146話 卒業式への道
お待たせしたのに短いです。すみません…。
2月も後半。
卒業式まで、一月を切った。
年が明けてからも、僕の周りは騒がしかったが、バレンタインという無駄なイベントを超え、やっと落ち着きを見せてきた……と思われる。
「お願いします!」
「…………」
差し出されたのは、一枚の紙。A4サイズのそれは、僕の目の前で目の前にいる人物の手に持たれたままヒラヒラと風に揺れる。
受け取るか、受け取らないかの二択ではあるが、僕本人の気持ち的には、実際のところは100%を振り切っているが、とりあえず99.99%前者だということにしておこうか。
何故なら、僕本人の意思など関係なく、これは受け取る事が始めから決められている事だからだ。
一言だけ言わせてくれ。
「何で、僕が…………」
ため息と共に弱く吐き捨て、僕は差し出されたそれに、静かに手を伸ばした。
"卒業式について"
と、一番上に太字で書かれていた。
「さあ先輩!卒業式について相談しましょう‼︎」
「………僕は卒業生なのだが?」
何故僕が、と疑問を口にするとそいつは、バァン!と大きい音を立ててホワイトボードを叩き、叩きつけた方とは逆の手で拳を握る。
「それがなんですか!卒業生が卒業式の計画を立ててはいけないと、誰が決めたんですか‼︎それに私は、実行委員長ですよ‼︎だまって言うことをきいてください‼︎」
誰だ。こいつを実行委員長になんてしたのは。
僕は不本意ながらも受け取るしかなかったプリントに軽く目を通しながら、もう一つ疑問を口にした。
「……それで、他の委員はどこだ?まさか委員長だけとか言わないよな」
「おおっ!さっすが先輩‼︎よくわかってらっしゃる!卒業式計画委員は、この幡木掬一人です‼︎…ああっ!先輩も入れて2人でしたね!」
頼む……冗談だって言ってくれ。
タチの悪い嘘だって、誰が言ってくれないか?
2年連続、こんな奴と卒業式の進行などを決めなければいけないのか?
卒業生であるはずの、僕が?
「……最後まで、僕はお前に苦しめられるのか」
「楽しめられる、の間違いですよ‼︎さぁ、一緒に楽しい卒業式を考えましょう‼︎」
「…………クソっ」
ここで断るのは、とても簡単だ。
しかし、断ってしまえばこいつは一人。
何をしでかすか、分かったもんじゃない。手綱を握る誰かが必要な為、僕には断る事ができない。
「………はぁ」
卒業式の計画を卒業生が決める。
滑稽だろう?
笑ってくれていいんだぞ。寧ろ最後だから盛大に笑ってくれ。
ほとんど自主登校になりつつある2月のこの時期に、僕は毎日学校に通って、毎日幡木と顔を合わせ、卒業式の計画を立てる事になった。
受験、センター試験が終わっているからいいじゃん、とか思ってるなら殺すからそのつもりで。
卒業式計画会議 1日目
「司会はこの私で決まりですね‼︎」
「却下」
「なんでですか⁈」
幡木の案を即座に切り捨てると、幡木は机を叩き、眦を吊り上げ身を乗り出し、僕に詰め寄る。
「ブッ」
そんな幡木の近づいてきた顔面を持参したノートで叩き、僕は告げる。
「去年ので懲りろ。お前に"司会進行"なんて"高等技術"は不可能だ。例えそれが幼稚園のお遊戯会やら発表会とかであっても、な」
僕のこの言葉に幡木は憤慨し、子犬のようにキャンキャンと騒ぎ立てるが、僕は無視して一人で、卒業式の計画を進める。去年と勝手は同じな為、そんなに苦労はしない。
僕は卒業生のはずなのに、何をやってるんだろうな?
卒業式計画会議 2日目。
「今日は司会進行のげんこうを書いてきました!」
「お前に司会進行は任せない、と言ったはずだが」
「"3年生の先輩方、ご卒業おめでとうございます。これから世界へと旅立つ先輩方に、ささやかながらお祝いの言葉を送らせていただきます"」
「?」
予想より遥かにまともな原稿に、僕は眉を顰めた。短い文にも関わらず、紙を捲ったので、2枚目があるのだろう。僕は静かに聞く事にした。
「"拝啓、先輩方。先輩方は、とてもとても幸せだったでしょう。何故なら、去年のおーら会長そして、この私掬ちゃんと2年ずつ過ごし、とてもとても幸福な3年間だったことでしょう。私も楽しかった、とおーら会長からのありがたい伝言もあずかってます"」
「待て待て待て。なんでそこで会長が出てくるんだ?」
それに、私"も"楽しかったじゃなくて、私"は"楽しかった、だろう。
何後輩に言伝なんか頼んでるんだよ。
前半だけだったら、司会を任せるのも考えないでもなかったというのに…。
「なぜって?それは、会長からこの役目をすいせんして頂いたからです!」
犯 人 は お 前 か っ ‼︎
「……去年卒業した会長になんの権限があって、どうやってお前なんかを推薦したんだ?」
会長だったから、なんてのは卒業後は関係ないからな。
「それはもちろん、提案された私と会長とで、職員室と校長室に"お願い"しに行ったからですよ‼︎4時間ずつ2人でおしゃべりしつつ部屋にいたら、頭をかかえながら喜んで許可してくれました!」
「頭抱えてたんなら、全然喜んでじゃなくて諦めた、の間違いだよ」
先生方も頑張ったな。特に校長。4時間も仕事の邪魔されて、さぞウザかっただろう。
僕なら1時間もせずに諦めてるところだ。
これは、仕方ないという事にしておこう。
僕は幡木から無言で原稿を奪い取り、その場で破り捨てた。
卒業式計画会議 3日目
僕と幡木は、何故か放送室にいた。
中途半端ですが、続きます。
卒業生が卒業式の計画を立てるの、まあ、おかしくはないのかな、とは思いつつ、後輩や先生方がやるべき(であろう)ところを佐藤君にやらせてみよう、と思い至り、こんな話になりました。
まあ、最後にこんなグダグダになってしまいましたが、次回もどうぞよろしくお願い致します。