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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
八章 高校三年、二学期
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125話 最悪な一日の逃走劇

今回から文化祭編に入ります。

テスト系は一旦置いておきます。


一年の中で一番書くのが楽しい話が始まりました。

頑張って書いていきます!



「っ!はぁ、はぁっ」


僕は息を切らして校内の端の方にある、使われていない奥から2番目の空き教室に飛び込んだ。

中に入り、ドアに鍵をかけ、反対側にあるドアにも急いで鍵をかける。


「はぁ…………」


そうしてようやく一息ついた僕は、教室内を見回す。机や椅子が無造作に置かれ、他にも埃を被った教材や、ホワイトボードなどがある。


「暫くここに隠れていれば、大丈夫か……」


僕は少し気が抜けていたらしい。

ガシッと、足が掴まれる感覚に思わず後ろに飛びのこうとするが、右足が掴まれている為、それは叶わなかった。


「つーかまーえた☆」


「っっ⁈」


下から、教室にある地窓から、手を伸ばし、笑顔の金見が僕の足を掴んでいた。









その日は朝から最悪だった。


「…………あ」


起きて時計を見たら、いつもの起床時間を優に超えていた。遅刻するような時間ではないが、朝食は食べられないだろう。


ため息を吐きながら、いつもよりは多少急いで身支度を整え、すぐに家を出た。


家を出て5分程して、雨に降られた。土砂降りではないが、小雨とも言いづらい微妙な感じの雨だった。しかも、今日に限って折りたたみ傘が鞄に入っていなかった。


「…………」


走る気力もなく、ため息を吐きながら、走る人達を横目に、ゆっくりと歩いて学校に向かった。




「うわっ。どうしたんだよ佐藤!びしょ濡れじゃんか!」


「外見れば分かるだろう。雨だ」


ハンカチで顔や髪をぬぐいながら、早速突っかかってきた宝来に軽く返事をする。


「いや、彼方が聞きたいのは、佐藤ともあろう奴がなんで濡れているか、っていうことだよ。朝から予報は雨だったじゃん。傘持って来なかったのか?」


続けて岬に言われ、この2人に寝坊したと知られるのは不愉快な為、苦い顔で顔をそらしながら小さく呟く。


「…………忘れた」


2人の吹き出す声が聞こえた。イラっとして、2人を睨みつけ、言い訳にしかならないが、一言言ってやろうとしたが、2人の方を向いた瞬間、頭からタオルが被せられ、それは叶わなかった。


「ほら!濡れたままだと風邪ひくよ!」


そのまま、ガシガシと頭を拭われる。声からして水城だ。仕方なく大人しく拭かれていると、今度は前から金見が来て、もう一枚タオルを渡される。


「これで体とか鞄とか拭きなよ」


「…………ありがたく使わせてもらう」


「ふはっ、顔が不服そうですよ佐藤くん!」


眉を寄せ礼を言ったが、その表情を見て、宝来が腹を抱えるが、それに対し僕は訂正を入れる。


「不服なんじゃなくて、不本意なんだ。あと、自分にイラついているだけだ」


手に持っていた水を吸ったハンカチを宝来の顔に投げつけた。ただの八つ当たりだ。自覚はある。




そんな朝だったが、午前中の授業は無事に終わった。ここで一息吐き、放送室で昼食を取ろうとしたが、


「…………弁当忘れた」


寝坊した為、弁当を持ってくるのを忘れたのだ。(弁当は前日の夜に準備して冷蔵庫にしまってある)


「……まあ、いいか」


買ってきた飲み物だけを手に、放送室へと向かった。一食抜いた所でなんの問題もない。僕は燃費が良いのだ。


「先輩‼︎先輩は言いましたよね‼︎私に放送させてくれると‼︎」


放送室に向かう途中、幡木バカと遭遇。もう既に面倒な予感しかない。


「言ってない」


「言いました‼︎夏休みの宿題全部終わったらやらせてくれるって‼︎」


「誰がいつそんなことを言った?僕は知らない」


「嘘だったんですか⁈」


「嘘も何も身に覚えがない。わかったら教室にでも帰れ」


虫でも払うかのように手を振って幡木の横を通り過ぎる。


「あれ?先輩、いつも持ってるお昼ごはんはどうしたんですか?」


何故か無駄に目敏い幡木は、僕が弁当を持っていないことを指摘してきた。しかし、答えてやる義理はない。無視して進む。


「あっれぇー!まさか忘れたんですか?先輩ともあろうおかたが‼︎プププッ」


僕の馬鹿に対する煽り耐性は大体100%だ。その程度の挑発には乗らない。


「彼方先輩とかに言いふらして来ますね‼︎」


そう言い、ニヤニヤと笑いながら僕の様子を伺いつつ踵を返す幡木に、一つため息を吐き


「……別に構わない。だが、今後一切放送室には立ち入れないと思え」


冷めた目でそう告げた。その後、騒ぐ幡木は無視して放送室に無事辿り着いた。

放送も無事に終え、昼休みも終了した。




が、本当に最悪だったのは、午後だった。


「今日から午後の授業は全部文化祭の準備になります。僕等のクラスは、仮装喫茶に決まっているので、役職やメニュー等を決めていきます」


水城が黒板に"仮装喫茶"と書き、その横に役職がつらつらと並べられていく。


「一部の生徒は劇と並行で大変だと思うけど、頑張ってね」


「ちょっと待て」


「何かな、佐藤君」


黒板に書かれた文字を見て、僕は声を上げる。


「何故、初めから僕の役職が決まってるんだ…?」


ウエイトレス 佐藤


と自然な流れで書かれたその名前に、僕は質問を投げる。


「えっ?前に言ったよね。"着替えなくてすむよ"って。だったら、接客一択でしょ」


「……、、」


言いたいことはいくつかあるが、一番問題なのは、ウエイターではなくその横に並ぶウエイトレスの欄に名前が書かれたことである。


「頑張ってね。グリシーヌ」


その名で僕を呼ぶな。

あと笑うなクラスメイト共。


当然、拒否権は存在しなかった。




役職が決まり、皆がそれぞれ準備に入った。僕も不本意ながらもメニュー作りに参加しようとしたが、ガシッと腕を掴まれた。恐る恐る振り返ると、ニッコリと笑うクラスメイトの女子。


「…………なにかな、坂本さん」


「もう。わかってるくせに」


分からないはずがない。彼女の手には、僕の嫌いな衣装があった。


「これね。水城君と金見君に頼まれた、"仮装喫茶用"の衣装。もちろん、試着してくれるよね?」


僕は彼女の手を振りほどき、駆け出した。


「佐藤君逃走‼︎各自追走開始‼︎」


その瞬間、教室中に響く声で坂本さんが叫んだ。


僕は振り返る余裕もなく、走った。


「逃がさないぞ‼︎」


「3年目にもなるんだから、いい加減諦めなよ‼︎」


追いかけてくるのは、声からして水城と金見の二人。坂本さんの言葉からして、裏で繋がっている事は理解できた。

普通に逃げるだけだと、当然すぐに捕まる。しかし僕は以前の経験から、この日の為だけに逃走ルートを頭に入れていた。

まずは、ここは3階。怪我を覚悟で階段の手すりに腰掛け、一気に滑り降りる。


「佐藤君危ないよ!」


「おお…!流石に三年目ともなると逃げ方が上手くなってくな」


驚いて足を止め、階段の隙間から下を覗きこむ二人の声を聞きながら、無事に着地。休む間もなく、走る。追いつかれる前に、逃げ切らなくては。

下駄箱までは遠い。先回りされている可能性もある。だから僕は下駄箱とは逆方向に走った。



そして冒頭に戻る。







後ろにあった机に寄りかかり、掴まれている右足を思いっきり引くが、金見の手は離れない。


「離せっ‼︎」


「いい加減観念しなって。どうせ着ることは確定してるんだから、いつ着たって変わんないっしょ」


金見の言い分は最もだ。が、僕にも譲れないものはある。


「僕は好き好んで女装している訳じゃない!1分1秒でも、あの衣装を着ている時間は短くしたいんだっ‼︎」


「大丈夫大丈夫。似合ってるから!2年間の公演できっちりファンもついたじゃん」


「そういう問題じゃない!男としての矜持の問題だ‼︎」


そう叫び、僕は掴まれていない左足を振り上げ、金見の手に振り下ろす。


「うおっと‼︎あっぶないな。仮にもバスケ部レギュラーの手を!」


踏みつけられる前に手を離した金見。離れた瞬間、僕は地窓から離れ、教室の窓の方へと走る。


「レギュラーだろうが何だろうが、知るか‼︎お前が怪我をしようがどうしようが僕には関係ない!」


予め鍵を開けておいた窓を引き、窓枠に足を掛け外へと飛び出した。


その様子を床に這い蹲り、地窓から見送った金見は、立ち上がり体についた埃をはたいた。


「今年の佐藤君は本気だな」


「うーん。事前に言ったのはまずかったかな…?」


一度合流した水城と金見は、外に逃げた佐藤の後を追うべく、地窓から教室内へと入り、開いたままの窓から外へと飛び出した。






「……行ったか」


その二人の背を隣の用具室の窓から見送った僕は、埃っぽいのも気にせず、ふぅ、と一息つき座り込んだ。


が、次の瞬間、


バァァンッ、とその用具室の扉が勢いよく開けられた。


「⁈」


「ふふふふふっ。君の行動は読めていたのよ!」


そこに立っていたのは、坂本さんだった。


「………何で、分かった?」


「この間、こんなとこに用事なんかないはずなのに、ここと隣の教室に出入りしてるのを偶然見たから」


「…………はぁ」


僕は膝に顔を埋め、ため息を吐いた。


「そんじゃ、行こうか」


「そうそう。まだ仮止めみたいだから、ちゃんと試着してね」


背後の窓から顔を覗かせる水城と金見。


「さぁ行くわよ!指名数No. 1!我がクラス一番の稼ぎ頭‼︎」


僕の腕に絡み、何もない天を指差してそう叫ぶ坂本さん。


「……………………はぁ」


僕はもう一度大きくため息を吐いた。








「かっわいいっ‼︎」


「…………」


「やっぱり今年も私の見立てに間違いはなかったわ‼︎」


テンション高くキャーキャー騒ぐ坂本さんに呆れつつ、自分の着せられている服を見下ろす。


今回の衣装は、前回の青い衣装とは真逆の真っ赤な色の衣装だった。

黒、臙脂、赤、ピンク、白と何段にも重ねられ、ふんわりとスカートが広がったプリンセスラインの英国風ドレス。

どこのパーティに出かけるのか、と問いたくなるようなド派手なドレスだった。オマケに、フリルやリボンがふんだんに使われたつばの広い帽子が今回の小物である。ついでに言うと、背中にファスナーが付いている為、一人では脱げない仕様である。あわよくば、少しの間でも脱いで逃げようという僕の考えは、当然読まれていた。くそっ…。


「今回は勝ちに行くわよ!頑張ってもらうからね、グリシーヌ‼︎」



なあ今回僕は、何をさせられるんだ?

文化祭編突入。


まずは準備編。次も準備期間かな……。10月更新分から文化祭本番になる予定です。


毎回毎回同じような話、かとは思いますが、少しでも楽しんで頂けるよう頑張ります。


それでは次回もどうぞよろしくお願い致します。

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