16.終焉の実験台(挿絵有)
2016.12.17挿絵を追加
『変身……?あり得ない!これは怪人だけに許された力。』
響く声。黒い魔力に覆われた黒い獣、その声は戸惑いに震えている。
米村瀬雅という人間、目の前の少年は確かに言った、変身と、人間が怪人の姿になるのは不可能だ。しかし、ルミは信じざるを得なかった。
そうでなければ今ルミの目の前で起きていることが説明できない。
爆炎のように猛る赤い魔力が
『オマエは一体何者なんだ……?』
瀬雅は赤い魔力を身に纏う。その髪も瞳も、肌さえも深紅に染まっていく。
「"終焉の実験台"――お前と同じだ、ルミ・ティイケリ」
『実験台……オマエも怪人の魔力を融合させられたということなのか!』
困惑から驚愕へと表情を変えていくルミ。"実験台"は自分だけではなかったのだ。瀬雅もまた、戦争の影で行われていた"実験"の1つ。怪人の魔力を強制的に融合させられた存在。
「……セガが、怪人。」
魅甘はいつの間にか立てなくなっていた。全力になった上位種と、同じくらいの魔力を発している同級生。2つの魔力の奔流に腰を抜かしたのか、それとも……
「そうだ。ルミ、お前の気持ちはよくわかる。」
『…………』
先ほどとは違い、ルミは何も言えない。おそらく瀬雅はルミのことを本当に良く理解している。そう感じたからだ。
瀬雅は体に赤い魔力を迸らせ、異形の姿へと変貌している。紅蓮の翼、鋭利な尻尾、そして額の2本の角。
――悪魔
現存する怪人のどの種族にも当てはまらない特徴をもった姿。ただの人間があの姿にさせられる。一体どれほどの痛み、どれほどの悲しみを負ってきたのだろう。
ルミは自分の過去の痛み――比喩ではなく千切れるような痛みがこの10年続いていたことを思い出した。
『……オマエも、苦しいのか』
「ああ、苦しい。」
胸に手を置いて答える瀬雅。
ルミはいまのやりとりですべてが理解できた。この男は本物だ。
真に苦しいのは穢れた身体などではない。
周りにどれだけ溶け込んでも、周りがどんなに慮ってくれても満たされることのない孤独感。
"自分は周りの者とは違う存在になってしまったんだ"という痛み。
ましてはこの男は人間だ。怪人の体を持つなんて周囲にはバレる訳にはいかないだろう。
『ネズミにもコボルトにも、魔力を使わずに戦っていたのはそれが原因か。』
「ああ、俺の"呪い"は、肉体に魔力を通すと強制的にこの姿になってしまうこと。」
赤い悪魔。誰の目にも、それこそ獣族の上位種であるルミから見ても禍々しい姿。その姿は戦争を体験した人間には恐怖であり、軽蔑であり、討伐の対象になるだろう。
気づけばルミは、先ほどまで殺意を向けていた少年に愚痴を零していた。
『ワタシの"呪い"は終わらない破壊衝動。止められないのだ。』
気づけばルミは、先ほどまで覚悟していた運命に涙を零していた。
『どんなに取り繕っても、ワタシはもう誇り高き獣族ではない。ただの破壊者なのだ。』
「そんなことはない。」
瀬雅は笑っていた。昔、こんなことがあったなと。
人間の心に怪人の身体。それを理解した少年は絶望した。どうしていいか分からなかった。そんな時になんと声をかけてもらったか。
「その破壊衝動と復讐心に身を焦がされても、被害が広がりすぎないよう、せめて自分は戦わない。そう決めてたんだろ?」
ふるふると首を左右に動かすルミ。その姿は破壊を振り撒く黒い獣人でありながら、迷える年頃の少女のようであった。
「意志の力で''呪い"をねじ込む、そんなの不可能だ。お前は――ルミ・ティイケリは自分が思っているより誇り高き怪人だ。」
『ち、違う。違う!ワタシはもう自分を止められない!どれだけ悔いたところで、どれだけ恨んだところでこの身はもう戻らぬのだから!』
爆発、感情なのか黒い魔力なのか、ルミは吼えた。先ほど瀬雅達を吹き飛ばした魔力の奔流だ。
しかし、先ほどとは違う。瀬雅は座ったままの魅甘の前に立っていた。嵐から守るように。
「……セガ。」
「悪い、怪人の話に捲き込んじまった。でも麦町――お前は傷つけさせない。」
こんな姿で言っても説得力ないか、と自虐気味に笑う瀬雅。瀬雅は諦めていた。魅甘を守ってこの戦いに勝利しても、肌の色まで赤い悪魔そのものを見てこれまで通りに接せる訳もない。
「意外と、毎日寄り道すんのも悪くなかった。」
戸惑う魅甘に言い残し、ルミに向き直る瀬雅。
「ルミ・ティイケリ!暴れたいんだろ?俺が相手になってやる!お前に勝って認めさせてやる。お前自身がまだ諦めたくないと、戻りたいと望んでいると。」
『う………ウォオオオおおおおおお!!!!!!!』
何度目かの咆哮、ルミは既に瀬雅を信じていた。故に堪えることを辞める。
それは決壊。10年間、意志の力で抑え込んでいた"呪い"による破壊衝動が彼女を飲み込み、完全に狂怪人と化した。
「俺の正義でお前を救ってやる……。」
地を蹴る両者、そのタイミングは全く同時だった。
瀬雅とルミは何のひねりもなくただただ互いを殴りつけた。
「ぐぅっ!!」
うめき声をあげ、後方に飛ばされるのは赤い悪魔と化した瀬雅だ。
もともとスピード・テクニック特化の瀬雅だ、暴走して箍が外れてしまったルミの膂力とは張り合えない。
今のルミは爆発する魔力の全てを四肢につぎ込みパワーへと転じている。その拳はビルを簡単に粉砕するだろう。更に、瀬雅は今朝まで腕を吊っていた怪我人だ。怪人化したとはいえ、コボルト戦で見せたようなカウンターを使えば体がもげてしまう。
「想像してたけど、思ったより分が悪い。」
『グおおおおおおおおおおおお!!!』
理性を失ったルミは本能のままに咆哮し、瀬雅に突撃する。瀬雅は直撃はマズいと思いその翼を羽ばたかせた。
悪魔の翼は離陸する戦闘機のような風を起こし、抜群の推進力でルミの突撃を回避する。
攻撃を躱されたルミは躊躇うことなくそのまま背後の朽ちたビルに突っ込んだ。
爆音、響く結界内の世界。もともと廃墟のようだった景色が建物を次々と失い更地になっていく。
「ま、魔力壁!」
戦いを見ていた魅甘だが、たまらず距離をとり、防御に専念する。
魅甘はわずかなやりとりで察していた。瀬雅は恐らく何かを狙ってルミと対峙している。
それが何かは分からないが、足だけは引っ張るまいと防御に専念した。瀬雅はそんな魅甘を横目に見る。ルミの攻撃にだけは巻き込まないようにしなければいけないという意志が赤い瞳に浮かんでいた。
『グルぁアアああああ!!!』
瓦礫からルミが飛び出してくる。何者かに改造され、魔力を歪められて与えられた強烈な破壊衝動。その中でルミ・ティイケリは一体何を思うのか。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
次話投稿は……挿絵をつけるので明日の20時までには!涙
※2016.10.19 ルミの口調と地の文を加筆修正




