17話 これは放送委員の仕事ではないはずだ
昨日、この話のデータが何故か消えてて、頭が真っ白になりました……
なんとか今日更新できてよかったです。
ブクマ等ありがとうございます!
これを糧に頑張りたいと思います!
その日は朝から憂鬱だった。
先日までと違い下駄箱に封筒はなかったし、煩い宝来とも出会していない。4限目の担当教師が会議で自習になったのも喜ぶべき事だ。いつもは3限目と4限目の間の短い休み時間に昼食をとるが、堂々と4限目の時間に時間を気にせず食べれるのも喜ばしい事だ。だが、今日の問題は昼休みにある。金曜日のお昼の放送は僕が担当している。そして今日の放送内容は、個人的な持ち込み企画だ。もちろんそれを読まないという選択肢もあるが、今週の”下駄箱に封筒事件”(宝来命名)から察するに、あの先輩はしつこい、この一言に尽きる。僕は渋々でも受け取ってしまったピンクの封筒に目をやり、ため息をつく。
「………」
先輩には放送のときに開けて欲しい、と言われたが、内容の確認も僕の仕事だ。放送するに値する内容かどうかを確認する必要がある。昨夜読んだそれに僕は後悔した。初見ならば、なんとかなったかもしれない。だが、2度も読みたくはないものだ。これを校内放送で読んで欲しいとは、随分と肝の座った先輩だ。
まぁ、内容は封筒の外見に違わない内容だったが、彼女は自分の素性、つまりはクラスと名前を書いているのだ。僕に正面から渡してきた時点で、その人物が特定できるように僕が放送する事は決まっていたのだが、書いてあるのだ、説明する必要がなくなった。念の為、多少の情報は手に入れたが、迫る昼休みを思うと気が重い。
そして、昼休みはすぐにやってきた。僕は重い足取りで、放送室へと向かう。
僕はかつてない程、重く感じる放送室の扉を開き、椅子に座る。
ひとつ息をつき、僕はマイクのスイッチを入れた。
「今日の投書は、なんと僕の忠告がありながらも、手渡してきた勇者が現れました。僕は嫌々ながらもその手紙を読まざるを得ません。なぜなら、渡してきた先輩があまりにもしつこかったからです。それでは、早速読ませて頂きます」
僕は一息いれて、横に置いていた手紙を手に取る。放送では、ガサという紙の音が聞こえた事だろう。
「”3-B組、笹木 輝先輩。あなたの事が好きです。恥ずかしくて、面と向かって渡せないのを許して下さい。入学してすぐ、グラウンドでサッカーをしている先輩を見ました。2年生では副部長、3年生では部長として、サッカー部を纏める凛々(りり)しい姿に目を奪われ、気がつくとグラウンドに目を向ける事が多くなりました。廊下で人にぶつかってよろけたときに、肩を支えて下さって「大丈夫?」と声を掛けて頂き、初めて先輩と話したとき、自分の気持ちを自覚しました。一目惚れだったんだと思います。そんな先輩が大好きです。私と付き合って下さい。
2-A組 木原 歌葉”」
かつてない程の棒読みであったのには、どうか目を瞑ってもらいたい。何故、僕がこんな恥ずかしいものを読んでやらなくてはならない?男の僕が、何故、男へのラブレターを校内放送で、読み上げなければならない?恋のキューピッドとして活動している訳ではないので、今後はどうかご遠慮願いたい。”内容は自由”と言ってしまった以上、僕にも落ち度はあるが、告白の代弁をさせられるとは夢にも思うまい。それに、この手紙の内容には、おかしな点がいくつかある。
まず1つ。
”気がつくとグラウンドに目を向けることが多くなった”という点だ。
彼女、木原先輩はサッカー部のマネージャーらしい。マネージャーなのに、気がつくとグラウンドに目を向ける、というのはおかしい。マネージャーの仕事は、洗濯やドリンク作り等の裏方仕事しかないのか?作ったドリンクはグラウンドに持っていかないのか?部員との接触は一切ないのか?そんなはずはないだろう。
次に2つ目。
”肩を支えてもらった、初めて話した”という点だ。いつの時期かは分からないが、同じ部活の後輩が目の前で倒れそうになっているのを、黙って見ている奴はいないだろう。ましてや主将だ。そして、その時に初めて話した、という。マネージャーが、副部長、もしくは部長との関わりが一切ないというのか?ありえないだろう。もしそうだとしたら、木原先輩は仕事をしていないという事になるのではないだろうか?
続いて3つ目。
この手紙が全体的におかしいと分かることだが、”一目惚れ”という言葉だ。
入学してすぐに先輩を見かけて、グラウンドに目を向けることが多くなった、といっているのに、初めて話したときに自覚した、というのはどう考えてもおかしい。とんだ阿呆だとは思わないか?
そして、”そんな先輩が大好きです”だと?どんな先輩だよ。僕に分かるように教えてくれ。
そして、一番おかしな点だ。
”恥ずかしくて、面と向かって渡せないのを許して下さい”?
ほぼ全校生徒が聞いているであろう、放送で読まれるのは恥ずかしくないのか?面と向かって渡せないのなら、僕にした嫌がらせみたいに、下駄箱に入れればいいのではないか?
これは最早ある意味の脅迫だと僕は思う。双方名前が割れている上、同じ部活の先輩後輩の関係だ。僕にはこの手紙の内容がこう見える。
”私はあなたが好きです。だから、もちろん付き合ってくれますよね。先輩は優しいから断ったりしませんよね。校内放送で逃げ場をなくしてあげました”
といったところか?これで断れる奴を見てみたいものだ。告白した側はとんだ赤っ恥だ。明日からいい晒し者になる事間違いなしだ。
さて、笹木先輩のお返事は?
その答えはその日の放課後、僕の耳に入ってきた。木原先輩によって。
「ありがとう」
またしても、昨日と同じ人気のない廊下。僕の前に現れた木原先輩が、頭を下げてきた。
「笹木先輩には、振られたの」
「……そうですか」
笹木先輩、やるな。あの状況で断る事ができるとは。
「今は大会の事しか考えられないから、って。だから、先輩が引退してから、また告白するわ」
「……そうですか」
清々しい顔で、笑った木原先輩。さすが、しつこい人だ。諦めが悪い。振られた、というかは保留だな。
「それじゃ、その時はまたよろしくね」
それだけ言うと、木原先輩は立ち去った。
……ちょっと待て。”また”?
告白文をまた読めということか?あの訳の分からない文を、また、僕に、読めと?
………勘弁して下さい。
僕は、翌週の月曜日。昼休みの放送で、注意事項を追加した。
「先週の投書内容について、言いたい事があります。告白は、自分の口で伝える事をオススメします。投書用にラブレターを書くのであれば、その手紙はそのまま相手の下駄箱にお願いします。公開告白がしたいのであれば、文化祭等のイベント事でよく見るステージでの告白企画等をご利用下さい。
それでは、今週の投書です」
木原先輩、今後も登場させたいです。次の告白の話も今度書きたいと思います。
次の話のネタが思いついてないので、何を書こうか頭をフル回転させております。時系列が現在の暦と近いので、七夕の話とか書こうかな……(絶対七夕過ぎるし、短くなると思うけど)
まぁ、次の話もよろしくお願いします!