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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
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133話 ぬか喜びという言葉の意味を思い知った瞬間

やっと、この話の最終章ともとれるお話に入ったかな、というところです。


短めですが、お楽しみ頂けますと幸いです。


「言い訳があれば、聞かない事もないが?」


サッと目を逸らした宝来。

宝来は今、僕"達"の目の前に正座している。


何故かというと、この間あった期末テストが返却されたからだ。僕達は三年生な為、実質、卒業試験な訳だ。


結果はというと、3年目にして初の、赤点回避を達成したのだ。


ここは諸手を挙げて喜ぶとこだと、今までの成績を思えば、単純にそう思うだろう?


僕達も、それ自体はとても喜ばしいことなのだ。しかも卒業試験ときた。

が、素直に喜ぶことができなかった。










「今からテストを返却するぞー」


ある日の午後。

授業が終わる少し前に、担任の五井先生は、やる気なさげに紙の束を取り出した。

この授業が終われば、そのまま帰宅なり、まだ引退していない奴らは部活なりに行けるが、このタイミングで返却するのはどうなのだろうか、と少し思わないでもない。朝のホームルームでテストが返却されることは分かっていたのだから。僕達にとっては生殺しの状態だった訳だ。殺すならさっさと殺せ、と一日中思っていた。

元凶の奴だけはいつも通り無駄に元気だったがな!


出席番号順に呼ばれ、返却されていく答案用紙。出席番号は五十音順なので、宝来は最後の方だ。金見、僕、新井山は手元に戻ってきた答案の点数を見ても、一息つく事ができない。

自分達の後に、問題児が控えているからだ。


「次、宝来」


「はい‼︎」


返事だけはいいんだ。返事だけは。

勢いよく返事をし、しっかりとした足取りで、自信ありげな表情で前へと歩いていく宝来。


僕は不思議で仕方がなかった。

今まで赤点を"取らなかった"ことがないのに、そんなに自信満々の表情でいられるのかが。

まぁ、全ては馬鹿だから、で解決するが……。


「宝来、お前……、」


「はい!なんすか?」


答案用紙と宝来の顔とを行ったり来たりし、物言いたげな表情で、口を開こうとしたが、しかし先生は、何も言わずに口を閉じた。

…なんだ?何かあるのか?僕達の不安を無駄に煽るのはやめてくれ。


「いや、俺からは…、何も言わないでおく」


「ありがとうございます!」


僕と水城、金見に軽く視線をやってから、宝来に答案用紙を返却した先生。宝来は席に戻るなり、点数だけを確認しているのか、サササッと、答案用紙を素早く捲る。そして、答案用紙を受け取り、席に戻る途中の水城に、満面の笑みで宝来はピースサインを送る。


「……え?」


もしかして、があったのだろうか…?

そのピースサインの意味が一瞬理解できずに、水城は椅子に座る寸前の中途半端な姿勢で固まる。


「……うそ、でしょ?」


「むふふふ!」


確認するかのように呆然と聞き返すと、宝来はドヤ顔で、不気味な笑いをもらす。


「…………っ‼︎」


一瞬の間の後に、水城は涙目で溢れんばかり笑みを浮かべた。

おい、お前のそんなに嬉しそうな顔初めて見たぞ。

金見も目頭を押さえて俯いている。

そうかそうか、泣くほど嬉しいか。

気にするな、僕も同じ気持ちだ。

担任の五井先生もさぞ嬉しかろうと、視線をずらした僕は、なんとも言えない表情をしている五井先生の表情に首を傾げた。



僕達の様子を見ていた五井先生の、その微妙な表情の意味を知るのは、この数十分後である。




ホームルームも終了し、僕達は宝来の机を囲んだ。

いつものように切迫した空気は、今日はない。

僕達5人、特に僕と水城と金見は、答案用紙を早く見せろと急かす。


「まあ待てって」


どこか余裕も感じられる宝来の様子に、僕達の期待は高まるばかりである。


「これが俺の実力だぁぁ‼︎」


バァンッ、と机に叩きつけられる答案用紙。僕達は各々、手近にあった答案用紙を手に取る。


そこに書いてあった点数を見て、僕達は固まった。


『え……?』


次の瞬間、僕達は顔を見合わせ輪になる。それぞれの答案用紙を見えるように中心に差し出し、また目を見開き固まる。


「うそ、でしょ?」


確認するかのように、水城は呟く。

しかし、表記されている数字は変わらない。


「……どうしてっ」


動揺しているのか、手を震えさせ、悲痛な面立ちで小さく叫ぶ金見。


「そんなっ」


眉を顰め、答案用紙を両手で握る岬。


「なにかの、間違いだ……」


天を仰ぐ新井山。


「……なんだ、この、点数」


柄にもなく声が震えた。




点数は、今までの赤点を取り消しにできるほどの高得点。


平均点数82点。


当然だが、赤点は、ない。


奇跡とも思えるこの点数。


喜ぶべきなのだろうが、素直に喜ぶことができない。

先生のあの微妙な表情も、今やっと理解した。


満面の笑み、というかドヤ顔で、褒められるのを今か今かと待っている宝来。






そんな宝来には、カンニングの容疑がかかった。

続きます。


彼方君の卒業がかかった、期末試験(卒業試験)が始まった。というか既に結果発表だけども。


彼方君はどうして高得点を取れたのか、次回明らかに。


というわけで、次回もどうぞよろしくお願い致します。

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