表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
168/178

番外編 2月14日の恐怖体験…?

ハッピーバレンタイン。


本編より先にこっち書きました。

今日中にあげられて、一安心。



息抜きのおふざけ番外編です。



「っっっ……⁈」


僕は声にならない声で目の前に差し出された"それ"に戦慄した。

喜び、驚き、照れ、そんな可愛らしい感情なんて湧くはずもなく、ただただ目の前のそれに恐怖した。


「………なんの、つもりだ?」


そいつは僕の問いに答えず、差し出した"それ"を下げる事もしない。

そいつは何故か、笑顔だった。


「…答える気がないなら、僕も受け取る気はない」


それにそいつは、肩を揺らし俯いた。


側からみたら、僕は好意を受け取らない冷たい人間になるだろう。しかし、


「今日、バレンタインだから、がんばって作った」


"それ"を胸元で両手で大事そうに抱えたそいつは、顔を上げずに、か細い声でそう言った。

僕は目を見開き、勢いよく後ずさって、そいつから距離を取った。背中は壁にぶつかった。

制服の袖を少し捲ると、予想通り鳥肌が立った。


「はじめて、作ったんだ…!だから、受け取ってくれると、嬉しい」


「いらん!」


再度"それ"……ああ、もうチョコでいいか。赤いハートの形の箱に白いリボンの巻かれた、随分と可愛らしいチョコを、再び僕に差し出した目の前の人物。


僕は不気味さしか感じない。








登校し、HRまでまだ少し時間のある朝の、僕に取っては読書の時間の事だった。

教室に入ってきたそいつは、僕の席の前に立つと、僕の名を控えめに呼んだ。


「…佐藤クン。これを、受け取ってほしい」


僕はそいつの不気味さに、席に座ったまま少し後ずさった。

静かでもなく、騒がしくもない、普通の教室に響く、椅子が床を擦る音。

その音に僕に、僕達に視線が集まる。

この時点で、おかしい、と思った奴は多いだろう。


好奇、困惑、興味、憎悪、羨望、教室内にいたクラスメイト達の、そんな視線に晒された僕は、ゆっくりと立ち上がり、目の前の人物を睨みつけた。


「……お前は僕の神経を逆撫でする天才だな」



そいつは見た目と図体に似合わない、赤いハートを手に、僕の前に立った。


「俺の気持ちを受け取ってくれ‼︎」


宝来彼方が、そのハートを僕に差し出した。


瞬間、僕の身体が、全身が、拒絶反応で、不気味さで、怖気立った。






「頼む!俺の3年間の感謝の気持ちがこもってるんだ!受け取ってくれ!」


背を壁につけ、もう後退する事が叶わない僕は、宝来から離れようと逃げ場を探すが、面白がっているクラスメイトに逃げ道を塞がれていた。


前には宝来、右にはロッカー、後ろは窓ガラス、唯一の逃げ道となり得る左手は、野次馬と化し、ニヤニヤと僕達を見物するクラスメイトの壁ができており、逃げ場がない。

窓から飛び降りれば逃げる事は可能だが、ここは3階。卒業目前で自殺紛いの事をする趣味はない。


つまりは、さっさと、穏便に事を済ませるには、男である宝来からチョコレートを受け取る他ないのだ。


「佐藤‼︎」


これはただの、認めたくはないが"友"チョコなだけだ。受け取ってもなんの問題もない。ただ、手作りだというのが問題なだけだ。

バレンタインに、男が男の手作りチョコを貰って嬉しい奴がいるか?

嬉しい奴は、同性愛者以外いないはずだ。


「佐藤……クン」


「いい加減にしろ」


気色悪く君づけしてくる宝来に、またしても鳥肌が立った僕は、仕方なく差し出されていたハートの箱を奪うように抜き取った。


瞬間、教室内が湧いた。


ヒューヒューと茶化してくる者、顔を覆い膝から崩れ落ちる者、羨望の眼差しで僕を見る者と様々だったが、何故か皆が拍手。


まるで、告白が成功しカップルになったかのような騒ぎだった。

僕はクラスメイト達を睨みつけながら、手に持った箱を床に叩きつようとした時、ガラッと教室のドアが開き、眠そうな目の担任、五井先生が入って来た。


「……なにお前達、付き合ったの?」


朝から騒がしいその教室内を見回し、その中心にいた僕達で視線を止めた先生は、悍ましい事を口にした。


「……冗談でもそんな事言うの、やめて下さい」


「悪い悪い」


対して悪いとも思ってなさそうな、適当な返答にイラッとしたが、今はそっちに構っている暇はない。

僕は受け取ってしまったチョコを見る。


「こんなものを作って、なんのつもりだ?」


「外国だと男から渡してもおかしくないって聞いたから‼︎」


「異性に渡すなら、な。外国では男性から女性に花束などを送るのが主流だと言うな」


「ああ!佐藤が前に本屋さんに渡した花束みたいにか‼︎」


瞬間、クラスメイトがざわついた。

ヒソヒソと声を潜め、話し始める彼等。だが、その声は本人である僕に筒抜けだ。


『佐藤が花を……?』


悪いか。


『本屋ってどこのだ?そこの子はそんなに可愛いのか⁈』


残念だったな。今年喜寿のおばあさんだ。


『佐藤に花束とか、にあわねぇ』


うるさい黙れ。


「なあなあ!それ開けてみてくれよ‼︎俺が作ったんだ‼︎」


ヒソヒソ話の内容に心の中でツッこんでいた時、周りの視線など気にもしない宝来が、僕に近寄ってきて、自信満々に笑顔でそう言った。


「…………」


HRを始めないのかと、担任に視線をやるが、教卓に頬杖をついて、欠伸をしていた。

このクラスメイト達の好奇の視線からは逃れられそうにない。


「はぁ…」


仕方なく、僕はリボンを解き、包装紙を剥がし、箱を開く。


「……は?」


中を見てみると、見覚えのありすぎる、三角錐のお菓子が、入っていた。

無意味にも、ハートの真ん中に仕切りを入れ、左右に分けて入っている。


「……なんだ、これは?」


僕は宝来に問いかける。

"手作り"というには見覚えのありすぎる、誰もが知っているであろう既製品のお菓子だ。


「すごいだろ‼︎それ、右半分は俺が作ったんだ‼︎」


半分……?

入っているのは、全部同じ物だ。

僕と同じで、周りで見ていたクラスメイトも、不思議そうに首を傾げる。


「……残りの半分は?」


「それは買ったやつつめた‼︎」


やっぱり既製品じゃないか。

僕は素直に疑問を口にする。


「これは、どこら辺が手作りなんだ」


クラスメイトも皆首を縦に振った。


僕らの疑問に、宝来は笑顔で教室内に核爆弾を投下した。


「きのこをたけのこにしたんだ‼︎」


教室内に戦慄が走った。


「………………そうか」


「ネットでレシピ見てさ‼︎きのこで作るたけのこなんて、面白いだろう!」


「…………そうだな…………」


宝来は気づかない。

この教室内に走る、この緊張感に。

この緊迫した状況に……。

だから、宝来は追加の爆弾を勢いよく、笑顔で放った。


「俺たけのこの方が好きなんだ‼︎」



この一言が引き金となり、3年生全員を巻き込んでの、

【第一回逢真高校3年生きのこたけのこ戦争】

勃発である。


卒業を目前にして何をしているんだ、と、僕は静かに箱の蓋を閉じた。





因みに、僕はお菓子は別に好きでも嫌いでもないので、どっち派でもない。


僕のその不用意な発言のせいで、また違う論争が起こったが、まあ、割愛させてもらう。

男性諸君、チョコレートは貰えましたか?

それとも、配りましたか……?

最近は逆チョコも多いと聞きますね。

まあ、どっちから配ろうとどうでもいいんですけど…。


というわけで、バレンタインの話でした。


本編じゃなくてすみません。

職場で小袋版のきのこの山をもらって、唐突にきのこたけのこ戦争を書きたくなってしまって…。

貴方はどっち派でしょうか?



まあ、という番外編でした。

明日までには本編も更新しますので、暫くお待ち下さい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ