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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
154/178

132話 最後に勝つのは正義ではない2

これにて文化祭終了!

いやぁ、長かった(気がする)



更新遅れまして申し訳ありません。


体育館に乱入してきた名木野さんと坂本さんは、ステージに上がると、水城からマイクを奪い取ると、観客に向かって笑顔で問いかける。


「これからチェキ会ですが、舞台衣装だけというのはつまらなくないですか?」


ざわつく観客達。と、水城や金見、星宮といった察しの良い連中。


「これより、3-A、演劇部合同、女装チェキ会をはじめまーす‼︎」


その言葉を聞いた瞬間、湧く観客。そして、先程あげた察しの良い連中は、体育館の出入口に向かって走る。しかし、


「包囲‼︎」


坂本さんがそう叫ぶと、どこにいたのか、物陰から飛び出し、体育館の出入口を塞ぐクラスメイトの女子生徒達。よく見ると、その中には演劇部の女子もいた。

…僕の知らない間に、手回しが済んでいたようだ。


「……なんの冗談かな?」


「俺達、なんにも聞いてないんだけど」


警戒は解かず、逃走する隙を伺いながら、ステージ上にいる名木野さんと坂本さんに問う水城と金見。

それに対し、諦めたのかため息を吐きつつ、女子部員に手を引かれ舞台裏へと捌ける星宮。


「言ってないからね。それに、これは私達が考えた企画じゃないから」


「急に言うんだもん。期間が短かくて、衣装作るの大変だったんだから」


「それは悪かった」


僕が返事をすると、バッと水城、金見を始め、クラスメイトの男連中の視線が僕に刺さる。


「………佐藤君」


誰のものとも知れぬ声が、責めるように僕の名を呼ぶ。


「毎年僕にこんな格好をさせておいて、何か文句でもあるのか?」


僕はスカートの裾やリボンを指で摘みヒラヒラと振りながら、文句を言う連中に静かに問う。


「なぁ?僕は無理矢理こんなヒラッヒラの、凡そ男子高校生は着ないような服を着せられて、衆目の目に晒されて、オマケに、この姿を売られているんだぞ?」


「………………」


つい、と主謀者の水城と金見を見るが、サッと顔を背けられる。


「…他に、何か言いたいことのある奴はいるか?」


クラスメイトの皆は、一斉に肩を落とした。

僕は、何故かにっこりと笑顔で肩を叩き、親指を立ててきた坂本さんに首を傾げた。




『キャーーーー‼︎』


そんな時、体育館の裏、舞台袖と、複数名の黄色い悲鳴が聞こえてきた。

体育館にいた全員が、その声の方向に目をやると、


コツ、コツ、コツ…


と、ゆっくりと音を鳴らしながら、舞台の中央へと歩き、止まった。


「お客様をあまり待たせるものではないわよ」


そこには、赤いピンヒールを履き、白と赤のツートンカラーのマキシ丈の薔薇をモチーフにしているのであろうドレスを身に纏った、星宮だった。黒髪でウェーブのかかったロングウィッグを被り、化粧までバッチリだった。


「…………か、要?お前、どうしたんだ、その格好」


舞台上にいた宝来は、星宮の姿を見て目を見開き呆然と呟く。

お前、さっきの話聞いてなかったのか?

一人だけ女装と聞いても慌てる事も、逃げる事ももしないからおかしいと思ったんだが……。


「あら、"王子"!"リベルテ王子"じゃありませんか!」


「ぅえっ⁈」


口元に手をやり、驚いた表情の後、パチンと"可愛く"手を合わせ、嬉しそうに宝来に歩み寄る星宮。

わざわざ、"王子"の部分を強調し言うのだから、性格が悪い。演劇部の鬼部長は、劇が終わっているのにも関わらず、宝来に王子の演技を求めている。


「覚えていらっしゃいませんか?私です、ソフィです」


「う、あ、ええと……、えぇ?」


そいつに即興劇アドリブは無理だ。

寂しそうな表情でドレス姿の星宮に迫られ、宝来は困り顔で近くにいた僕に横目で助けを求めてくる。


「あら王子。衣装が汚れていますわよ」


「えっ⁈どこ⁈」


その言葉に宝来は飛びあがった。


「よければ、あちらで着替えてきて下さい。さあ、どうぞ」


青い顔で慌てて服の汚れを探す宝来など気にも止めず、星宮はメイド服姿の部員を使い、戸惑う宝来を舞台裏まで連れて行った。

一緒に坂本さんもはけたから、これで二人目か…。

そして、未だに逃走経路を探している水城と金見に向け、呟く。


「諦めろ」


数分後、クラスメイトの女子達に捕まり、舞台裏まで連行された二人。

他の男子連中は早々に諦めたというのに、往生際が悪いな。僕にはこんな格好させて笑っておいて、自分がやらされるのは嫌なのか。


はっ、ざまあみやがれ。









『キャーーーー‼︎』


本日二度目の黄色い悲鳴。今度は客席からのものだ。


先に撮影会をさせられていた僕と星宮は、彼等の登場に一息吐いた。


肩を落とし、皆一様に疲れ切っていた。


「なんだ女子達のあの熱は…」


「演劇部連中は歩き方だとかに厳しいしよ」


ボヤくな。僕の気持ちがわかったか。

そして、横に視線を滑らせると、一際目立つ、ドレスを身に纏ったデカい三人がいた。


「意外と似合ってるな……」


笑ってやろうと思ったのに。


「ねぇ、坂本さん。僕達三人だけやりすぎじゃない?」


「歩き辛いんだけど…」


「この服重いな!」


「いいからシャンとする‼︎ガニ股にならない‼︎裾をめくらない‼︎」


文句を言いながら、そのドレスの重さなど感じさせない程優雅に歩いてくる水城と金見。それに対し、笑いながらもガニ股で、裾が邪魔なのか両手で裾を捲り上げ、坂本さんに怒鳴られながら頭を叩かれている宝来。


「さ、チェキ会、始めようか」


ラベンダーカラーの、グラデーションになっていて紫陽花を思わせるプリンセスドレスの水城。ライトブラウンのセミロングウィッグを被り、微笑む。


「さっさと終わらせようぜ。これで一位取れるかもっていうなら、やるしかないよな」


ミントグリーンの王道なプリンセスドレスの金見。しかしそのドレスには、ウエスト部分と裾周辺にカラフルな花が散りばめられている。アッシュグリーンのウィッグをアップで纏めて、ドレスに付いているのと同様の花の髪飾りをつけている。


「ん?ここに立ってればいいのか?」


坂本さんに支えられながら、舞台から降りてきた宝来は、坂本さんの指示に従い僕の隣のスペースで立ち止まる。

宝来のドレスも、プリンセスドレスだった。黄色の…どう作っているのか、ベースは花弁を模したフリルで、大きめのひまわりが所々に付いたド派手なドレスだ。しかも、金髪カールのロングウィッグだ。


…確かに、星宮とこの三人のドレスは、他のクラスメイトの物より凝っている。四着共花をモチーフにしているようだしな。



皆がそれぞれ定位置について、チェキ会が始まった。僕もため息を吐きながら、目の前に並ぶ客を減らすために頑張るか、と今まで舞台の方に向けていた視線を客の方へと戻すと、


「…………おお」


先程まであった行列がなくなっていた。思わず声をもらしてしまった。

代わりに、宝来、水城、金見、星宮の前に列ができている。



「僕はお役ごめんか。感謝する」


列がなくなったのをいいことに、僕は踵を返し、体育館から出て行こうとしたが、


「どこ行くの?佐藤君はこっち」


ガシッと坂本さんに腕を掴まれ、先程の連中と同様、舞台裏へと引きずられて行った。


「さぁ、これ着て‼︎」


目の前に出されたいかにも"お姫様"といった、ピンクのこれも花をモチーフにしたドレス。


「髪型とメイクも変えるから早くね」


他の女子にも囲まれ、着ているドレスを脱がされ、ピンクのドレスを着せられ、メイク直しをされ、まるで着せ替え人形のようにされるがままの僕。



着がえ終え、舞台裏から出ると、名木野さんが放送する。


「本日のメイン!グリシーヌ姫です!」


僕の前に行列ができた。







文化祭二日目は、チェキ会だけで終わった。稼げる、と判断した文化祭委員長名木野さんは、チェキ券を持っていない客も入れ、大行列ができたのだ。

不本意ながらも大盛況だった。


後夜祭では、僕達3-Aが最優秀賞を獲得。合同で劇をやった、演劇部は特別賞を獲得。

そして…


「今年もミスコンはこの人‼︎3-Aグリシーヌこと佐藤君‼︎」


ピンクのドレス姿のままステージに上げられ、花かんむりと、トロフィーを渡される。


「今の気持ちを一言‼︎」


「死ね」


全校生徒に向けての、僕の心からの言葉だ。


僕の最後の文化祭は、これで終わ、


「ちょっっと待ったぁぁぁぁ‼︎」


遠くの方から、叫ぶ誰か。


「なんで遊びにきてくれなかったんですかぁぁ⁈」


ステージに向かって一直線に駆けてくるのは、小さな後輩だった。


「私、先輩達が来るのずっと、ずっと待ってたのにーー‼︎」


「ちょっと、待て…」


近く程にはっきりと分かる、幡木の姿。

ステージの階段を駆け上がって来る幡木に、僕は一歩一歩、後退する。


「こんなに可愛い後輩のところに来てくれないなんて、酷いですよっ‼︎」


「近寄るなっ‼︎」


飛び付いて来た幡木を、司会をやっていた文化祭実行委員会総会長の、日裏ひうら 影太えいたを盾にし、なんとか避ける。このドレス動きづらいんだよ!


「可愛い後輩のハグをなんで避けるんですか⁈」


「汚ないからだよ‼︎そんな格好で、僕に近くな‼︎」


憤慨する幡木に、日裏の後ろから叫ぶ。


幡木の今の格好は、パーカー、ショートパンツ、ニーソックスにスニーカーと、至ってシンプルなものだ。

しかし、とてもカラフルだが。


「汚いだなんて!2日間頑張ってた後輩に対する言葉がそれですかっ⁈」


「汚ねぇだろうが‼︎お前、自分の歩いて来た道見てみろ‼︎」


幡木の通って来た道を指差し、見るように促す。

素直にパッと後ろを振り向き、戻る。


「とても綺麗に足跡がついてますね‼︎」


「それだけ汚いってことだよ‼︎来るならそのペイント全部落としてからにしろ‼︎」


幡木の歩いて来た道は、カラフルな足跡が綺麗についてた。目の前にいる幡木も、その場に立っているだけで髪から服から、色々な所から、ペイントがポタポタと滴り落ちている。

幡木が一歩前に足を出すと、べチャリ、と泥を踏んだかのような音を立てる。


「分かったらお前のクラスが使ってたプールのシャワールームにでも行け‼︎」


「それができたら苦労しないんですよ‼︎」


「はぁ?」


シャワールームが壊れてるのか?それともクラスメイトに嫌われすぎて嫌がらせを受けてるとか?


「着替えを忘れました‼︎」


「馬鹿か!」


幡木らしいが、とんでもなくアホな理由だった。

そして、幡木はとんでも発言をする。


「だから、先輩の服貸して下さい!そのドレスがあるから、制服の方はいらないですよね‼︎」


「お前ふざけんなよ!僕にこの格好で帰れって言うのか⁈」


「先輩こそ、私にこの格好で帰れって言うんですか⁈」


「友達とかクラスメイトに借りればいいだろ‼︎」


「しーちゃんは着替え持ってなかったし、他の子達も持ってないって言ってました!」


「あー、お二人共、落ち着いて。というか、俺挟まないで…」


僕達がヒートアップする言い合いに、僕と幡木の間に立っている日裏が苦笑しながら、マイクを通してそう言うと、各所から小さく笑いが起きる。

それに少し冷静になった僕は、ため息を吐き幡木から一瞬視線を外した。


「隙ありぃぃ‼︎‼︎」


「あ」


ベチョッ。


その一瞬を見逃さなかった幡木は、僕の腰に腕を回し、抱きついてきた。


「………………」


『……………………』


その場を沈黙が支配する。


「ふはははっ‼︎貸してくれるまで離しませんからねっ‼︎」


「…………お前、一度ならず、二度までも」


「何を言ってるのか分かりませんね‼︎さあ私に着替えられる服を貸して下さい!先輩男子でも小さいから、私が着てもきっと大丈夫です!」


サラリと暴言を吐いた幡木を怒る余裕もなく、僕は呆然と汚れてペイントのついてしまったドレスを見る。幡木が離れない為、今も尚ペイントの侵食は続く。

離そうとすると暴れる心配がある為、それも出来ず、只々色の変わっていくドレスを見るしかできない。


「さぁさぁ、観念して私に着替えを、」


ガシィッ!、と幡木の頭を掴む、無表情の坂本さんがそこにいた。


「観念するのはアンタだよ」


「だっ、誰ですか⁈い、痛っ!痛い痛い痛いっ‼︎」


「本当、一度ならず二度までも、ってね。このクソガキ」


表情がピクリとも動かない坂本さんと、頭がピクリとも動かせない幡木。流石の馬鹿はたきでも、ヤバイ雰囲気を察したのか、僕から静かに離れ、閉口する。


「ちょっと、ついてきてもらえるかな」


疑問符すらつかないその言葉に、幡木は動かない頭を一生懸命縦に振ろうとする。それを振動で察した坂本さんは、幡木の頭を掴んだまま引きずっていく。去っていくその背を見ながら、やっと離れた幡木に一息吐いていると、グリンとホラーのように首だけを僕に向けた坂本さんが、


「もちろん、佐藤君も来てくれるよね」


拒否権の存在しない問いを口にする。

僕は顔を引きつらせながら、無言でその二人に続く。



辿り着いた3-Aの教室に、幡木は文字通り放り込まれ、僕は教室に入ると共に服を剥がれた。


そして、着替える事も許されず、下に着ていたノースリーブシャツに短パンといった格好で、幡木と並んで正座させられた。


「私がこの汚れ落として来るまでそのまま待ってて。一秒でも正座崩したら、


殺す


から」






……所詮は僕も一般人。

正義でも悪でもなかったわけだ。



僕の三年目の文化祭は、正座で幕を閉じた。


これにて、文化祭編は終了です!


今年のは微妙な出来かな、と反省しつつも、楽しく書けたところもあるので、多少の達成感。



次からは本格的に留年回避に向けての話にしていこうかな、とざっくり考えてます。

どうぞ、よろしくお願い致します!

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