149話 卒業式 1
更新遅れまして、申し訳ありません。
見直しする時間がないので、サクサクといきます。
「待て、これはおかしい。どう考えてもおかしい」
「何もおかしくなんてないよ。大丈夫。気にしすぎだって」
水城がニコニコと、いつも通りの笑顔で言う。
殴りたかった。
「そうそう。折角の晴れ舞台なんだから、最後くらい笑って……っっ、、笑って終わろうよ‼︎」
「違う意味で笑ってんじゃねぇよ」
金見も、いつも通り腹の立つ笑いで、僕の神経を逆なでする。
殴りたかった。
「俺たちも卒業かぁ。なんかあっという間だったな」
「そうだな。でも、楽しかったと、素直に言える」
「そうだな‼︎みんなもそう思うよな‼︎」
岬と新井山は、いつも通りだった。
気楽でいいな、と毒を吐いてやりたかった。
「そうだぞ佐藤‼︎3年間の思い出を振り返りながら、笑って卒業しようぜ‼︎」
満面の笑みで、僕と肩を組んできた宝来。
殴り飛ばした。
3月某日。
僕達は、逢真高校を卒業する。
早咲きで満開の桜が散る通学路を、僕は歩いていた。
この通学路を歩くのは、不測の事態が起こらない限り、今日で最後だ。
いつもより早く出た為か人通りも疎らで、一人静かに学校までの道を行く。
「………………」
無事に学校まで着いたが、僕は校門前に仁王立ちする人物を目に止め、3メートル程離れた所で足を止める。
「………………」
「ご卒業、おめでとうございます‼︎今日はハッピーでラッキーな、楽しい卒業式にしましょうね‼︎」
卒業式で、ハッピーはあってもラッキーはないだろ、とかそういうツッコミはしない。時間の無駄だからな。
だが、最後だから、普段ならスルーするところだが、僕もこいつに言っておきたい事を言っておく。
「今日でお前との付き合いも終わると思うと、嬉しくて仕方がないな。お前は来年、自分が無事に卒業できるか心配した方がいいんじゃないか?」
「また先輩はそんな事ばっかり言って‼︎ご心配なく。私はとても成績ゆーしゅーなので、卒業できない訳がありません!」
「……優秀?誰がだ?」
僕は幡木の他に誰かいないか、辺りを見回す。
「私以外いないですよ!ほーらい先輩と違って、テストで赤点なんか取った事ないですもん!」
「変えようもない事実だが、サラッと先輩をディスるなよ」
胸を張る幡木に、思わずツッこんでしまう。
「さあさあ先輩‼︎卒業式まで時間がありませんよ!」
「いや、まだまだ余裕あるだろ。僕は予定より早く来たはずだからな」
「先輩の予定なんてどうでもいいんです‼︎」
「おい」
「さあ先輩方‼︎佐藤先輩が来ましたよ‼︎準備、お願いしまーーす‼︎」
幡木が校舎を振り返りそう叫ぶと、校門や、下駄箱の影から、クラスメイトの女子達が飛び出して来た。
それを見て嫌な予感がし、僕は逃げようと、咄嗟に一歩後退したが、
トン、と、何かにぶつかった。
おかしい……。僕の後ろに、壁や柱などといった障害物は一切なかったはずだ。
冷や汗を流しながら、恐る恐る振り返るとそこには、
「おはよう佐藤君」
満面の笑みで立っている坂本さんが、そこにいた。
「…………おはよう、坂本さん」
ガシッと、力強く腕を組まれ、僕は逃げられない事を悟った。
両腕を、坂本さん、名木野さんに掴まれ、教室へと連行されている僕。
今日は卒業式だったはずだ。なにせ、二人の胸元には、御卒業と書かれた造花のコサージュが飾られている。
「…………はぁ」
これから何が起こるのか、と言うのは聞くまでもない。
坂本さんイコール、の方程式は、3年間でしっかり覚えた。
教室に着き、押し込まれるように中に入ると、数人のクラスメイトがいた。その中にはもちろん、時間前行動が基本の、水城と金見がいた。だが、
「おはよう。佐藤君」
「おはよう。どう、俺、キマッてるっしょ?なんてね」
二人共、何故かフリフリの王子様風の衣装を身に纏っていた。
「………お前らも、か」
トントンと肩を叩かれ、振り返ると、又しても背後に無言で立っていた坂本さん。お前はメリーさんか。
「はい」
渡されたのは、当然衣装。しかし、
「……え、本当に?僕はこれでいいのか?」
衣装を二度見どころか三度見し、僕は驚きながら、坂本さんに問う。それに満面の笑みで頷く坂本さん。
「もちろん!着れたら来てね」
「わかった」
今回ばかりは、素直に着よう。
そう思える衣装で、僕は頷いた。
背後で笑う二人に、気づく事もなく。
「……本当に普通だ」
隣の空き教室に移動し、僕は袖を通した皺一つないその衣装の感想を、思わず呟く。
フリルが付いている訳でも、裾がヒラヒラしている訳でも短いわけでもない。
何故かある姿見に映る自分を、というか衣装をまじまじと見てしまう。
「普通の燕尾服だ……」
細かい所などは少し凝っているが、シンプルな黒の燕尾服。
重要なのは、メイド服ではなく執事服な事である。
女装させられると思っていたから、面食らってしまった。
卒業式くらいは配慮してくれたのか、と一瞬喜びかけたが、考え直した。
「……卒業式は普通、制服だよな」
そんな当たり前の事さえ、わからなくなってきている自分に嫌気が指した。
しかし、それも今日で終わりだ。
僕は、僕達は今日卒業するんだからな。
つまり、明日からは"元"同級生、"元"クラスメイト、ただの知人。
つまりは他人だ。
僕は卒業できる事をこれほど嬉しいと感じた事はない。
小学校、中学校と、卒業しても進学先には宝来が付属してくるという、特に喜ばしくもない卒業だったが、今度こそ、本当に高校と、宝来の世話係との卒業である。
嬉しくない訳がない。
式で嬉し泣きをするかもしれない…………、いやしないな。
着替えを終えた僕は、教室に戻る。
すると、待ち構えていた坂本さんに捕まり、手近なところにあった椅子に座らせられる。
「それじゃ、軽くメイクね‼︎」
はい。わかっていましたとも。
貴女が手を抜く訳がない事を。
顔にファンデーションを塗られ、ポンポンとチークをつけられ、アイシャドウにアイライン、更にはカールさせられたまつ毛にマスカラまでつけられ、どこが軽くだ、と言いたくなったが、手早くササッと仕上げる坂本さんには毎回関心してしまう。まあ、最後くらいは……なんて、気の迷いが出てきたとき、坂本さんが取り出した物に、僕は思わず椅子を倒しながら立ち上がる。
「、ちょっと待て、待ってくれ」
「どうしたの?」
「なんで坂本さんが首を傾げるんだ……」
坂本さんは目を丸くし、キョトンとした表情で立ち上がった僕を、不思議そうに見る。
「これで終わりだから大人しくしててよ。後ろが支えてるから、早く済ませないと卒業式に間に合わない」
「…………僕の束の間の喜びを返してくれ」
「何言ってるの?」
肩を落とし、力なく椅子に腰を下ろした僕を、坂本さんは終始不思議そうに見つつ、手に持っていた"ソレ"を僕の頭に乗せた。
微調整をし、満足そうに僕を見る坂本さん。
「よし!男装女子の完成‼︎」
坂本様、正確には"女装男子"でございます。
黒髪ロングのウィッグを被せられた僕は、額をおさえながらため息を吐いた。
着替えを終えた……、着替えさせられた僕達は、何故か体育館ではなく教室に集められていた。
なんとも言えない微妙な表情をした担任から配られた、ホチキスで止められた2枚のプリント。
その内容を見て、僕達は目を見開いた。
いや、着替えさせられた時点で、多少は予想がついていたが、驚かずにはいられなかった。
そこに書いてあった内容と名前の両方に。
"第1部*仮装卒業式*
卒業生の皆様、3年間お疲れ様でした‼︎
先輩方には、ハッピーでラッキーな楽しい卒業式をお届けします‼︎
まずは仮装で卒業式を華やかにいろどりましょう‼︎
皆、3年間よく務めた。一人の犠牲もなく、揃って卒業できる事を私は誇りに思うぞ。私が特別可愛がった後輩達の門出だ。式には私も細やかながら、協力しよう。
楽しみにしているといい。
by幡木&皇"
「は?」
波乱の卒業式、開幕。
と言うわけで、タイトル通り、卒業式2に続きます。
まあ最後ですから、好き勝手書かせてもらいます。見直し、編集は後でやるので、勢いで書いていきます。
それでは次回もどうぞよろしくお願い致します。