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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
七章 高校三年、一学期
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119話 1ヶ月の契約勉強会

間に合った……!

一応新キャラいます。今後そんなに出ないかもだけど……。



夏休み、僕はバスケ部の合宿には参加せず、自宅で勉強をしていた。

一人で勉強するのは好きだ。だが、一人では限界がある。特に、僕が目指す大学は偏差値が高い。

そんな時に僕は"夏期講習"のチラシを見た。そして、一つ頷いた。










8月初頭。俺は小さなメモに書かれた地図を片手に、とある家を目指していた。


「えーっと、ここかな?……ああ、あってる。よかった」


一軒の家の前で止まり、表札に書かれた名前を見て、ホッと胸をなで下ろす。

しかし、問題はここからだ。

インターホンを鳴らし、表情を引き締める。


「こんにちは。榊原さかきばら 零也れいやといいます。こちらの佐藤君の家庭教師で来ました」


ガチャリと玄関のドアが開かれた。


「………どうぞ」


「あ、ああ、お邪魔します」


母親が出てくるかと思ったら、出て来たのは、恐らく生徒になる佐藤君であった。促されるままに家へとお邪魔し、先導する佐藤君の後を追う。


「先に言っておきますが、親は留守です。だから、あまり気を張る必要はないですよ」


「そうなんだ。じゃあちょっとだけ気を抜いちゃおうかな〜、なんて」


あはは、と場を和ませるつもりで言ったが、


「…………」


佐藤君は振り返ることすらなく、無視して階段を登って行った。俺は少し肩を落とし、


「すこーし、気難しい生徒がきちゃったかな……?」


そう呟き、佐藤君に続き階段を登った。


案内されたのは、佐藤君の自室。


「へえ、随分と本が多いんだね。本、好きなの?」


ベッドと勉強机にテーブル、本棚しかないシンプルな部屋に、思わず聞いてしまった。これから1ヶ月は通う事になる生徒だ、少しはどんな子か知るべきだろうと、知っておきたいな、と思って聞いたことだったが、佐藤君は普通の子とは少し違った。


「そうですが、なにか問題がありますか?別に僕が本を読もうが、漫画を読もうが、貴方には関係ないはずですが?」


「あー、そうだね。ごめん」


なにこの子怖い。とっさに謝ってしまった。いや、なんで謝ってんの俺……。


「それでは、時間が無駄なので、早速勉強を教えて頂きたいのですが」


そう言い、既にテーブルに用意されていた勉強道具一式と、座布団二枚。そこに座った佐藤君はシャーペンを持ち、俺に着席するよう目で促す。


「ああ、そうだね。じゃあ始めようか。あ、敬語外していいよ」


そうして、俺の夏の家庭教師バイトは始まった。









「なんで夏期講習に行くんじゃなくて、家庭教師を呼ぼうと思ったの?」


2時間程勉強し、休憩に入った。佐藤君はお茶を用意してくれ、ありがたくそれを頂いている時、ふと疑問に思った事を口にした。


「こんなクソ暑い中、わざわざ外に出たくないからだな」


その返答は、またも予想外のものだった。が、俺も引かずにもう少し聞いてみる。


「……そのクソ暑い中、歩いて君の家まで来てる俺は?」


「金を貰ってるんだから、それくらいは当然じゃないのか?」


「いや、確かにそれを言われちゃうと何も言えないんだけど、一応俺まだ大学生だからね?」


「高収入のいいバイトだろ?」


「………いや、それはそうなんだけど」


よくそれを本人に言えるな、と思ってしまった。それと同時に、すごい子を生徒に持ってしまった、とも思った。質問をするのをやめようかと思ったが、今度は佐藤君から口を開いた。


「それに、僕が貴方を指名したのには多少は理由がある」


「おっ、それは是非とも聞きたいね」


なんと、俺が指名されたのには理由があると言う。とても気になり、少し前のめり気味に聞いてしまう。


「僕が目指している大学に在籍しているからだ」


「へぇ、君もあそこ目指してるんだ。結構偏差値高めだよ?」


「だからわざわざ安くない金を払ってまで、家庭教師なんてものを頼んでるんだろ」


「…………」


ああ言えばこう言う。きっと、この子に口では勝てそうにない、そう思った夏の日でした。


「ほら、休憩はここまでだ。さっさと勉強を教えろ。僕には時間がないんだ。この母とあいつのいない時間で徹底的に頭に詰め込む。そして、さっさと合格して、受験戦争からおさらばだ」


「計画的なはずなのに、悪巧みのように聞こえるのは何故だろうか……」


「何か言ったか?」


「イエナニモ」


こうして、俺の少し長く感じる、1ヶ月の家庭教師バイトが始まった。因みに、週2日、1日4時間の契約だ。値段については、まぁ聞かないでくれると助かる。





家庭教師二日目。


「今日は近くで夏祭りがあるんだね」


「そうだな」


「佐藤君は行かないの?ほら、彼女とかさ」


今日も休憩中、佐藤君と雑談をしていた。今日の家庭教師は午前中なので、近所で夏祭りには間に合う。そこで、年下の佐藤君を少しからかおうと、ニヤリと笑いながら聞いてみた。


「彼女はいない。まあ、誘いに来るやつはいるがな…」


「………なんで、そんな人を殺しそうなくらいな目つきで苦い表情なのかな?」


夏祭りってそんなに辛い行事だっただろうか?

そう考えた時、佐藤君が静かに目を伏せた。


「……来たか」


「えっ、なにが「佐藤ーーー‼︎‼︎」


バァァン、と壊れそうなくらいな勢いで部屋のドアが開け放たれた。


「夏祭りだぞ夏祭り‼︎お前も行くよな‼︎18時に集合な‼︎」


「煩い黙れ近づくな」


勢いのまま佐藤君に詰め寄った彼の腹に、佐藤君の拳がクリーンヒットした。


「…………彼、大丈夫かい?」


「放っておけ」


腹をおさえて蹲る彼を見て、思わず聞いたが、佐藤君は冷めた目で見下ろすだけだった。しかし、ガシッと佐藤君の腕を掴む彼。


「ま、まつりぃぃ……」


片手で腹をおさえながら、涙目で佐藤君にうったえる彼。彼のこの祭りへの執着はなんなのだろう?

僕はお茶を飲みながら、二人を観察する。


「…………はぁ」


佐藤君は一つため息をこぼしたと思ったら、掴まれている腕を払いのけた。そして彼に向きなおり、言う。


「いいか宝来。僕は今、勉強をしている」


「お茶飲んでんじゃん‼︎」


「休憩中だ。そして、この人に僕が金を払って、勉強を教えてもらっている。いいか?安くない金を払っている」


なんか不正な取引に関わってるみたいだから、その言い方やめてもらえないかな?

普通に家庭教師、って言ってくれないかな……。


「本当だったら、7月下旬から頼むはずだったものを、お前の追試に付き合って8月に伸びたんだ。その上、祭りだ?合宿が終わったと思ったらすぐそれか。お前も暇だな。少しは受験生だという自覚を持って勉強でもしろ」


ああ、予約入ってたのに予定が伸びたのってそういう理由があったのか。まあ俺はいつでも良かったからいいんだけどさ。


「で、でも…。合宿終わったばっかだし、1日くらい遊んでもいいだろ‼︎」


「1日で済むんだったらな。花火大会に、もう一箇所でやる盆踊りは行かないんだな?」


「行くよ‼︎」


いやいや、そこは嘘でも行かないって言わないとダメだよ…。

佐藤君は額に手をやり、深くため息をついた。


「今年は猛暑だ。こんな暑い中人混みの中に出ようと思う奴らの気が知れん。僕の今夏の目標は、"重要な用事がある時以外は外に出ない"だ。つまり、夏祭りにも花火大会にも行かない。分かったら帰って勉強でもしろ。この留年予備軍が」


その目標に、どれだけ外に出たくないんだよ、とある意味関心してしまった。

というか、家庭教師としては聞き捨てならない言葉があったような……。留年予備軍?あれ、これって突っ込んだら負けなのかな?


佐藤君は彼に部屋を出て行くよう言う。彼はショボンと肩を落とし、トボトボ歩いて部屋を出て行った。


「さて、勉強再開しよう。無駄な時間を使った」


「…………ああ、うん」


何事もなかったかの様にノートを開いた佐藤君に驚き、少し反応が遅れた。俺も教科書を開いたとき、


「18時集合だからな‼︎‼︎」


窓の外から叫ぶ声が聞こえた。

祭りに誘うのを諦めていないようだ。


「…………本当に行かないの?」


「行かない。ああ、代わりに行ってくれてもいいんですよ?」


「いや、無理だわ」


俺だって、名前も知らない相手と祭りに行こうとは思わない。だけど、一つだけ言わせてくれ。


「いい友達を持ったね」


「はぁ?あんた頭大丈夫か?」


佐藤君って、意外と毒舌だよね。


家庭教師の話です。

今回は主に榊原君視点で書きました。


次回も家庭教師の話になるかも……。



それでは次回もどうぞよろしくお願い致します‼︎

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