと飛んでるだろーが計測ッ!!」



「いや、測ってんの機械だからてかショボすぎだろなんだよ今の語り」


「根性で飛距離が伸びる実例をつくろうかと」


「天野学園の女子平均にも遠く及ばないが……」


 現在2年生は絶賛身体力測定中。中学までと同じ、持久走があって、短距離走があって、握力測定があって、そして今はソフトボール投げの最中というわけだ。天野学園は言ってしまえば体育コースオンリーの厳しい世界だ。学園の色ゆえ、自然と"スポーツ万能タイプ"が各地から集まってくる。身体力測定の平均がアスリートのような数値になるのも無理はない。


「ほんと、俺なんで入っちゃったんだろなぁ……」


「なんでだろう……なッ!!」


 グラウンドの隅で落ち込む鐸に適当に相槌を返しつつ、瀬雅も自分の投球をこなす。腕は鞭を幻視するほどしなり、ソフトボールは彼方へ消えた。


『測定不能――』


「相変わらずスゲーなアイツ」

「ああ、あれでCなんて気の毒だ」

「実際、装着したら意味ないだろ……」


 周囲の感想を涼しげに受け流し、瀬雅は軽く腕を回す。


「いーよな~特別製・・・は」


「んなことねーよ。俺にできないことが金堂にできるんだからいいじゃねーか。」


「違いないね」


 軽口を叩く2人だがその目は笑っておらず、グラウンドの中心に向けられている。一定おきに聞こえてくる轟音、2-Cの意識はその度に"彼ら"に吸い寄せられるのだ。


「はああああああっ!!」


 中心で行われているのは2-Cと同じボール投げ。しかし、ボールは鋼鉄製、投手の腕はか細い。背も低い女の子である。


『68mです。』




「あれこそ羨ましがる姿だろーよ。」


「セガあれ投げられたりしない?」


「セガじゃなくて瀬雅らいが。馬鹿も休み休み黙れ金堂、肩イカれるだろあんなん。」


「喋れなくなるぞそれ。まぁそうだよなぁ。」


 暖かい風になびく黒と青。彼らが気だるそうに眺めるのも仕方ない、"Aクラス"とはただのスポーツ万能タイプでは到底かなわない理不尽なのだから。


「魔力……ねぇ。」


「大昔ならファンタジーで済まされてたんだろうけどな。」



 人の体に魔力という新エネルギーが宿るようになって100年、更にこの10年で魔力と親和性が高い人間が増えた。そうした人間は、筋力にサポートをつけることによって飛躍的に身体能力を上昇させることができるようになった。


 つまり、魔力総量が多いものは過去の人体のスペックを超えた力を引き出すことができ、魔力の乏しいものは自前の身体能力で勝負しなければならない。どんなに運動ができても届かない魔力至上主義が台頭することになった。


「あちょー!!!」


『59mです。』


 また一人、Aクラスの女の子が記録をだした。先ほどではないにせよ、生身の人間が鉄球を上手投げして出る記録ではない。


「Aクラスといっても2年生であんな芸当ができちまうんだもんな。3年生……いや、五十嵐達は一体……」


「現職のヒーロー達と比べたら惨めなだけだよセガくん。」


「友人の名前も覚えられないもんなお前は……」


 魔力至上主義は学園内でも健在である。魔力に親和性がある、魔力総量が多い、そういった基準でクラス分けをし、アルファベットでランクを引く。


「自分でいうのもなんだけど魔力少ない上に俺はもやしだしなぁ……」


「16mだもんな。」


「17mだ!間違えないで。それは、あれだよ、今日たまたま病気がっていうか……」


「不治の病だな。」



 そう、2人はCクラス。身体能力が水準以下、魔力総量も少ない金堂鐸と。



「特別製、ね……」



 魔力との親和性が全くない(・・・・)米村瀬雅はいわゆる落ちこぼれなのである。



「はぁ~どこかに落ちてねえかな、才能」


「金堂の場合、拾ってもどうしようもなさそうだが。」


「なんでよ!」


「野菜に道具が使いこなせるとは思えない。」


「比喩だっての……馬鹿セガ」


「セガじゃねえっつの」



 2人の愚痴も時折桜の花びらが届くような晴れ模様の前ではのどかに見える。瀬雅はその後もあらゆる種目で講師も驚く記録を出し続け、金堂は大豆になれなかった。



――――――――――――――――――――――――



――放課後


 一通りの体力測定が終わり、いくつかの注意事項と「明日は学力テストだからな」という金髪担任の意地悪な笑みを手土産に新学期初日は終了となる。


 実技やテストは初日から行い、始業式のなが~い話はカットする。学園長の方針はいつでも合理的だ。


「せっかくの午前終わりだ、どっかいくか?金堂。」


「お、いいねスーパーいこうスーパー。肉が安いんだ今日」


「主婦だねぇ……」


「褒めんなって、うひひ」


「キモやし」


 学園のある北区から出て学生の本分をエンジョイしにいく。

たまたまこの日、怪人が10年来の大規模な活動を開始することを2人は、いや、ヒーロー候補生達は知る由もなかった。




 

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