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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
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140話 正月休みに休めない受験生の僕

あけましておめでとう。

そんな話です(違う)




年が明けた。

だが僕に休んでる暇はなかった。


すぐそこに、センター試験が控えているからだ。


正月も、元旦と2日の午前中だけを休憩………、できてない気もするが、まぁとにかく休みに当て、正月休みの間も勉強に当てた。

正月早々だというのに、家庭教師を申し出てくれた榊原さん。僕は、彼と共にセンター試験の対策を進めていた。

あ、AOに落ちた訳じゃないぞ。無事に受かった。しかし、学力を見るのも兼ねて、センター試験も併用なんだそうだ。


「正月早々ありがとうございます。僕としては助かるのですが、大丈夫だったんですか?」


「問題ないよ。大学通うのに上京してしてきたから一人暮らしだし。何より暇だしね」


僕の問いににこやかに答えた彼に、僕はボソリと呟いた。


「…………彼女とかいないんですね」


「それは言わないでくれるかな‼︎」


まあ、僕もいないが。

そんな会話をしつつ勉強を進めていた僕。

だが一つ、言っておく事がある。

正月休み=学校も休みなのだ。

これは当然の事だよな?

もうお察しの方もいるかもしれんが、敢えて言おうか。


この日は、高校生活で最悪の日だった、と…………毎回こんな感じの事言ってるが、よく考えたら、碌な高校生活じゃない気がしてきた。









「「「さーとうくん‼︎あっそびーましょ‼︎」」」


榊原さんを家庭教師につけての勉強中、玄関から聞き馴染みのある、予想するまでもない面々の声が聞こえてきた。


「…………呼ばれてるけど、いいの?」


立ち上がる事なく、問題を解く手も止めない僕に、正面にいた榊原さんは、困惑気味にそう問いかけてくる。それに対し、僕は質問とは違った返答をする。


「抜かりはありません。全ての部屋のドア、窓は施錠済みです」


「…………あ、そう。それは、よかった……のかな?」


榊原さんも、大方の予想はついているのだろう。

一人以外は一度会った、というか見た事がある人物だろうからな。

あいつらは、一度会ったら簡単には忘れられない、強烈な人種だからな。


「佐藤‼︎遊ぼうぜっ‼︎」


「私が来てあげたんですから、泣いて喜んでください‼︎」


「少年、開けてくれ給え。年が明けた目出度い日だ。一緒に遊ぼうではないか!」


2階の僕の部屋まで聞こえてくる、その声は耳障り以外の何物でもない。が、相手にしたら負けなのだ。


「あ、この問題はどう解けば?」


「………君も存外マイペースだよね」


「マイペースなのではありません。アイツらの所為でスルースキルがカンストしたんだけです」


「…そっか。この問題はね…」


表情一つ変えずに言った僕に、榊原さんは何も言うことなく、指導に入る。こういう対応力のある人で助かる。


「………………」


「…………随分、静かだね」


その問題を解き終えた僕と榊原さんは、外が静かになった事に疑問を感じ、思わず二人で窓を見た。

ここで見るのが玄関ではない事にツッコんでくれる奴は、どこにもいない。


「……?」


「………いない、か」


カーテンを閉めていなかった窓の外には、誰もいなかった。


「…諦めて帰った、か?」


いや、それはありえない……はず。帰ってくれたらそれはとてもありがたい事だが、それはありえないと言える。

そう思った次の瞬間、


「いっきまぁーーす‼︎」


ガッ‼︎


「「⁈」」


鈍い音を立てて、窓に何かが激突した。幸い、窓にダメージはない。

幡木の声だったぞ……。


「2本目、放て‼︎」


ガッ‼︎


先程とは別の場所に当たる。窓にダメージはない。

今のは会長の声だ。


「あいつら、何始めやがった‼︎」


僕は急いで立ち上がり、窓に寄る。そして下を覗くと、弓を構える宝来の姿。

もちろん窓を開ける、なんて自殺行為にも等しい事はしない。


「あっ、待て待て‼︎少年が顔を出したぞ‼︎あぶり出し成功だ‼︎」


「………馬鹿共が」


3人から視線を、窓にぶつけられたであろう物に移す。

僕はため息をつき、頭を抱えた。

そんな僕の様子に、榊原さんも僕と同様に屋根に落ちるそれを見て、顔を引きつらせた。


「…………あー」


言葉もないようだ。僕も同じ気持ちだ。

僕はもう一度宝来達の方に視線をずらし、そいつらの手元を見る。


「……この、罰当たり共が」


屋根の上と、奴らの手に握られていたのは、破魔矢だった。

破魔矢とは、簡単に言うと、正月の"縁起物"で、"神具"である。

それを射るとは、何を考えているんだろうな?


「少年、少年!遊ぼうではないか!先輩、同輩、後輩と各種取り揃えているぞ!みなで遊ぶから選べないがな‼︎」


そう言うと会長は、足元から何かを手に取り、僕に見えるように両手で頭上に掲げた。


「正月だから、正月らしくいこう!餅つき羽根つき独楽回し‼︎オマケでカルタに書き初めだぁぁ‼︎」


「「イェェーイ‼︎‼︎」」


杵を掲げ叫ぶ会長と、ノリで叫ぶ宝来と幡木。

ガラッと窓を開けて、僕も叫ぶ。


「帰れっ‼︎」


頼むから勉強させてくれ。


「へぇ、餅つきか。実は俺、やった事ないんだよね」


僕の横にいる榊原さんがそう呟くと、都合のいい時だけ地獄耳の会長は、キランと目を光らせ、


「ほらほら‼︎そこなる御仁もそう言っているぞ、少年‼︎賛成が多数決で過半数を超えたぞ‼︎君に断る権利はない‼︎」


「…………」


多数決だったら、榊原さんが味方でも僕の負けだろうが。


「さあさあ家主の許可が出たぞ‼︎宝来少年、家の鍵を開け給へ。私が許そう」


「はーい!」


宝来は合鍵を持っている。

一応、最近だが、家主の許可が出ない限り使用してはいけない、というルールは設けたが。

都合よく解釈した彼等は、僕の家に侵入してきた。

僕は初めて榊原さんを射殺さんばかりに、睨みつけた。


「………………ごめん」


謝ったって遅い。


ドタドタと、階段を駆け上がって来る複数の足音が近づいてくる。



平穏な正月終了のお知らせである。





庭で羽根つきをやり、顔や服を墨で汚された。

勉強づけの受験生の僕は、元気の有り余る奴らには勝てなかった。


そのままの流れで、庭にレジャーシートを敷き、書き初めを始めた会長。


"寛仁大度かんじんたいど "

※心が広く情け深く、度量の大きいこと。


テーマは四字熟語、らしい。


「私のことだ‼︎」


ドヤァ、とドヤ顔で胸を張る会長。

僕はすかさず切り返す。


「寝言は寝て言え」


「なんて読むんですか?全然分かりません‼︎」


「俺も書く‼︎」


「後輩達が冷たい‼︎」


筆を取り落とし嘆く会長。

そんな会長は放置だ。

幡木や宝来も書き初めに心が行っている為、気にも止めない。


幡木が書いたのは、


"一期一会いちごいちえ"

※一生に一度会うこと。また一生に一度かぎりであること。


「……なんでこれにした?」


「これしか知りません‼︎」


「…………」


四字熟語を知っていた事に安心すべきか、高校生でこの知識量かと呆れるべきか、悩みどころだ。


宝来は、


"全国制覇‼︎"


もうしただろ。留年すんのか?


僕は、もちろん


"平穏無事"

※変わったこともなく穏やかなさま。

今年こそは、という願望だ。


意外にも参加した榊原さんは、


"一攫千金"

※一度に、しかもたやすく大きな利益を得ること。


「…………」


「大学生の一人暮らしは厳しいんだよ‼︎」


切実な願いだった。



そして本命の餅つきが始まった。

リビングで。


直径約30センチのミニ臼と杵。どうやって持ってきたのかと思えば、玄関先には台車があり、それに臼と杵、大きめのボストンバッグが乗っていた。

正月道具を自宅から台車で運んだらしい。

遊ぶのには全力な会長である。

そのやる気を別のところに向けてほしいものだ。


「さて、少年。準備は良いか?」


「はいはい」


外で遊んでいる間に炊いたもち米を臼の中に入れ、ボウルに水を入れ、餅つきの準備ができた。もち米も会長からの持ち込みである。


「よしでは少年は水の係りだ。つくのは私達でやろう」


もはや何も言うまいと、僕は臼の横にしゃがみ、スタンバイする。


「では新年一発目‼︎ヨッコラセ‼︎」


ぺたん。


「二発目‼︎ていやぁ!」


ぺたん。


「はいそこで水‼︎」


僕は手に水をつけ、もち米をひっくり返そうと手を出した。


「死ねぇぇぇ‼︎」


「うわぁ!」


瞬間、杵を振り下ろした会長。

間一髪、なんとか手を引っ込めた僕。


「…何するんですか」


ジト目で会長に問う。


「餅つきとは、るか、られるかの勝負なのだ!油断するなよ少年。喜べ私との一騎打ちだ」


杵が圧倒的に有利な勝負である。

手をつかれそうにな状況で、誰が喜べるんだ。


「ああ、忘れていたよ。あけましておめでとう」


「…どんなタイミングで挨拶してんですか」


突然何を言い出すのかと思えば、ただの新年の挨拶。しかし今言う意味が全く分からない。


「そうだったんですね‼︎私も頑張ります‼︎」


「俺も俺も‼︎」


「…………」


冗談も分からない馬鹿共の、何故か上がったやる気とテンションにうんざりしながら、僕はゆっくりと榊原さんを見る。


「いや、流石に俺はそんなことしないよ?」


とりあえず、一人は常識人がいた事を喜ぶ事にしようか。




そんなこんなで、"僕だけが"危険な餅つきが終了し、つきたての餅を食べ始めた僕達。

きな粉、砂糖醤油、チーズと又も会長持ち込みの調味料がテーブルに並び、先程までとは打って変わって大人しく静かに食べ始めた宝来達。





会長と幡木が2人で調味料を混ぜてゲテモノ餅を作っているのを横目に、餅を摘みつつ宝来に何気なく聞いてみる。


「お前、進路はどうするんだ?大学は決まってるのか?お前なら多分、バスケで推薦もらえるだろう」


決して心配している訳ではない。同じ大学を目指されるのが嫌な為、進路先を知っておく必要があるからだ。


しかし、宝来から返ってきた答えは、予想外のものだった。


「俺、大学行かないよ」


「…………は?」


聞いていたのだろう、全員の目が宝来を向いた。


「お前、今、なんて言った……?」


思わず、聞き返す僕。


「俺、大学には行かない」

宝来彼方突然の告白。

ここから卒業まで突っ走って行きたいと思います(できればだけれども)


ですが、グタグタ話も混ぜていくかもです。


それでは次回もどうぞよろしくお願いします。




今回は後書きにですが、

オマケ


「いやぁ、少年が素直に私達を入れてくれて良かった‼︎」


「勝手に入ってきたんでしょう」


「入れてくれなかったら、私のコンパス(特殊)が火をふくところだったぜ!」


「…………」


「ああ、吹くのは隙間風くらいかな!アッハッハッハ!」


「……………………」


いつか警察に突き出してやる。



補足。


因みに、人の家の前でいくら奇行を行なっていても、宝来がいるだけでそれはただのおふざけに変わる。

近所の人が通ったとしても、


「あら、彼方君。何してるの?」


「佐藤を遊びに誘ってるんだ‼︎」


「そうなのね。頑張って」


くらいの軽さで会話が終わる。

宝来はバカだが、孫に欲しいと奥様方にも人気なのだ。

やっぱり皆、息子にはいらないんだな、と思ったが、口には出さなかった。

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