116話 増えた問題と、増えるため息
なんとか更新…。
「助けて下さい!いえ、協力して下さい‼︎」
慌ただしく教室のドアから顔をのぞかせた、同学年だがあまり見覚えのない女子生徒。
僕と水城しか残っていなかった教室で、僕達は顔を見合わせ、首を傾げた。
それを見た時、僕は絶句した。
「………………お見事」
「えっ、そう⁈えへへ」
金見が思わずこぼした一言に、宝来は少し驚き、何故か照れた。
「褒めてるんじゃないからね?何を勘違いしてるのかな?」
そんな宝来に、無表情で氷点下の眼差しを送る水城。いつもとは違う水城の表情に、宝来もやっと事の重大さを理解したのか、青い顔で姿勢を正し、冷や汗を流す。
「彼方、これはないって……」
「……受験生だと、バスケ部のエースだという自覚が足りない」
岬と新井山にまで、そう言われた宝来は、俯き、聞こえるか聞こえないかの声で謝罪の言葉を口にする。
「はぁぁぁ。頭が痛い……」
「だ、大丈夫か?保健室とか行った方がいいんじゃないか」
大きくため息を吐き、眉を顰め頭を抑えた水城に、宝来は心配からだろうが、声をかける。しかしそれは逆効果だ。空気を読め。
「誰のせいだと思ってるの⁈」
普段は声を荒げない水城が、怒鳴った。手に持っていた紙を机に投げ、宝来を睨む。それにビビり、肩を縮ませながら水城を直視しないように、目を泳がせる宝来。そんな宝来に水城は更にため息をこぼした。
今日はテストの返却日だった。
これだけ言えば、答えは出たも同然だ。
宝来は赤点を取った。
これは既に恒例行事である。当然のことであるのだが、それでも今回は皆、一言物申したかった。
過去最低、4教科赤点というこの疑いたくなるような現実に……。
留年の危険があると、何度言い聞かせただろう?これで宝来は留年に王手をかけたも同然だ。次のテストでは赤点はほぼ許されない。
しかし、起こってしまったものは仕方がない。テストは既に終わっている。これは変えようのない事実であり現在だ。
補習は逃れられない。
バスケ部は決勝リーグを控えたこの時期に、エースが補習の為不在、とならないように、補習の時期を早めてもらい、尚且つ一発で合格させなくてはいけなくなったのだ。頭を抱えたくなるのもわかる。
「とりあえず、僕は補習の対策を練るから、彼方達は先生方に頭を下げて、補習の時期を変えてもらえるよう頼んできて。あと、監督に報告」
水城がそう言うと、僕以外の奴らは教室から出て行った。
「さて、今回は佐藤君にも協力してもらうよ」
「今回"も"だろう。名前どうこうの賭けと真逆の成績を取るんだ、バカ過ぎて笑えてきたぞ」
「僕達にとっては笑い事じゃないんだ。エース抜きで勝ち進められる程、決勝リーグは甘くない」
「何度も言うが、僕はバスケ部じゃないから関係ない。流石に今回は、何も言わず手伝ってやる。お互い、馬鹿の所為で苦労するな」
一つのため息と共に頷いた水城。
僕達は、宝来達が帰って来るまでに対策を考え始めた。
その矢先に、教室のドアが勢いよく開けられた。
「助けて下さい!いえ、協力して下さい‼︎」
冒頭へと戻る。
「お願いです!あなた達の協力が必要なんです‼︎」
「……えっと、まず、君は誰かな?」
必死の形相で僕達のそばまで来たその女子生徒に、水城は冷静に問いかける。
「ああっ!申し遅れました。私は3-E、宝来彼方ファンクラブ会長の浅賀 梨々香と申します。以後お見知り置きを」
「「………………」」
僕と水城の心境は同じだろう。彼女は、宝来彼方ファンクラブの会長だそうだ。その集団、いや宗教と言っても過言ではない彼女等は、面倒事しか持ってこない。そんな彼女が、"協力してほしい"と言う。これは、拒否一択ではないだろうか?
「……………協力って、何の協力をすればいいのかな?」
顔を引きつらせ、聞くだけは、と思っているのか、優しい水城くんは更に質問を投げる。僕は黙ってそれを見ている。
「実は、ファンクラブ内で揉め事がありました。揉め事自体は別に珍しい事ではないのですが、先月辺りでしょうか、三年生と一、二年生の間で意見が割れたのです。そして、一、二年生は行動を起こしました。その、一、二年生を止めるのを手伝ってほしいのです」
「僕達には関係のない事だろ。ファンクラブ内での事はファンクラブで片付けてくれ」
静かに聞いていた僕だが、その協力の内容を聞いて、呆れと怒りでキツく言い放った。それに浅賀さんは少し目を伏せ、しかし続ける。
「ええ、ええ。わかっております。最初は私達だけで対処しようとしました。ですが後輩達は、ある可能性の為に結束し、私達三年生だけでは抑えられなくなってしまいました」
「……その可能性って何?」
申し訳なさそうに、目を伏せ話す彼女に、優しく声をかける水城。
「つい先日、一人の後輩が廊下で聞いたそうです。彼方様に留年の可能性が出てきた、と。そこで後輩達は考えたのです。彼方様が留年すれば、同じ学年に、同じクラスになれるのでは、と…」
僕達は絶句した。なんと、恐ろしい事を考えるのか、と。
「そして、先月から彼女達は動き始めました。彼方様が勉強に集中できないよう、勉強を忘れるくらい、他に楽しい事をさせれば良いのでは、とあなた方が見ていない、気づかないところで、妨害工作を、始めていたのです。そして、その結果が……」
「……今回の4教科赤点、か」
僕は言いづらそうにしている彼女の続きを引き継ぎ、情けない事実を口にする。彼女は頷き、再度僕達に言う。
「どうか協力をお願いします。後輩達は私達で全力で止めます。ですから、彼方様が赤点を取らないようにサポートを、後輩の女子生徒が彼方様に近づいていたら、注意して離れさせて頂きたく思います。どうか、少しでいいのでご協力をお願いできますでしょうか?」
頭を下げて頼む彼女に、僕達は頷く。
「もちろんだよ。寧ろ教えてくれてありがとう。僕達も、彼方が卒業してくれないと困るんだ」
「協力というか、利害の一致だな。悪いのは全面的にその後輩達だが、それでまんまと赤点を取る宝来も悪いんだ。だから、お前も会長なら、後輩達の面倒はしっかりみろ」
浅賀さんはしっかりと頷き、最後にもう一度深く頭を下げ、礼を言うと去っていった。
そして、僕と水城は深くため息を吐いたところで、宝来達が帰ってきた。
「2人してため息なんかついて、どうした?」
4人の中では一番まともな金見が聞いてきたので、僕と水城は宝来の方を見て、もう一度ため息を吐く。
「な、なんだよ!人の顔見てため息つくなんて失礼だぞ!」
「つきたくもなるよ。彼方、赤点だし」
「もう一つ問題も持ってきたしな」
首を傾げる4人に、ため息を吐きながら先程のことを説明した。
そして、宝来本人にも危機感を持ってもらおうと、事情を説明した上で、留年したくなければ後輩に気をつけろ、と忠告したところ、
「俺ってすげぇ人気者⁈」
と、呑気にふざけた事を宣うので、全員一発ずつ殴った。
中途半端だけど、とりあえず続きます……。
やっぱりテストの話。
赤点王手の彼方君。むしろアウトじゃね?とか思った方、次で一応説明入れようかな……。
次回もどうぞよろしくお願い致します。