134話 疑わしきは罰せよ、とはよく言ったものだ
遅くなりました……。
すみません。
カンニングの容疑がかかり、僕達の前に正座している宝来。
相変わらず、誰とも目を合わせようとしない。
「それで?この点数はどういう事かな?」
「………………」
正座でそっぽを向く宝来を見下ろしながら、静かに問う水城。
「すごいね。前までは赤点か赤点ギリギリだったのに、いきなりこの高得点」
「………………」
宝来の前にしゃがみ、答案用紙をヒラヒラと宝来の顔の横で振りながら、ニッコリと笑顔な金見。
さながら、事情聴取である。カツ丼どころか、お茶すらでないがな。
そんな金見や水城を視界に入れないように、俯く宝来。
「カンニングしたのか?」
「してないっ‼︎」
本題を切り込んだ僕の言葉に、勢いよく顔を上げ、被せ気味に断言する宝来。
「じゃあ、この点数を取れた理由は?」
「…………お、俺の、努力の結果…?」
へぇ〜?
努力か。努力なぁ…?
「どの口がほざきやがる。じゃあ、過去に何度もあったテストの点数はどういう事なんだ?平均点数30点前後の赤点野郎が、一気に平均点が50点も上がった理由は?カンニングじゃないならなんなんだ?」
「それは……」
上がった顔がまた下がる。
それに僕達は顔を見合わせ、肩を竦め、ため息を吐く。
そしてどうするかを宝来の目の前で堂々と話していると、やっとその重い口を開いた。
「………言わない約束なんだ」
「やっぱりカンニングか」
「違うって‼︎」
すぐ様疑われるカンニング。力強く否定する宝来。しかし、悲しいことに、その説が一番濃厚である。
「だから言えないんだよ!言っちゃダメなんだって‼︎」
「先生方にもカンニングを疑われてるけど、彼方はそれでいいの?」
「うっ、、」
「もしかしたら、そのせいで卒業できないかもよ?」
「うぅ、、」
誰なのか吐かせようと追い討ちをかけていく水城と金見。それにたじろぐ宝来。
「早く言わないと、"先生方の予想通りカンニングでした"って、報告してくるぞ」
「鉛筆借りたんだよっ‼︎」
僕の一言がトドメになったのだろう。宝来は簡単に口を割った。
しかし、筆記用具を人から借りただけで高得点が取れるものだろうか?
と、言いたいところだが、僕達には、その"鉛筆"に一つ覚えがある。
「……………お前、まさか」
後輩を頼ったのか……?
時間は、10日程前の放課後まで遡る。
その日はテスト週間で、部活動が休みの期間だった。
成績の優秀な者は、自主練をする事が可能だが、担任と監督の許可がいる。
そんな中、当然のごとく許可などおりるはずもない宝来と、その世話係の僕達は放課後、学校の図書室勉強会を始めるところだった。
しかし、
「ごめん。僕と俊はちょっと監督に呼ばれてるから、20分くらい遅れる」
「悪いな」
両手を合わせ頭を下げる水城と金見。
「悪りぃ‼︎俺達も今日用事があるんだよ‼︎」
「だから、今日は勉強会は4人でやってくれ」
そう言って、岬と新井山も慌ただしく退場した。
「…………」
「やるか‼︎」
宝来と二人きりになってしまった僕は、無駄に煩い宝来とは違い、無言で教科書とノートを開いた。
『放送委員の三年佐藤君。至急職員室まで来てください。顧問の先生よりお話があります』
タイミングを見計らったかのように、僕にも呼び出しがかかった。
「…………」
「行ってこいよ!俺なら一人で大丈夫だから!」
無言で宝来を睨むように見ると、どこからそんな自信がくるのか、自信満々に親指を立てた。
「…………大丈夫だと思ってたら、僕達は毎日集まっていないんだが?」
「だ、大丈夫だ!橙里と俊もすぐに帰ってくると思うし、待つくらい俺にもできる!」
「待ってないで勉強しろ」
待つだけなら犬にでもできるわ。
不安だけを残しつつ、僕は図書室を後にし、職員室へと向かった。
放送部を存続させるべきか否かと、顧問の無駄な話に付き合って30分。
なんとか話を切り上げて図書室に戻ると、水城と金見も戻っていた。
もちろん、宝来もいる。
何故かとてもご機嫌で、満面の笑みで。
…………とてつもなく不気味だ。
水城と金見に視線をやると、二人は首を横に振った。
二人も理由は分からないようだ。
「じゃあ、始めようか」
理由を追求する時間すらも無駄なので、サクサクと勉強を始めることにした。
この時、水城達が戻ってくるまでの約20分間、宝来は一人だった。
そう、"あいつ"に鉛筆を借りに行けたのは、この時の20分間くらいしかないのだ。
「……幡木のコロコロ鉛筆か?」
「…………」
「無言は肯定と取るぞ」
「…………」
つまりは、そういう事だ。
そう、テスト中、何かおかしいとは思っていた。だが、カンニング禁止な為(当然)確認する事は出来なかった。
テスト中、教室内のどこかからコロコロ、コロコロ、と何かを転がす音が聞こえてきていたのだ。全教科で、だ。
それがまさか、宝来だとは思いたくないだろう?
僕や金見や水城は、たかが鉛筆に負けそうなくらいの頭脳ということになる。
そう、今までの努力は全て無駄。
例えば、マークシート方式のテストならば、その鉛筆に全てを託せば満点を取ることだっで夢じゃないだろう。普通に勉強ができる者からしたら、念押しで確認する為の道具にもなる。
そんな禁断のコロコロ鉛筆を、情けない事に後輩に頭を下げて(土下座)までして借りてきたらしい宝来。赤点を取りたくないのは分かる。僕達だって、それだけを望んで馬鹿な頭に無駄とも思える、どうせすぐに忘れるであろう知識を詰め込んでやっているんだ。
そんな僕達の努力、苦労、心労全てを、宝来は鉛筆一本で無に帰したわけだ。
高得点のカラクリは、ただの鉛筆。たかが鉛筆。
だがそれには、不思議な力がある。
マークシート方式のテストで、驚異の85%の正解率を誇る(検証済)それはさながら、
約束された赤点回避の鉛筆(エクス○リバー)
と言ったところだろうか?
それを、宝来はこの卒業がかかった重要なテストで使ったという。
「「「………………」」」
「………………あ、赤点回避したんだからいいだろっ‼︎」
無言に耐えきれなかったのか、逆ギレである。
「だいたいさ、赤点さえとらなきゃなんの問題もないじゃん‼︎俺達は大会も控えてるし、これで無事卒業できるんだから、万々歳じゃんか‼︎」
見事なまでの開き直り。
確かに、今までの赤点はチャラになった。
教師達の疑心と引きかえにな。
「なぁ、宝来」
「な、なんだよ‼︎」
僕が静かに語りかけると、宝来は吃りながらも強気な態度を崩さずに言い返してくる。
「僕は思うんだよ。"カンニング"っていうのは、警察に捕まらない、学生の最大の罪だって」
「俺カンニングなんかしてねぇもん!」
子供か、とツッこんでやりたかったが、そんな事は無駄だというのは、もう分かっている。
「カンニングってのは、疑われた時点でアウトだ。教師からの信頼もなにもなくなる。お前みたいな劣等生(赤点野郎)は特に、な」
「で、でも!カンニングはしてないっ‼︎」
「カンニングをしたかしてないかは、この際問題じゃない。お前が高得点を取った事が問題なんだ」
「うぐぅ…」
流石に自覚があるのか、何も言い返せない様子の宝来。
そんな中、僕のスマホが鳴った。
開いてみると、一通のメールが届いていた。
「…………宝来。お前に残念なお知らせがある。聞きたいか?」
そのメールを開き、僕は差出人と内容を読んで、宝来に視線を向ける事なく問いかける。
「なっ、なんだよ」
僕の淡々とした問いかけに、宝来は身構える。
「お前に、教師監視の下での再テストが決まった」
「…………へ?」
宝来への死刑宣告とも思える通達を、僕は口にした。
はい、今回も続きます。
そんなコロコロ鉛筆あったら欲しいなあ、とか思いながら書きました。
次回、再テスト+αの予定です。
掬ちゃんも出せたらいいなぁ…。
コロコロ鉛筆の確率を検証した話も書きたいな…。
まあ、何か書きます。次回もどうぞよろしくお願い致します。