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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
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150話 卒業式 2

卒業式の続きです。




知ってるか?

卒業式って、写真撮影OKなんだぜ……。





クラスメイトどころか、卒業生全員が着替えを終えて、僕達は揃って体育館に向かっていた。

保護者や在校生は既に、体育館に集まっているそうだ。


体育館に着いたかと思ったら、入口に立っていた後輩に止められる。ドアは全て閉まっているので、中の様子は分からない。

後輩は、扉を少し開け、


「卒業生、来ました」


「了解」


中で扉の前に立っていた、一人に静かにそう言うと、すぐに扉を閉める。

すぐに体育館の中から、声が聞こえて来た。


「皆様お待ちかねの、卒業生の準備もできたようです!」


幡木の声だ。

マイクを通して、誰が頼んだのか、司会進行をやっているようだ。キャスティングミスにも程がある。


「それでは、卒業生に登場してもらいましょう!第1部、仮装卒業式の開幕ですっ‼︎」


マイクを使わなくても響くであろう声が、外にまで漏れてくる。

内容以外は、存外まともに進行ができていた事に多少の驚きを感じながら、ゆっくりと開かれた扉を、前にいる奴らに続き潜る。


パシャパシャ、パシャ、パシャパシャッ。


体育館に足を踏み入れた僕等を待っていたのは、拍手ではなく、カメラのフラッシュであった。


「うわぁ…、、」


「あー……、なにこれ?」


「僕が知るか」


思わずといった風に声をもらし、足を止めた水城。

流石の金見も、顔を引きつらせて、カメラのシャッターを押し続けている彼等を指差しながら、僕に問う。

しかしながら、僕だってこの状況が理解できない。

記者会見か、とツッコミたくなる程のカメラのシャッター音と、目に痛いフラッシュ。

体育館の前方の扉から入った僕達を待っていたのは、花道などではなく、カメラを構えた保護者と後輩達の、謂わば、"記者道"とでも言っておこうか。

一部の世間で言うところの、ゴミだ。


僕は、無心で、無言で、無表情で、ただ決められているルートを歩く。


「どうもどうも。なんか分かんないけど、ありがとうな!」


「たまにはこんなのも悪くないなっ!」


「有名人気分…!」


と、間違っても記者達に手を振ったり、笑顔を見せたりと、愛想を振りまいてはいけない。


パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ。


一気にカメラが、笑顔で手を振る奴らを向き、シャッター音が増す。


「ああっ…!彼方様の笑顔がわたくしにっ」


「気をしっかり‼︎折角の機会なのにもったいないわよっ‼︎」


赤い顔でフラッと倒れた、見覚えのある、人物。ここにはいないはずなのに、何故、という疑問が脳内を巡る。


「……名前は、、忘れたな」


宝来のファンクラブ設立者にして初代会長。そして倒れかけたその人を支えたのは、初代副会長である。

2年先に産まれた事を嘆き、泣く泣く後輩に会長の座を引き継ぎ、号泣しながら卒業していった、二つ上の先輩達だ。




……話を戻そうか。


考えてもみてくれ。


卒業生が入場→拍手→着席


が普通だろう?

だが僕達は、


卒業生が入場→カメラ連写→シャッター音のみの記者道→体育館一周→着席


という流れだ。

拍手は一切なく、両サイドをカメラを構えた保護者と後輩で固められた体育館を、一周させられたんだぞ。

なんだ?僕達はモデルかなにかか?

客寄せパンダじゃないんだ。

普通に普通の卒業式をさせてくれ。



僕達卒業生が着席し、幡木が口を開いた。


「さて、撮影会は楽しんでいただけましたか?卒業生たちも席についたようですし、続いて、えーと、卒業証書授与式そつぎょうしょーしょじゅよしきに移りたいと思います!」


『はぁ⁈』


これには卒業生全員が声を上げた。


僕もその一人だ。

ザワつく会場。


「この格好のまま、卒業証書もらうのか?」

「この格好で、壇上に上がるの?」

「なんの冗談だ?」


卒業生の声は、こんな感じだ。

当然だろう。

僕だって、物申したい。

普通の燕尾服だが、ウィッグにメイクで、"男装女子"という男子として不名誉極まりない称号を頂いた。

他にも、背の低い男子は女装、金見や水城、宝来などといった長身の奴は、フリフリの王子様風の衣装だったり、英国貴族風の衣装だったりと、まあ、女子受けする格好をさせられている。

逆に女子は、男装している者もいれば、メイド服やらゴスロリ服を着ている(着せられている)者もいる。普段はノリのいい奴らでも、その格好のままでの卒業証書授与には、抵抗があるようだ。


僕等の心は一致していた。


"最後くらいは制服で、普通に卒業させてくれ!"


と。


「さあ、では先生方!よろしくおねがいします!」


しかし、僕達のそんな声は届くはずもなく、ただ進められていく卒業式。


「あー、じゃあ3-Aから」


職員席の端に用意された、マイクの前に立ち、生徒名簿を開く、五井先生。彼には、卒業式であったとしても、緊張感というものが感じられない。


出席番号順に呼ばれていくクラスメイト。彼等は、名前を呼ばれ、少しばかりの葛藤を得て、諦めて肩を落としながら返事をし、壇上へと向かう。

卒業証書を読み上げていく校長の顔にも、同情の色が現れている。


「金見俊一」


「はい」


そんな中、金見は気にするだけ無駄だと思っているのか、他の奴らとは違い、サッと立ち上がるといつも通りの表情えがおで壇上に上がる。

卒業証書を受け取り、早々に戻って来る。そして、僕も名前を呼ばれ、壇上に上がる。

卒業証書を手渡されながら、


「卒業おめでとう。君がいなくなるのを考えると、来年が不安だよ」


「…………そんなこと言われましても」


卒業生に言っていいセリフではないと思う。僕は眉を顰めながら、静かに呟く。すると、校長は、教師が絶対に言ってはいけない言葉を口にする。


「どうか、留年してはくれないか?」


「嫌です。いいから、さっさと手を離して下さい」


卒業証書を握る手に力を込める校長。僕も、受け取る為に破けない程度に力を入れて引っ張る。


「来年からは、誰があの問題児の面倒を見るというのだ⁈」


「知りませんよ!この2年間、僕が毎日アイツの世話してた訳じゃないんですから、いなかった時の対応で残りの1年頑張って下さいよ!」


「君がいるのといないのとじゃあ、天と地ほどの差があるのだよ!放送委員という役割と君という犠牲で、どれだけの人が安寧を得たと思ってる!」


「今犠牲って言いました?僕を犠牲にしてたって認めました?それこそ、僕の知った事じゃないですよ!残り1年、精々頑張って下さい!僕は一足先に失礼しますっ‼︎」


因みに全て小声である。

卒業証書を手放さない校長と、受け取ろうと頑張る僕。

側から見た図はこうだ。


「クッ……。仕方がない、か。君があと1年、遅く生まれてくれたなら……」


「それも、僕の知った事ではないです。いいから卒業証書下さい」


「…………はぁ。卒業、おめでとう。今後の君の活躍を、願っているよ」


「……ありがとうございます」


卒業を残念がるのは教師として、校長としてどうなんだろうか?


やっと離してくれた卒業証書を受け取り、一礼して僕はため息と共に壇上から降りる。


席に戻ると、皆が笑いを堪えていた。というか、所々からクスクスと笑い声も聞こえてくる。

僕が眉を顰めながら、訝しげに控えめに周りを見ると、近くにいた金見が、笑いながら小声で、


「マイク、拾ってたよ」


と、言った。

僕は顔を引きつらせながら、グッと卒業証書を握る手に力がこもった。

が、僕は無心を決め込む事にした。

着席し、無表情で卒業式の進行をぼんやりと眺める。





暫くたち、卒業証書授与式は終わった。

無心に眺めていた為、僕以降の内容は一切覚えていないが、とりあえず、終わった。これで、僕達も、無事に高校を卒業できるというものだ。


「それでは、卒業生のみなさま、退場して下さい!」


幡木の耳障りな声で、そうアナウンスされる。そして僕達は立ち上がり、促されるままに、また体育館を一周して退場した。


これで終わりだ、と、ホッと一息ついた僕だが、


「さあ佐藤君!時間がないわよ!急いで‼︎」


という声と共に、ガシッと、両腕を掴まれた。


「……は?」


僕の右側に宝来、左側には岬がおり、ニコニコと楽しそうに、僕の腕を力強く掴んでいた。


「行くよ」


僕の前を歩く水城が、にこやかにそう告げる。


「……どこに?」


いつも通りの嫌な予感を感じ、顔が引きつっていくのを感じながら、聞き返す。


「もちろん、お・着・替・え、だよ」


可愛くそう言う水城。

引きずられながら、僕は冷めた表情で水城を見返す。


「そんな顔しないでよ。この後も、まだ卒業式残ってるんだから」


「……そういえば、第1部とか言ってたな。第2部は、着替えて何をする気なんだ?」


「佐藤君も何度もやってる、アレだよ」


アレとは何か、と聞き返そうとした時、体育館の中から、幡木の声が聞こえてきた。


「それでは30分後に、第2部、大人気の公演【第二王子と藤の花】の卒業公演を開幕します!先輩達は準備を、観客のみなさまは、カメラなどの準備をおわすれずにっ‼︎」


「…………は?」


卒業式第2部は、僕の最大の汚点である劇だという。






幡木の第2部アナウンスの後、抵抗したが、その健闘も虚しく、引きずって連れて行かれた体育館近くの更衣室で、僕は抗議する。


「待て、これはおかしい。どう考えてもおかしい」


「何もおかしくなんてないよ。大丈夫。気にしすぎだって」


水城がニコニコと、いつも通りの笑顔で言う。

殴りたかった。


「そうそう。折角の晴れ舞台なんだから、最後くらい笑って……っっ、、笑って終わろうよ‼︎」


「違う意味で笑ってんじゃねぇよ」


金見も、いつも通り腹の立つ笑いで、僕の神経を逆なでする。

殴りたかった。


「俺たちも卒業かぁ。なんかあっという間だったな」


「そうだな。でも、楽しかったと、素直に言える」


「そうだな‼︎みんなもそう思うよな‼︎」


岬と新井山は、いつも通りだった。

気楽でいいな、と毒を吐いてやりたかった。


「そうだぞ佐藤‼︎3年間の思い出を振り返りながら、笑って卒業しようぜ‼︎」


満面の笑みで、僕と肩を組んできた宝来。

殴り飛ばした。




卒業公演という名目で開演された、【第二王子と藤の花】は、不機嫌丸出しな僕を無視して強行された。



この3年間で着慣れてしまった、グリシーヌの衣装と、坂本さんに施された化粧。うんざりだった。


不本意ながら、大盛況だった、と言っておこう。



だが、僕からも最後にこれだけは言わせてほしい。







卒業式くらい制服を着させてくれ‼︎

完結させないといけない、と思うと筆が進まない不思議……、、。


なんとか卒業はさせられました。

予定では、あと3.4話で完結とりあえずになります。


最後まで頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。

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