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正義の条件  作者: ありと@
第1章『激突する憎悪と正義』
10/85

10.訓練と麦町魅甘

ユニーク100ありがとうございます!初投稿のささやかな願いが叶いました。

次の目標は10万字、毎日更新で頑張ります!

「はじめッ!」



「おおおおおおおお!」



 2-Cの担任にして大和町3大ヒーローである五十嵐光の合図。それと共に瀬雅は飛び出した。ネズミの怪人との闘いと同じ、抜群の身体能力から繰り出される速度で相手を翻弄するスタイルだ。



 対して、魅甘はその場から動かず、手を瀬雅の方へ差し出して一言。


「……魔力球。」


 魔力を用いた基本技"魔力球"――体から練り上げた魔力を体外で球状に形成し、打ち出すシンプルな技である。魅甘の魔力は美しい白色であった。



「遅い!」


 瀬雅は飛来する魔力球を簡単に避ける。普通ソフトボール大くらいのサイズである魔力球だが、魅甘の放ったそれはピンポン玉くらいしかなかった。――勝てる。瀬雅が拳をつくる。


「……魔力壁」


「チ!」


 振りかぶった拳は魅甘の胴体に入る――ことはなかった。両者の間には障壁があり、完全に勢いを殺されてしまった瀬雅は距離を離そうとし


「ッつ!うお!!」


 咄嗟に裏拳で後ろ(・・)から来る魔力球を殴りつけた。



 爆音と共にアリーナの床に着地する魔力球、アリーナをはじめ戦闘を想定している学園の施設は頑丈なのでこれくらいでは傷つかない、が両者ともに冷や汗を浮かべていた。




(避けた魔力球が後ろから帰ってきやがった。コイツ、放った魔力を操作できるのか。)


(……魔力球を素手で撃ち落とした……一体……)




 2人が小手調べにやってのけたことが学生レベルからすると異常だと気づいているのは、審判をしている五十嵐だけだ。


「……魔力球。」


「!?こんな……」



 静かに言い放つ魅甘。先ほどと同じく魔力球を形成する。ただし、先ほどの20倍――20個の魔力球が彼女を中心に浮かび上がる。それはまるで季節外れの吹雪のように。


「……今度はこっちから行く。」


「とんでもない魔力親和性だなッ――!」



 魔力に関わるステータスは2つある。単純に体内の保有量を示す魔力量、そして、魔力の操作精度や効率良い運用をできる能力、魔力親和性だ。


 魔力を使えない瀬雅は自分と魅甘の差を敏感に察知して早々に小手調べを止めた。



「これでどうだ!」


「……!魔力壁。」



 瀬雅が勝負を仕掛けた。魅甘が放つ魔力球を踏み台にして立体機動からの一撃を繰り出す。飛来する瓦礫の上を走った瀬雅ならではの対遠距離である。



 ガラスが割れるような音が響き、魅甘の展開した障壁が砕ける。しかし魅甘は魔力壁を幾重にも貼っていたようで2枚の障壁を破壊したところで瀬雅の体は止まる。


「ダメか。」


「……ちょっと焦った。」


「そんな無表情で言われても。」


 熱く激しく飛び回る瀬雅と、戦闘中でも整った人形のような無表情を崩さない魅甘。対極な2人はその後も技を出し合っていく。


 何度も接近しては離れ接近しては離れ。互いの攻撃が当たらず、瀬雅の体力と魅甘の魔力だけがすり減っていく。五十嵐の目には将棋の千日手のように映っていた。


(上位種でなければ互角以上に戦えそうだ。)


 五十嵐は生徒、いや、ヒーローの後輩が激しく立ち回るのを見て自然と笑う。瀬雅のトップスピードは残像を残す程に速いし、魅甘の魔力球は頑丈につくられたアリーナの床を抉り始めている。



「うおおおおおおおお!」


「……魔力球!魔力壁!」



 互いに一歩も譲らない攻防、しかし先ほどまでとは少しずつ変わっている。瀬雅は魅甘の後ろや視覚に入ろうと直線的な動きを減らし、魅甘は魔力壁に弾力を持たせて瀬雅の攻撃を防ぐと同時に捕らえようとしていた。



 訓練が始まってから10分、Cクラスどころか2-Aにも引けをとらない動きを見せた2人だが、先に勝負を決めに行ったのは瀬雅だった。


 直前の攻防と同じく瀬雅は魅甘の後ろに回り込む。


「……魔力壁!」


「!もらった!!」


 それはフェイント――。着いた脚を沈み込ませて軸足とし回転する瀬雅。展開された魔力壁の裏側――魅甘の正面に戻った瀬雅はそのまま回し蹴りを放つ。背後の攻撃を警戒していた魅甘は反応にワンテンポ遅れた。


「がッ!!」


 鈍い音が響き、魅甘の体が弾かれる、瀬雅の一撃が入った。勝利を確信した瀬雅







 だが、次の瞬間――瀬雅は目を見開いた。



「な……!?」



 飛ばされる魅甘と共に自分の体も持ち上げられている。










 掴まれている――――!








 蹴りを放った脚には細く白い指が添えられている。しかしそれは絡まり離れることのない蔓のようだった。瀬雅が現状に気づいた時には、人形は桜の花びらのような綺麗な唇を動かしていた。



「……薔薇の鞭(ファウルネス・ソーン)





 それは魔力で模られた白い鞭、そのフォルムはトゲが無数に生えた暴力の象徴。鞭の先端は時に音より速い。瀬雅は至近距離で放たれたそれに反応しきれずに体で受けるしかなかった。



「ぐあああああああああああああああ!」



 ネズミの怪人戦とは異なる衝撃、特に魔力のトゲは刺さった瞬間に小爆発を起こす。敗北――

瀬雅は薄れゆく意識の中、唇を強く噛んだ。








――――――――――――――――――――――


――救護センター



 学園の特質上、教室棟、管理棟の保健室とは別に各施設の近くには救護センターがある。五十嵐率いる補習組の姿はそこにあった。


 魔力が世界に満ちてから、色々な技術は格段に進化した。医療技術もその典型だである。最新の細胞活性化の治療器具により既に瀬雅と魅甘の傷は癒えていた。



「ん――ここは?」


「目が覚めたか米村。」



 ベッドで横になっていた瀬雅が目を覚ます。安心した笑みを浮かべる五十嵐と無表情の奥に心配そうな雰囲気を浮かべている魅甘がいた。


「俺は、負けたのか……。」


「ああ、いい戦いだった。2-A――いや、3年生とも渡り合えるぞ。」


「……ギリギリだった。」


 最後の蹴りがもう少し強く入っていれば逆の結果になっていたはずだ、と評価を下す五十嵐。実際瀬雅は初めから最後のフェイントを狙い、それを悟られないよう動いていた。あの一瞬瀬雅は確実に魅甘の裏を欠いただろう。それに――


「……あれが非常用魔力剣だったら死んでた。」


 そう、瀬雅はこの勝負で武器を使っていない。しかし負けは負け。瀬雅はそのこと自体はすんなり受け入れていた。むしろ魅甘の強さに打ち震えていたほどである。



「まぁ、超接近型の米村と遠距離型の麦町。互いに互いが弱点だが、2人で組めば心強いだろう。」


「組む、俺と麦町が――。」


「……名案。」



 バディやパーティの概念はヒーローにももちろんある。近距離での戦闘と敵の意識を引くことを瀬雅が行い、防御と遠距離攻撃を魅甘が行う。魅甘の魔力親和性なら誤爆の心配もない。名案だった。



「だから俺たちを戦わせたのか、互いの長所短所を体で知るために。」


「そういうことだ。」


 肯定する五十嵐、瀬雅は納得がいったという風に頷き、ベッドから起き上がり魅甘と向かい合う。


「俺と麦町はパートナーになるらしい。改めてよろしくな。」


「……ん。よろしくセガ。」


「いや、だから瀬雅(らいが)!」



 こうして初日の補習は終わった。日が暮れはじめということもあり、瀬雅は東区にある魅甘の家近くまで送り届けることにした。


 電車と徒歩で40分程度いったところで魅甘がここでいいというので、瀬雅は分かれて帰路に着く。



 魅甘と話していた数分前と違いその表情はとても険しかった。



(全力でやった。魅甘は強い、俺はもっとつよくならなきゃいけない。)


 瀬雅の脳裏に先刻の激しい戦いが蘇る。動き相手の弾幕をかいくぐり蹴り飛ばし裏をかき、いい勝負ができた―――――――とは思っていなかった。






(最後に俺が蹴るまで麦町は一歩も動いてなかった(・・・・・・・・・・)。)




 この日瀬雅は電車で30分かかる東区から北区学生寮までの道のりを走って帰った。

誤字脱字等ありましたらご指摘いただけるとありがたいです。

魔力親和性=魔力をいかに上手く使えるか

という認識で問題ないです。

次話投稿は明日の15時です!

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