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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
七章 高校三年、一学期
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123話 12年間の僕の苦労を返してくれ

遅れて申し訳ありません。


中途半端に終わった感があるけど、アップします……!

あとで補足、編集するかも……。




僕は戦慄した。


「なんっ、だと…」


目の前の現実が理解できず、僕らしくもなく、ただ呆然と呟くしかなかった。








数十分前のことだ。

夏休み最終日の今日、予想通り宝来がノートや教科書を抱えて僕の部屋に来た。そして、こう言った。


「遊びに行こうぜ‼︎」


僕は近くにあったクッションを宝来に投げつけた。

持っているものと言動とが噛み合っていない。僕は怒りを隠すこともなく、宝来を正座させた。


「……宿題を僕に押し付けに来たんじゃないのか?」


「なに言ってんだよ!俺がそんなことするはずないだろう‼︎」


どの口がほざきやがる。

過去の12年間を思い返してほしい。


「…………宿題以外なら何の用だ?」


「だから、せっかくの学生最後の夏休み最終日だぜ?遊ばなきゃ損だろ‼︎」


「外に出るだけで金を浪費するだろう。僕にとってはその方が損だな」


「まあまあ、そんな堅いこと言うなって‼︎みんなでパーっと遊ぼうぜ‼︎」


お前は頭がパーなだけだろ。


「……そうだな。お前の宿題が全部終わっている、と言うなら考えないでもない」


どうせできてないのだろうが、と思いそう言うと、宝来はにんまりと得意げに笑い、テーブルの上に置いていたノートやらプリントやらを指差しバンバン叩き始めた。

…言葉を知らないチンパンジーか何かかお前は。

ため息を吐きながら、見ろと促されいるのであろうと、ノートを一冊手に取り開く。

と同時に僕は目を見開いた。


「⁈」


声もなく驚き、バッとノートから顔を宝来へと移す。


「ふふん」


相変わらず腹の立つドヤ顔だった。

しかし今はそんなこと、どうでもいいのだ。動揺を隠し切れず、続いて他のノートやプリントも確認する。


「……嘘、だろ」


「どうだ‼︎俺だって、やればできる子なんだぞ‼︎」


僕の正面で得意げに胸を張る宝来と、目の前のテーブルの上に置かれた紙やノート。それら全てを震える手で確認し終えた僕は、頭を抱えて静かに叫んだ。


「宝来の宿題が全て、終わってるなんてっ……‼︎」


「よっしゃ遊びに行こうぜ‼︎」


頼むから少し空気を読んでくれ。

衝撃から立ち直れない僕は、頭を抱えたまま項垂れた。そして思った。


やればできる子なら、そのやる気を12年前から出せよ、と。


過去十二年間を思って、僕は涙が出そうになった。


理不尽に課される他人の宿題。

まだ幼かった小学校一年生の僕は、母親に「復習することはいいことなのよ」と促されるままに、おかしいなと思いつつも、既に"終えたはずの"宿題をもう一度やった。それが宝来の分だと知ったのは、三年生の時のことだ。


三年目の夏休み、自分の分は終わったから、宝来の宿題までやる気はない、と僕ははっきりそう告げた。


次の日から、家事は僕の仕事になった。


家事を少し減らす代わりにと、宝来の宿題をやらされた。


四年生の時、一年間やらされた家事はもう特に苦ではなかった為、今年は脅せるものはないだろうと断った。


翌月の8月の小遣いがなくなった。


楽しみにしていた本が買えないと、少し泣いた記憶がある。

文字通り、泣く泣く僕は宿題を引き受けた。


五年生。僕は諦めた。

幼いながらに悟ったのだ。宝来の宿題をやらされるのは運命なのだ、と。


母は宝来の母と親友で、宝来のことが好きだった。何故、実の息子の僕より宝来なのか、と思い一度聞いた事がある。理由は単純だった。

僕は、単身赴任やら出張やらで殆ど家に帰って来ない父にそっくりなのだそうだ。誤解を招かないように言っておくが、母は父の事が嫌いな訳ではない。構ってもらえなくて、拗ねているだけだ。僕に当たるな、と言いたかった。

そして、僕のこの冷めた性格だ。宝来のように人懐っこくて明るい子が欲しかったのだと、母は実の息子の僕に、まだ10歳だった僕にそう告げた。

しかし、嫌われているのかといえばそうではなく、虐待されたわけでも、育児放棄されていたわけでもなく、ただ単純に、宝来が母の好みドストライクの子供だっただけなのだ。

はっきり言って、母親としてはクズだと思った。

そんな母親から生まれた僕が、宝来のような明るくて人懐っこい子供になれるはずがないだろう?


こうして、僕は12年間宝来の宿題をやらされていると言うことだ。


しかも、だ。宝来は小学校六年間、夏休みや冬休みに宿題があること自体を知らなかった。

僕の母がこう言い、宝来から宿題を持って来ていたそうだ。


「ごめんね。私の息子の宿題が混ざってるみたいだから、ちょっとランドセル貸してもらえる?」


宝来は何の疑問も持たず母にランドセルを渡した。この馬鹿が。

補足だが、ど天然の宝来の母親はその裏工作に気づいてすらいない。


もう一度はっきり言おう。

母親としてクズだと思う。



さて、過去話はこれくらいにして、12年間の僕の苦労が報われた、と言うのは少し違うが、現実問題宝来の宿題が終わっている、という事実に目を向けるとするか。



「なあなあなあ!遊びに行こうぜ‼︎宿題終わってたらいいんだろ‼︎」


「………………そう、だな。確かに"考える"とは言ったな」


「そんな考えるとか無駄なことしてないで、行くぞ‼︎11時には駅に集合なんだ‼︎」


考えることは大事なことだぞ。お前のような馬鹿には特にな。というか、


「……僕の承諾なく、勝手に予定決めるなよ」


今回は仕方ないか、と僕が譲歩することにし、立ち上がり出かける準備を始めた。







駅前に着くと、そこにはいつもの四人がいた。彼らを見た僕は、思わず聞いた。


「…………お前ら、どうした?」


「やあ、佐藤君。…夏休みはどうだった?」


「一人の夏休みはどうだった?ねえ、どうだった?」


「俺勉強大好き、勉強大好き勉強大好き勉強大好き勉強大好き勉強大好き勉強」


「勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強」


「…………」


彼ら四人は、 一様にやつれていた。

部活が大変だったのか?と聞くのは野暮である。虚ろな瞳で"勉強"と呟く二人を見れば、大方の予想はつく。一人ケロッとしている宝来や、夏休みに殆ど宝来と、バスケ部と関わらなかった僕を、恨みがましそうな目で見てくる水城と金見を見れば一目瞭然とも言えるだろう。

だから、僕の言える言葉は一つである。


「ある程度は有意義に過ごさせてもらった。厳密に言えば一人、というわけではなかったがな」


水城達の方にも何かあったのだろうが、そこは聞かないでおく。聞いたところで、受験勉強を理由に宝来の世話を丸投げした僕が責められるのは目に見えている。僕の方も家庭教師に来てもらったし、迷惑な突撃訪問もあった。


「あれ?先輩方じゃないですか‼︎何してるんですか?」


そう、こんな風に…………、、


「…………」


ゆっくりと振り返り、少し下に目をやる。ニコニコと、いつでも楽しそうな馬鹿面がそこにはあった。


「私もまぜてください‼︎」


「「「「「帰れ」」」」」


宝来以外が口を揃えてスッパリとお断りした。


「な、なんですか‼︎そろって私を邪険にするつもりですか⁈」


思わず、と口を押さえたのは水城だけだった。水城は慌てて弁明し始める。そいつ相手に気を使う必要はないというのに。


「いや、違うんだ。今回は、バスケ部インハイ優勝と、彼方の宿題が終わった記念の集まりだから。今回はまぜてあげられないんだ。ごめんね」


ほー、そうだったのか。それは僕も初耳だ。優勝おめでとう、と言っておこう。心の中で。


「………………」


その言葉を聞いた幡木は、何も言わず俯いた。頼むからいつもそれくらい静かにしてくれ。

その様子に水城は、申し訳なさそうに、もう一度謝ろうと口を開いたが、


「本当にごめ「どうしましょう先輩‼︎気がついたら夏休みが終わりです‼︎」


幡木のその声にかき消された。しかも、幡木は何故か僕の顔を見て言う。


「だからなんだ?」


唯々事実を言われただけの僕は、冷たく返す。


「宿題やるの忘れてました‼︎終わってません‼︎」


「………………」


幡木は、終わっていない、と言う割に然程深刻そうでもなく、いつも通りの能天気な顔で叫ぶ。だから、何故僕に言う?


「どうしましょう?」


首を傾げられたところで、僕にはどうしようもない。しかし、一つだけ聞きたかった。だから、丁度隣にいた水城に視線を動かすことなく、静かに問う。


「……なあ、僕は後輩の宿題まで面倒を見ないといけないのか?」


「………さあ?」


素っ気ない答えしか返ってこなかった。



十三年目は後輩の宿題でした、とかふざけた冗談だけはやめてくれ。

勿論NO以外の答えはないが、断る代わりにアドバイスだけはしてやろう。


「死ぬ気でやれば一日で終わる。ガンバレ」


これは僕の経験談である。

夏休み、終わりましたね。

そんな話です。


これでいいのか、とは思いつつも、続けたら多分グダグダして終わらないので、ここで終わります。

この後どうなったかは、ご想像にお任せします。


と、言うわけで、次回より二学期に入ります。

文化祭編に入っていかないとな、と思ってます。今、まっっったく、ネタ書いてないので、頑張って書いていきたいと思います。


それでは次回もどうぞよろしくお願い致します。





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