130話 二日目の大混乱
いつもの如く見直ししてません。
ごちゃごちゃ感満載な気がしますが、感覚で読んで下さい……。
途中、書いててわからなくなった。が、書きたいところは書いた。
これは、いつか編集するねきっと……。
文化祭2日目。
まだ疎らにしか人がいない早朝とも言える時間に、僕は学校に"一人で"登校した。
下駄箱で靴を履き替えた瞬間、背後から羽交い締めにされ、連行された。
昨日から通算5回目の逃走はまたしても失敗した。
「さて、佐藤君。今日の主役は君だ!事情を説明して坂本君にも来て頂いた」
連れて行かれたのは教室ではなく、第4体育館の裏方。何故かいる坂本さんも衣装と化粧道具を手に笑っている。
「…………朝からウェディングドレス、ですか」
「さあ、衣装に着替えたら最終稽古に入るぞ。"昨日の"おさらいをしようか」
「……………………」
僕は思わず眉を顰めた。
昨日、仮面の王子に連れ去られた後の事だ。
仮面の王子に抱えられたまま、第4体育館の裏方へと連れてこられた僕は、そこが何をしているところなのかを理解した。
「部長‼︎成功したんですね‼︎」
僕の事を目に止めた一人の女子生徒が嬉しそうにそう騒ぐと、周りにいた奴らもワッと騒ぐ。
「見ての通りだっ‼︎」
それに僕を上に掲げ、嬉しそうに堂々と叫ぶ仮面王子こと"部長"。
危ないから持ち上げないでほしい。落ちたらどうしてくれる。
「明日の計画はバッチリだ!」
周りの"部員"達にそう叫んだ彼、演劇部の鬼部長で名が通っている星宮要は、ようやく僕を下ろした。
「……それで、僕を攫った理由を説明してもらおうか。星宮部長?」
文字通り、地に足がついた僕は、目の前にあった星宮の襟首を掴んで、睨みつけながら問いかけた。それに星宮は仮面を外しながら、ニヤリと笑った。
「俺はな、演劇が、舞台が大好きなんだ。だから、妥協しない」
……核心に至っていないので、黙って続きを促す。
「舞台は、観客がいて始まるものだと、俺は思っている。映画やドラマとは違って、生の演技を間近で見られる。演者と客とが一体になって作る芸術だと思っている」
演劇に関する持論を語り始める彼。
僕が聞きたいのはそういう事じゃないのだが…。
「一、二年の時はよかった。だか今年のあれはなんだ?中継を見ていたが、二人がただ文化祭を回っているだけじゃないか!台本はないと聞いたが、キャラ設定はブレブレ!世界観もなにもあったもんじゃない!あんなのが"舞台"であっていいはずがないんだ!」
バンッと近くにあった机を叩き、怒りながら力説し始めた、演劇部の鬼部長。
「客に媚びたただの文化祭巡りが劇か⁈なぁにがファンサービスだ⁈チケットもそうだ。チェキ会を餌に女子にチケットを買わせるその手口が気に食わん!」
それは僕もそう思う。だが、それは僕の管轄ではないので、文句、苦情は責任者へお願いしたく思う。
「俺にとっての演劇とは、客に媚びるものじゃなく、客と作り客を楽しませ、演じる側も楽しめるものだ‼︎老若男女問わず、楽しめるのが舞台だ!あんな、一部の客へのウケしか狙っていないものなんて、舞台じゃない!劇じゃない‼︎そんなのは俺が認めない‼︎どんな客でも楽しませてこその舞台だ‼︎」
…僕に言われても。
「プロじゃないからいいや、なんて妥協は許さない‼︎客は少なからず金を払って、態々時間を作って舞台を観に来ている‼︎それなのに、幼馴染同士の文化祭巡りを見せられ、劇に関しても前年までと代わり映えのしない、むしろクオリティは落ちているものだった!そんなものに金を払っている客の程度も知れたものだな!そんな客ならいない方がマシだ‼︎客の居ない舞台で一人、演技している方がまだ幾分かまともだな‼︎」
おい、客と一体になって、どんな客でもの言葉はどこにいった。
そんな媚売りに引っかかって来てる客でも楽しませてみろよ。
「だから、僕はその腐った劇を変えるために乱入した」
「……やっと本題か」
星宮は近くにあった椅子にドカリと荒々しく座った。僕も促されるままに机を挟んで星宮の対面に座る。
星宮はニコリと笑みを浮かべ、パサリと机の上に紙の束を二つ投げる。
それは、第二王子と藤の花の台本だった。番外の方もある。
「というわけで、佐藤君。君にはグリシーヌの設定を見直して、その腐った演技を直してもらおう」
「……は?」
言葉の意味が理解が出来ずに思わず聞き返す僕に、星宮は台本をトンと指で叩き、真顔で言う。
「まず、グリシーヌは人前に出るのが嫌いな恥ずかしがり屋だ」
「…まあ、そうだな」
「そんなグリシーヌが初デートであんなに王子にくっつくか?冷静に対処するか?いやしない‼︎」
「いや、そうかもしれないが……。台本もない素人の劇だぞ?しかも僕は同意していない」
「ならば断ればよかったんだ。君にも断る権利はある。だが、君はそれをせずに流されるままに女装し、剰え劇に出てるじゃないか。素人だから、は俺には通用しない」
「…………」
それに関しては、事実な為何も言い返せない。だが、断ったところで無駄……、
「もう一度言う。君にも断る権利はある。本当に嫌なら、諦めずに断り続けろ。俺は、やりたくない奴に役を頼む程鬼じゃない」
僕の胸中の言葉を否定する星宮。僕は思わず上を向く。
「……目頭なんておさえてどうした?」
「……初めて人権が認められて、断ってもいいと肯定されて、涙腺が刺激されただけだ」
「……君は今までどんな環境で育ってきたんだ?」
それは聞かないでくれ。
哀れみの視線を送ってくる星宮に、心の中でそうツッこむ。
「まあいい。じゃあ今日は俺の家に泊まり込みで、"グリシーヌ"を見直そうか」
「…………はい?」
「明日の舞台の為に、グリシーヌを見直そう。とりあえず、今からそこにいる女子部員から女子の所作、姫の所作を習って体に叩き込んでもらう」
「………………はい?」
「そしてその後は僕の家で特訓だ。明日は俺の即興劇にグリシーヌとして出てもらうから、半端な演技は許さないよ」
「…………因みに、ここで断るということは可能でしょうか?」
「不可能だね」
思わず敬語で問いかけた僕に、有無を言わせぬ笑顔で不可の言葉が返ってくる。
「……さっき断っていいって言ったのはどこの誰だ?」
「それとこれとは話が別だ。つべこべ言わずに特訓だよ。"グリシーヌ姫"」
ここにも拒否権は存在しないじゃないか。
さっきの僕の感動を返してくれ。
恨みがましく睨みつけていると、星宮はため息をつきながら、
「やりたくない奴に役は与えない。が、君はもう既に"グリシーヌ"なんだ。そこはもう変えようのない事実だ。ファンもついている以上、キャス変はしないし、できない。最後までグリシーヌをきっちりと演じてもらうから、覚悟しておけよ」
多少なりとも筋は通っているので、否定のしようがなかった。
演劇部女子からの厳しい指導を受けさせられた僕は、そのまま星宮部長の家まで連行され、女子達の指導が可愛く思える程の鬼のような特訓を受けた。
星宮が風呂に入っている間に部屋から逃げ出そうとしたが、いつからいたのか、他の演劇部員に捕まり、一回目の逃走は失敗した。
時間は少し遡る。
突然の乱入者に姫が攫われた後の舞台は、静まり返っていた。予想外の出来事に、宝来は当然、他のメンバーも動揺していた。
動かない劇に観客もざわつき始め、その声で金見と水城は我に返り、舞台上にいた執事役の金見は王子の横に立ち、口を開く。
「さて、目の前でむざむざと姫、というか嫁を攫われたわけですが、今の心境をどうぞ王子」
「どうなってんのっ⁈」
舞台上で騒ぐリベルテ王子。
「落ち着いて下さい。あれは恐らく、隣国の王子でしょう。…リベルテ王子、貴方はどうされますか?」
金見は観客に分からないよう舞台袖を見るよう、目線で宝来に示す。舞台袖では、水城が宝来が気づくようカンペを上に掲げ、台詞の指示を出す。それを見た宝来は、助かったとばかりに指示通りの台詞を口にする。
「……彼女は私の嫁だ。カプリス、お前なら言わずとも分かるだろう?」
「はい。明日、グリシーヌ姫を取り返しに行きますよ」
こうして、なんとか劇を終えた宝来達だったが、一つ問題が発生した。
「……グリシーヌのチェキ会、どうしよう」
客にはなんとか説明し、グリシーヌ希望の客には、明日纏めて行うと説明し、明日来れない客には、他のキャストとのチェキで我慢してもらった。
その際、余っていた衣装を着用し、水城や、他のクラスメイトもチェキ会に応じたのだった。
そして、文化祭1日終了後。
「さて、我々は明日の午前中、グリシーヌ抜きでの宣伝を余儀なくされた」
「佐藤に連絡は取れないのか?」
「残念な事に佐藤君の携帯、というか荷物は全部この教室に置き去りだ。佐藤君が今どこにいるのか、何をしているのか、我々は把握できない」
3-Aの教室で、水城と金見が教壇に立ち、クラスメイトに現状を説明する。
「佐藤君を攫った犯人は、恐らく演劇部だ。第4体育館は演劇部の場所だからね。確認したところ、今年の演目は一日目、ロミオとジュリエット、二日目が即興劇になってる。つまりは、グリシーヌは"狙われていた"という事だ」
「でも流石に佐藤も今日は家に帰るだろう。別に問題なくね?」
クラスメイトの何気ない一言に皆頷くが、水城は首を横に振る。
「相手は、演劇部の鬼部長、星宮要だ。演劇に関して厳しい彼の事だ。恐らく明日の正午まで、佐藤君との接触は難しい。しかし、このクラスの出し物にグリシーヌはなければならない存在。彼等演劇部の思惑に乗るしかない」
「そこはまあ置いといて、問題なのは明日の午前中だ。王子一人での文化祭巡りを見せても何の面白味もない。かといって、ヒロインがいないから劇もできない」
金見の言葉に、クラスメイトはやっと現状が理解できたのか、態度を改め、真剣に話を聞き始めた。
「できることといったら、カフェの営業、校内を巡回しての宣伝くらいだけ。1回目のチケットはそのまま販売するけど、第4体育館からの中継になる事を説明しなければならない。通しで一回は劇をやりたいけど、昨日延期したグリシーヌとのチェキ会にも時間を取られる為、明日の劇は中止にするしかない。その為、チェキ会参加券として値下げして販売する。…全校売上1位を目指してたけど、難しいかな」
クラスメイトは顔を曇らせる。
金欠学生、特に運動部の連中は悔しげに机に拳を叩きつける。
今年の売上1位の特典は、一ヶ月学食無料券だ。
売上を佐藤一人に押し付けたツケが回ってきただけである。
「仕方ないから、明日は仮装カフェの売上を伸ばそう。チケットで客は釣れないと思っておいてね。ってことで、明日は今日より一時間早く集合して午前中の作戦を練るよ。とりあえず今日は解散!」
そんな二人の予想通り、二日目の3-Aのカフェは苦戦を強いられていた。
中継だというのにチケットは即完売。2回目のチケットはチェキ会参加券になったが、それも完売。そこまでは良かったのだが、券が両方完売した途端、客が減ったのだ。しかも、客の話を聞いてみると、
「演劇部の方はまだチケットあるって」
「えっ⁈じゃあ早くそっち行こう‼︎」
演劇部の方に客が流れているのだ。
グリシーヌの人気を逆手に取られた形になる。
宣伝や呼び込みで、少しずつ客を増やしたが、午前中の売上はチケットの枚数が減ったのもあり、前日の半分程だった。
そして、約束の正午。
宝来と金見は、第4体育館の入口の扉の前にいた。
「合図したら、そこの扉を開けて入って下さい。開けた瞬間、舞台は開幕です」
演劇部員にそう言われ、待機する。
「即興劇ですが、一言目はこれでお願いします」
渡されたのは、王子のセリフが一言書かれた紙。
それを見た後、ポケットにしまった宝来は、金見と顔を見合わせて頷いた。
「なにかあったら、できる限り俺がフォローするよ」
「頼んだ‼︎」
『これより、演劇部、3-A合同即興劇を始めます。どうぞお楽しみ下さい』
そのアナウンスと共に中から、ブザーの音が聞こえた。
……合図だ。
宝来は扉に手をかけ、勢いよく開け放った。そして、体育館の中に一歩足を踏み入れ、
「姫、助けに来ました‼︎」
そう叫んだ。
瞬間、駆け寄る一つの影。
「……王子っ!」
『⁈』
グリシーヌはか細い声で叫びながら、ガバリとリベルテ王子に抱きついた。
佐藤の行動に、宝来は勿論、見ていた他のクラスメイト、佐藤を知っている観客までもが、目を見開いた。
という訳で、次回に続きます。
今回は説明回……的な?(説明できてるかは不明)
無駄に長くなりましたが、文化祭編は書きたい事が多くて困る。なのに、書きたい部分に辿り着かない不思議……。
グダグダと長いですが、最後までどうぞお付き合い下さいますと嬉しいです。
それでは次回もどうぞよろしくお願い致します。