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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
七章 高校三年、一学期
135/178

114話 お話をしようか

遅くなり申し訳ない。

しかし、話は少し季節を先取りしまして、まぁ少し趣向の変わった話になっていればな、と思ってます。





「百物語をしよう」


「は?」


水城の気まぐれな、ただの思いつきでしかないこの言葉から、それは始まった。







教室の電気を消し、わざわざ暗幕を借りてきて、物好き以外は誰来ないからと、放送室横の空き教室にきた僕達は、水城の持参した蝋燭を囲むように、これまた借りてきた座布団をならべ座っていた。

ちなみに、今日は土曜日である。

帰宅部の僕にとっては、休日のはずである。しかし、僕は今学校にいる。


「…………お前ら、部活どうした?」


「今日は完全オフの日。自主練も禁止」


「なら休めよ」


僕のその言葉にはニコリと笑うだけの水城。そして、中央にある蝋燭を手に取り、数分前に聞いた言葉を繰り返す。


「百物語をしよう」


蝋燭に下から照らされ、不気味に見える笑顔。それに眉をひそめたが、一人の馬鹿が手を挙げ言った。


「"ひゃくものがたり"ってなんだ?」


「じゃあ早速始めようか。まずは僕から」


「なあ、"ひゃくものがたり"ってなんだよ⁈」


宝来の疑問に答えることなく、話を始めようとする水城。三年目にして、馬鹿への対応が板についている。


「聞いていればわかるよ。とりあえず、僕が最初に話すから、黙って聞いてて」


黙って、の部分を強調したな。まぁ気持ちはわかるが……。

宝来が口を閉じたのを確認した水城は、話し始めた。


「これは僕の叔父が体験したことなんだけど」


ありがちな始まり方で、百物語は幕を開けた。宝来と岬は首を傾げた。

…岬、お前も百物語を知らないのか?


「家から車で1時間くらいのところに、あることで有名なトンネルがあったんだ。叔父は興味があったらしくてね。丑三つ時に近い時間に、車を走らせてそのトンネルに行ったそうだ。そのトンネルは駅の近くの、でも少し薄暗くて車通りも少ない場所にあるそうだ。夜中だというのもあって車は一台もいなかったそうだよ。叔父は、そのトンネルの中心で2、3分停止したそうだ。しかし、何もおこらなかった。叔父は「なんだ。ただの噂か」と車を走らせた。そして、トンネルの出口辺りで一台のトラックとすれ違ったそうだ。その時叔父は、トラックのことは別に気にしていなかったそうだ。でも、その数秒後だ。後ろが赤く光ったそうだよ」


何故かそこで一度区切り、宝来の方を見る。


「なんだったと思う?」


「えっ⁈いや、えっと、、ワカリマセン」


急に話を振られた宝来はしどろもどろになり、視線を彷徨わせた後、何故かカタコトで答えた。それにニコリと笑った水城は、続きを話す。


「叔父は驚いて急ブレーキをかけて、振り向いた。そこにあったのは、燃え盛るトラックだった。でも問題はもう一つあった。燃えていた場所は、さっきまで叔父が止まっていた場所だったんだ」


誰かがヒッと声にならない声をあげる。


「叔父は急いでアクセルを踏んで、慌ててその場から離れたそうだよ。無事に家に辿り着いた叔父はこうおもった。「あれは偶然が重なった、ただの事故だ」と。そうただの事故」


「なんだ、ただの事故か」


ホッと安心した表情で胸をなでおろす岬。しかし、まだ話しは終わっていない。水城はまだ蝋燭を吹き消していないからな。


「翌日のことだ。叔父は調べたそうだよ。そのトンネルでの事故のことを。でも、トンネルでトラックが燃えた、なんて事故はおこっていなかったそうだよ。あれだけ燃えたのなら、運転手は怪我を負ったはずだ。最悪の場合、死んでいてもおかしくない。でも、誰かが病院に搬送された、とか亡くなったなんていうニュースもなかったんだ。あとから考えると不思議な点が一つあったそうだよ。…トラックが燃えたのに、燃えているのに、音がしなかったそうだ」


「ど、どういうこと…?」


暗いため分からないが、恐らく青い顔で水城に問う岬。その隣では宝来が小刻みに振動している。


「燃えてると分かったのは、真夜中で暗いはずなのに背後が赤く光ったからってだけだ。車が突然燃えたら、普通は音がするはずでしょ?例えば、爆発音とか。ガソリンに引火したら爆発するからね。でも、何の音もしなかったそうだよ。無音だったんだって。燃えた原因も分からないし、燃えた事実もない。これは、興味本位で心霊スポットに出かけた叔父の、そんな恐怖体験のお話しだよ。お終い」


ふっ、と蝋燭の火を吹き消した水城。完全な暗闇になる室内。


『ギャーーーー‼︎‼︎‼︎』


そんな状況に、ビビりが叫んだ。

しかし水城はそんな二人を気にも止めず、ゆっくりとライターで蝋燭の火をつけ直した。


「さて、百物語が何かわかったかな?」


肩身を寄せ合い恐怖で震える宝来と岬に、笑いながらそう問いかける水城は、とても楽しそうだ。


「こっ、怖い話しか⁈」


「心霊現象の話しすればいいの⁈」


涙目でそう叫ぶ2人。僕は思った。そんなに怖い話しだったか、と。


「まぁ、ざっくり言えばそんな感じかな。で、話し終わったら蝋燭を吹き消す。本当なら百の物語を語るんだけど、一人一つ話したら終わりにしようか。蝋燭も一本しかないしね」


そして水城は、隣にいた僕に蝋燭を差し出した。


「次は佐藤君ね」


受け取り、ため息をつきながら僕は言う。


「そんなに怖い話しなんて、僕は持ってないぞ」









「僕が小学生の時のことだ。子供は正直だ、とはよく言ったものだ。正直なのではなく、残酷なだけなのに。そう僕がそれだった。小さい頃は、僕には友達が多かった。同年代に留まらず、子供から老人、果ては猫や犬なんかと言った動物まで、非常に多くの友達がいた」


「へぇ、佐藤にもそんな時期があったのか」


先程の水城の話しでビビっていた岬は、拍子抜けしたのか、僕の話しに耳を傾けた。宝来は何か不思議に思うところがあるのか、首を傾げている。

僕は続ける。


「ああそうそう、僕は小さい頃は眼鏡をかけていてな。度は入っていないんだが、かけるとその友人達が見えなくなって重宝したな。鬱陶しいものが見えなくなって。あの頃は風呂でもかけていた。まぁそんなことは置いといて、僕の体験した事だ」


「ちょっと待って、既に恐怖体験済ませてる気がする」


金見が思わずと言った風に、片手を上げストップをかけるが、僕はそんなもの気にしない。


「学校からの帰り道、その日は委員会があって遅くなってしまったんだ。夕日も沈み始めたそんな時だ、僕は後ろから何かの気配を感じて立ち止まった」


「スルーしないでお願い‼︎」


うるさい奴らは無視だ。


「背後を振り返ると、そこには誰かと遊んだ帰りであろう、バスケットボールを抱えた宝来がいた。僕は走った。宝来とは逆方向に」


「なんで⁈」


「その日は、不運にも眼鏡を学校に忘れたようでな。いたんだ、宝来の他にも、沢山の友人が。そう宝来の後ろに」


「…………えっ……?」


サッと顔を青くする宝来。バッと全員が宝来に視線を向ける。

それに宝来は無言でブンブンと首を振り否定する。


「そいつらは、僕が一番嫌いな奴等でな。思わず逃げたよ。なんせそいつらは宝来と同類の話の通じない馬鹿だったからな。大人にもなって情けない。小学生に言い負かされる大人がどこにいる。そう僕は恐怖した。馬鹿は小学生以下なのだ、と。その日から僕は勉強時間を増やし、本を読むようになった。今では立派な本の虫だ」


『…………』


何故か無言で、何か言いたげに僕を見てくる5人。


「……佐藤君が恐怖するとこ、そこなんだ」


「いや、もう何も言わないよ。じゃあ次の人……て、あれ?そういえば、なんで蝋燭吹き消してないの?」


金見が呆れ混じりにそう言い、水城が僕の手元の蝋燭を見て、疑問を口にした。


「それは、まだ話しが終わっていないからだ。続けるぞ。僕は追いつかれる事なく、無事に家にたどり着いた。でも、そこで気がついた。眼鏡をかけていないことに。そう、家の中にいたんだ。あの最悪の悪魔が」


「「うわぁぁあ‼︎」」


「僕は時計を見た。時刻は18時。もう日も沈む寸前。部屋の中も薄暗くなっていた。…僕はリビングでそれを見た」


「「ギャァァァァ!」」


「ニッコリと満面の笑みを浮かべる、母を……」


「「ぎゃあぁぁ……、、え?」」


叫んでいた2人は、抱き合ったままポカンと口を開けて停止した。


「母は怒っていた。僕は小学生の低学年。門限はとっくに過ぎていた。母は怒っていた。門限を破り、夕飯の仕込みをしていない僕を…!」


『………………』


室内を静寂が支配した。そんな空気、僕には関係ない。


「あれ以上の恐怖を、今まで、僕は感じたことがない。終わりだ」


ふっ、と蝋燭を吹き消す。真っ暗闇の中、動く者は一人もいない。


「…………」


僕はこれ幸いと、蝋燭をその場に置き、静かに立ち上がる。そして、物や人にぶつからないよう慎重に移動し、教室のドアに辿り着く。


「僕は帰るからな」


一言だけそう告げ、僕は教室から立ち去った。

何故だか、僕を止める者はいなかった。









佐藤が立ち去った教室では、出て行った奴の背を見るように、教室のドアを見つめる五人が残った。


「……なぁ、一つ聞いていいか?」


沈黙が続く中口を開いたのは、意外にも宝来だった。そんな宝来に皆が視線をやる。水城はついでに、蝋燭に火をつけた。


「俺、佐藤の友達に、とりつかれてない……?」


涙目で、震える声で、宝来は仲間に問う。


「「「「…………」」」」


仲間は沈黙で答え、一斉に目を逸らした。


「なぁ‼︎とりつかれてないって、大丈夫だって言ってくれよ‼︎」


宝来の必死の叫びに、答える者はいなかった。

というわけで、まぁ百話はなしてないですが、百物語もどきの話でした。


怖いかどうかはさて置いて、一応怖い……かな?、くらいの話になっていれば幸いです。

ちなみに、水城の話は、半分くらいは実話です。知り合いが体験したらしいです。


それでは次回もよろしくお願い致します。


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