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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
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152話 第2ボタン事件

やっと卒業式が終了。

既に4月に入っているという……、、

入学式の間違いじゃない、とかは言わずにお願い致します……。




「第2ボタン下さい!」


僕の腰に纏わり付いたのは、言わずもがな、幡木掬バカである。

そう、この2年間で、不本意ながら、そこそこ関わり合いになった後輩である。その事は、全生徒、教師の知るところであろう。


その為、幡木の言った言葉に、野次馬達が色めき立った。

''第2ボタン下さい"は、卒業式最大のイベントであろう。

自分は関係ないと、決めつけていたが、何故か幡木からそのセリフを言われたのは、僕であった。腰に抱きつくというオプション付きである。


「第2ボタン下さい‼︎」


「おおっ‼︎なんだなんだ後輩くん!君は、この少年の第2ボタンが欲しいと言うのか‼︎いいぞいいぞっ!とても面白い展開だ!」


中でも、一番テンションのおかしくなった会長。

何故かスマホを取り出した。

記念撮影をしていた野次馬の中でも、カメラを僕達に向ける奴らが数名確認できる。


「うるさいから黙っててくれません?」


「ややっ!これは失礼。では続けてくれ給えよ。若人よ」


「一つしか年齢変わんないでしょ……」


態とらしいセリフと共に、数歩後退した会長。

ニヤニヤと無言でスマホを構えた。


「…………」


それを注意するのも最早苦である。

横目で一瞥くれただけで、静かに視線を外す。

そして、離すまい、と力強く抱きついて来ている幡木に視線を移し、見下ろす。


「第2ボタン下さい‼︎」


3回目だ。

僕はため息を吐きつつ、幡木に問いかける。


「なんの真似だ?」


「第2ボタン下さい‼︎」


4回目。


「お前は、それがどういう意味か分かってて言ってるのか?」


「第2ボタン下さい‼︎」


5回目。

同じ言葉しか発せない馬鹿なのか、それ以外は口にしない幡木。


「………………」


「第2ボタン下さい‼︎」


僕は、リピート再生の如く同じセリフを何度も言う幡木を見下ろし、その頭に左手を乗せる。


その行動に、又も野次馬達が色めき立つ。キャーだの、おおっだの、好き勝手に口にする彼等。


「もう一度聞くぞ。何の真似だ?」


再度の問いかけにも、返ってくる言葉は変わらなかった。


「第2ボタン下さい‼︎」


僕は幡木の頭に乗せていた左手で、幡木の頭を鷲掴みにし、渾身の力を込める。


「アッイタッ!イタタタっ!先輩痛い!痛いです‼︎」


「もう一度聞くぞ。返答には注意しろよ。…これは一体なんの真似だ?」


僕の左腕を掴み、痛みから逃れようともがく幡木。

僕は離すまい、と更に掴む力を強くする。


「な、何という卑劣な…!少年!可愛い後輩くんに、アイアンクローは酷いぞっ‼︎勇気を持って、恥じらいながらも先輩に第2ボタンを懇願する乙女になんたる仕打ち‼︎先輩として恥ずかしくないのか⁈先輩ならな、紳士の対応をするべきだぞ‼︎」


器用にもカメラを構えたまま、微動だにせず怒鳴りつけてくる会長。

そんな会長に対し、僕は右手で幡木の腕を捻り上げながら、淡々と言う。


「懇願というより、強請るの方が正しい表現だと思いますが。こいつのどこに誠意がありますか?このどさくさに紛れて、第2ボタンを狙っているのが見えませんか?ああ、これだと強奪か。強請るという表現も間違いでしたね、すみません」


「いたいいたいっ‼︎頭と左手に強烈な痛みがあぁぁ」


痛くしてるから当然だろう。


痛みに喘ぐ幡木は、それでも同じ言葉を口にした。


「第2ボタン下さいぃぃ‼︎」


僕はその必死さに呆れ、ため息を吐く。


「…………分かった」


「本当ですかっ⁈」


そう言い僕が顔と手首から手を離した瞬間、幡木は、パッと顔を上げ、嬉しそうに顔を輝かせた。

…頼むからいい加減離れてくれないか?

未だに片腕は、僕の背に回されたままである。


「僕が納得できる理由を言えば、この、もう仕舞うか捨てるかしか道がない制服の第2ボタンをやる」


「しまうか捨てるかならくれたっていいじゃないですか‼︎」


「理由もなくお前に第2ボタンをやるのは、死んでもごめんだ」


冷めた目で見下ろすと、幡木は頬を膨らませ、不満そうに僕を睨む。


「わかりました。理由ですよね。理由があれば第2ボタンくれるんですよね!」


「納得できたらだ。お前みたいな馬鹿が、理由もなく第2ボタンを強請るには、理由がなければおかしいからな」


幡木は、更に顔を歪め、不満を顔に出す。そして、渋々理由を口にした。


「第2ボタンを持ってると、幸運になるらしいんです!」


「…………はぁ?」


それはどこ情報だ、と問おうとしたが、その前に幡木は続きを口にした。


「はあ、じゃないですよ!第2ボタンには幸運になれる効果があるって、お母さんが言ってました!お母さんはお父さんにもらったらしいんですけど、私、第2ボタンくれそうな人が、先輩しかいなかったんです!だから下さい‼︎」


「断る」


そんな消去法みたいな形でくれと強請られても、じゃああげよう、なんて言う奴はいないだろう。

まあ、好きだと告白された所で、断るがな。


「なんでですか⁈先輩は私が不幸になってもいいって言うんですか⁈」


「第2ボタンがあったからって幸福になるわけでも、なかったからって不幸になるわけでもない。お前にくれてやるのは、精々第5ボタンくらいだ」


「先輩の制服3つしかボタンないじゃないですか‼︎」


「ブレザーだからな。そんなにボタンが欲しいなら、来年同級生に頼め。僕はお前なんかにやれる物は何もない」


「ぐぬぬぬぬっ。先輩は最後までいじわるです‼︎もういいです!先輩なんかには頼みません!」


幡木はそう言うと、僕から離れ、野次馬の群れの前まで駆けて行った。

そう、丁度卒業生が固まっている場所だ。


「この中に私に第2ボタンをくれるという、さとー先輩と違う心優しき先輩はいませんか⁈一人なんてケチなことは言いません‼︎誰でも、何人でもいいです!私は第2ボタンをくれる人を募集します‼︎」


遠くにいる人にも聞こえる程におおごえで、そう叫ふ幡木。

貰う側のはずなのに、色々とおかしいその演説めいた募集に、皆ポカンと口を開けた後、何を思ったか、ザッと一斉に一歩後退した。


「さあさあ!誰でも構いませんよ‼︎第2ボタンを私に下さい‼︎」


ジリジリと、近くの卒業生の塊に近づいていく幡木。

近づいてくる幡木から距離をとろうと、後退していく卒業生。


「本当は男の制服がいいらしいですが、この際女子の制服でもいいです!誰でもいいから、私に第2ボタンくださぁぁい!」


近づいても縮まらない距離に、幡木は強行手段に出た。


「うわあぁ‼︎こっち来た‼︎」


「逃げろ逃げろ‼︎」


「キャーーー!なんでこっちくるの⁈」


卒業生を追いかける幡木と、逃げ惑う卒業生。

平和だった記念撮影が、一気に追い剥ぎとの鬼ごっこに早変わりだ。


「それじゃあ会長。卒業式もとっくに終わってるので、僕は帰りますので、後はバスケ部の後輩達のとこにいる宝来とかでも捕まえて写真撮影でもビデオ撮影でもなんでも楽しんで下さい」


「ああ分かった!私は撮影で忙しいのでな!卒業おめでとう!さらばだ少年‼︎」


会長は早口でそう言うと、撮影をする為か、幡木の後ろを追いかけ始めた。

僕は踵を返し、校門をくぐる。

背後で聞こえる阿鼻叫喚から目を逸らし、最後の帰路に着く。


「いいぞいいぞ!これは新しい卒業式の形だ!とても良いぞ‼︎今後はこういった趣向の卒業式も楽しいと思うのだよ‼︎はははははっ!」


背後から聞こえてくる声は、気にせずに、僕は桜の咲いている帰路を歩く。


「やったぁぁ!1個目ゲットです!さあ次行きますよ‼︎大人しく渡した方が身のためですよ!」


背後から聞こえてくる声に、歩みを止める事はない。




無事に帰宅した僕は、自室でゆっくりしていると、宝来達がバタバタと部屋に飛び込んで来た。

ノックくらい……いや、インターホンくらい鳴らしてほしいものだな。


「俺達全員第2ボタンもぎ取られたんだけど、どういう事⁈」


後に聞いた話だが、幡木は合計で18個の第2ボタンをゲットしたようだ。

序でに言うなら、会長が撮っていたその動画は、SNSで拡散されているらしい。

追い剥ぎ、逃げ惑う卒業生、第2ボタン○個取得、などと、ハッシュタグがつけられ、ネット民に面白がられているらしい。

SNSをやらない僕は知らないが、後に[第2ボタン事件]として、不特定多数の人に知れ渡った…らしい。


翌年、第2ボタンの譲渡が禁止になったのは言うまでもない。

やっと卒業式終わった……。

更新が遅れに遅れてしまって申し訳ないです。



予定では、後2話!


最後までどうぞよろしくお願い致します!

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