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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
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148話 最後の大仕事 3

久しぶりの、放送回(?)です。







僕は、机の上にあった複数冊のノートを鞄に詰め、家を出た。









最後かと思うと、多少は感慨深いものだと感じてしまうのだから、僕のこの高校生活にも意味があったのでは、と、僕らしくもなく、そう思ってしまう。


鍵を開け、扉を開き、中に一歩足を踏み入れて、止まる。


「…………」


一度振り返って、廊下を見るが、人気はない。


僕は前を向き、部屋の中に入り、静かに扉を閉め、後ろ手に鍵をかけた。


「……さて」


3年目にして初めて持ち込んだ鞄を、放送台のスイッチを避けて置き、椅子に腰を下ろした。


「始めるか」











「こんにちは。お久しぶり、になるかと思います。放送委員3年の佐藤です。今年は委員会の活動がそんなにできませんでしたが、それは仕方がない事です。放送委員のメンバーは僕一人。僕は3年生で、受験生です。こんな、あってもなくても問題ないような委員会活動なんかより、僕は受験勉強の方が大事です。ついでに言うなら、本を読んでいた方が、とても有意義です。そんな、僕にとって、時間を無駄にするだけに等しい、何の意味もないこの放送も、今日で最後になります。そして、放送委員会も最後にしたいと思います」


僕は回りくどい事はあまり好きではない。初めから本題に入る。


「忘れた頃かと思うが、5月の初めに僕が設置したノートを覚えているだろうか?今日は、そのノートについて話そうと思う。内容を一部抜粋させてもらうが、これはもう一人の放送委員への苦情が多いな。理由は別に書かなくても構わない、と言ったにも関わらず、理由までびっしりだ。お陰で、片方のノートは6冊目という予想を超えた数になった。僕の勉強用のノートが犠牲になった、と一言伝えておこう」


僕は7冊のノートを放送台の上に重ねて置き、一番上に置いたノートを手に取る。


「さて、まず"2冊目"の方のノートについてだが、署名したのは2人だ」


この言葉に、聞いていた2年生達は様々な反応を示した。

肩を落とす者、悔しそうに机に拳を叩きつける者、頭を抱える者など、まあまあ阿鼻叫喚と言える光景だろう。

因みに、職員室でもこの光景が見られたそうだ。


放送室に一人こもっている僕は知らないし、関係ない事だがな。



「一名は予想がついていたので、二人もいた事に驚きが隠せませんでした。が、名前を見て納得しました」


僕はパラリとノートを捲る。


「一人目は、誰もが知る学園の馬鹿代表、幡木掬」


ノートの見開き2ページを使って、デカデカと書かれた主張の強い漢字三文字。

僕は淡々と、やる気無さげに、棒読みで、読み上げた。


ホッと胸をなでおろす聞き手一同。

そして、2人目の名前が読み上げられるのを、固唾を呑んで待つ。


平和なはずの休み時間を、かつてないほどの緊張が支配していた。

卒業する3年生達は、事の成り行きを面白がって見守っており、緊張とはかけ離れているが…。



僕は二人目の名前を読み上げようとしたが、少し迷う。僕は知っているし、幡木に関わっている奴なら、知っているだろうが、知らない奴には伝わらない物だったからだ。

だが、僕はそのまま読み上げることにした。


「二人目は…………、、"しーちゃん"、だそうだ」


『は?』


疑問が上がっているだろうが、僕には聴こえていないので、続ける。


「理由、"はーちゃんを委員長に‼︎いよいよ最高学年になる私達。そんな最後の一年を思い出に!私の親友のはーちゃんの望みを叶えてあげたい!やっと邪魔なサトウセンパイがいなくなるのに、委員会がなくなるなんて耐えられない‼︎私はこのノートにその気持ちを綴ります。私は放送委員会に幽霊部員として所属します。なので、委員長にはなれません!私の、私達の気持ちを汲んでくれのなら、サトウセンパイは速やかにはーちゃんに、委員長の引き継ぎを行うべし!以上、親友しーちゃんでした"。……だそうだ」


当然、賛同する者は誰もいなかった訳だが。

僕はノートを静かに閉じて、脇に避けた。


「さて、"2冊目"のノートの内容はこれで終わりだ。署名人数は2人。内容も僕の出した、"幡木以外が委員長になる"という条件を満たしていないので無効となる。続いて、予想を超える署名ガあった"1冊目"のノートだが、6冊全ての内容を読み上げるには時間が足りないので、先程も言った通り、一部抜粋して読み上げようと思う」


僕は6冊のノートから適当に1冊目抜き取り、適当なページを開く。


「"幡木掬の放送なんて耐えられません。騒音被害による精神的苦痛、で訴える方法を教えて下さい"

……すまないが、ここは質問コーナーではないんだ。だが、素直な意見だな。他にも何人かは一文目と同じ理由がいくつかあった。同学年だったなら、僕も同意見だ」


僕はページを捲る。


「"同学年、クラスメイトという立場上、幡木掬と関わる事が多くあります。が、幡木掬には殺意しか湧きません。唯一の安住の時である休憩時間や部活動の時間でまで、幡木掬という馬鹿に邪魔されたくありません。"

…心底同学年じゃなくてよかったと、僕は思ってしまったよ。すまない」


パタン、とノートを閉じ、その場に置いたまま、僕は続ける。


「他にも幡木掬反対派の意見は多くあるが、時間もあまりないので、以上を理由の一つとする」


一呼吸置き、僕は結論を口にする。


「結論から言おう。放送委員会は、今年度で廃止。来年度に存続する事はない。

この学校の最高責任者のお墨付きだ。と、いう訳だから、幡木は来年他の部活や委員会を探すんだな。補足だが、反対派のノートの署名人数は、約180名。教師も含んでいるが、全校生徒数の半数が、幡木の放送に反対している、というのが分かる。つまり、幡木、お前の味方はいないんだよ」


僕は椅子でクルリと回り、体ごと振り向く。


「わかったら、放送室のドアを叩くのを止めろ」


外にも聞こえるよう、背後のマイクでも拾えるよう少し声を張り、幡木に語りかける。


「お前に委員長は無理だ。諦めろ。教師どころか、クラスメイトからの信頼も信用も何もないって、分かっただろう?」


「………………」


何の返答もないので、僕はため息を一つ零し、仕方なくドアを開けた。

ドアの前には、俯いて、スカートの裾を握っている幡木の姿があった。


「…………」


入口を塞ぐように壁に寄りかかり、腕を組み、幡木を見下ろし、言葉を待つ。


「…………わたし、だって、」


漸く口を開いた幡木。

流石にこの声はマイクには届かないだろう。

などと考えながら、続きを待つ。


「私だって放送やりたいんですよ‼︎それなのに先輩は、私をおとしめることばかりして、嫌がらせですか⁈そのノートだって本物かどうかなんてわからないじゃないですか!もう怒りました‼︎許可なんていりません‼︎委員長なんて肩書きもいりません‼︎先輩はさっさと卒業して下さい‼︎4月からは、私がっ、趣味でっ、勝手にっ、放送しますから‼︎この放送室なんかなくたって、体育館にマイクはあるし、今の時代、スマホでなんだってできるんですからねっ‼︎」


幡木は思いの丈を叫んだ。

この声は、マイクが拾った。

廊下に響く、幡木の叫び。



幡木が何も理解していない事が分かった。

呆れて、額をおさえた僕。

そんな僕の横をすり抜けて、放送室に入った幡木は、スイッチが入ったままのマイクを、ガッと掴み、叫んだ。


「放送委員会はなくなるようなので、4月より、放送部を設立します!入部希望者は、私、幡木掬のもとに‼︎私は放送することを諦めません‼︎」


キィィーーン、と高い音を立てながら学校中に響いた、幡木のとんでも宣言。


僕は、最早止める事も無意味だと、ため息を一つ吐き、ゆっくりと幡木に歩み寄る。


「…好きにしろ」


マイクに声が通る距離で止まり、そう言うと、幡木はパッと顔を輝かせ、僕を振り返る。


「本当ですか⁈本当にいいんですか⁈私、作っちゃいますよ⁈いいんですか⁈」


「ただし、」


嬉しそうに顔を輝かせていた幡木だが、突如、バァン、と勢いよく放送室の扉が開け放たれた事で、動きを止めた。

僕も幡木も、入口の方を見ると、


「校長に部の設立を認めさせられたら、な」


そこには、校長と幡木の担任教師が立っていた。


「……こーちょー先生じゃないですか!私なんかに、なんのごようでしょうか?」


校長の顔を見た途端に表情を凍りつかせた幡木は、しかし笑顔で校長に問う。


「……少し、君に話がある。着いて来なさい」


「嫌です‼︎」


校長を睨みつけ、噛みつかんばかりに叫ぶ幡木。

しかし、そんな事では校長は眉ひとつ動かさない。


「なぁに、その答えは予想通りだ。…頼んだよ」


「はい」


校長の一歩後ろに控えていた、幡木の担任は、幡木に近寄ると、


「あ、先生‼︎なにするんですか⁈私女子ですよ⁈先生は変態なんですか?きゃーさらわれるーー‼︎」


「静かにしろっ!」


俵担ぎにし、校長と共に放送室を出る。


「先輩‼︎佐藤先輩‼︎助けてください‼︎」


「…………達者でな」


幡木の助けを求める叫びを、片手を上げる事で流し、僕は椅子に座る。


「センパァーーーイ‼︎」


背後で、放送室の重い扉が閉まる音がした。


「……と、言う訳で、放送委員会は廃止となりました。以上、僕の最後の放送、というか報告でした」


その一言で、僕は放送を切ろうと、スイッチに手をかけたが、少し考え、その手を止めた。



「……まあ、面倒だったが、それなりに楽しませてもらった。じゃあな」



今度こそ、僕はスイッチを切った。


広げていたノートを鞄にしまい、放送室を出る。


最後に鍵を閉め、僕は放送室の前から立ち去った。





教室に戻ると、最後の一言について、宝来や金見に、ニヤニヤしながらからかわれたが、全てを黙殺した。







その日の放課後、放送室は普通の鍵の他に、新たに南京錠と縄が追加され、

【立ち入り禁止】

の張り紙と共に頑丈に閉じられた。






放送委員会廃止という、僕の目的が達成された瞬間である。


放送委員会廃止。

佐藤君の放送もこれにて終了。

三年生ではあまり書けませんでしたが、放送回は楽しく書かせてもらってました。


次回は、卒業式の方に戻ります。

本番は、次の次辺りで書けたら、と思ってます。

それでは次回もよろしくお願い致します。

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