120話 夏休みの訪問者 その1
ちょっと短いですが、許してください……。
またしても遅れて投稿、大変申し訳ございません。
今日も家庭教師の榊原さんと勉強している時、インターホンが鳴った。母が不在な為、一言謝り僕は玄関へと向かった。ガチャリ、とドアを静かに開けた。が、僕は相手を確認しなかった事を後悔した。
「はい。どちら様で、」
「私は帰ってき「お帰りください」
バタンッ。
僕は相手の言葉を最後まで聞く前に、勢いよくドアを閉めた。
「少年、佐藤少年!何故閉める⁈久方振りに会った先輩に対して失礼じゃないか⁈」
鍵を閉め、念入りにドアチェーンもかけながら、外からのドンドンと止むことのない衝撃を気に留めることもなく、淡々と告げる。
「なんの連絡もなく自宅を訪問する顔見知り程度の関係の人に対する礼儀なんて僕は持っておりません。速やかに、即刻、できる限り静かにお帰り下さい。そして二度と来ないで下さい」
外からの反論を待つ事なく、僕は一階の窓の鍵を全て閉めてから、二階の自室戻った。部屋を入ってすぐに、榊原さんからの視線が突き刺さった。そして、困惑した表情で、窓の外を指差す。
「えっと……、知り合い?」
「………………」
絶句した。
「少年‼︎開けたまえ‼︎折角休みに会いに来た先輩の話も聞かずに門前払いとはいい度胸だ‼︎君に礼儀というものを教えてやろうじゃないか‼︎」
「…………」
僕は痛い程の視線を浴びながら、抑えきれなかったため息を吐きながら窓に近づく。鍵を閉めておいてよかったと、心の底から思ったのは初めてだ。
「よし少年、そこに正座だ‼︎いや待て、その前に私を中に入れたまえ‼︎暑くて敵わん‼︎先輩、いや会長命令だ‼︎」
一枚のガラス越しに、先輩とも思いたくない先輩と対峙し、先輩の要求というか、命令だと言われた言葉に対して、反論する。一つだけ、要求通り窓の前に正座だけはしてやる。
「まず、貴女は数ヶ月程前に卒業しているので、今現在の僕の"先輩"には該当しません。同様に会長でもありません。よって、命令に効果はかけら程もありません」
「聞こえん、聞こえんよ少年‼︎はははは!窓が邪魔で聞こえんなぁ‼︎」
窓の外、直射日光にさらされている屋根にドカッと胡座をかき、高笑いする元先輩。
「……そのまま落ちて死ねばいいのに」
「先輩に対して死ねとはなんだ‼︎死ねとは‼︎」
ボソリと呟いた言葉に対し素早く反応し、窓に両手と頬をつけ目を釣り上げる元先輩に、
「聞こえているようなので、続けますね」
「くっ、おのれ少年‼︎姑息な手を使いおって…!」
先輩のオーバーなリアクションに対しては無反応で、淡々と続ける。
「さて、貴女の用向きの内容等は心底どうでもいいのですが、まず、無断で人の家の屋根に登っている理由から聞かせてもらえますかね?」
「おっと、それは言えんなぁ。暑くて死にそうだから、まずは中に入れてもらおうか。話はそれからだ」
僕の質問に対し、答える気はまるでなく、意地でも中に入ってこようとする元先輩。姑息なのはどっちだと言いたくなるが、そこは我慢だ。そんな相手の対処方法は心得ている。僕はポケットからスマホを取り出し、電話のキーパッドの画面を開き3桁の数字を押し、先輩に画面が見えるようして、一言告げる。
「今すぐ警察を呼んでもいいのですが」
「私は夏休みを利用し、よくしてやった後輩の家を訪ね門前払いをくらった。仕方なく窓から入ろうと思ったが空いてなかったので、屋根に登った。あわよくば二階の窓からの侵入を試みたが、それも失敗。そして、中に人がいたから開けてもらおうかと思ったところに君が来た。以上だ」
妙に説明口調で、不法侵入を正当化しようとしている元先輩に、僕は正論をぶつける。
「"仕方なく"で窓からの侵入を選択に入れないで、大人しく帰ってくれませんかね。はっきり言って泥棒と同じですね。人に見つかって帰らない分、泥棒よりタチが悪いですが。それと、よくなんてしてもらった覚えがありません。迷惑しか被っていないので、いい先輩ぶらないでくれますか」
「先輩に向かって泥棒とはなんだ泥棒とは‼︎それと、私は心底いい先輩であっただろうが‼︎」
「………はぁ」
話を聞く気がないのか、理解できる頭がないのかは知らないが、変わらず話の通じない宇宙人である、皇凰羅元先輩に、僕はため息が零れる。
「なんだなんだ少年!そのため息は健在か‼︎幸せが逃げるぞ‼︎」
僕は顔が引きつるのを感じながら、もう一度ため息を吐き、窓にバチンッとスマホを叩きつけた。
「今すぐ帰って下さい。さもなくば、本当に警察を呼びます」
110と表示され、あとは通話ボタンを押すだけの画面を再度眼前に突き出し、低い声でそう告げると、先輩は立ち上がり、腰に手を当て、
「……ふぅ。わがままな後輩君だな。分かった今日は帰ろう。再度一報を持って訪ねよう。さらばだ‼︎」
何故か格好をつけながら、屋根から飛び降りた。怪我をしたのでは、なんて心配などするはずもなく、僕は窓から先輩が帰るのをしっかりと見張り、やっと一息ついた。
そして振り返ると、
「…………」
「…………」
榊原さんが居たのを思い出した。
「…………」
「…………」
「えっと、お茶、飲む?」
「……いただきます」
嫌な沈黙の後、休憩中だった為あったコップを差し出して来た榊原さんの提案に頷く以外できなかった。
口に含んだお茶は、先輩との攻防の間に温くなっていた。
家庭教師の大学生に同情され、気を使われた、そんな不幸な一日だった。
皇凰羅元先輩から、一報が入ったのは翌日だった。
先輩に電話番号教えた覚え、ないんだが……?
というわけで、皇凰羅会長さんのご登場です。
あ、元会長さんか。
家庭教師の空気感が半端ないけど、今回はこれでお楽しみ頂けれてればな、とか、思ったり……。
次回はその2を書けたらな、と思います。
次の訪問者は……わかりますね?
そう、あの子です。
それでは次回もどうぞよろしくお願い致します。