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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
七章 高校三年、一学期
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番外編 無人の密室〜開かない扉〜

仕事死ねぇぇ‼︎

と魂の叫びを書いておく。




更新が遅れて、本当に申し訳ありません。


これは、僕が中学の時の話だ。たまたま……じゃないな。僕の母が宝来と宝来の母を夕食に呼んだ。そしてその流れで僕の家に泊まることになった。家は隣なのに……。もう一度言うぞ。家は隣だ。帰れよ、という僕の意見は当然通らない。



「あれ、開かない……」


夜8時。話していたりして、いつもより少し遅めだが風呂の時間になり、その一言でそれは始まった。

2時間にも及ぶ、この騒動の始まりだった。





『…………』


僕と宝来と、その母親達。4人で広くない風呂場の脱衣所で、風呂のドアを睨んでいた。

僕の母がすっ、とドアノブに手を伸ばす。そして、回す。


ガチャ…。


という音だけで、開く気配はない。鍵がかかってしまっているようだ。しかし、このドアの鍵は壊れていたはずだ。一体誰が閉めたのだろうか?


「開かないな」


「開かないわねぇ」


呑気な二人はただただどうにもならない現状を言葉にするだけだ。まぁ、僕の家であって、お前達の家じゃないもんな。よし、じゃあ帰ってくれないか?


「まぁ、このドアも古いからね。前からちょっと壊れてたし。よし」


乱暴にガチャガチャと回しながら淡々とそう言う母。


「お前ちょっとドライバーとか持ってこい」


息子に向かってお前、か。はいはいわかりました。僕に拒否権がないのは良く分かっておりますとも。

僕は仕方なく廊下に出て、階段下の収納スペースにある工具を持ち、風呂場へ戻る。僕は静かに工具を床に置き、その中からマイナスドライバーを取り、母に渡す。受け取った母は、ドライバーを鍵穴に差し込み回す。

ウチの風呂場のドアは不思議なことに、外側は鍵穴のある丸いドアノブで中側は鍵穴のないレバーハンドルタイプである。補足すると、両方古いのは確かだ。


「……チッ、開かないな」


気心が知れているとはいえ、一応仮にも客人の前で舌打ちするな。しかし母は、次の瞬間、僕と宝来に視線を向け、


「よし、あんた達。開くまで頑張って」


僕にドライバーを投げ渡し、宝来母と共にリビングへと去っていった。


「…………」


「……………やるしか、ないか」


宝来と二人、無言で顔を見合わせ、僕はため息を吐いた。


僕は宝来に指示を出す。


「とりあえず、僕がドライバーを奥まで差し込むから、お前はドアノブを回せ」


「わかった!」


頼むから楽しそうにしないでくれ。


そこから暫く、その方法で鍵を開けようとしていたが、一向に開く気配はなかった。15分程経っただろうか?何度か開きそうな気配はあったが、無理だった。ガチャガチャと、ドアノブが回る音だけが響く。なんと虚しいことだろう。


「なあ、佐藤。外から行くっていうのはどうだ⁈」


ドアのガラスになっているところから、中は見える。宝来の提案に中を見てみると、運良く窓が開いていた。

宝来の案だというのに、僕は不本意ながら頷き、玄関で靴を履き、三段の小さな脚立を持って庭へと出る。先に着いていた宝来が、風呂場の格子窓に手をかけ、中を覗き込んでいた。


「佐藤!あれ、あれ見ろ‼︎」


「うるさい。近所迷惑だ」


注意しながら、僕は宝来に続き風呂場の中を覗き込み、納得した。


「……ドアノブ完全に外れてるな」


風呂場の中側のドアノブは、通常の位置より下り、 ドアから少し外れ、プランと引っかかっているだけのようだった。

そんな状態で外からどうやったとしても開くわけがない。携帯で調べたが、隙間にカードなどを差し込んで開ける方法も不可能だ。その隙間は内側にあるんだからな。格子窓を外そうかとも思ったが、なんとネジの頭が潰れているタイプで、外すのは不可能だった。


「……少し待ってろ」


僕は脚立を置き、ある物を取りに中へと戻った。



「これでドアノブをいじってみてくれ。僕は中から同時にノブを動かす」


「わかった‼︎」


僕が持ってきたのは、伸縮タイプのコロコロの本体だ。正式名称は粘着カーペットクリーナーだかな。

宝来はそれを受け取ると、脚立に乗り、コロコロの本体を最大まで伸ばし、窓の隙間からそれを風呂場に侵入させ、ドアノブに引っ掛ける。


「よし!ひっかかったぁ‼︎」


僕はそれを見てから中へと戻り、また鍵穴にドライバーを差し込み、ドアノブを回す。


「おっ?」


先程より回りがいい。

僕は少し声を張り、宝来に声をかける。


「いいぞ宝来!いけるかもしれない!」


「よしきたー‼︎」


それに宝来も一層張り切って、中からドアノブを動かす。


しかし、奮闘する事30分。


「…………」


「開かないぃぃ」


それぞれ手に持った武器を床に置き、項垂れる。もうすぐ開きそう!、というところまできているのに開かない……。

時刻は既に、午後9時を回ろうとしていた。


ため息を一つ吐き、僕は外の宝来と道具を回収し、片付け、工具箱の中から、ある物を取り出し、床に置く。そして、首を傾げながら着いてくる宝来と共に母のいるリビングへと向かった。




「……なにか言いたいことがあるなら早く言いなさい」


優雅に紅茶を飲み、談笑を楽しんでいる母を見て、怒りが込み上げてくるが、グッとこらえ、母の前に正座する。隣に宝来も座らせる。


「……様々な手を尽くしましたが、開ける事が出来ませんでした」


「ふーん。……それで?」


一口紅茶を飲み、続きを促す母。

そんな母には殺意が湧いた。しかし、グッとこらえる。


「電動ドリルドライバーの使用許可を下さい」


僕は頭を下げた。いわゆる土下座だ。


「…………それは、壊す、ということでいい?」


「……そうなります」


「…………」


頭を下げたまま、母からの冷たく痛い視線と沈黙が続く中、宝来が口を開いた。


「佐藤は悪くない!どうやっても開かなかったんだ‼︎だから、壊しちゃうことを許して‼︎」


「彼方君がそういうならいいわよ」


宝来の言葉にあっさりと手の平を返す母に、このアマァ、と自分の母ながらに殺意を持って心の中で叫んだ。今は別の意味で、顔は上げられなかった。




そんなこんなで、電動ドリルドライバーと、ペンチとを使って、ドアノブ部分に穴を開け、やっと開いた、開かない扉。中には誰もおらず、ただ老朽化だけで起こったこの事件は、母のズボラさからきたものだと僕は信じて疑わない。

ドアが開くくらいの穴を開けるだけでも1時間程度の時間を要した。ふざけるな、と言いたい。何故、僕一人でやらされているんだ。

宝来はどうしたかって?母共と一緒にお茶会中だよ。この差別をどうにかしてくれ。




その後、修理よりも古いし取り替えた方がいいと言う母により、風呂場のドアは新品に交換された。

最初から取り替えるつもりだったなら、僕の土下座を返してくれ。


僕は今日も、この家で不遇である。

今回もタイトル通りの話でした!

ホラーだと思って騙された方もいると嬉しい。


実は実話です(ギャグではなく)

口調とか行動とかはキャラに寄せていますが、実話を元に書いてます。

いつかこの2人で書きたかった話しなので、個人的には書けて嬉しいです。


それでは次回もどうぞよろしくお願いします。

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