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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
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151話 卒業…させて欲しいと切に願う。

卒業式は終わったよね、という。

まだまだ卒業できない佐藤くんのお話。





「やあやあ少年!なんだ、もう着替えてしまったのか。残念だな」


式を終え、最終公演という名の最後の公開処刑を終え、女装からも化粧からも卒業した僕は、校門付近で、いつも通り愉快そうに笑う、元生徒会長、皇凰羅と遭遇した。

いや、"遭遇した"という表現は間違っているだろう。

会長は、恐らく僕を、待ち伏せしていたのだ。





そう。終わったのは卒業"式"である。

今の時点で僕の卒業は、まだ、成っていない。


ほら、よく言うだろ?

"お家に帰るまでが遠足です"

って。







控えめなピンクのパーティードレスに身を包んだ会長は、その格好に似合わず、仁王立ちで腰に片手をあて、もう片方の手で僕をビシッと指差す。


「卒業おめでとう!よくしていた後輩である少年の卒業は、先輩であり会長である私もとても喜ばしい限りだ!」


「よくしていた?どの口が「そんな少年に!私は、祝いの品を用意した‼︎」


「…………」


そのポーズと合わない言葉を吐くばかりか、僕の言葉を聞く気もないらしい会長は、僕の言葉を遮り、手に下げていたポシェットを漁りはじめた。


「受け取れ」


ポン、と放られた物を、僕は咄嗟に受け取ってしまった。

両手で足りる程の大きさの物。僕は両掌を開き、そこに収まるソレを見る。


「………………なんですか?これ」


「知らないというのか⁈君、君‼︎なんということだ……!勉強が足りないぞ‼︎少年のその若い頭は、何のための物だ‼︎一を知り全を知るという事だろう‼︎小学生から出直してこいっ‼︎」


「ちょっとなに言ってるかわかんないです」


会長は激怒した。

身振り手振りで、その怒りを表現した。

僕はそんな会長を無の感情で見返す。

何を言われても、何をされても、僕にはそれの意味が理解できないからだ。


「……それで?これは何なんですか?」


怒りが収まらない様子の会長は、尚も続ける。


「クッ……!この私が、時間と労力を惜しみなく使い、尚且つ愛するそれを、可愛い後輩である少年だからと、少年の卒業だからと、泣く泣く卒業祝いとして譲り渡そうとしているというのに…!少年にはソレがなんなのかが分からないと⁈ソレの価値が分からないと言うのか⁈」


そんな会長を、僕はただ見返しながら、淡々と返答する。


「分かるわけないじゃないですか。こんな物渡された所で、僕にとってはガラクタでしかないですが」


「ガラクタ‼︎‼︎少年は今、ガラクタと言ったのか⁈」


会長は信じられないといった表情で、僕に詰め寄る。

僕は今にも襟首を掴み、ガクガクと揺すぶりたげに震える会長に動じる事もなく、ただ一つ頷く。


「はい」


「っっ!ならば、教えて差し上げよう‼︎ソレがなんなのかをなっ‼︎」


襟首を掴んでいた手は離れ、代わりに僕の手を掴むと、僕の眼前まで持ち上げた。


「これはなっ‼︎私が始発で並んで、在庫少数だったが、なんとかギリギリ購入する事が出来た激レア品だ‼︎」


「はあ、そうですか」


「なんだそのやる気のない返事は‼︎再販がない絶版品だぞ⁈」


「はあ、そうですか」


「っ‼︎原価1200円。最低買取価格1万円強、売値価格2万円前後の激レア品なんだぞっ⁈」


「おお、それはすごい」


僕はそれを聞き、素直に、しかし棒読みで感嘆の声を上げる。それに気を良くした会長は、パッと顔を明るくさせ、手を離したかと思うと、僕の肩を2、3度叩き、肩を組んできた。


「!だろうだろう‼︎そうであろう!やっと君にもソレの価値が分かってきたか‼︎どうだ、嬉しかろう?私からの卒業祝いは!」


「はい、とても。つまり、売り払って学費の足しにしてくれと、そういう事ですね。ありがとうございます」


僕は、そういう事なら、とキズがつかないよう、慎重に鞄に仕舞おうとするが、


「君は何を言っているんだっ⁈」


僕の手から、ソレを奪うように取った会長。僕は首を傾げつつ、ただただ事実を述べる。


「何って、お礼ですけど」


会長は大事そうに、両手で優しくソレを抱えると、2、3歩後退し、僕を睨みつけながら叫ぶ。


「ああっ、なんて恐ろしいっ!これは、売ったら二度と手に入らないんだぞ‼︎」


「欲しい人の手に渡るんじゃないですか?」


「私からの祝いの品だぞ⁈私が泣く泣く手放そうとしている、激レア品だぞ⁈」


「僕に関係あります?僕にとってそれはガラクタです。会長の価値観とは違うので、何を言われたところで、くれるというのなら、売却一択です」


僕がそう言うと、会長は僕から隠すようにソレを持ち直すと、クワッと歯を剥き出しにしながら、力一杯叫んだ。


「ならばやらんっ‼︎」


「最初からそうして下さい」


因みに、会長が僕にくれようとしていた物は、


「この、まどかちゃんミニフィギュアの価値が分からないとは。可哀想な奴め!」


可哀想なのはどっちだ……。



「頑張ったんだぞ。少年グリシーヌにそっくりな見た目の、可愛い美少女人気キャラだ。少年にぴったりの祝い品じゃないか」


おぞましいので止めて下さい」


買っているのは主に男だと言う。

鳥肌が僕の全身を駆け巡った。


そんな僕の背後から、ニコニコと笑いながら声をかけてきた奴がいた。


「なにコントやってんの?」


「見世物じゃない。さっさと散れ。……全員、な」


僕は卒業証書片手に、写真を撮ったりしていた同級生の野次馬達に視線を巡らせながら、そう言った。

彼等は、サッと気まずそうに目をそらす。


「おやおや、人気じゃないかグリシーヌ姫‼︎さすがは姫‼︎先輩の好意を素直に受け取らない姫‼︎私の嫁を売り払おうとした姫‼︎」


往来のど真ん中でこんなやり取りをしてれば、人目にもつくというものだ。しかも、僕も会長も、この学校では不本意ながら名も顔も知れている。

まあ、それはもう諦めよう。

僕は会長に向き直り、口を開く。


「先程、それを投げ渡してきたのはどこの誰ですか?」


「少年なら受け止めてくれると信じていたとも‼︎実際、落ちなかったし、キズもつかなかったであろう?」


「結果論でしかないですね。僕が故意に受け止めない、受け取らない、とは考えなかったんですか?」


「私は少年を信じているぞ!君は、世話になった先輩からの好意を無下にするような奴ではないだろう?」


「……ハイソウデスネー」


世話になった覚えはない。

好意、というかおしつけてきてるだけでは? とか

もう無下にした後です。とか

受け取ったら売却する、と言った僕から、その好意フィギュアを奪い返した奴が言うことか? とか

そうは思いつつも、頷いて置くのが一番安全である。

会話を続けない為にも穏便に、だ。


そんな時、野次馬の中から一人、一際小さな影が勢いよく飛び出してきた。

さながら、草むらでやせいのポ○モンが飛び出して来たかのごとく、だ。


「先輩‼︎」


そして、僕の腰に抱きついて来た。


「第2ボタン下さい‼︎」


これが後に語られる、【第2ボタン事件】の始まりである。



僕は、何故普通に卒業できないのかと、自問自答を繰り返した。

次回、「第2ボタン事件」に続く。


会長を書いてると、何故か思ってた通りの話にならない……。(勝手に動かないでっ…!)


次で本当に卒業話は終わらせる予定…!


次回もどうぞよろしくお願い致します。

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