135話 ただの筆記用具に左右される愚かな人達
間に合わなかった……。
数十分過ぎてしまいましたが、なんとか更新。
相変わらず見直しもなにもしていないので、誤字脱字はご愛嬌ってところで…………許して下さい。
前代未聞の再テストの宝来の方は、水城達に任せて、僕はある人物がいるであろう場所まで足を運んでいた。
「…………お前はなにをやっている?」
予想通り放送室付近、というか放送室の前にいた幡木は、片膝を立て、ドアに耳をつけて、右手で鍵穴になにかを差し込んでいた。
側から見たら、ただの泥棒と変わらないのだが、中に入ってもあるのは放送機材くらいで、金目の物や持ち出せる物は殆どない。
僕は一瞬思考を止めたが、すぐに疑問を口にした。
「おぉっ、佐藤先輩じゃないですか‼︎手間が省けました‼︎」
「……なんの手間か、一応聞いてもいいか?」
「見てわかりませんか?そんなもの、このドアをこじ開ける手間ですよ!」
いつも通りのテンションで話しながらも、その体勢を崩さない幡木。耳はドアについたままで、右手は動き続けている。
顔を壁につけながら話すなんて、一応先輩に対して失礼だとは思わないのか?
「……今週は放送委員の仕事は休みだ。頼まれても開けないぞ」
「じゃあ別にいいです。私、自分で開けます」
僕のいる方とは反対側を向いて、その行為を再開する幡木。
「…………」
僕は無言でポケットからスマホを取り出し、カメラを起動する。
カシャッ、と一枚撮り終え、僕はその音にも見向きもしない幡木に再び問いかける。
「なぁ、幡木。一応聞くぞ」
「一応が多いですね!聞きたければ素直にそう言えばいいじゃないですか!」
「……お前は何をしようとしているんだ?」
最初の質問と同じだが、少しニュアンスを変えて聞く。すると幡木は、バッと顔を僕に向け(耳は壁についたまま)、何故か嬉しそうに笑顔で話し始めた。
「最近、"ぴっきんぐ"という技術を独学で学んでまして、つい先日、ほぼマスターしたところです!」
「…………ピッキング」
立派な犯罪行為だということを、誰かこいつに教えてやってくれ。
「家中のカギというカギを壊してしまって、それはもう怒られました!」
それはそうだろうな。
それで怒らない親がいる訳が、、
「やるならもっと上手くやりなさいって‼︎」
「そうじゃねぇ!」
子供が子供なら、親も親だな!
この親にしてこの子あり、というのを体現しているのだろう。
「お母さんは1冊の本を私にくれました」
そう言うと、やっと壁から耳を離した幡木は、制服のポケットから、文庫本サイズの薄い冊子を取り出した。幡木はそのタイトルを読み上げる。
「これであなたもピッキングマスター‼︎1日でできるカギ開け術‼︎」
「会った事も見た事もないが、お前の母親もろくな人間じゃないな」
明らかに手書きの10頁程しかない小冊子。
なんだそのタイトルは。
空き巣の手引書か何かか?
それとも、中二病を拗らせて冒険にでも出るつもりだったのか?
まあなんにせよ、ロクな物じゃないことは確かだ。
「人の親をけなすとは!なんて失礼な先輩なんでしょう‼︎」
「そんな犯罪を推奨するような冊子を寄越すのはまともな親じゃない」
憤る幡木に一息で切り捨てた僕。それに更に怒り言い返してくる幡木。
「にゃにおうっ⁈お母さんは悪い人じゃないですよ‼︎勉強は教えてくれないけど、赤点取らないで済むように京都でコロコロ鉛筆作ってきてくれたし!」
…ちょっと待て。
「教師にバレない居眠りの仕方とか、追いかけられた時に逃げ切る学校の裏道とか、テストのヤマのはりかたとか、効率のいい一夜漬けの方法とかも教えてくれました‼︎」
………………。
「それに加えて、私には諭吉さんがあります!諭吉さんさえあれば、私に怖いものなんてありません‼︎」
もう一度言おうか?
この親にしてこの子あり、とは正にこのことだな。
小動物を便利な物扱いするんじゃない。しかも、他人の家のペットだろうが。
猫好きの新井山がキレるぞ。
僕はため息を一つ吐き、ズレた話の軌道を修正する。
「まあ、お前の母親がお前にそっくりなのはよく分かった。それは置いておいて、宝来に鉛筆を貸した理由を言え」
そう問うと、キョトリと目をパチパチ瞬かせた後、
「そんなの簡単ですよ」
何故か笑った。
「ほーらい先輩が後輩である私に土下座してまでお願いしてくるから、私もお母さんにお願いしたんですよ」
「…………お願いした?何をだ?」
何故そこで母親が出てくる?僕は思わず聞き返した。それに幡木は唇を尖らせ、強めの口調で返してくる。
「だから、京都に行って新しく作ってもらってきたんです!あれは、ほーらい先輩の為に作ったものなのです。だから、返してくれなくて大丈夫ですよ‼︎」
宝来が馬鹿な所為で、他所様の家にまでとんだご迷惑を、と一瞬思ったが、幡木にかけられてきた迷惑に比べれば安いものだとも思えてしまうから不思議だ。
まあ、それでわざわざ京都まで行く幡木の母親もおかしいのだが……。
「お土産は、八つ橋でした!」
ただの観光の可能性も捨てきれないしな……。
「さて先輩。先輩の質問には答えました!だから、放送室を開けて下さい‼︎」
「それとこれとは話が別だ」
放送室を体全体で示し、僕に解錠を促す幡木。しかし僕が開けるはずがないだろう。
この学校の最高責任者である校長から、放送室に立ち入りが禁止されている、馬鹿な放送委員さんよ。
僕は教室へと戻る為、踵を返した。
「いいですよもう!私、自分で開けますから‼︎」
僕は教室へと向きかけていた足を、職員室へと変更した。
数十分後、担任の手によって、校長室に連行される幡木の目撃情報を耳にした。
職員室に幡木の報告と、ついでに宝来の高得点の仕組みについて話したところ、それでも再テストは実施されることとなった。
しかし、
「コロコロ鉛筆なんて、そんな子供騙しな」
と、半分馬鹿にしていた教師達。
そんな子供騙しが起きているから、あいつは高得点を取れたのだ、と説明したが、五井先生以外、取り合ってはくれなかった。
2日後、教師完全監視のもとでの宝来の再テストが施行された。
しかし、コロコロ鉛筆は筆記用具の為使っても違反ではないので、使用禁止にはならなかった。
解せぬ……。
結果はというと、前回と同様、平均点数82点という高得点を叩き出した。
ただ、コロコロ鉛筆の凄さを先生方に知らしめるだけの結果となった。
全教科、自分で考えることなく、ひたすらに鉛筆を転がし続けた宝来。それを見て先生方は困っただろう。苦虫を噛み潰したような表情をしていた。(僕達五人も同じ教室にて、無意味な監視のお手伝い)
何故なら、カンニングしている訳ではないから、注意のしようがないのだ。
その鉛筆は使ってはいけません、とも言えず、鉛筆を転がすな、とも言えない。
テスト中にコロコロ鉛筆を使ってはいけない、という決まりはないからだ。
しかも、ただの鉛筆だ。転がして、それで答えを記入したところで、何の問題もない。それで当たっても外れても、ただの運でしかないからだ。
後に先生方はこう語った。
「テスト中にコロコロ鉛筆の使用を禁止するか否かを本気で悩んだ、と」
前回に引き続き、コロコロ鉛筆スゲェっ!な話でした。
テストをクリアした彼方くん。
佐藤くんの注意を無視し、コロコロ鉛筆の使用を禁止にしなかった教師達は、その成績に文句を言うこともできず、渋々と成績表にその点数を書き込んだ。
と、言うわけで、あっさりと終わってしまいましたが、彼方くん留年回避です。
あとは、全く決まっていない進路の話になるかな……。
面白おかしくイベント系の話を書くかもですが、まぁ、次回もどうぞよろしくお願い致します。