電子スポーツ部ってなに?
2話から百合百合しくなるのでそこまで見ていってください!!!
クラスの雰囲気が落ち着きつつある4月末。暖かな陽光の中、授業をぼんやりと聞き流しながら、私はこれまでの高校生活をなんとなく思い返していた。
私――内山葵は特に部活に打ち込むこともなく、かといって勉強もせず、恋愛にも無縁という無気力な高校生活を送っていた。毎日をなんとなく過ごしていたら、いつの間にかもう2年生だ。
「このままじゃまずい気がする……私の青春が、灰色に塗れてしまう」
そんな風に危機感を覚えつつも、この怠惰な性格じゃあ何も行動しないんだろうな……そんなふうに、いつものようになんとなく、思っていた。
「葵! なんかうちの高校、新しく部活できたらしいよ」
休み時間になると、私の親友、島崎楓が話しかけてきた。楓は新しいことが好きな性格だ。いつもこういう情報には目ざとく反応する。
「えっ、部活?」
「そう、何か……なんだっけ……なんとかって言う部活」
「それじゃ分かんないよ」
「そうだ! 思い出した。電子スポーツ部だ。電子スポーツって何だろう? 気にならない?」
「うーん……」
電子スポーツ? なんとなく聞いたことがある気がする。確か、ゲームで勝負するんだ。プロスポーツ選手みたいに、プロのゲーム選手も居るとネットで見たような気がする。
「葵ってゲーム好きじゃん? 見に行ってみない?」
「そうだね。いいよ」
ゲームという言葉に釣られ、なんとなく気分が乗って、さっきの授業中少しだけ高校生活のことを考えていて……この3つが重なりあい、この怠惰な私にしては珍しく、親友の誘いに乗った。
ガラガラ……
「すいませーん……」
おずおずと言った感じで楓がパソコン室のドアを開ける。ここで活動しているらしい。
「君たち、見学っ!?」
「おわっ」
ドアを開けるとすぐに、中から誰かが飛び出してきた。
「あっ、急にごめんね。私、この部活の部長、3年の山口。ゆっくりしていってね!」
「……」
「はい!」
こういう時、楓のコミュ力が羨ましい。私は人見知り星の人見知り星人だから、初対面の人とは緊張してしまう。
「あの、この部活って具体的には何をするんですか?」
喋れない私の代わりに、楓が部長に聞いてくれる。
「君たち、eスポーツって知ってる?」
質問に質問で返すなァーッ! と心の中で言う。口には出さないよ。
「ゲームで戦うってことぐらい……葵はどう?」
「わ、私もそのぐらい……です」
「そっか。簡単に説明すると、最近はゲームもスポーツなんじゃね? ということになって、世界では結構流行ってるらしいんだ。日本じゃまだまだだけど……だから、認知度を上げるために、部活にしちゃったのさ!」
「「へぇ……」」
「で、実際やってるのは……世界で一番人気なゲーム、Mythic League、通称MLさ!」
「あーなんか、トイッターでやってる人見たことある……」
「私も、名前だけはしっ、知ってます……」
ML。世界で一番人気なゲーム。ゲーム内容は知らないが、世界で何千万人もプレイしているという記事を読んだことがある。
「どんなゲームなんですか?」
楓が私の聞きたいことを聞いてくれる。流石親友だ。
「そうだねぇ……奥が深すぎて詳しく説明するのは難しいんだけど……簡単にいえば、5対5のチーム戦で、敵の本拠地に向かって侵攻していって、敵の本拠地をぶっ壊せば勝ちっていうゲームかな」
「うーん……」
「よく分かんないよね。やってみるのが一番いいよ。体験してみる?」
「いいんですか!?」
「お、お願いします」
「マウスでカメラ動かして、右クリックで移動、…………」
「「おお……」」
部長の言うとおりに操作すると、自分のキャラが動いたり、攻撃をしたりした。新しいゲームは、キャラを動かすだけでも楽しいものだ。
「いいねぇ! 一回CPU戦をしてゲームの流れ掴んだら、対人戦行ってみよう」
……
「今日はありがと! 興味持ってくれたら、ぜひ入部してね!」
「あの、他に部員はいないんですか?」
「ああ、一年生があと二人いるけど今日は何かあるらしくて……タイミング悪かったね」
「あ、そうでしたか、ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
結局、下校時刻まで電子スポーツ部にいた。私達がプレイしてる時、後で部長がアドバイスしてくれたおかげで、対人戦も勝つことができた。楽しかったー。
「葵、どうする? 入部してみる?」
楓が聞いてくる。どうしよっかな……
「楓はどうするの?」
「こら、葵。自分で決断できるようになりなさい」
「……お母さんか」
でも、楓の言うとおりだ。私は何も決めない……決められない。このままじゃダメだと思っていても、行動に移せないんだ。
「どうするの? 葵」
「……決めた。私、入部する」
「よく言った。私も入部するんだよ。よろしくね」
「うん、よろしく」
かくして、怠惰な私が一歩を踏み出したのである。