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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
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138話 クリスマスパーティーは楽しいとは限らない

メ、メリークリスマス……。

遅れましたが、クリスマスの話です。


12月25日 クリスマス

その日の朝、僕は新聞を取りにポストに向かった。寒さに腕をさすりながら、サンダルを引っ掛け外に出た。吐く息は白く、さっさと取って中に戻ろうと、足を早めた。


カパッ、とポストを開いた瞬間、白い封筒がヒラヒラと不規則に空中を浮遊し、静かに地面に落ちた。明らかに新聞ではない。新聞はまだ、ポストの中に収まっている。


「…………」


僕は地面に落ちたそれを怪訝な表情で見下ろし、仕方なく拾う。裏返してみると、表面には"招 待 状 ♡"と腹の立つ事にハート付きで書いてあった。


「………………」


開こうかどうしようか迷ったが、とりあえず置いておいて、ポストから本来の目的である新聞を取った。その時、


「それを読まなければ、君に不幸が訪れます」


ポストの投函口から目を覗かせた会長がそこにいた。


「…………何、してるんですか?こんな朝早くに」


現在の時刻は朝6時。もう冬休みに入ったが、大会やら練習やらで宝来達がいないこの数日間を無駄にする訳にはいかない僕は、遅寝早起き週間に入っている。寝不足?そんなものは受験生にはつきものだろう。


「君への招待状を持って来た」


「僕が言ってるのは、何故そんな所から顔を覗かせているのか、ということです」


両側からポストの中に話しかけている、周りから見たら、なんともシュールな光景である。早朝な為、誰もいないのが幸いだろう。


「いくら知り合いといえど、早朝にお宅を訪問するのはよくなかろうよ。こんな時間にインターホンを鳴らす、なんて非常識な事、私はせんよ」


「……玄関どころか、直接人の部屋の窓を叩く人が常識を語らないで下さい」


そちらの方がよっぽど非常識である。人様の家の屋根に登って、不法侵入紛いの事をしようとする人が何を言う。

早朝にお宅訪問、の方が玄関から来る分よっぽど常識的である。


「そんな事はいいんだよ少年!早くその招待状を開き給えよ」


「…嫌だと言ったら?」


「ピンポンダッシュ1ヶ月の刑だ!」


地味に不快な嫌がらせである。

1ヶ月も毎日ピンポンダッシュなんてする暇があるのか……。


やっぱり大学生このひとって暇なのか?


僕はため息と共に、渋々招待状を開く。


『皇凰羅主催 クリスマスパーティーのお知らせ。


サンタクロースの存在を信じる事を忘れてしまった少年少女達よ。今一度、サンタクロースにチャンスをあげてほしい。彼にも色々あるんだ。第一、サンタクロースは外国のお方。日本に来るはずがないのだ。だから、いないと決めつけるのはまだ早い。

そこでこの私、皇凰羅は聖夜の夜にパーティーを開催する事を決めた。

開催場所は、我が母校逢真高校の生徒会室。

参加者の皆々様には、羞恥心を家に捨て置いてから会場へと足を運んでほしい。


日時【12月25日13時〜18時】

場所【逢真高校生徒会室】

持ち物 【クリスマスに相応しい食べ物を一品(お菓子、ケーキも可だ。むしろ大歓迎だ!)手作り、既製品は問わない】


奮って参加してくれ給え‼︎』



……僕はどこにツッコめばいい?

聖夜の"夜"じゃないじゃないか、とか前半のサンタクロース存在説を書いた意味は、とか、言いたい事は山程ある。


「…………」


「私は生徒会室にサンタクロースを召喚しようと思うのだが、楽しそうだとは思わないか?」


思いません。全くもって意味が分かりません。

というか、召喚ってなんだ?


「もちろん、少年も参加するよな」


疑問符をつけて頂きたい。

決めつけ、よくない。

速やかにお断りを入れようかとした僕だが、


「来なければ君の部屋の窓に綺麗な円が描かれることだろう。冬の隙間風は寒そうだ。私も出入りが自由にできるようになるな!」


その言葉にピタリと止まった。


何が"参加は自由"だ。

強制の間違いだろう。


僕は理解した。

会長は、この数日の間にガラスカッターを購入した事を……。


無駄な知識を与えてしまった自分の発言を、今更後悔する。


「それでは私は準備があるから一度家に帰るとするさ!少年も集合時間に遅れるなよ‼︎フハハハハハ‼︎」


クリスマス当日。

サンタクロースは僕に不幸をプレゼントしに来たようだ。


果たし状だろうか、という見た目の不幸の手紙にも等しい招待状を持ったまま、僕は暫く立ち尽くした。



「クシュンッ」


当然の事ながら、そんなに外に長居するつもりもなく薄着で出た僕の体は冷え切っていた。


今すぐ風邪でもひけないだろうか…。可能であれば今日だけ高熱が出てくれると嬉しい。


僕はそんな叶わぬ希望を心の隅に追いやり、仕方なく出かける準備を始めた。








開始時間の5分程前に会場である生徒会室に着いてしまった僕は、右手に下げた紙袋を見下ろした。


「……僕は何を律儀に持ってきてるんだか」


自分の真面目さ、というのだろうか…。

とりあえずそんな感じのものに、ため息を吐いた。

僕が持ってきたのは、"クリスマスパーティーらしく"の言葉に従った訳ではないが、唐揚げにフライドポテト、あとはもらったホールケーキだ。

手ぶらで行ったら何を言われるか分からない為、仕方なく、あくまでも仕方なく作ったのだ。


「……ハァ」


僕は仕方なく、本当に嫌だが、生徒会室のドアを開けた。


「わぁ!これかわいいです!でもちょっと寒いです‼︎」


「…………」


「我慢だ後輩くん!可愛いに犠牲はつきものなのだよ!」


僕は静かにドアを閉めた。


「ハァ……。やっぱり来るんじゃなかった」


そのまま踵を返した僕だが、背後から赤い腕に左腕を掴まれ歩みを止める。


「待ち給えよ少年。どこへ行こうと言うんだい?折角来たんだ。楽しんでいき給え」


「いえ、今すぐ帰ります。頭のおかしな方々とパーティー出来るほど、僕の精神は強くありません」


「何を言う!とても可愛い美少女二人に囲まれて嬉しいだろう!健全な男子高校生よ‼︎」


「いや、もう健全じゃなくていいんで帰らせてくれませんか?」


「いやいや、君がいないとパーティーが始められないんだ。入り給えよ、少年」


帰宅することは叶わなかった。走って逃げる事は出来ただろうが、逃げる為だけに、ホールのケーキをダメにするのは許せなかった。貧乏性な自分が憎い。


部屋の中に連れ込まれた僕は、持っていた紙袋を会長に持っていかれ、その代わりに何かが入った袋を渡された。


「さあ、君もこれに着替えてくれ給え」


「…………嫌ですけど?」


渡された袋の中には、赤と白の服。所謂サンタクロース衣装だ。

目の前にいる会長と、奥の方で僕の持ってきた唐揚げを勝手に摘んでいる幡木も、サンタクロース衣装を着ている。しかし、


「君も私達と同じサンタ衣装を着て、私達と同じ気持ちでパーティーを始めようじゃないか!」


「だから嫌ですけど」


目の前にいる二人の服は、ビキニにミニスカートタイプ。へそ出し足出しの露出の多いサンタ衣装である。

それと"同じ"衣装を渡されて、頷く男子高校生は一人もいないだろう。


「先輩先輩‼︎先輩が着てもきっと可愛いですよ!なんでしたっけ、あれ!グルシードとかいうのやってたじゃないですか!」


「…………」


なんだお前。自分が可愛いとでも思ってるのか?そんな貧相な……、この先は言わないでおいてやろう。

というか、グルシードってなんだ?聞いたこともない単語だぞ。グリシーヌの間違いだろ。


「健全な男子高校生ならば腹をくくれ。男らしくそれを着てパーティーに参加し給えよ」


「健全な男子高校生ならば、こんなものは着ません。男らしくと言うのであれば、せめて普通の衣装を寄越して下さい」


男にビキニ&スカートの服を渡す奴がいるか。


「もう!少年はわがままだなぁ。だが私は知っているぞ。この後君はこう言うんだ。『そ、そんなに言うなら仕方ないですね…。着ればいいんでしょ!着れば‼︎』と。私にかかれば、脳内再生余裕だ!……さんはい‼︎」


「誰が言うか!」


人で変な妄想しないで頂きたい。

何が、さんはいだ。


「分かった。私が折れよう。……せめて今のセリフを生で聞かせてくれ‼︎そしたら普通の衣装を渡す」


「……嫌、ですけど」


どこも折れてねぇよ。

サンタコスをするのは決定事項なのか?

もう衣装自体を下げろよ。


「くぅぅ‼︎これでは私の、サンタクロース召喚計画が台無しにっ……‼︎」


召喚って、参加者にコスプレさせるだけかよ……。というか、


「……参加者は、これだけですか?」


いるのは、会長、幡木、僕の三人だけだ。

僕の問いに会長は


「元生徒会メンバーや、現生徒会メンバー、元クラスメイト等、懐かしの面々も呼んだのだが、皆都合が悪くてな。断られてしまった。仕方がないんだ…」


僕にも断る権利を下さい。

何故他の人の時はそんなに潔いんですか。もっと粘れよ。それこそ、家の屋根やら窓やらに張り付いてでも参加させろよ。


「だから私のSNSで、断った皆の面白写真やら動画やらを流した。中々の反応が得られているぞ。これがバズる、というやつか。ほらほら見てくれ給えよ。皆人気者だなぁ!アッハッハッハ‼︎」


………………来て、よかった。

今僕は、心の底からそう思った。ケーキの為とはいえ、走って逃げなくて、本当に良かった。


向けられたスマホの画面には、会長のアカウントなのだろう、生徒会長腕章のアイコンから投稿された複数の画像や動画。どこかで見た事がある顔がちらほらといるその投稿の閲覧数がエグい事になっていた。


会長は一言、こう書いて投稿している。


"今日はクリスマスパーティー‼︎

参加できなかった友人達へ、ささやかなクリスマスプレゼントだ‼︎

拡散希望。"


「愛しの生徒会室にサンタクロースを30人召喚する計画は皆の所為で叶わなかった。だから、せめて君には着てほしい‼︎」


スマホをチラつかせながら言うセリフではない。

断ったら、どんなものをネットに投下されるのか、聞いても良いですか?




僕は渋々、サンタクロースの衣装に着替えた。




「さあ!サンタクロースが3人になったところで、パーティーを始めよう‼︎」


会長が高らかにそう叫んだ時、


〜〜♪


スマホが鳴った。

着信音は、何かのアニメの歌だろうか?

絶対に会長の物だ。

予想通り、会長は短いスカートのポケットからスマホを取り出し、耳に当てた。


「何かな?薄情者の元副会長殿」


相手は元生徒会副会長の相模郁人らしい。


「私は後輩くん達と楽しくパーティー中だ。参加しない奴が邪魔をしないでくれないかな」


相手の声は聞こえない為、会長と何を話しているのかは分からない。

だが、楽しくパーティー等していないとだけ訂正させて頂きたい。


「ん?電話じゃダメなのか?……ふむ、わかった。では今すぐラインを開こう」


そう言うと会長は通話を切り、スマホを操作した。ラインを開いたのだろう。数秒後、そのスマホがピコピコと鳴る。恐らくはその副会長からいくつかの通知があったようだ。


「…………なっ⁈」


それを見て会長は目を見開き、スマホを持つ手が震え始める。その間もスマホは通知を告げる。


「…………どうしました?」


我関せずと、菓子やらをつまむ幡木をよそに、一応は聞いた方が良いのだろうと、僕は会長に尋ねる。


「こ、後輩君……。これを見てくれっ!」


そう言いスマホを目の前に突きつけてきた会長。


13:12

今、あなたの家の前にいるの。

13:14

今、あなたの部屋の前にいるの。

13:18

今、あなたの大事な物たちの前にいるの。


写真付きで送られてくるそのメッセージ。

1枚目は、会長の家なのであろう写真。

2枚目は、会長の部屋のドアの写真。アニメのポスター等が貼られている事から、それは確実だ。

3枚目は、会長の部屋の中のアニメのDVDやらフィギュアやらグッズが大量に仕舞われたクローゼットの中の写真。


ピコン


そして、僕が見ている今送られて来たのは、


13:21

今、手が滑ったら全部灰になっちゃうの。


4枚目の写真は、3枚目の写真と同じアングルで、しかしカメラの近くに火のついたライターを翳した写真だった。


「…………あの、これ大丈夫なんですか?」


その4枚目の写真を見た僕は、スマホを指差しながら、会長に聞く。すると会長は首を傾げ、僕の眼前から自分の方にスマホを戻した。


「部屋に入られるくらいなんてこと…、ギャーーー‼︎」


4枚目の写真を目にしたであろう会長は奇声をあげ、慌てた様子でスマホに指を滑らせる。

以下、会話を抜粋。(※会長の背後から会話を見てた。会長は特に気にしていない様子だった、とだけ言っておく)


〈貴様、何をする‼︎〉


《それはこっちのセリフだ》


《勝手に人が写ってる写真やら動画やらをSNSにあげやがって》


〈クリスマスパーティーに来ない君達が悪い‼︎〉


《何でアンタの都合に合わせなきゃいけないんだ。第一、卒業後までアンタに会いたい奴、そうそういる訳ないだろ》


〈冷たい!冷たいぞ副会長殿‼︎そんなに私が嫌いか‼︎〉


《何を当然の事を》


〈とか言って、本当は好きなんだろう?私の周りにはツンデレさんが多いなぁ‼︎可愛い奴らめ〉


《……今すぐ写真及び動画を削除して下さい》


〈ふふん。嫌だと言ったら?〉


《あなたの部屋の物は、全て消し炭です》


〈今すぐ帰るから待ってくださいお願いしますっ‼︎〉


会長は荷物を引っ掴んで、サンタコスのまま生徒会室を飛び出して行った。


「…………」


会長が走り去ったドアを暫く無言で見つめ、次いで幡木に視線を移す。


「ぷはぁ‼︎おいしいです‼︎」


テーブルに並んでいたお菓子やら料理やらが6割程減っていた。それでもまだケーキに手を伸ばす幡木。


「…………なあ、僕帰っていいか?」


「なんでですか?先輩、食べないんですか?」


僕はゆっくり首を横に振る。

今日は色んな意味で、もうお腹一杯だ。


「じゃ、じゃあ!これ全部私が食べていいんですか⁈」


「いいよ。だから帰っていいか?」


「いいですよ‼︎」


色気より食い気。

こんな物で釣れる簡単な後輩で、僕は嬉しいよ。だが、豪華な食事に限る。(今回はホールケーキ)


「じゃ、僕は着替えて帰るからな」


「あ、ちょっとまって下さい‼︎」


わたわたとポケットからスマホを取り出した幡木は、僕に向かって笑顔でこう言った。


「記念に一緒に写真撮って下さい‼︎サンタのまま‼︎」


「断る」


「クリスマスプレゼントだと思って‼︎」


「嫌だ」


「撮ってくれたら、先輩が卒業するまで放送室には行きません‼︎」


「…………本当か?」


「女ににごんはありません‼︎」


「…………」


力強く頷いた幡木を僕は怪訝な表情で見返し、めずらしく真剣な表情の幡木に、こちらが折れてやった。


「…………わかった。1枚だけな」


嬉しそうにカメラを起動する幡木。


「ほら先輩、よってよって!撮れないです!」


「……はぁ」


自撮りモードになっているカメラから目を逸らしつつ、仕方なく枠内には収まるように幡木に顔寄せる。


「はいチーズ‼︎」










帰宅後、夕飯の準備をしていた時、水城からラインが入った。


"佐藤君、どうしたの?"


「…なにがだ?」


疑問に思っていると、すぐに1枚の画像が送られてきた。


「……はぁ⁈」


その画像は、とあるSNSの一部分をスクショしたものだった。


"浮かれた先輩とクリスマス‼︎おいしかったです!"


そのコメントと共に、先程撮ってやった、幡木とのツーショット写真が載せられていた。

その写真は、動物の耳やら鼻やらがついて加工されていた。

ツーショットなだけに、側から見たら浮かれたカップルにも見えるだろう。


「…………あいつ」


"幡木さんとパーティーなんて…。しかもサンタの格好までして"


"疲れてるのか?何かあるなら相談にのるぞ"

"なにがどうなってる⁈"

"気でも触れたか?"

"似合ってるぞ‼︎"


次々と送られてくる、バスケ部共からのメッセージに、僕はスマホをギリギリと壊れるくらいに握りしめ、一言零す。


「…………アイツ、コロス」

この後、佐藤君はサンタクロースならぬサンタコロースになったのでした。


はい、と言うわけで、今回はクリスマスパーティーのお話でした。

書き終わってよかった……。

加筆したら、いつもより少し文字数多目になりました。楽しんで頂けたら幸いです。


今年中に、できればもう一話更新したいと思ってます。

それでは次回もどうぞよろしくお願いします!

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