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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
七章 高校三年、一学期
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110話 最後の大仕事

とりあえず更新。

佐藤君も三年生なので、終わりに向けて色々書けたらいいな、とか思ってます。


ある日の放課後、放送室で僕は一人マイクの前に立っていた。

放送台をひと撫でし、僕は呟いた。


「これが、最後の仕事だな…」








「セーンーパーイー‼︎さとー先輩‼︎」


ある晴れた日の朝、登校して早々に幡木が騒がしく飛び出してきた。


「これから放送室ですよね!朝の放送があるのはわかってるんですから!さ、行きましょう!」


「…お前が行ってどうするんだ?」


僕の左手を掴み、グイグイと放送室の方向へと引っ張って行こうとする幡木に問う。


「わかってるくせに!私ももう2年生なんですよ‼︎」


「世も末だな」


「私もそろそろひとり立ちしたいんですよ‼︎そこで、経験を積まなければと‼︎」


にこにこと笑顔で、放送を行おうとしている幡木に、ひとつ聞いてみた。


「校長から放送室出禁くらったの忘れたのか?」


「先輩が一緒なら問題ないですよ‼︎」


「独り立ちじゃなかったのか?出禁状態だと無理だろうが」


ピタリと足を止めた幡木。同時に掴まれていた腕が離れたので、幡木の横を通り過ぎ、一人で放送室へと向かおうとしたが、背後からの衝撃に、たたらを踏んだ。


「私を一人前の放送委員にしてください‼︎」


後ろから僕の腰にしがみつき、幡木にしては珍しい、多少真剣そうな表情で必死にそう叫んだ。


「断る」


僕の答えは拒否一択である。




僕の腰にしがみつき離れない幡木をなんとか振り切り、全速力で放送室に駆け込んだ僕は、鍵を閉めた。数メートルしか離れていなかった幡木は、ダンッと扉を叩き、叫ぶ。


「酷いですよ先輩‼︎かわいい後輩が頭を下げて頼んでいるというのに‼︎」


「頭なんて下げてないだろ。お願いしますの一言もなしに、"アイドルにして下さい"みたいなノリで僕にしがみついてきた礼儀も知らない後輩の言うことなんて、僕が聞くわけないだろ」


「お願いします‼︎はい言いました‼︎いまお願いしました‼︎だから放送させてくださいよ‼︎」


「小学生か‼︎」


放送の時間が近づいてきた為、廊下にいる幡木のことなど無視して、僕はマイクのスイッチを入れた。


「おはようございます。本日はとても清々しい朝のはずだったのですが、迷惑な後輩の所為で台無しにされた放送委員のさと「なんてこと言うんですか!失礼なっ」…………」


多少は防音のはずの放送室の中、更にはマイクが拾ってしまう程の声量で抗議の声を上げる幡木。しかし今は放送中、僕は続ける。


「本日はリクエストの歌を流します。昼にはいつも通り投書の内容を、と思っておりましたが、僕から一つお知らせがありますので、どうぞご静聴下さ「聞いてませんよそんなこと‼︎同じ放送委員の私に隠しごとなんてっ‼︎」…"ご静聴"下さいますと幸いです。ではまたお昼に」


幡木に向け、ご静聴の部分に力を込めて言ったが、外にいる幡木は呪いかと思うくらいに"先輩"と言うのと、戸を細かく叩くのをやめない。

その音をマイクが拾わなかったのだけが唯一の救いとも言えるだろう。


「先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩‼︎」


コンコンコンコンコンコンコンコンコン。


どこの病んだお嬢さんだろうか?

これが放送されていたら、未だに幡木の生態を知らない一年生達が怯えるだろうが。

僕は椅子から立ち上がり、音のする戸の前へと行く。


「先輩先輩先輩‼︎入れて下さいよ!先輩先輩‼︎先輩ってば‼︎」


「うるせぇー‼︎」


鍵を開け、勢いよく戸を開けた。因みに、この放送室のドアは外開きである。


「あいたっ」


ガンッ、という鈍い音が響き、幡木からも声があがる。

幡木の様子を見る事もなく、戸を閉めて鍵をかける。先程までの音がなくなり、静かになった廊下。

もう一度戸を、今度はゆっくりも開け、外の様子を伺う。


「うぐっ、、、せんぱい、ひどい……」


顔を押さえて蹲る幡木を冷めた目で見下ろし、端的に一言告げる。


「うるさい」


僕は再度戸を閉め鍵をかけた。

朝の放送は無事に終わった。






昼休みになり、僕は放送室に向かおうとしていた。


「逃がしません!絶対に放送室に入れてもらいますからぁ‼︎」


しかし、教室を出たところで幡木に捕まり、朝と同じく背後から腰にしがみつかれて動けなくなった。


「は、な、せっ‼︎」


「い、や、で、す‼︎」


全体重をかけて僕にしがみつく幡木と、幡木を引きずりながら、ゆっくりと進む僕。


「…佐藤くん、何やってるの?」


「見たら大体わかるけどさ、聞かずにはいられない。それで、なにしてんの?」


「分かってるなら聞くなっ‼︎」


教室から出てきた水城と金見に思わず怒鳴るが、二人は苦笑するだけだ。


「本当佐藤君てさ、馬鹿に好かれるよね」


「俊、事実だとしても、本人の前で言っちゃダメだよ」


咎めているが、水城も酷いと思うぞ。まぁこいつを気遣ってやる必要は微塵もないがな。


「さあ先輩。私の味方もきました!観念して私を放送室に入れて下さい!」


僕は水城と金見と顔を見合わせて、首を傾げた。


「……味方?」


「「……誰が?」」


「あそこにいるほーらい先輩です!」


バッと幡木の指差す方向を向くと、丁度廊下の角を曲がった宝来がいた。そして、僕達の視線に気がつくと、笑顔でブンブンと腕を振って駆け寄ってきた…、かと思ったら、前から抱きつかれた。


「なに楽しそうな事してんだよ!俺も混ぜろっ!」


僕は予想外の出来事に思わず固まった。

前には宝来、後ろには幡木。

馬鹿サンドである。


「ブハッ、本当に、馬鹿に好かれてるね」


「今の状況だと、憑かれてるって方が正しいかもね」


顔を背けながら言うな。肩も声も震えてるのはわかってる。


「それで、これなんて遊びだ?」


なにも知らない馬鹿は引っ込んでろ。

僕の左アッパーが炸裂した。


床に沈んだ宝来を放置し、僕は幡木に向けていう。もうヤケだ。


「分かった。いいぞ幡木。放送させてやる。だから、離れろ」


「本当ですか!嘘じゃないですよね!ね!先輩方、佐藤先輩いま言いましたよね⁈」


水城や金見に確認を取る幡木。それに頷く二人。


「それじゃあ行きましょう!早く‼︎今すぐ‼︎昼休みが終わっちゃいます!さぁ早く‼︎」


「誰のせいだとっ……」


僕は怒鳴りつけようとしたが、幡木に引っ張られ、仕方なく放送室に向かうことになった。


「行ってらっしゃい」


「お元気で〜」


にこやかに手を振る二人には殺意が湧いた。





震えながら顎を押さえ、床に蹲る宝来。

佐藤の手を引いて小走りで進む小さな後輩。

その二人を笑顔で見送る水城、金見。


「……これ、どういう状況だ?」


「……さぁ?」


宝来より遅れてやってきた岬と新井山は、購買で買ってきた昼食を手に困惑顔でそう呟いた。








放送室に着いて早々、幡木は椅子を占領した。


「さあ先輩‼︎マイクのスイッチをオンにしてください‼︎」


「それすらも忘れたのかお前は」


マイクの前に座り偉そうに指図してくる幡木に呆れ、僕はポケットから紙を取り出した。


「ま、まさか先輩、それを私に読ませようって言うんじゃ…」


その紙を見て目を見開く幡木。

それに頷き、マイクの横にその紙を置く。


「これを読んで、その後は好きにしろ。時間は10分やる。読んだ後は好きにやっていいぞ」


紙に目を落としていた幡木だが、僕の言葉にバッと顔を上げ、僕の顔を見てくる。


「本当ですか⁈好きにやっていいんですか⁈」


「それを読んだ後にな」


「わかりました‼︎全力で読みます!」


幡木は紙を手に取ると、マイク前で動きを止めた。


「…………」


「?なにしてるんですか先輩。早くスイッチ入れてください」


黙って見ていると、首を傾げた幡木が僕にスイッチを入れろと催促してきた。


「はぁ……」


それに僕は態とらしくため息を吐き、マイクのスイッチを入れた。



中途半端ですが続きます。

今回は放送委員のお話。

掬ちゃんも登場させて、次回も騒がしく書きたいと思います。


それでは次回もどうぞよろしくお願い致します。

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