27話 新学期早々、このイベントはないのでは、と恨まずにはいられない
あの人がでます
放課後の屋上。
「佐藤君、付き合って」
有無を言わさぬ雰囲気を醸し出しながら、先輩が僕の腕を掴む。僕は目を逸らしながら答える。
「…………お断りします」
「つ、き、あ、っ、て」
笑顔の先輩は、僕の腕をギリギリと締め上げる。僕はその手を外そうと腕を引くが、彼女の握力に仕方なく力を抜く。男と女だ、無理矢理にでも振りほどく事はできるが、仮にも先輩。
そのまま膠着状態が続く。
なぜ僕がこんな脅し紛いの告白をされているのかというと、時間は朝の登校時間まで遡る。
いつも通り登校した僕が、靴を履き替える為下駄箱を開けたところ、シンプルな封筒の手紙が入っていた。
「…………」
僕は無言で靴を履き替え、その手紙を、開けることなく近くのゴミ箱へと破り捨てた。
シンプルな封筒。下駄箱への手紙。
何か思い出さないか?
そう校内放送で告白した、2年の木原歌葉先輩だ。
僕は放課後、足早に教室を出て、校門へと向かった。が、その途中、木原先輩に捕まり、逃亡は失敗。屋上へと連行された、という訳だ。
「私の告白に付き合ってくれるって言ったわよね?」
断じて言っておりません。都合の良い解釈をしないで下さい。
「先輩の大会が始まる前にもう一回、手紙を読んで欲しいの」
丁重にお断りします。あんな手紙二度と御免です。
「今回は大丈夫よ。告白と応援を兼ね備えた手紙だから!」
これから大会があり、部長である笹木先輩に、そんな心労をかけてあげないで下さい。
「先輩が考えを変えてくれるかもしれないわ!もしかしたら、すぐに付き合ってくれるかも!」
自信満々の先輩。しかし手は離してくれない。
僕は不用意に返事をする事はしない。
なぜなら、彼女は言って聞くような人ではないからだ。
上機嫌で屋上を立ち去った木原先輩。
残された僕の手には、可愛い封筒に入った手紙が握られていた。
翌日
「…………」
何故か今日も下駄箱に二つ折りの紙が入っていた。
【よ ろ し く ね ? 】
脅迫状だった。
そこまで念押ししなくても、僕は約束は守るし、受け取ってしまった以上、読み上げない訳にはいかないのだ。まぁ、昨日読んだあの手紙には思わず頭を抱えたがな。
そして迎えた、昼放送。
「え〜、と、、皆様は前回、告白という用途で、このお昼の放送を利用された方を覚えているでしょうか?まぁ忘れるはずがないとは思いますが…。今日は、その方からまた手紙を預かっていますので、読ませて、頂き、ます」
声が震える。この手紙を読むことを僕の声帯が拒否しているからだ。だが、これも仕事と割り切るしかない。手紙を開き、コホン、とひとつ咳払いをする。
「”笹木煇先輩
2度目のお手紙失礼します。
私はあの日からも変わらず、あなたの事が好きです。大会が終わって先輩が引退してから、とは思ったのですが、どうしても言いたい事があって、また手紙を書かせて頂きました。
9月の県予選そして全国。先輩の為に私は何ができるかと、考えたのですが、できるのは私の立場からは”応援”しかありません。ですが私は、先輩を隣で支えられる存在になりたいんです。
私、1回振られたくらいじゃ諦めませんよ!何度だって言います!
私はあなたが好きです。
大会頑張って下さい!影ながら応援してます! 木原 歌葉”」
影ながら、という言葉を正確に理解しているのかは甚だ疑問だが、とりあえず言わせてくれ、馬鹿か‼︎一度振られた上に、引退してから、とか言ったのはどこの誰だよオイ!
「…え〜、という事らしいです。返事は、ちゃんとした方がいい、と思いますよ…?まぁ、そんな訳で、今日のお昼の放送は、僕の精神が回復しないので、適当にクラシック、かけます。それではまた次回」
マイクのスイッチを落とした後、僕は放送室で、予め用意していた紙パックのジュースにストローをさす。流れている音を聞きながら、確認する。
放送室に鍵はかけた。
木原先輩及び笹木先輩が訪れようと、この扉は開かない。
僕のクラスはこの後の授業は、先生不在の為自習だ。
なぜこのような事を懸念しているか、というのは、前回の放送の後、笹木先輩から、大会が終わるまではあのような手紙はやめてくれ、と頼まれたからだ。僕に言われても困るのだが……。ちゃんと本人に言ってくれ。
恐らく99%の確率で起こるであろう、放課後の木原先輩の奇襲を思うと気が重いが、とりあえず放送室に引きこもって昼休みをやり過ごした。
「佐藤くん。手紙、読んでくれてありがとう」
放課後、目を赤くした木原先輩が、僕の前に現れた。結果は言うまでもないだろう。
「先輩が、今後こういう事はやめてくれって。君とは付き合えないって…」
僕でも君みたいに強引で、人の迷惑を考えない子は御免だな。
「でもね、本当に好きだったのよ。諦められないの。引退後にもう1回ちゃんと告白するつもりだったの。だけどダメ、なんだって」
顔が歪み泣きそうな木原先輩。
「じゃあ諦めて、新しい恋を探したらいいじゃないですか。その強引さとしつこさについてこられる人を」
嫌味を交えて多少の助言をしてやる。すると、先輩は俯いて、何かを呟いていた。
「そうよ……そうよね………」
「あの、先輩…?」
ボソボソと何かを呟いている不気味な先輩に、思わず声をかけた。僕の声にバッと顔を上げると、睨みつけるように僕をその視界に捉えた。
「もうあなたでいいわ!私と付き合って‼︎」
何を思ったか血走った目で僕に詰め寄り、右手を両手で挟むように握られる。
「…いやいや。もう少し考えろよ」
「そうね。やっぱり佐藤くんはないわね」
「オイ…」
即座に返された言葉にイラつき、睨みつける。が木原先輩は意にも介さない。
「じゃあ誰か紹介して。3月迄に彼氏をつくらないと、大変な事になるの」
真剣な表情で、僕を見る木原先輩。
「……別に、いいですけど。僕、紹介できる程話をしてるの、5人しかいないです」
何か事情があるようだが、興味がないので、聞く事はしない。これ以上、余計な事に巻き込まれるのは御免だ。
「十分よ。明日は大丈夫?」
「多分」
「それじゃあ明日の昼休み。屋上ね」
という訳で、続きます。
告白文がなかなか文にならず、苦労しました…。今までそんな事に縁もなければ興味もなかったもので……
まぁそんな訳で、次回もよろしくお願いします。