139話 来世は猫になりたい。
ゆっる〜い話になってる……と思われます。
年末のお話。
更新一日遅れたのが悔やまれる……。
12月31日 大晦日。
今日は初めてリビングに用意したコタツで、ゆっくりのんびり過ごすと決めていたんだ。
今日だけは受験勉強を忘れて、読みかけの本を読んで、ぬくぬくしながら、年越し蕎麦を食べて、年末特番を見て夜更かしして、いつの間にか寝落ちしてて、朝起きたら初詣に行って、そんな平和な一日を思い描いていたんだ。
そう、心の中では……。
僕は一人、キッチンに立っていた。
機嫌は、とてもいいとは言えない。
「………はぁ」
現在時刻は朝の6時。
僕がこんな時間からキッチンに立つハメになったのは、自分の不用意な発言からでもある。
だが、僕だけが悪いわけではない。いや、元々僕が悪いわけではないのだが、こうなったのも自分の所為と言えなくもないので、仕方なく予定を変更。
早起きし冷え切ったキッチンに一人立つ事になった。
僕は、制服を着ている時にしかつけないエプロンを身につけ、視線を調理台へとずらす。
目の前には昨日揃えられた、大凡一人で調理する量ではない食材の数々。これの他に肉やら魚やらの保冷の必要な食材が、冷蔵庫を埋め尽くしている。
これを僕一人で調理しろと言うのだから、買ってきた奴らを食材として調理してやりたい気持ちでいっぱいだ。
ストンッ!
僕は無表情で食材を切り落とし、下処理をしながら、昨日の自分の発言を後悔した。
12月30日 昼過ぎ。
「勝ったぞっ‼︎」
「……はぁ?」
いつもの如く、ノックも何もなしに僕の部屋のドアを開け放った宝来は、唐突にそう叫んだ。
本に没頭していた僕は反応が遅れた。というか、聞いてなかった。
「3連覇だよ‼︎」
「あー、オメデトウ」
一言そう告げ、一度宝来に向けた視線を本に戻し、続きを読む。今いいところなんだよ。邪魔しないでくれ。
「だから、祝勝会開いて‼︎」
お前祝勝会好きね。この間意味の分からない祝勝会やったばっかでしょうよ。
飽きもせずよくやるわ。
……………ん?
「……いま、なんて言った?」
「祝勝会、開いて‼︎」
笑顔でそう言い放つ宝来には、一切の疑問もないようだ。
「……僕がか?」
「だって俊とかもバスケ部じゃんかよ!祝われる側だぞ!」
「……いや、確かにそうだが、そういうのは僕じゃなく親にでも頼め」
正論だが、僕に頼むのは正しくないからな?
何回でも言うぞ。自分の親に頼め。
「佐藤の飯が一番美味い‼︎」
「そう言われたからって僕が動くと思うなよ」
「母さんの飯は美味いけど、パーティー料理は苦手なんだってよ‼︎だから頼む!」
「断る」
そんな事は知ってる。何年の付き合いだと思ってる。他の水城とか金見とか新井山とか岬とかの親にも頼めと言っている。
天下のバスケ部様だ。部員は多い。選択肢は山程あるだろう。
「俺は‼︎お前の料理で、お前とも一緒に祝いたいんだよ!」
「…………」
バスケ部には一切関わりのない僕を毎回巻き込むのをなんとかしてほしい。
こいつは恐らく、僕が頷くまで帰らないだろう。
「なあ頼む‼︎」
「……はぁ。わかった」
必死の形相で、頼む宝来に僕は仕方なく首を縦に振った。
宝来はパッと顔を輝かせ、僕に詰め寄り肩を掴む。
「ほんとか⁈いまいいって言ったよな‼︎じゃあたの「ただし‼︎」
勢いのまま言いたい事だけ言って帰ろうとするであろう宝来の言葉を遮り、僕は条件を口にした。
「作って欲しいもの、それに必要な食材、それらはお前達で全部揃えろ。買い出しについては僕は何もしない。ある食材で、できる物しか作らない。分かったら帰れ。今日の夜8時までに持って来なかったら作らないからな。ほらさっさと帰れ」
とにかく帰れ。僕は本の続きが読みたい。
「わかった!食材持ってきたら作ってくれるんだな‼︎待ってろよ‼︎」
捨てゼリフとも取れるセリフを残し、宝来は走り去った。
「ふぅ」
これでゆっくり本が読める。仕方ないから作ってやるが、今日くらいは本を読ませてくれ。
この日の夕方。僕はこの時の発言を死ぬほど後悔した。
ドサドサドサッ。
「頼んだぞ佐藤‼︎」
「……………」
「なんか、ごめんね…?」
「…そう思うなら、少しは止めろ」
笑顔で言うな水城。
いつも笑顔だからって許されると思うなよ。
「最後くらい、わがまま言っても許されるだろ‼︎」
「岬、お前は宝来よりは賢いと思ったんだが、間違いだったみたいだな」
「ローストチキン」
「お前はさり気なくリクエストしてくるな。というか、鶏丸々1羽なんてどこで買って来たんだ…」
鶏1羽を僕に差し出しながら、希望を口にする新井山。
「じゃ、頼んだよ佐藤君」
お前も笑ってんじゃねぇ。全員まとめてぶっ飛ばすぞ。
そして、今に至る。
「……よしっ」
約一時間かけて下処理を終えた僕は、洗った手を拭いながら渡されたリクエストメモをポケットから取り出す。
・フライドポテト(手作り希望)
・唐揚げ
・ローストチキン
・ピザ
・3段ケーキ‼︎
クリスマスか‼︎
いや、祝勝会の料理なんてそんな物ではあるが……。
眉を顰めながら、下に視線をずらす。
・年越しだし、手打ち蕎麦なんてどうかな?
メモのくせに僕に意見するな。
そしてさり気なく面倒なリクエストをしてくるな。
多少イラつきをかんじながら、更に下に視線をずらす。
・ついでに雑煮も頼もうか。
うるさい黙れ。
メモで会話するんじゃねぇ。
というかお前ら、また泊まるつもりか……?
メモを破り捨てなかった僕は、すっごく優しいだろ?なぁ?(自棄)
*一緒に初詣に行こう‼︎
そんなリクエストは受け付けてない。
最後に書かれていた一言に、僕はメモを握り潰した。
ゴミになったメモをゴミ箱に投げ捨て、食材に向き合う。
「…………」
リクエストされた料理を作っても、確実に食材が余る。
というか、魚買ってきたくせに、リクエスト全部肉じゃねぇかよ‼︎
なんだ?魚で3段ケーキでも作ってやろうか?あ?
もう一度言う。
今日の僕は、機嫌がとてもいいとは言えない状態である。
心の中で毒づきながら、僕は一人大量の食材と格闘し、調理を進めていった。
そして、その日の昼過ぎ。
「わぁ、すごいね。一人で作ったの?」
心底驚いた、といった表情で、テーブルに並べた料理を見る水城。
僕はただただ、殺意が湧いた。
作らせた、の間違いだろう?
「「うまそう‼︎」」
テーブルに顔を寄せ、今にも手を出しそうな宝来と岬。
「買って来た俺達が言うのもなんだけど、よくこんなに作ったね」
こいつにも殺意が湧いた。
僕が作った物は、
フライドポテト(手作り)
唐揚げ
ローストチキン
ピザ
カルパッチョ
シーフードパエリア
簡単チーズフォンデュ
年越し蕎麦(手打ち麺)
お雑煮(関東風と島根の小豆雑煮)
そして、
「け、ケーキだぁぁ‼︎」
「しかも3段‼︎」
「おまけに、ネコ型……!」
僕は時間の許す限り、無心で作り続けた。
最後には苺と生クリームだけを使った、3段デコレーションショートケーキ。デザインはネコだ。
僕は一日限りの休憩なしフルタイム勤務を終え、ソファに沈んでいた。
「………もう好きに食べててくれ」
「ダメだ‼︎俺はお前に祝ってほしいんだ!」
「祝いは食べ物じゃ、ダメなのか……」
宝来に腕を掴まれ、料理の並ぶテーブルまで引っ張っていかれ、立ったままジュースの注がれたグラスを渡される。(品数が多い為、テーブルを2つ繋げ、立食形式)。
頼む、せめて座らせてくれ……。
しかし宝来は僕の疲労など、意にも介さず音頭をとる。
「じゃあ、俺達のウィンターカップ3連覇を祝して‼︎」
皆がグラスを上に掲げる。
僕も震える腕をなんとかあげる。
『カンパーーイ‼︎‼︎』
キィーンとグラスを打ち付けた瞬間、
「あ……」
「…………あらら」
僕の手からグラスが滑り落ちた。
割れはしなかったが、床に広がったジュースを見つめ、僕は皆に向き直り一言呟いた。
「…………召し上がれ」
ただ疲れていたのだと、僕は言い訳しよう。
『ごちそうさま』
綺麗になくなった料理を前に、僕は薄く笑った。
片付けも、僕がやるのか……。
「佐藤!晩飯も楽しみにしてるな‼︎」
そうか…。
夕飯も、僕が作るのか……。
「そんで、年が明けたら初詣行こう‼︎」
頼む。
わざわざ用意したんだ。
「そんでそんで、帰ってきたらオールでトランプでもやろうぜ‼︎」
高校生活の最後の年くらい、少しは平穏な年末を望んでもいいはずだろう…?
「そんで、朝はおせちなっ‼︎」
頼むから少しくらい、そこのコタツで休ませてくれっ‼︎
僕は年末早々…いや年始早々、か?
まあ、どっちでもいいか…。
ブラック企業さながらの、28時間労働を強いられた。
明けましておめでとうございます。
佐藤君達の最後を考えないとな、と思いつつ、会長の話が頭に浮かぶ今日この頃。
会長の話、なんか人気なんですよねぇ……(気のせいかな?)
次は会長の入学から卒業までの話でも書こうかなぁ。この話みたいに季節は追えないけども…。
そんな話、需要あります……?
という訳で(どういう訳だ?)、次回もどうぞよろしくお願い致します。