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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
165/178

142話 宝来彼方の野望 そのに

前回の続き。



「………………」


検索「メジャーとは?」


①大きなこと。一流であること。


宝来にとっては重要なのだろうが、具体性がない。違う。


②よく知られているさま。有名であるさま。


①と同様。違う。


③長調。長音階。長旋法。


何に挑戦するつもりだろうか?違う。


④国際的な市場支配力を有する巨大会社。特に、国際石油資本や巨大多国籍穀物商社をいう。


会社を立ち上げて社長にでもなるのか?お前の頭じゃ無理だ。やめとけ。違う。


⑤メジャーリーグの略


…………冗談だろ?ちが…………、、。








「俺、メジャーに挑戦する‼︎」


なんの反応も示さない僕に、聞こえていないと思ったのか、宝来は一言一句違わず同じ言葉を繰り返した。


「………………はぁぁ」


僕は頭を抱え、ため息を吐いた。


「どうしたんだ少年。そんな大きなため息なんて吐いて。夢は大きく!いいではないかメジャー‼︎子供こそ夢を持つべきなのだよ!素晴らしい‼︎」


「ちょっと黙って下さい」


「そうですよ!"めじゃあ"ですよ"めじゃあ"‼︎なんかよく分からないけど、いいじゃないですか"めじゃあ"‼︎」


「分からないなら大人しくその煩い口を閉じろ」


僕は騒ぎ始めた二人の言葉を即座に切り捨てた。

そして顔を上げ、宝来を睨みつける。たじろぐ宝来。

なぜか二人も静かになった。

多少は空気を読めるようになったようだ。そのワクワク顔だけはやめてほしいが…。


「……お前、バスケ部だったよな?」


「…え、ああ、うん」


僕の静かな問いに、吃りながらも頷く宝来。


「野球に鞍替えか?しかもメジャーから始めようって?」


「おう!」


この質問には力強く頷く宝来。それに再度ため息を吐き、質問を続ける。


「考えが甘いとは思わないのか?」


「俺、野球部にスカウトされるくらい、野球も上手いんだぜ!」


「それでプロになろうと?」


「おう!挑戦してみようかな、って」


軽い。

野球部からではなく、プロからスカウトされてからにしろ。


「甲子園に行った奴でもプロで活躍するのが難しいのに、バスケだけしかやってなかった奴がそんな簡単にプロになれる訳ないだろう」


「大丈夫!安心しろ!ダメなら他のスポーツ行くから‼︎」


流石は天才(運動のみ)言うことが違う。舐めてるとしか思えない。

笑顔でサムズアップする宝来には、僕だけでなく殺意が湧く事だろう。

僕は、割れんばかりにマグカップを握った榊原さんを視界の端に捉えた。

続けて宝来に質問をしようとするが、宝来の方が先に口を開いた。


「だから俺、卒業したらアメリカ行ってくる‼︎」


「…………なんて?」


思わず口から声が漏れた。

宝来のぶっ飛んだ発想は、一度や二度では済まないらしい。


「だから、卒業したらアメリカ行く‼︎」


又しても一言一句違わず同じ言葉を繰り返した宝来。

聞き間違いではなかったようだ。


「アメリカ…………」


「おおっ‼︎イッツアメリカン‼︎」


「イェーイ‼︎れっつごーアメリカ‼︎」


馬鹿共は黙ってろ。

不思議なタイミングで合いの手を入れてくれる会長と幡木。会話に加わりたくて仕方がないらしい。

とりあえず、無駄な絡みは避けるべきだ。二人は無視して続ける。


「……一人でアメリカ行ってどうするんだ?無計画で外国に行っても碌な事にならないぞ」


「一人じゃねぇよ!」


僕の言葉に即座に切り返す宝来は、バンッとテーブルを叩き、膝立ちになって向かいに座る僕の方へ身を乗り出す。


「佐藤一緒に行ってくれるだろう‼︎」


………………はぁ?


嬉しそうに、楽しそうに笑う宝来の言葉が、今度こそ理解ができなかった。


「俺達、幼馴染だもんな‼︎」


はあ⁈⁇⁈




「………………」


「佐藤君、しっかり!」


ハクハクと口を開閉させ、しかし言葉も出ずに、この感情をどこへとやればいいのかと震えていると、榊原さんが僕の肩を揺さぶった。

それで動揺はそのまま、何とか正気は保った僕を、宝来は追撃する。


「どうしたんだよ佐藤。おばさんはいいって言ってたぞ!」


知らん。何も聞いてない。僕の意見は?意思は?僕のこの一年の努力は?大学はどうなる?迫るセンター試験やら、AOで一応は合格をもらった大学はどうする?


それらの疑問を一旦飲み込み、一つずつ疑問を解明していこうと何とか声を出す。


「……、、母は、海外出張中の、はずだが」


「おう!月の定期連絡で先週言ったらいいよって‼︎」


月の定期連絡ってなんだ?

僕へはこの一年音信不通なのだが?


「………………、、」


疑問を口にすれば、また疑問が生じ、何から聞くべきかが分からなくなり、言葉もなくなる。

しかし宝来は待たない。さらなる追撃を仕掛けてきた。


「おばさんさ、今アメリカで家借りてるんだって!だから、住むとこの心配はないぞ‼︎一年間一緒に住めるな‼︎」


勘弁してくれ…………。


何故お前達はこういう時に何も言わない?

思わず会長と幡木を睨みつける。

完全なる八つ当たりだが、二人はなにやら顔を寄せ合い、スマホをいじっていた。

……この野郎。


「………………」


「ど、どうした?」


「だ、大丈夫……?」


スッと立ち上がり、黙ったままの僕に、宝来が目を丸くし、榊原さんは心配そうに僕を見上げる。


「少し、頭を冷やしてくる」


僕は洗面所へと向かった。





文字通り頭を冷やし(物理)、なんとか情報を整理した僕は、宝来に疑問を投げかける。

ポタポタと髪の毛から水を滴らせる僕。首を傾げた宝来だが、僕の疑問に笑顔で答える。


「僕が受験生だからと、時期を合わせて珍しく気を遣って海外出張に行ってくれた僕の母の所に、僕とお前とお前の母親が一緒に行くと?」


「うん」


「ちょっと待って佐藤君」


静かに聞いていた榊原さんが、何故か待ったをかけた。それに疑問を持ち、宝来と共に首を傾げつつ榊原さんの方に向き直りながら、


「…なんですか?」


何処かおかしいところがあったかと、返事をすると、榊原さんは顔をひきつらさながら、一つ一つ確認するかのように、疑問を口にした。


「…佐藤君のお母さんは、海外出張に"行ってくれて"るんだ?」


「はい」


「受験生の佐藤君に、"気を遣って"?」


「はい。何か、おかしなところがありますか?」


頷きながら僕も疑問を返すと、榊原さんは、口元を引きつらせながら、微妙な笑みを浮かべた後、片手で顔を覆い、俯いた。


「…………いや、いいんだ。中断させて、ごめんね…」


……何なんだ?

僕がおかしいのか?

あんな、息子を息子とも思ってない悪魔のような母親、いない方がいいに決まってるだろうが。母がいたら、今年の僕も母の召使い決定だ。勉強する時間も、本を読む時間も減るに決まっている。生活費は振り込んでくれてるし、最高の一人暮らしだろう。……まぁ、赤点留年王手の宝来がいなかったらもっと良かったんだけどな……。


まぁいい。話を戻そう。




「……確か僕の母は、3月には戻って来ると聞いているのだが?」


「一年延びたんだって」


聞いてない…。

何故、血の繋がった実の息子の僕ではなく、幼馴染の家族の方が、母の事情に詳しいのだろうか?


「…………お前、バスケはどうするんだ?」


宝来は、一瞬口を閉じ、カラリと笑った。


「俺、バスケはアイツらとやりたい‼︎アイツらじゃないとヤダ!たった3年間だったけど、またアイツらとチーム組んでやりたい。だから、バスケはもういいや」


「……そうか」


お前はそんな事で、唯一の取り柄で、生きていく命綱のバスケを捨てるんだな。

残念だったな。色々と……。


「まあ、僕は一緒には行かないがな」


「えぇーー⁈」


「えーじゃない。僕には大学に行く目的がある。お前みたいに思いつきで行動する馬鹿じゃないんだ」


「思いつきじゃねえよ!野球もやりたかったんだよ‼︎」


「それを思いつきと言うんだ。野球やりたい=メジャー目指す、の方式が理解できん」


「えー、折角ならでっかく行こうぜ‼︎」


「話にならん。行くなら勝手に行け。僕を巻き込むな」


「うーん、分かったよ……」


はぁ、やっと諦めてくれたか。

何回かの問答の末、宝来が頷いた事に僕はホッと息を吐く。

しかし、宝来は簡単に諦めてはくれなかったようだ。


「大学落ちたら、ついてきてくれよな‼︎」


どんな事をしてでも満点取ってやる。

僕は決意を新たに、センター試験に挑むことにした。


アメリカになんぞ、行ってなるものか、と筆箱の中に、万が一の"保険"を忍ばせながら……。










「さ、帰れ」


「えー先輩冷たいです!」


「そうだぞ少年!まだ外はこんなに明るいではないか!変えるにはまだ早いぞ‼︎」


「餅つきも正月遊びも終わった。僕は勉強するんだ。だから帰れ」


道具を外の台車に片付ける、という名目で、二人に靴を履かせ外に出した僕は、道具を外に放り、玄関を閉めた。

扉越しに帰宅を促すが、簡単には帰らないのがこの二人だ。


「さっきまでほーらい先輩と2人だけで楽しくしてたじゃないですか!2人ばっかりずるいですよ‼︎」


意味が分からん。


「そうだぞ少年。男の幼馴染の二人だけで、とても大事な将来の話をしてたじゃないか。私が言い含めて後輩君と静かに見守ってあげたのに、この仕打ちはないんじゃないか。君達二人の明るい未来を祝福しようとしていたのに、君は断るし」


「誤解が生まれるような言い回しはやめて下さい」


態々男の、とか二人だけで、とか強調して言わないで下さい。会長がそういうのが好きなのは知っていますが、僕を題材にしないで頂きたい。


「ほーらい先輩や、あのおにーさんは残ってるのに、なんで私たちだけ追い出されるんですか‼︎」


「宝来もすぐに追い出す。榊原さんは勉強を教えてくれる家庭教師だ。追い出す理由がない。いいから帰れ」


「ハッ!もしや、女の私達だけを追い出したということは……!」


「……だから、"そっち"に持っていかないでくれます。いいから帰って下さい。また通報しますよ」


「良いのだ良いのだ。隠さなくても。私達"女"は黙って帰ろう。それではな、少年」


「だから………、はぁ」


まあ、帰ってくれるならこれ以上言う言事はない。僕は踵を返し、リビングへと戻ろうと一歩踏み出した。


「えええーーー‼︎先輩達がそんなっ「騒ぐな後輩君‼︎ここは黙って帰ってやるのが友人としての務めでありマナーなのだ‼︎」


おい待て、幡木に一体何を吹き込んだ…?


ピタリと足を止め、玄関を振り返る。


抗議しに行こうか迷ったが、時間が惜しい。僕はグッと堪え、再度リビングへと足を進めた。


「先輩に彼女がいないのって、そういうことだったんですね!」


「言ってやるな。愛の形は人それぞれなのだ。幼馴染なんて、一番おいしいだろう?」


「えっ?おいしいんですか⁈どんな味ですか⁈」


「そうだな。レモンのように甘酸っぱいような、しかし時折砂糖菓子のように甘い、そんな味だろうか」


「私も食べたいです‼︎」


「良かろう。では、これから私の家に行こうではないか。その味を教えてやろう」


「わーい‼︎」


ガラガラと台車を引いていく音と、二人のそんな会話が聞こえてきて、僕は顔を引きつらせた。


「………………もう、どうでもいいか」


馬鹿二人の事は、僕は気にしないことにした。


会話文多めで送らせて頂きました142話だした。


幡木掬の将来が危ぶまれますね…。


そんなこんなで、彼方君は大学へ行かずにアメリカ行きが決定しました。その後の事は、まあ、後で考えまーす。

とりあえず、今は佐藤君のお受験かな…。


次回もなんか書きます。どうぞ、よろしくお願いします!

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