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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
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126話 無知とは斯くも恐ろしいものである

タイトルと内容が合っているか、自分でも疑問……。


今回の話も、文化祭の準備です。



全授業がなくなり、完全に文化祭の準備期間に入ったある日、


「…委員長、話がある」


僕はクラスの文化祭の実行委員長、名木野美菜にある提案をする。







話し終えた僕は、考え込んで静かな委員長の返答を緊張しながら、待つ。


「……面白いじゃん。いいよ。それ採用!」


「……感謝する」


ニコリと笑い、僕の考えを肯定してくれた委員長に、ホッと息を吐く。


「それで、佐藤君が希望する数は?」


「……最低でも5は欲しい。もし可能ならば、10以上あると……」


「うーん、わかった。数に関しては副委員長と相談になるけど、楽しみにしてて」


「ああ。よろしく頼む」


廊下の片隅で行われた取り引きは、無事に成立した。

そして僕は清々しい気分で教室に戻った。


「さぁ佐藤君!試着の時間よ‼︎」


気分は一気に急降下した。









「わぁ‼︎今年もキレイな服着てますね先輩‼︎」


「……お前は、なんでこうもタイミング良く来る?」


「きたいときに私はきます‼︎」


「野生の勘か……」


又しても準備期間に、しかも試着中に、幡木は僕のクラスを訪れた。


「私もそんなドレス着たいです‼︎」


「……お前は今回も奇抜な格好だな」


普通の女子の様な事を言う幡木の格好を見て、僕は奇抜以外の言葉が見つからなかった。


「今年は私のクラスは楽しいイベントやりますよ‼︎」


幡木の格好は、至って普通のパーカーにジャージのズボンなのだが、とてもカラフルだった。所々、体中、顔、髪の毛にまで絵の具やらが飛び散っていて、とてもカラフルだ。むしろ、色の付いていない所がないくらいだ。格好、というより、顔も髪もカラフルな為存在自体が奇抜だろう。お化け屋敷でもやるのか、といった風体だ。


「今年はですね、この水鉄砲と水風船を使ってのペイントバトルをやります‼︎」


どこに持っていたのか、水鉄砲を取り出し、銃口を僕に向けながら、自分のクラスの出し物の説明を始めた。


「この季節使われていないプールを使って、10対10のチーム戦です!10分間で相手チームに多くペイントを付けたチームの勝ちです!あ、ちゃんと水で落ちるペイントですよ‼︎」


「お前のその汚れた格好はそういう事か」


「今日はクラス全員での予行演習でした!私に攻撃が集中しまして、いやぁ〜人気者は辛いですね‼︎」


「………………そうか」


嫌われている、の間違いだろうと指摘してやる程僕は優しくない。というか、その後の反論を考えると面倒な為、何も言わないのが正解だろう。


「では、先輩。挨拶がわりです‼︎」


「ちょっ、バカッお前!」


突然目を光らせ、ニヤリと笑った幡木は、僕に向けていた水鉄砲の引き金を引いた。避けようとするも、まだ調整中で引きずるくらい長いドレスの裾に足を取られ、発射された色水がドレスの、丁度フリルが複雑に重なった部分に付着した。


「どうだぁ!まいったかー‼︎あっはっはっはっ‼︎」


「…………お前、これが、誰の衣装だと」


満足気に水鉄砲を肩に乗せ、高笑いする幡木には目もくれず、僕は緑色のペイントがついてしまったドレスを呆然と見下ろす。


「今までの先輩の私への仕打ちに比べたら、先輩の衣装がすこし汚れる程度、なんの問題もありません‼︎」


「…………僕は理不尽に怒ったりはしない。お前にとって問題じゃなくても、こっちは大問題だ。お前も含めて、な」


近くにあったタオルで擦らないように水気を取っていると、バサバサッ、と何かが落ちる音が聞こえた。そちらを向くと、目を見開いた坂本さんがいた。その足元には本や紙が大量に落ちている。


「…………お前、今すぐ逃げた方が身の為だぞ」


「なに言ってるんですか?まだまだ私の攻撃は終わりませんよ‼︎その赤いドレス、この私が真緑に染めてみせましょう‼︎」


そう言い、また銃口を僕に向ける幡木、その背後には、先程まで教室の入口に立っていた坂本さんが、無表情で立っていた。


「…」


幡木が引き金を引く寸前、坂本さんは背後から水鉄砲を取り上げ、後ろに放り投げた。


「ぬっ‼︎誰ですか!私のジャマをするのは⁈」


「邪魔なのはあんたでしょ」


邪魔された事に怒り、背後を振り返った幡木は、その人の顔を確認する前に、顔面を掴まれた。


「なに人の作ったドレス汚してくれてんのよ。これ作るのに一体どれだけの時間がかかってると思ってるの?ねえ、私がこのドレスを作品としてどれだけ大切に真剣に作ってるか、あなた、分かってる?分からないわよね」


「服なんですから洗えばいいじゃないですかっ‼︎それに、赤に緑で見事なクリスマスカラーですよ!いいじゃないですか‼︎」


反論された坂本さんは、ピクリと反応し、一度動きを止めた。そして、ニコリと一瞬微笑んだが、


「あぁぁ‼︎痛い!痛いです‼︎」


「痛くしてるの。いい?私があのドレスに使った生地は主にレーヨン生地。水に弱い生地なの。水に濡れたら縮むし、強度が下がるの。それと、誰もテーマに"クリスマス"なんて設定してないから。私のドレスに勝手な要素を入れないでくれる」


ギリギリと力が込められていく坂本さんの手を、幡木は痛みに苦しみながら掴むが、その手は外れない。見事なアイアンクローだ。

そのまま幡木を教室の入口まで引きずって行き、廊下に勢いよく放り投げた。


「分かったら出て行け。二度と来るな」


人を殺してきたんじゃないかと思うくらいの眼光で幡木を見下ろし、口を開こうとした幡木の顔面に、丁度近くに落ちていた水鉄砲を投げつけ、ピシャリと教室のドアを閉めた。


「…………」


外から聞こえる幡木の抗議の声など気にもとめず、ツカツカと僕の方へと歩いてくる坂本さん。俯いている為、その表情は読めない。教室内にいるクラスメイトも、息を飲んでこちらの様子を見守っている。


「……あの、坂本さん?」


「ああもう‼︎こんなところに緑色なんてついちゃってっ‼︎折角計算して入れた差し色のフリルが台無しじゃないっ‼︎


僕の手からタオルを奪うように取り、僕の目の前にしゃがみ、ペイントがついてしまった部分を見て憤慨する坂本さん。


「……え、ちょっと」


そのまま、着ている僕の事なんか気にする事もなく、スカートの裾から中に手を入れ、汚れた部分の裏に手を入れ、タオルで叩き始めた。


「……あのー、坂本さん」


「いいから佐藤君はそのまま着てて。今脱いだら他の部分にも色がつくから」


「あ、はい」


有無を言わさぬ物言いに、思わず頷く僕。


「幸い範囲はそれ程でもない、か。ここの裾を切って、新しくフリルを付けるか…。でもそれだと折角の刺繍部分が…。いや、でも配色のバランスを考えてもこの部分に緑は許せないし……。新しい企画も入って忙しいってのに、あのクソ野朗が…。後で覚えてろよ。死ぬよりも恐ろしい目に合わせてやる……」


ブツブツとドレスを直す構想に入った坂本さんを、僕はただ静かに見下ろすだけだった。途中、幡木に対して恐ろしいくらいの毒をはいていたが、聞かなかった事にする……。

こんなに口の悪い坂本さんは初めて見る。

これは怒らせてはいけない部類の人だと、僕はまたひとつ学習した。



15分後、やっと僕はドレスを脱ぐ許可をもらえた。


坂本さんはドレスを抱えて早退した。

去り際に、


「私の仕事、"色んな意味で"増やしたんだから、佐藤君も覚悟しておいてね」


と、巻き添えを食らった。

僕は悪くない……と言いたいところだが、そうとも言い切れないので、僕は頷くしかなかった。



文化祭まで、あと僅か。

と言うわけで、掬ちゃん襲来。

まさしく佐藤君を襲撃したわけですが、ガーディアンに追い出されました。はい。


次から文化祭本番に入れたらな、と思います。

それでは次回もどうぞよろしくお願い致します。

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