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正義の条件  作者: ありと@
第1章『激突する憎悪と正義』
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13.絶望と3年生

通学や通勤時にお目通しいただけるよう、朝の更新にしていきたいと思っているのですが、どうでしょうか。

「うそ……だろ。」


 絶望する瀬雅と魅甘。周囲を破壊せずに4体の怪人を相手するのは今の瀬雅には不可能だった。


「…………」


 魅甘は考える。自分の出番(・・・・・)かと。魅甘が戦うこと、それは爆発を伴う魔力攻撃を放つこと。瀬雅が満身創痍になって守った魅甘の家を巻き込むことを指していた。


「や、めろ麦町、俺が。」

「私がやる。」



 起き上がろうとする瀬雅を抱きしめ直す魅甘。瀬雅が立ち上がっても助からない、魅甘はそう考えていた。思えば戦争以来、魅甘が他人に執着するのは初めてだった。



「いけ。」



 ルミはコボルト達から距離を取り、絹のような銀髪を揺らす、コボルト達の動きを阻害しない為だろう。4体のコボルトが一斉に瀬雅達に向かった。


「「"切爪"」」


 その内の2体は魔力を腕に集めて放ってくる。魅甘は咄嗟に魔力球で迎撃しようとするが、距離が近すぎて爆風に瀬雅が巻き込まれると思い躊躇う。防御すら間に合わないほど迫った爪に、目をつぶることしかできない。



――――――――――

――――


 その時は来なかった。コボルトの腕が振るわれないことを不思議に思い、目を恐る恐る開ける魅甘。




 そこには背中があった。


「あれは……」


 瀬雅が目を見開く。大きい男の背中、瀬雅のものではない。もっと大柄で、その胴体は山吹色の鎧に包まれていた。


「無事か、後輩!」


 男は野太く力強い声でそう言った。その腕は迫りくるコボルト2体を受け止めている。



「ぬぅん!」


 男が鎧に覆われた腕を振るうと、それだけでコボルトはたたらを踏んで後退する。もう2体のコボルトはというと、鎧の男と共に現れた青い髪の少女が刀を構えて牽制していた。



「……3年生」


 厳しい競争を勝ち抜き、実戦で怪人を討伐する天野学園3年生。怪人と瀬雅達の間に入った男女の3年生は複数のコボルトや、背後の上位種、ルミ・ティイケリにも全く気遅れしていなかった。



「怪人ども、この天野学園3年生次席が相手になろう。」


「同じく、3年第五席が相手するわ。」




 以前、五十嵐は瀬雅と魅甘の戦いを3年にも引けをとらないと評価したが、それは正確ではない。3年生には"6人の例外"がいる。


 瀬雅達を庇うように立っている2人こそ、その内の2人なのである。



「新手か。行け、コボルト達。」


 ルミの号令で4体のコボルトが再び動きだす。今度は全員が切爪を発動させ、スピードを活かしてジグザグに鎧の男と刀の女に迫る。瀬雅達にできるのは見守ることのみ。


「2体ずつだな!」

「はぁ……、了解。」


 鎧の男は先ほどと同じように2体のコボルトを受け止めた。左右の腕で1体ずつ。


よく見ると、鎧が鈍く輝いている。男の持つ魔力が鎧に通い、山吹色に発光しているのだ。


「そんな(なまくら)では俺は切れんぞ!」


「くっ!」

「な、一歩も動けないだと!?」




 渾身の一撃の勢いを完全に殺されたコボルト2体は口々に焦りを見せる。




「少しは骨を見せてくれよ怪人。」


 鎧に包まれた男は不敵に笑う。男が腕を振るうとコボルト達は簡単に宙に浮いてしまった。



――――――――――――――――――――



 男とコボルトが戦っているすぐ傍で、青髪の少女もまたコボルトの爪を刀でいなしていた。



「かすりもしない、だと!?」

「ふん、アナタ達が遅すぎるのよ。」


 少女は分かっていた。コボルトの必殺技は、腕に魔力を集中させ威力を数段高め切り裂く。逆に言えば、本命の攻撃の際には、腕に魔力を溜める予備動作が入るということだ。完全に見切られた腕の動きは2体1でも少女に届かなかった。


「ならば!!」


 少女に向かうコボルト2体が瀬雅達へ向かう、人質にするつもりだろうか。


 絶望から一転、突然の増援に驚いていた瀬雅と魅甘は、地面に座り込んだまま反応できなかった。







    「下衆が……」



 ゾッとする低い声が放たれる。余りの殺気にコボルトたちは足を止める。声の主はどこまでも冷たい瞳をコボルトに向けていた。2人掛かりでも敵わない青い少女、そのタブーに触れてしまったのだとコボルト達は本能で察した。





 少女は刀をゆっくりと構える。瀬雅はその刀身に青い魔力が立ち昇るのを見た。やがて弦楽器のように甲高く美しい音が鳴り始める。青い魔力を受けた刃が超振動しているのだ。あれを振れば並の者ならひとたまりもない。瀬雅は考えるより先に声に出していた。



「待ってくれ!――」




 彼は命を尊重する。一切殺すな、とは言わないが、無益な殺生はしたくなかった。自分の身が危険だろうと冷徹になれない――瀬雅の弱点でもあった。青髪の女はそんな瀬雅を一瞥し――



「――"三斬(めづき)"」



 刀を振り抜いた。振ったのは一度、しかし、2体のコボルトに刻まれた痕は3つ。



 コボルト達は声を上げることもできず、魔力を撒き散らしやがて消滅した。





「な……」


 愕然とする瀬雅。一瞬の決着、ただ一振りで命が2つ消えたのだ。血を持たない怪人は、死ぬと魔力を放出し消滅する。生きた証は残らない。











「き さ ま ァ ァあ あ あああああ!!!!!」





 その瞬間、とてつもない魔力が吹き荒れた。それは嵐のように激しく、鉛のように重く周囲の存在に襲い掛かる。


 コボルトの死を受けてルミ・ティイケリが遂に臨戦態勢となったのだ。



上位種(ゼラ)……。」


 恐怖、憎悪、悲しみ。負の感情がひとつになった()い魔力がオーラとなり溢れ出す。




「ほう、珍しい色だな、怪人。」

「もう少し考えなさいよ、黒い魔力光なんて聞いたこともないわ。」



 軽口を叩く2人だが、余裕はない。鎧の男もルミに向けて闘気を練っている。

一触即発の中、声を上げたのは鎧の男から距離を取り、生き残ったコボルト2人だった。





「いけませんルミ様!そのお体では!」

「離せ!ニンゲンめ!」

「奴らも覚悟の上でした。いや、我々もこの命、ルミ様に捧げております。」

「オマエ等の命などいらぬ!命など!!自分で……」





 竜巻の中、必死にルミを羽交い絞めにするコボルト。渦巻く黒い魔力はルミ自身の体を変えていく。美しい銀髪も、宝石のような碧眼も、雪のような白い肌も漆黒に染まっていた。



 1人のコボルトがなんとかルミを抑え、もう1人のコボルトが、瀬雅が倒したコボルトをいつの間にか脇に抱え、複雑な幾何学模様が刻まれた水晶を取り出した。




「……あれは、転移結晶!」



 瀬雅が転移結晶と呼んだそれが輝くと、ルミ達もまた淡い光に飲み込まれ消えていく。



「ニンゲン共!もう回りくどいことは止めだ!次はワタシが貴様等を地獄に連れて行ってやる!」



 怒りに身を焦がすルミの叫びだけが残った。




――――――――――――――――――――



「大丈夫か後輩達よ!」


「は、はい、何とか助かりました。」

「……ありがとうございます。」



 ルミ達が転移で消えた後、瀬雅達と3年生2人は無事を確認していた。


「む、ひどい腕だ。すぐに救護班がくることになっている。ここで待っていろ。」


「は、はぁ、どうも。」


 鎧を着た男はやや強引に話を進める。


「そのネクタイ、2年か。怪人とやりあうなんて凄いじゃないか!名前は?」


「米村瀬雅、です。」

「……麦町魅甘。」



「覚えておこう、俺たち――のことは知っているだろう。また会おう!はっはっは!」



 豪快な笑いとともに引き上げていく3年生達、なんて強くて、なんて自由なんだろう。瀬雅はそう思った。

――と、歩いていく2人の片方が足を止めた。刀を携えた少女だ。





「あなたの言いたいことは分からなくもない。」


 瀬雅に鋭い目を向ける少女、その眼光はルミにも負けない迫力だった。瀬雅は戦闘中に敵を心配したこと、コボルトの死にショックを受けたことを言っているのだとすぐに理解した。



「――でも、半端な理想を掲げて死ぬのは味方よ。自分とその子が生き残ってからにしなさい。」



 瀬雅は何も言えなかった。彼女の言っていることはすべて正しい。自らの命を脅かすような実力で不殺生を謳うなんて半端な理想以外の何者でもないのだから。



 唇を噛む瀬雅に対し、かける言葉が見つからない魅甘。結果魅甘の家は守られた、瀬雅が必死に戦闘位置を家から離し、ルミが更に距離をとっていたことが幸いした。




 お礼をいうべきか、励ますべきか、無口な人形であることが歯がゆいとさえ思った。

 2人にできることは去っていく少女を目で追うことだけ。




 刀を握り直した少女は、鎧の男の後を追いかけて行った。







()と同じ、青い髪を揺らしながら。

ここまで読んでくださりありがとうございます!

誤字脱字等ありましたらご指摘いただけるとありがたいです。

次話投稿は明日7時です。よろしくお願いします!


※2016.10.19 ルミの口調を修正

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