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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
七章 高校三年、一学期
140/178

118話 鶏は三歩で物事を忘れるらしい

急いで書いたから、内容おかしかったらすみません……。


「…………ああ」


目の前に書かれた文字に、僕は納得した。そして同時に肩を落とした。

宝来が着いて行った、とある部室。


「ここにだけは来たくなかったんがな……」


そのドアの窓に貼り付けられた、何というか、ロイヤルな筆記体で書かれた文字。ご丁寧に注意事項まで書かれている。

『宝来彼方ファンクラブ

*会員以外の立ち入りを禁ず

*入る時にはノックと会員番号と合言葉を述べよ


♡彼方様は今日も麗しい♡』


狂った注意書きは無視したいところだが、条件を満たさなければ入室はできないだろう。ドアに手をかけてみたが、鍵がかかっており、開かない。


「…………」


「う、わぁ……」


「改めて思うけど、酷いね…」


水城と金見もドン引きである。僕も思わずため息を吐く。


「どうする?僕達、合言葉なんて知らないよ」


「会員でもないしな」


顔を見合わせる二人。そんな二人を尻目に僕はドアを軽く二度叩きこう言った。


「会員番号マイナス100。写真を提供をして欲しければ、今すぐここを開けろ。そして、僕の言うことを聞け。じゃなければ、今後一切写真提供はしない」


瞬間、バンッと勢いよくドアが開かれた。ドアの前に立っていたのは、息を切らしてドアに手をかけている、同学年の女子生徒。


「さ、さあ、中へどうぞ」


どれだけ急いだのか聞きたくなるくらいに、肩を上下させ薄っすら汗もかいている彼女。後ろにいる後輩はポカンと口を開け、僕達を見ている。

後ろにいる水城と金見も不思議そうに僕を見る。

やめろそんな目で見るな。




中に入り、案内されるがままに着いて行くと、


「あっ、佐藤‼︎ここすげぇぞ‼︎」


好待遇で寛ぐ宝来がいた。


『…………』


宝来が座る椅子は、ふかふかの赤いソファで、レースのテーブルクロスの敷かれたテーブルの上では、アフタヌーンティーが開催されていた。

三段のハイティースタンド(ケーキスタンド)には、一口サイズのサンドイッチにプチガトーやマカロンなどが乗っており、その横にはティーポットにカップが置かれている。当然、宝来の前にあるカップにはミルクティー色の液体が入っている。


「……………何をしているのか、聞いてもいいか?」


真顔で固まった水城と金見の代わりに、僕は宝来に静かに問いかける。


「見てわかんねぇのか?三時のオヤツだ‼︎めっちゃ美味いぞ‼︎」


「いやん彼方様。そんなに褒められると照れますぅ」


僕に、フォークに突き刺した小さなチョコケーキを向けてくる宝来。その宝来の言葉に、真っ赤になった頬に両手を当てて体を左右に揺らす同級生の女子。

というか、"めっちゃ美味いぞ"じゃねぇよ。

僕に向けていたフォークを自分の口に運び、むぐむぐと口を動かす宝来を冷めた目で見下ろしながら、僕は問う。


「お前、さっき水城がなんて言ったか覚えてるか?」


「ん?なにしてるか聞いてきただけだろ?お前、顔怖いぞ」


首を傾げつつも、食べることを止めない宝来。新たにフォークにケーキを刺し、口に運ふ。


「……聞き方を変えよう。お前が教室から出て行く時、水城がなんて言ったか覚えているか?」


「んん?なんだっけ…………あ」


咀嚼しながら考えていた宝来は、暫しの沈黙の後、ポカリと口を開け声を漏らした。そして、僕からサッと目を逸らした。


「どうした宝来。何故目を逸らす?何かやましい事でもあるのか?」


「えぇ、とぉ……。えへ」


ダラダラと冷や汗を流しながら、僕の方にそろりと目を向けたかと思うと、誤魔化すように笑った。


「誤魔化す彼方様、かわいい……」


その誤魔化し笑いを見た彼女は、両膝をつき顔を覆い小さく呟いた。

最早病気以外のなにものでもない気がするのだが、どう思う?


「笑ってんじゃねぇよ。すぐに戻って来いって言わなかったか?あと他にも言ったな。試験期間中女子に着いて行くな、とも言ったな?」


「だ、だって後輩じゃなかった‼︎」


「"女子に"って言っただろう。こいつは女子じゃないのか?男子なのか?」


床に沈んだままの彼女を指差し、宝来に聞くと宝来は無自覚に爆弾を投下した。


「お前はそいつが男子に見えるのか⁈かわいい女子だろうが‼︎」


「はうぅぅ。か、かわいい、だなんて……」


湯気が出る程に顔も、耳まで赤くした彼女は最早使い物にならない。聞きたいこともあったのだが、まあ宝来に聞くとしよう。


「留年してほしいって頼まれたら、お前は留年してやるのか?」


「いや、そこの子が真剣に頼んでくるから……」


「くるから?」


「断ったらお茶に誘われた‼︎」


「意味が分からん」


そこの子、とドアの近くに立っていた後輩を指差し、理解できない行動を口にした宝来。


「お菓子あるって言うし、ちょうど腹減ってたから、つい」


「彼方様は悪くないの!私が、わがまま言ったから……」


「そんなことねぇよ!菓子もお茶も美味いし、誘ってくれてありがとな‼︎」


宝来を庇う後輩の彼女と、そんな彼女に礼を言う宝来。

そんな状況に更にため息が漏れ、額を押さえながら、再度問う。


「……お前は留年したいのか?」


それに宝来は肩を揺らし俯いた。かと思ったら、バッと立ち上がり叫んだ。


「美味しいお菓子と紅茶があるから、少し休んでいかないか、って聞かれたから少し休憩してただけだよ‼︎留年したいわけないだろ‼︎」


僕は自分の中で、なにかがブツリと切れる音が聞こえた。


「お前は自分の立場をもう少し理解しろ‼︎いいかお前はもう留年に片足突っ込んでるんだよ!次のテストでの赤点は許されないくらいにヤバい状況だっていい加減理解しろ!もう一度言うぞ、僕はお前が留年しようが関係ないんだ‼︎お前がいつまでもそんな態度でいるなら、いつだって見捨てるからな‼︎今年の夏休みのバスケ部の合宿は参加しないからそこの水城と金見に見放されないように必死に勉強するんだな、この馬鹿が‼︎」


サッと顔を青くした宝来。


「え、あの、佐藤、俺…」


「僕は今日は帰る。あとはそこの二人と頑張ってくれ」


やっと自分の危機的状況を理解できたのか、ただただ僕の言葉にビビったのかは分からないが、宝来は僕を引き止めようと手を伸ばして来た。しかし僕はそんな宝来には目もくれず、踵を返し、忌々しいファンクラブの部室を出た。



呆然としている宝来に声をかけたのは、今まで黙って見ているだけだった水城と金見。


「あーあ。佐藤君怒って帰っちゃったじゃん。どうすんの?」


「佐藤君だって、彼方がちゃんと勉強してくれたら、あんな事は言わないんだよ。もちろん僕達だって」


「……ごめん」


静かに宝来に言い聞かせるように言う二人に、宝来も反省したのか、俯むき謝罪を口にする。


「佐藤君の言った通り、見捨てるのは簡単なんだよ?でも、ちゃんと協力してるでしょ」


「そうだよ。彼方が留年しても、僕達は全然困らない。困るのは彼方と先生達だから。だから、留年したくないなら彼方も、受験生なんだって、赤点を取っているんだって自覚を持ってね」





「それじゃあ、勉強会を始めようか」


「おう!」


「無駄な時間で、勉強の時間をロスした分、厳しくいくよ。しっかり覚えてね」


「え?」


「忘れたとか言ったら叩くからね」


「……」


「はいそこ黙らない」


「目も逸らさない」


普段はうるさい口を噤み、サッと目を逸らした宝来を、二人は即座に注意する。


「ほら、戻って勉強するよ。佐藤君も"今日は"帰るって言っただけだから、明日は来てくれるはずだから」


「そうそう。明日も機嫌損ねて帰られないように、今日は頑張って勉強するよ」


そう言い、宝来を引きずって三人は部室を出た。







空き教室に戻った三人は、やっと勉強会を始めた。


「じゃあ、まずは英語から。テストの問題を順にやってくよ」


「少しは覚えてるよな?」


ホワイトボードにテストの問題を書いていき、1問目を指し聞く水城。


「はい。これの答えは?この問題は間違ってなかったよね」


「……………忘れました」


優しく聞いていた水城は、笑顔のまま聞き返す。


「………なんて?」


「……………………ワスレマシタ」


「「………………」」


宝来の一言に、水城と金見は無表情で黙り込み、ホワイトボードから目を逸らす宝来を見下ろす。そんな二人の視線に耐えられなくなった宝来は、バンッと一度机を叩き必至に訴えた。


「だ、だって、テストからもう1週間は経ってるじゃん‼︎もう全部頭から消えちゃったよ‼︎」


堂々と情け無い言い訳を口にする宝来。それに二人は同時に叫んだ。


「「こんの、トリ頭‼︎‼︎」」


「悪かったってーー‼︎‼︎」


珍しくブチ切れ、宝来を怒鳴りつけ、スパァァアンと、その使えない頭を叩いた。





色々ありつつも、五日間の赤点回避スケジュールを終えた宝来(と僕達)は、なんとかギリギリで追試を一度で切り抜けた、とだけ報告しておこう。勉強会の内容については触れないでくれると助かる。まぁ、言うつもりもないがな。忌々しい……。

というわけで、赤点追試編は一応終わっときます。勉強会の内容については、暇ができたら書きます。暇ができたら……。


次回は夏休みに入ります。今回で佐藤君が言っていた通り、合宿には参加しませんので、佐藤君の夏休みを書きたいと思います。でも、彼方君達もちゃんと出しますよ?(多分)


それでは次回もどうぞよろしくお願い致します!

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