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大会に出場することになった部

「今日は発表があります! 我々北女子高校電子スポーツ部……チームFLOWERSは、第3回高等学校e-sports交流大会にエントリーすることになりました! ってか、もうしました!」

 私たちが部室に入ると、部長がいきなり立ち上がりこう言った。唐突な発表で、部室の空気が一瞬凍りつく。


「e-sports交流大会……って、なんですか?」

 率直に疑問を口にすると、部長は「よくぞ聞いてくれた」というような顔をして答えてくれた。

「高等学校e-sports交流大会……それは、e-sportsの甲子園とも呼ばれている由緒正しき――まだ第3回だけど――大会だよ。地区予選があって、それから全国大会っていう流れ」


「あたしたちで勝てるの? この中でプロ並に上手いのって、おねえちゃんだけだよ」

 後輩のもみじちゃんも不安そうな顔をして尋ねる。確かに、大規模な大会なら、それにふさわしい強いチームが集まるのだろうと思う。

 部長は日本で上位100人に入れるほど上手いらしいが、部長以外はプロ並みという程ではない。それに、後輩ズと楓はそこそこやれるが、私に至っては……ただの足手まといだ。

「大丈夫。助っ人を用意しています。あともみじ、学校ではおねえちゃんって呼ばないように」

「わかったよ、おねえちゃん」

「…………」


「こほん。それでは助っ人の登場です。どうぞ! 拍手でお迎えください!」

 パチパチパチパチ……4人の拍手がパソコン室に響く。その音が合図だったのか、大人の人が入ってきた。……窓から。ここ3階ですよ? 意味がわかりません。部長以外の全員が、目と口を開けて驚愕している。

「みなさんこんにちは。私は先生です」

「助っ人の先生でーす。はい拍手ー。パチパチパチー」

「なっ……何者ですか!!」

 楓が叫ぶ。その疑問はもっともだ。部長以外の全員がうんうんと頷いている。――「先生」も。あなたが頷いてどうするんですか。


「何者って……私は先生ですよ」

「そうだぞ。先生は先生なんだぞ」

 部長と「先生」は一緒になってそんなことをいっているが、私たちは全く状況がつかめない。そもそも、名前もわからない。名前なんて言うんだろう……そう思っていたら、楓が聞いてくれた。流石親友。

「何先生ですか?」

「先生と呼んでくれていいですよ。だいたい、固有名詞がたくさん出てきたら読者が覚えられないでしょう。先生が読者だったら6人もキャラクター名覚えられませんよ」

「――この人、ヤバイ……」

 桜ちゃんの呟きに、全面的に同意する。まるで私たちが小説か何かのキャラクターであるようなことを言っている。見た目20代後半だが、この歳になっても厨二病が抜けていないなんて……!

 

 それにしても、先生の名前がとても気になる。名前がわからないと、不便なこともあるかもしれない。

「先生のなま……」

「先生です」

「あの……」

「先生です」

「…………」

 答える意志は……無いようだ。私たちはしぶしぶ、「先生」を受け入れた。


「で、先生ってどうして助っ人なんですか?」

 楓の質問で、ようやく話が戻ってきた。先輩はまたしても「よくぞ聞いてくれた」という顔で答えてくれる。

「なんと、先生は元プロゲーマー……それも日本一のチームに所属していたんだよ! きっとこの方がいれば、優勝も狙える……!」

「元、プロゲーマー!?」

 先生はフフンといった感じで胸を張っている。この人が、元プロゲーマー……? 確かに言われてみれば、冷静で判断力がありそうに見える。外見は。

「元プロゲーマーの先生になんでも聞いてください」

「それじゃ、大会目指して練習開始! ガンバロー」



「おっと……もうこんな時間だ。元プロゲーマーはいろいろ忙しいのですよ。さらば」

 1時間ほど経つと、先生がそう言って窓から出て行った。ここ3階なのに……本当に何者なんだ。

「部長、先生ってほんとに何者なんですか? 窓から入ってきたり出て行ったりしてますけど」

 気になりすぎて部長に質問するが、「何者かはよくわからない」という回答だった。よくわかってない人を部活に入れて良いのだろうか。



「大会に向けて皆のロール……役割を決めようと思います。今まで皆のプレイを見てきて、暫定的に決めてみました。まず…………」

 部活の終わり際に、部長がそんなことを言い出した。プレイヤーごとにロールが決められると、チームとして引き締まってくる感じがする。周りも、緊張した面持ちだ。


 私のロールは物理ダメージキャリーだと発表された。物理ダメージキャリーは、序盤は弱く後半に強くなるタイプで、序盤の弱さを補うためにサポートというロールと一緒に行動することが多い。そのサポートは、楓だ。信頼関係が大切なゲームだ、きっと、私との仲の良さを考慮してくれたのだろう。

「楓、一緒に頑張ろうね」

「うん。葵は私が守るわ」

 二人、信頼の握手を交わした。親友であり、このゲームに天才的な才能を持つ楓なら、私を確実に守ってくれるだろう。握手をしながら、そのことを確信していた。

 ……何故か、握手した後抱きしめられたが、まぁいいだろう。


「…………以上です。何か質問ありますか? ……ないらしいね。じゃあ、優勝目指して頑張っていこう!」

「「「「おーー」」」」

 ロールが決まったことで、部の団結感が強まったように感じた。今まで無縁だった世界だが、こういうのも悪くない。ここに誘ってくれた楓に感謝だ。ありがとう、楓――

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