111話 最後の大仕事 2
佐藤君にしかできない佐藤君の仕事です。
唐突に始まる…。
スイッチを入れてすぐ、幡木はそのうるさい口を開いた。
「こんにちは!放送委員の幡木掬です!1年生の皆さまははじめましてですね!今年初の私の放送に立ち会えたあなた達はとてもラッキーです!それでは、今日は私の放送をお聞きください‼︎」
まぁ、初めはいい。挨拶は大事だ。
「さてさて、それでは初めに私の考えた企画を」
僕はマイクのスイッチを切った。
「なにするんですか先輩」
下からジトッとした目で見られるが、冷めた目で返し、冷たく告げる。
「ちゃんとやれ。それ読んでからだって言っただろうが」
「ぶー。わかりましたよ〜。やればいいんでしょやればー」
「……今すぐ校長を呼んでこようか?」
「さあ先輩!準備は万端です!マイクのスイッチを入れて下さい‼︎」
頬を膨らませ不満そうな幡木に、出禁を言い渡したこの学校の最高責任者でもある校長の名を出すと、態度が一変。背筋を伸ばし、キチンとやりますとでも言いたげに紙を両手で構えた。
僕は呆れ、ため息をつきながら再度スイッチを入れた。
「さて今日は、さとー先輩からお知らせ?があります。えーと、"今日はみなさまにご連絡があります。まず、1学期が終わるまでに1年生が入らなかった場合、投書?の受付は11月末でしめ切ります。現在、放送委員は僕をふくめて?2人です。つまり、来年委員長となるのは、バカな後輩になります。それは、僕も先生方?も望むことではありません"」
一枚目が終わり、二枚目に移る。
…しかし、所々疑問符が混じるがここまでよく読めたな、と感心しかけたが、高二なら読めて当然の物を読めただけなのにそう思ってしまったことに、幡木の馬鹿さ加減を再認識させられて、遠い目になった。
「"そこで僕と校長で考えたことがあります。明日の朝より、放送室前の投書箱の隣にノートを2冊設置?します。そこに、クラスと学年を書き、そしてあれば理由もそえて、署名?して下さい。ノートの表紙にその署名?がなんのためのものかは書いてあります。1学期末までに人数が多い方で、一定数の人数の署名?が集まっていれば、2学期より行動に移させていただきます。以上放送委員長佐藤より"、です!どうですか先輩‼︎私、できてましたよね!ね‼︎」
読み終わって僕の方を振り向くと、ドヤ顔でマイクが入っているにも関わらず大声で確認してくる幡木。こいつは意味を全く理解せずに読んでいたようだ。内容に関して何ら疑問もないらしい。やり遂げたという達成感だけしかないらしい。
「まあ、お前にしては上出来だ」
それに僕は、幡木に対して始めて"褒め言葉"とも取れる言葉を言い、頭にポンと手を置いた。
すると幡木は驚愕の顔で、僕の手を叩き落とした。
「どうしたんですか先輩‼︎私の事をほめて、頭をなでる?なんて!」
この野郎……。ちょっと褒めてやればこうだ。
幡木は尚も続ける。
「先輩のその口は、毒しかはかなくて、褒め言葉を言うなんて、天地がひっくり返ってもありえないはずです‼︎先輩のその手は、私の事を殴るだけの暴力的な手だったはずです‼︎なのに、なんでっ…‼︎」
……こいつは、"失礼"が服を着て歩いているようなものだな。
顔が怒りでヒクつくのを感じながら、僕は言い聞かせるように、静かに言う。
「…いいか幡木。僕だって、普通の奴には普通に対応する。常に毒づいている訳じゃないし、暴力をふるっている訳じゃない。今までお前がそう思ったのは、お前が救いようのない馬鹿だったからに他ならない。今だって、お前のその失礼な発言に対して拳を振るわない比較的優しい先輩だ。だからお前は、少し考えてからものを言おうな」
そう言った僕に、幡木は二回程瞬きした後、腹を抱えて笑いながらこう言った。
「自分で優しいとか言っちゃいますか先輩‼︎先輩が優しいなら、私の知ってる他の先輩方は神ですね‼︎」
僕は幡木の頭に拳を落とした。そして、頭を押さえて蹲る幡木を引きずって放送室から放り出して、最後に一言忠告した。
「考えてからものを言おうな?」
当然、幡木の放送はなくなった。
授業間の休み時間。僕はノートの準備を始めた。マジックペンを持ち、ノートの表紙に文字、というか説明文を書く。
「なに書いてるの?」
それを覗き込んできたのは、水城だった。
「放送で言ったノート」
「そういえば、そんな事言ってたね」
水城に顔を向けることなく、僕は文字を書く手を止めない。
「そういや佐藤、幡木に散々に言われてたな!」
プスス、と笑いながら僕の隣の席に腰を下ろしたのは、宝来。
「放送のスイッチ入ったまま口論始めるのは、最早恒例行事だもんな!」
宝来の座った席の机に座り笑う岬。
「……幡木相手だと放送のスイッチを切る程の余裕がないだけだ」
「……それ、片方は署名集める気ないだろ」
岬の言葉に答えている間も手は止めず2冊とも表紙を書き終えた。それを見た新井山が、軽く眉をひそめ呟いた。
「当然だ。僕の今年の目的の一つを潰されては叶わん。しかし、校長の一存でも、今まであったものを勝手に潰すことはできないそうだ。部活と違って何人以上いなければならない、というものもないからな」
「へーそうなんだ」
金見も僕の前からノートを覗き込み、興味なさげにそう言う。そして僕の顔を見てニヤリと笑う。
「それで、俺たちもこれ書いた方がいいのかな?」
「人数は多い方がいい」
そう言い、僕は金見にペンを渡した。
その日の放課後、僕は放送室前に隣の空き教室から机を持って行き、その上に2冊のノートを置いた。
1冊目のノートの表紙にはこう書いてあった。
【放送委員を撲滅しよう】
幡木掬が放送委員長になる事に反対な生徒、先生はこちらに署名をお願いします。
明確に理由なども記して頂ければ、幡木への説明、説得に多少なりとも役立ちますので、ご協力お願いします。
僕が卒業し、幡木が放送委員長になる事がなくなった場合、必然的に放送委員は消滅します。現一年生は、幡木掬卒業後に放送委員又は放送部を作るのは自由です。そこは先生方とご相談下さい。
隣に並ぶもう1冊のノートにはこう書いてある。
【放送委員の後輩探し】
今後も放送委員が残ってほしい方はこちらに署名をお願いします。
不本意ながら、現1、2年生から放送委員に入ってもいい奴を探します。1年、2年関係なく、1人でもいた場合、自動的に放送委員長になるので悪しからず。幡木掬を放送委員長にさせる訳にはいきません。校長先生からの許可はもらっております。
こちらは、残ってほしい理由を明確に記載して下さい。
どうか、こちらへの署名はお控え頂けますと幸いです。
ということで、みんな1冊目のノートに署名をお願いします!(笑)
佐藤君の放送委員長としての最後のお仕事。結果は1学期末(7月ころ)に。
それでは、次回もどうぞよろしくお願い致します!
……なに書こうかな。