153話 卒業しても馬鹿は治らない
遅れに遅れて、なんとか更新。
なんでもない話です。
日常を書くのは楽しい。けど、終わらせるとなると難しい。
高校を卒業した僕は、
「……これもか」
休む間もなく、入学準備に追われていた。
母がいないも同然の僕は、書類提出、学費の振込確認(母に)、入学式用のスーツの購入(祖父母からの卒業祝い)など、とにかくやる事が多かった。
大学へは行かずに、アメリカに行くという宝来の気楽さといったら、殺意が湧いてくるレベルで目障りだった。
なにせ、
「なあ、卒業祝いでパァーッ!と遊びに行こうぜ‼︎」
速攻で部屋から蹴り出した。
「あ、俺の見送りは来てくれるよな!来週の月曜に成田な!」
家から蹴り出し、鍵をかけた。
「やっぱり一緒にアメリカ行かないか?みんなも誘ったんだけど、断られたちゃってさ〜」
旅行気分で誘ってくるな、と通話を切り、スマホの電源を落とした。
それから暫くして、
プルルルル
と家の電話が鳴った。
「……はぁ」
また宝来か、とため息をつきつつ、重い腰を上げて電話のある一階へと降りる。
「…もしもし。なんの用だ?」
受話器を取り、不機嫌さを隠さずに応対すると、
「…その態度はなに?アンタが携帯の電源切ってるから態々こっちに電話してあげてるのに」
僕はサッと血の気が引くのを感じた。
「あ、いや、、、ゴメンナサイ」
「こっちは忙しい合間をぬって連絡してるんだから、携帯の電源くらい入れときなさいよね」
「ハイ。スミマセン」
なんとか要件を聞き、受話器を置いた僕。
「ふぅ……危なかった」
相手は母で、あの応対の仕方はマズかった。なんとか穏便に事が済んで一つ息を吐く。
「…肝が冷えた」
呟きながら、僕は部屋へと戻る。
母からの要件は、備品購入費を振り込んだ、との連絡だ。
この金がないと、教科書が買えない為助かった。入学式までには用意しときたかったのだ。
母は多忙な為、家に帰って来ない。いない方が僕としては楽だが、息子の門出とも言える、卒業や入学に顔を見せる事もないとは………まあ別に構わないが。
だが、保護者用の書類などもあるので、そこだけはとても困った。
今はもうその書類も済んで、少し落ち着いたが、まだやる事は多い。
「……はぁ。時間か」
壁にかかる時計を見上げ、僕はスマホの電源を入れ、出かける準備を始める。
「あー!遅刻だぞ‼︎」
「……うるさい。まだ5分も過ぎてないだろうが」
「遅刻は遅刻だ!この後の全部おごりな!」
「じゃあ帰るな。おつかれ」
着いて早々、僕は踵を返し、帰路へつこうとするが、着ていたパーカーのフードを引っ張られ、よろめく。
「今日は俺のお見送り会だろ!参加しないで帰るなんて許さないからな!」
小学生か、と思わずツッコみそうになったが、飲み込む。
「じゃあとりあえず、お店入ろうか」
水城が微笑みながら、一軒のレストランを指差す。
それを否定する事もなく、先導する水城に素直に続く僕等。
今日はオシャレ(と思われる)なレストランで、卒業祝い兼宝来の見送り会だ。
「みんなグラス持った?」
「オッケー‼︎」
皆はグラスを胸の高さで構えて、音頭を待つ。
「それじゃあ、僕達の卒業と、彼方の渡米を祝して、乾杯!」
『カンパーーイ‼︎』
声と共にグラスを上に掲げ、軽く合わせる。
キン、というガラスのぶつかる音と共に、数的のジュースがテーブルに落ちた。
「楽しかったな!高校‼︎」
テーブルにグラスを叩きつけるかのように置いた宝来は、満面の笑みを浮かべながら、テーブルに並んだ料理に手を伸ばした。
「そうだね。あっという間だった。卒業しちゃったし」
それに賛同し、柔らかい笑みを浮かべながら、グラスを傾ける水城。
「俺も、彼方達とバスケできて、みんなと遊んだり騒いだり、楽しかった‼︎」
岬も、今にも飛び跳ねそうなくらいにテンションが高い。
「俺も、楽しかった。あの学校に行って、よかった」
珍しく、目尻を下げ、いつだったかに見た、猫を相手にしているかのような表情の新井山。
「そうだね。俺も、お前達と3年間過ごせて、楽しかったよ。充実してた」
箸で唐揚げを摘みながら、いつもの様に、だけれど少し優しさを感じる表情の金見。
「…………」
流れでこうなるのは分かっていた。
『……………』
黙々と箸を進める僕に、物言いたげな視線が集まる。僕は、口に入っていた物を飲み込み、一言、
「うるさい」
ガクッと、皆が肩を落とした。
「……この流れで、そのセリフかよ」
と、岬が言うので、再度料理に箸を伸ばしつつ答える。
「個室で予約取ったから、多少騒いでも問題ないはずだ」
「そういう問題でもないと思うな。というか、何も言ってない」
金見は苦笑しつつそう言うので、誰に視線を向ける事もなか、スッパリと
「"視線が"うるさい」
ただ一言そう答える。
「……まあ、佐藤君はこうだよね」
「そうだな」
納得したのか、僕の"楽しかった"という感想を引き出す事を諦めた皆も、それぞれ料理に手を伸ばした。
料理も殆どなくなり、ドリンクを飲みつつポツポツと話していた時、ふと思いついたのか、水城が宝来に質問を投げる。
「そういえば、彼方はいつアメリカ行くの?」
見送り会、と言ってはいたが、日程は誰も聞いていなかったらしい。
その質問に、軽く首を傾げつつ答える宝来。
こいつはここでも爆弾を投下した。
「ん?今日」
「…………え?」
思いもよらなかった答えに、笑顔で固まる水城。
一瞬フリーズした金見は、いち早く回復し、頭をおさえながら、宝来に聞き返す。
「……ごめん彼方。今なんて?」
「だから、今日アメリカ行くんだ‼︎」
宝来のその答えに、僕以外の皆が、固まった後、俯き、肩を震わせたかと思ったら、一斉に叫んだ。
『そういうことは、早く言えっ‼︎‼︎』
怒鳴られた宝来は、不思議そうな顔をしつつ、皆の鬼の形相に何も言い返せず、壁に寄り縮こまった。
店を出た僕等は、慌ただしく宝来の家へと向かった。
なんでも、渡米の準備はできているらしいのだが、時間が問題だった。
「今日の19時の飛行機で行くんだ!」
それを聞き、店を出たのが16時。
宝来の家まで約20分。
荷物の確認(皆で手分けして)に15分。
空港まで、約1時間。
ギリギリでもないが、搭乗手続き等も考えるとあまり余裕もない。
宝来の母も行くらしいが、空港にて待ち合わせらしい。
宝来に対しては、無謀としか言えない行為だ。
母親のくせに息子の事を何も分かっていない。
僕達は又しても慌ただしく、宝来の家を出た。
僕は隣にある自宅に帰る予定だったのだが、皆に腕を掴まれ、肩を掴まれ、問答無用で連行された。
空港のある駅に着いた途端、それまでも全く走る気のなかった僕を、とうとう耐え切れずに肩に抱え上げたのは、岬だった。
僕としては、歩かなくて、走らなくてよくてとても楽だが、周りの視線がとても痛い。
そして、皆が息を切らして待ち合わせ場所になんとか辿り着いた。
「…………なんで、いる?」
ポツリと呟いたのは、地面に降ろされた僕だった。
次で最終回の予定。
大学生編とか考えたけど、まともに主要人物(馬鹿3人)が抜けるから書けないなと断念。
新作を考えつつ、最終回を構想しようと思います。
それでは、次回もどうぞよろしくお願い致します。