127話 最後の文化祭、開幕
無駄に長いです。
ほんとに無駄な部分がある(かも?)、だけど私は書くの楽しかったからよしと、思って下さると……。
文化祭当日の朝、僕は毎年恒例のお着替え&メイクタイムに入っていた。言い方を良くしてみたが、要は坂本さんの着せ替え人形になっているのだ。
「……あの、坂本さん」
「何かな佐藤君」
ドレスを着せられた僕は、目の前にある姿見に映る自分を、というかドレスを見て坂本さんに質問を投げる。
「前回試着した時と、大分形が変わってません…?」
それに坂本さんは、メイク道具を机に広げながら、なんでもないようにシレッと答えた。
「そうね。アレの所為で色の侵食率が思ったより酷かったから、汚れたところ切り取って、折角ならと思って形も変えたの。佐藤君の美脚が光るフィッシュテールタイプのデザインに変更したのよ」
幡木をアレ呼ばわりか。いや、アレで十分だが。
「フィッシュ、テール…?」
いや美脚って、僕男なんですが……。
前回は、スタンダードな所謂ウエディングドレスのような足首まで隠れるドレスだったが、今回のは、裾に向かう程幅が広く、前後で丈の長さが違うドレスに変わっている。いや、前後どころか左右の長さも違うが…。
「細かいことはどうでもいいわ。似合ってるから安心して」
「…似合ってちゃ困るんですが」
「いいから黙ってそこ座って。今からもっと可愛いお姫様にしてあげるから」
両手にメイク道具を構え、ニコリと微笑んだ坂本さんに、僕は大きくため息を吐き、大人しく腰を下ろした。
そして、文化祭は開幕した。
「いらっしゃいませ‼︎3-A仮装喫茶へようこそ‼︎」
僕達のクラスの仮装喫茶は、何故か開幕早々に行列ができていた。
「……なんだ、これ」
「あ、佐藤君と宝来君はこっちね」
行列を見て思わず呟いた僕は、坂本さんに肩を掴まれ、新作の王子衣装の宝来と共に裏へと引っ張られていった。
「……なんだ、これ」
裏には、執事衣装の金見と、黒子の衣装を着た新井山がハンディカメラを持っていた。
「がんば」
新井山はサムズアップし、ただ一言そう告げた。
「さて、説明しようか。まず、今回の"新作"は題して、『王子と姫のお忍びデート編』です」
「は?」
金見の説明に、僕は思わず聞き返す。新作?なんだそれは…。
「台本は特にないんだけど、これから二人には、午前中時間の許す限り、各クラスを順番に回って行ってほしいんだ。だけど、もちろん、"リベルテ"と"グリシーヌ"として。あ、彼方には俺からカンペ出すから安心してね」
なんだその拷問は。シフトを聞かれないと思ったら、そういうことか。
「買ったり遊んだりは自由だけど、なるべく多くのクラスを回ること。それで13時からは第一体育館で通しで再演します。本当は一日3公演の予定だったんだけど、新作ないのは寂しいよねってことで、一日目はお忍びデートをしてもらいます!」
「勝手に決めんな。何も聞かされていないんだが?」
「そりゃ言ってないからね。あ、因みにデートの様子は晴汰カメラで教室内のモニターと第一体育館で生中継しまーす。それでは、そろそろ時間なので行きましょう!」
僕の抗議をさらりと流し、教室から出て行こうとする金見と新井山。というか、あの行列の意味はそういうことなのか……。
「あ、佐藤君には言ってなかったけど、午後の再演のチケット、僕達のクラスを利用した人しか買えないようになってるんだ。多分行列はそのせいだね」
僕の心を読んだかのようにニヤリと笑いながら説明する金見。だから、僕は何も聞かされていないのだが?
「なんかよくわからないけど、行こうぜ佐藤‼︎食い物一杯食えるし遊べるんだから、最高じゃんか‼︎」
お前はな。
「…はぁ。どうせ僕に拒否権はないんだろう?」
「ご名答。さ、行くよ。近場のクラスから回って行こうか」
ため息を吐きながら金見と新井山の後につづく僕。教室を出て、ドアを閉めようとしたところで、
「皆、これだけは約束してね」
教室を出て行こうとする僕達4人に向けて、坂本さんは笑顔でこう言った。
「衣装汚したら殺す」
彼女の目は本気だった。
3-A 第二王子と藤の花〜王子と姫のお忍びデート編〜
3-Aの入口付近、行列のすぐ横からそれは始まった。
「初めまして、リベルテ王子の側近、執事のカプリスと申します。本日リベルテ王子とグリシーヌ姫は城下でお忍びデートの模様。この私カプリスは陰ながら見守らせて頂きたいと思います。それでは、王子と姫のデートをどうぞお楽しみ下さいませ」
並んでいる客へのファンサービスも忘れない金見。
カプリスこと金見の前説が終わり、金見から僕達にカメラが移る。
まず僕等が入ったのは、隣のクラス、3-Bだった。B組の出し物は"さあ、冒険の森へ‼︎"らしい。なんだそれは…。
「なんだこれは?」
完全カンペ頼りの宝来が、金見の書いた文字をただ読み上げる。
「はい。こちらはスタンプラリーとなっております。校内を巡って、スタンプを3個から10個集めたら、景品を差し上げております」
「へぇ」
「…………」
素で関心を持った宝来を他所に、僕はホワイトボードに書かれた、そのスタンプラリーのルールの全容を読んだ。
"【Mission!】
学校内を回っている"先生方"を見つけ、スタンプをもらって下さい。
3個集めれば、駄菓子の詰め合わせ。
5個集めれば3年生の出し物で使える200円券。
10個集めれば3-Aの劇の指定席券を差し上げます。
参加費200円
3-Bの教室にてラリーシートをお渡しします。
そして教室内にて、ヒントカードをお受け取り下さい。ヒントカードには、スタンプを持っている先生方の特徴が書いてあります。
全員見つけて、目指せコンプリート!
さあ、冒険の森へと出かけよう‼︎"
らしい。
「参加されますか?」
「…いえ、大丈夫です。ヒントカードだけお見せ頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。どうぞ」
金見に、『参加はしなくていいから、ヒントカードだけもらって』と指示を受け、その通りにする。
それに対し、にこやかに二つ折りのB5サイズのカードを渡してくる受付。
「なんだこれ?」
「…………」
カードを見て、言葉を失った。
宝来も首を捻っている。
"【ヒントカード】
森(校内)には人間に扮した動物が10匹放たれた!彼等から手形をもらい、3-Bの教室に戻ってこよう‼︎
1匹目 彼はメガネをかけた、猫だ。この前ペイントで汚されたカラフルな白衣が特徴だぞ!あと猫背だ!
2匹目 彼女は、怒らせたらこわ〜い狐だ。黄色い尻尾が特徴だぞ!
3匹目 彼を見つけるの意外と簡単だ。校外のベンチによく現れるぞ!やる気のないナマケモノで、クリーム色のパーカーで、フードをかぶっているぞ!
4匹目 彼女は元気一杯の豆柴だ。犬耳をつけて、校内外を走り回っているぞ。
5匹目彼は神出鬼没な猿山の大将だ!だ。見つければ一目で分かるぞ‼︎
6匹目
7匹目
8匹目
9匹目
10匹目
※対象の先生方は、どこかにヒントと同じ動物のネームプレートをつけているぞ!
残りのヒントは、手形と共に各先生方からもらおう‼︎"
これ、先生方はよく許可したな……。
カラフルな白衣って、それもう白衣じゃないだろ。あと、先生方に尻尾やら耳やらをつけたのか…。
少し頬を引きつらせながら、僕は礼を言いヒントカードを返し、B組を後にした。
だが、読めたぞ。金見の狙い、というか、この劇の、撮影の狙いは、文化祭の紹介を兼ねている。僕達の劇は何故か異様に注目されている。人気が偏るというのもあり、他のクラスの紹介もしようというのか…。後程聞いたら、生徒会からのお願いだそうだ。
……何故、当事者の僕には話さないのか、と疑問と共に怒りがフツフツと湧いたが、もう諦める以外ないのだろう。はぁ……。
続いてやってきたのは、3-C"休憩図書館"だ。
【変わったドリンク各種あり1杯350円〜500円】と入口にメニューが置いてあるが、そんなのは僕にはどうでもよかった。
教室に一歩足を踏み入れた瞬間、そこは僕のオアシスだった。
教室の壁一面に広がる本、本、本。
僕はそれに目を輝かせ、宝来の方を見ることなく言う。
「私、ここで暫くゆっくりしたいわ」
チラリと金見を見る宝来。金見は小さく首を振ると、苦笑しつつこう書いた。しかも、振りの指示付きで……。
「……グリシーヌ、ここには変わったドリンクがあるそうです。そちらを飲んだら、次に向かいましょう。一日は短いです。蔵書量でしたら城の書庫に敵う場所はありません。帰ってから、ゆっくり読みましょう」
両手を握り、正面から真っ直ぐに僕を見る宝来。…顔が近い。カメラのアングルは狙ったかのように横からだ。
……ファンサービスのつもりか金見。
「ちっ」
「……姫」
僕の舌打ちに肩をビクつかせた宝来に、小さく金見が僕に声をかけフォローする。
「………………分かりましたわ。残念ですが、本は諦めます」
仕方なくドリンクを飲む事(宣伝の為無料)となったが、メニューが斬新だった。
*イギリス風レモネードS 350円
(レモンスカッシュ&はちみつシロップ&スライスレモン)
*スウィートミルクティー 350円
(市販のミルクティー&ガムシロップ×3&ホイップクリーム)
*ホッとミルク(アイスです)400円
(牛乳&はちみつシロップ&バニラアイス&ホイップクリーム)
*魅惑のしゅわしゅわミルク 400円
(コーラ&牛乳&カットレモン)
*スーパーサイダー 450円
(サイダー&ブルーシロップ&ポップロックキャンディ&バニラアイス)
*炭酸爆弾 500円
(コーラ&ペプシコーラ&RAIZIN&カットレモン&ポップロックキャンディ)ご希望の方にはメントスもトッピング!
興味津々の宝来を引きずって、僕は静かにメニューを置きその教室を後にした。
ファミレスでドリンクを混ぜたりする人にはピッタリだと思われます。僕は結構だ。最後のは本当に爆弾だから、飲むなら外で頼む。飲めるかは分からないがな。
図書館ならコーヒーとか紅茶とか普通の物置いとけよ、と僕は心の中で叫んだ。
次に向かったのは、3-Dだ。廊下からでも香ばしい香りが漂ってくる。"ナニワのソース回廊"と書かれた暖簾をくぐり中に入る。
僕は宝来の顔を見、次いで金見を横目で見る。
「…………」
ここで、宝来に金見から指示が入る。目の前の物に釘付けで気づかない宝来の袖を軽く引き、カメラに映らないようカンペを指す。やっとカンペに気づいた宝来は、指示通りカンペそのままに読むが、
「ほぅ。庶民はこんな粗末な物を口にしているのか」
「…………セリフと顔があっていませんよ王子。あと涎」
涎を垂らし、キラキラとした目で焼きそばを見る宝来のセリフには全く説得力がない。僕は思わず呆れた声をもらした。
ここは、お好み焼き、たこ焼き、焼きそばといった、ソース系の食べ物がある。
ドリンクセットで各450円。量もそこそこある為、並んでいる客も多い。
並んでいる客の列に視線をやっていると、今度は宝来に袖を引かれる。そして、一応馬鹿なりに考えているのか、小声で聞かれる。
「なあ、なあ!いいのか⁈」
「……」
チラリと金見に視線をやり、頷いたのを確認して、僕は注文する。
「一つずつ頂けるかしら?」
「まいどあり‼︎」
そのまま空いていた席に座り、割り箸を割って、勢いよく食べようとする宝来に、僕は慌ててストップをかける。
「いいか宝来!ソースなんかで、服だ、け、は、絶対に汚すなよ。でないと、坂本さんに殺されるからなっ」
僕は宝来のしているループタイを引っ張り顔を寄せ、睨みつけながら小声でそう告げる。
これは死活問題なのだ。
宝来も、先程の坂本さんの顔を思い出したのか、一気に顔を青くし、コクコクと赤べこのように頷く。
なんとか汚さずに食べ終えた宝来に、僕はホッと胸をなでおろし、次の教室へと向かう。
終わったのは三年生フロアのみ。まだ一、二年生が残っているのか……。はぁ……。
ずっと気を張ってるのは疲れるんだ。しかも女装で女口調…。
頼むから、せめて移動中くらいはカメラを止めてくれないか…?
ああ無理?
知ってたようん。
文化祭開幕です(どうしよう終わる気がしない(ガクブル))
今年も佐藤君につきまとう、グリシーヌの呪いは継続中。
二日間、四六時中グリシーヌでいなければいけない佐藤君。さあ今年はどうなる⁈
書けたらモニター側の視点も書こうと思います。水城君とか岬君とか、宝来ファンクラブとか出したらきっと面白い(私が)
他クラスの出し物とか無駄に書きます。出し物の内容考えるの楽しい。グリシーヌな為佐藤君のツッコミ少な目です(当社比)
次回、一、二年生の後輩フロアにリベルテ王子とグリシーヌ姫が訪問!
お楽しみに!