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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
159/178

136話 祝勝会は混沌の中で

更新!

タイトル通り、祝勝会の話です。


「さてさて〜」


『………………』


「…………はぁ」


「俺こと、宝来彼方の留年回避を祝して‼︎」


僕達は、視線をテーブルへと落とし、宝来の方を見ないように努める。


「カンパーーイ‼︎」


宝来は、一人だけテンション高く、グラスを天高く掲げ、


バシャ。


「あ」


お決まりのごとく、正面に座っていた僕にコーラの雨を降らせた。

僕の頭から、床やテーブルにポタポタと滴り落ちるコーラ。


「………………」


頭を抱えた水城と、引きつった笑顔の金見。二人同時に座ったまま後退った新井山と岬。自身の持つグラスと僕とを交互に見る宝来。サッと顔を青くした宝来は、気まずそうにしながらも、しかし空気を読まずに続ける。


「ほ、ほら、お祝いだぞっ!笑顔、笑顔……」


「お前にとっての"お祝い"は、他人に飲み物を頭から被せることなんだな」


「いや、今のはその、、」


宝来に弁解させる気のない僕は、言葉を続ける。


「一般的な乾杯、という行為はグラスを触れ合わせることだと思ったんだが、違ったんだな」


「今のは、そ、そう!ふかこーりょく、というやつだ!」


「不可抗力なんて、よく知ってたな。もちろん、意味はちゃんと理解してるんだよな?再テストの国語で90点を取った宝来なら」


「え、あの、、その……」


僕から目を逸らし、だらだらと冷や汗を流す宝来は、返す言葉が見つからなかったのか、遂に静かになった。


「…ふん。着替えてくる」


そんな宝来を鼻で笑い、席を立つ。着替える、とは言ったが、コーラでベトベトなので、シャワーを浴びてくる予定だ。祝勝会でも少し早めのクリスマスパーティーでもなんでも、好きにやっていてくれ。






この祝勝会とやらを開くことになったのは、宝来のこの一言だった。


「祝ショー会しよう‼︎」


『は?』


「ほらほら、俺、今回のテストすっごく優秀だったから、赤点どころか、留年も回避できたわけじゃん?だから、祝って‼︎」


イラついたのは、きっと僕だけではないはずだ。

満面の笑みで、さも、自分の実力ですとでも言いたげなドヤ顔で、僕達に祝う事をと要求してくる宝来。

そんな宝来に、殺意を感じたのは、僕だけではないはずだ。


「な!な!いいだろう!少し早めのクリパも一緒にさ、パーっとおいわいしようぜっ!」


そんな宝来を、ブン殴りたくなったのは、きっと僕だけではないはずだ。

いつもはニコニコしている水城や金見、仕方ないな、とでも言いたげな表情で苦笑している岬と新井山も、表情がない。そんな僕達の様子にも気がつかずに一人、この後のパーティーの計画をつらつらと口にする宝来。


全員、宝来の空っぽな頭を一発ずつ殴り、涙目で頭を抱えて蹲った宝来を冷めた目で見下ろした。



だが、殴られた理由も理解していない宝来は、留年を回避できた!と、それだけが頭にあり興奮している為、祝え祝えと要求は止まらず、結局こちらが折れる形になった。

まぁ、いつも通りだな。

ただ、これだけは言わせてくれ。


お前は何に勝ったつもりだ、と。

お前は既に、コロコロ鉛筆に負けているぞ、と。


口に出したところで、宝来が首を傾げる未来は見えているので、口には出さないがな。







ゆっくりとシャワーを浴び、時間を稼ぐのについでに湯船にもつかり、30分程度の時間風呂に入っていた僕は、タオルを首にかけ、髪を軽く拭きながら、宝来達のいるリビングへと向かった。



「おそかったじゃんかぁ〜‼︎」


「⁈」


ドアを開けた瞬間、宝来が僕にしなだれかかってきた。くてん、と力なく、しかし体格がいい為その重さに僕が耐える事ができず、腰に宝来の腕が巻きついたまま、床に尻餅をついた。


「なにすんだよ」


「つれないことゆーなよぉ〜!おれとおまえのなかだろう」


「これはどういう、…」


僕の腰にしなだれかかり、まともに受け答えのできない宝来から水城達へと視線を移し、問いかけようとしたが、移した視線の先にあった光景に、言葉を失った。


「ん〜?なんだろうねぇ」


ニコニコといつも通りの笑みを崩さず、しかし仕草や口調がどこか子供っぽくなっている水城。コテンと首を傾げ、顎に人差し指を当てる。


「…………金見?」


「〜〜っっ‼︎」


その隣の金見に視線を移したが、肩をプルプルと震わせ、テーブルに顔を伏せ、バンバンとテーブルを叩いている。この状況に珍しく声もなく爆笑している金見。


「…………」


さらに視線を移す。


「うぅっうっ、おれだって、バカは卒業したんだぁ‼︎赤点だってとらなくなったし、バスケだってがんばってきたのに‼︎なのに誰も祝ってなんてくれなかったのにっ」


「にゃあ、にゃあ、にゃんこさん。泣かないで。よしよし。よしよし」


「………………」


新井山の膝に顔を埋め泣き叫んでいる岬と、その岬の頭を撫でながらも、何か違うものを見ているらしい新井山。

新井山、それはどう見ても猫じゃない。そんなにデカい猫はこの世に存在しないぞ。いるとしたら化け猫くらいだろ。


「…………おい、金見」


「ふっ、っな、なにかなっ?


笑い過ぎて呼吸もままならない金見は、僕の言葉になんとか返事をし、腹を抱えながら、顔を上げた。


「これはどういう状況かを説明しろ」


「ふー。いやぁね。祝えっていうから、家にあった貰い物の高価そうなチョコレートを持ってきたんだけど、食べたらこうなった。以上!」


なんとか息を整えた金見の、簡潔かつ分かりやすい説明に、しかし首を傾げる。


「本当にチョコ食っただけか?」


「うん!でもこのチョコ、ウィスキーボンボンだったみたい!」


それだけ答えると、また笑いがぶり返したのか、腹をおさえながら机に突っ伏した。

そんな使い物にならない金見に、僕はため息をこぼしつつ、テーブルの上に置いてある、先程まではなかったはずのお綺麗な箱に目をやる。


「…………ウィスキーボンボンな」


このカオスな状況は、揃いも揃ってアルコールに弱かった、というだけのことか。

腰に巻きつく宝来の腕を引き剥がし(騒がしかったが無視だ)、テーブルの上のその10数個程減っているその箱から、丸いチョコを一つ摘み、口に入れる。


「……強いな」


口に入れた瞬間広がるウィスキーの香り。パッケージはビリビリに破かれていて度数は分からないが、アルコールに弱い奴は酔うだろうな、という程に強い。

僕はもう一度、酔っているのだろう、不思議な行動を取っている宝来達を見る。


「…………」


アルコールに弱かった、というのもあるだろうが、このチョコのアルコール度数が強かった、というのもあるだろう。

僕はこの面倒な状況に、思わずため息を吐く。


「みんな可愛いよね。こんなんになっちゃってさ!」


楽しげに笑いながら、テンションの高い、僕とは正反対の反応をしている金見は、呑気にそんな無責任な事を言う。


「…お前が持ち込んだ物だろうが。どうすんだこいつら」


「ああ、安心して!」


何か解決策があるのか、自信満々に返事をした金見は、親指を立て、いつもとは違った裏のない満面の笑みで、こう言った。


「佐藤くんも可愛いよ‼︎」


こいつも酔っていたらしい。







僕は一人頭を抱えた。


「なぁなぁ、さとー!おれのことをもっとほめろ〜!そしていわえ〜!」


絡み酒の宝来。


「あのねぇ、ぼくねぇ、のどがかわいたなぁ。ジュースかなにかなぁい?」


幼児退行の水城。


「おれだって‼︎おれだってがんばってんだよっ‼︎なのになんでほかのやつばっかりっ‼︎」


泣き上戸の岬。


「にゃあにゃあ、げんきだして。ぼくがナデナデしてあげる。にゃあ」


幻覚症状をおこしている新井山。


「あははははっ!は、はらいたいっ」


笑い上戸の金見。


「………………」


僕にどうしろと言うんだ……。




その日は、酔っ払い共が騒ぎ疲れて眠るまで、僕は休む事を許されなかった。

当然、予定になかったが、5人を泊めることになった。



祝勝会?

クリスマスパーティー?


いいや、そんな可愛いもんじゃないな。

ただの酔いどれ集会だった。

祝勝会?いかがでしたでしょうか?

5人の将来が心配になる話でした。

きっと飲み会で酒を飲ませたらいけないリストの上位に食い込むであろう5人。

社会人になったときが楽しみですね…!


それでは、次回もどうぞよろしくお願い致します。

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