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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
一章 高校一年、一学期
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12話 佐藤君は苦労人 6

無理やり感満載ですが、肝試し編終了です。

「それではこれから肝試しを始めます。男女別にくじがあるので、引いたら同じ班の奴を探してください」


旅館の裏手にある祠につながる2本の道。その前でくじの箱を手に、淡々と話し始める。僕の編集した映像が終了し、スクリーン、プロジェクターなどの後片付けを教師に託し、外へと出た僕等。

僕の前に並び、箱から紙を引いていくのを眺めながら、僕は自分が参加しない肝試しの開始の時を待った。


「くじは引き終えたようなので、再度簡単に説明します。この2本ある道の左から進んで、祠からお札を取って右側から戻って来てください。以上です」


簡単すぎる説明とも言えない説明を終え、1組目の4人を前に呼ぶ。


「そんじゃあ、暗いから足下に気をつけて行ってこい。懐中電灯は1組に1つだから大切にな」


懐中電灯を前にいた男に渡し、進んで行くのを見送る。


「じゃあ2組目、ってお前等か…」


2組目を呼ぶと、金見、宝来の2人が居た。23組もあるのに同じ組になったようだ。


「なっなぁ佐藤、ここさっき見た映像と、同じとこに見えるんだけど…?」


「同じ場所だから当然だ。僕が意味もないものを見せる訳がないだろう」


懐中電灯を金見に渡しながら、宝来に冷めた視線をやる。


「だ、だってさ、俺、めっちゃビビりじゃん?」


「そうだな。自覚があるのはいいことだ」


「怖い」


そう言い両手で顔を覆う宝来。僕はひとつ大きくため息を吐く。


「お前が自分で提案したことだろう。180cm越えの大男が震えたところでなんの可愛げもないぞ。怖いなら金見やら、同じ班の女子やらにくっついて行け。僕に助けを求めたところで、僕は参加しない。僕を肝試しの監修に推薦したのはお前だ」


先程の映像のせいだろうか、青い顔でカタカタと震えている。だが僕はそんな事知った事ではない。肝試しをやりたいと言ったのも、僕に企画を押し付けたのも全て宝来だ。自業自得という他ない。


「そろそろ1組目が祠に着く頃だ。さっさと行け」


金見を先頭に渋々と進む宝来。道に差し掛かってすぐ、金見の腕にしがみついたのは、言うまでもないだろう。



「なっなぁ俊、ここお化け出るのかなぁ?出てきたらどうすればいい?とりあえず挨拶かな⁈」


「彼方、腕痛い。あと暑苦しい。地縛霊とかは出るかもね」


金見の腕にしがみつきながら、青い顔でキョロキョロと辺りを見回しながら歩いていた宝来は、地縛霊の言葉に悲鳴をあげた。


「さっきの映像に出てきた女の人⁈ここで四肢をバラされて無残にも殺された長い黒髪の⁈」


「あぁそんなのもあったね。うんそうかもね〜」


適当な返事にも大袈裟に反応する宝来は、腕を余計強く締め付けた。それに顔を顰めた金見だが、言っても無駄だと分かったのか何も言わなかった。そして後ろを歩く女子2人が着いてきている事を、時々振り返りながら確認しつつ進む。少し進むと右手の茂みが僅かに揺れた。懐中電灯でそこに光を当てる。


「彼方、あそこ」


目を瞑っていた宝来に光を当てたとこを指す。両手とも塞がっているため、顎で。それに宝来が視線を向けた。


「ギャーーー‼︎地縛霊ーーー‼︎」


光の先にあったのは、白装束に長い黒髪で1人でポツンと立っている女だった。

それを見て騒いでいるのは宝来1人。女子2人は小さく肩を震わせただけだ。もちろん同じ学年の奴だとすぐに分かるのだが、ビビりの宝来に映像の効果は抜群だったようだ。


「はいじゃあさっさと進むよ〜」


腰を抜かした宝来の腕を引き、無理矢理立ち上がらせる。


「俊まって、むり」


涙目の宝来が力なく首を降る。プルプルと震える足。金見にしがみついてなんとか立っている状態だ。


「じゃ行こうか」


そんな宝来を無視し笑顔で歩き始める。

半分引きずられる形でなんとか歩く宝来。女子2人は終始無言だ。1人派手に騒ぐ奴がいると他の奴は冷静になるといういい例だ。


5歩くらい進んだところで地面がぬかるんでいた。それに滑り尻餅をつく宝来。


「今度はなに⁈」


地面に手をつき、泣きながら怒鳴る。

それに呆れながらも、手を差し出す金見。宝来が素直に手を取ろうとした時、自分の手を見た。


「な、」


言葉も出ないのか、自分の手を見つめ固まる。宝来を見てみると、地面に着いた部分が赤くなっていた。手に着く泥と混じった赤に声も出せずにいる宝来。

懐中電灯で地面を照らしてみると地面が赤く光った。金見がしゃがんで、泥をすくう。


「血糊だね」


一言、それだけ言うと固まる宝来の腕を再度引いた。フラリと立ち上がる宝来。


「もう嫌だ‼︎帰る!」


来た道を引き返していこうとする手を金見が掴む。


「あのさ、俺も気が長い方じゃないんだ。しがみつくのも騒ぐのも別にいいからさ、さっさと歩いてくれる…?」


ギリッ、と掴んだ手を強く握り微笑む金見。その顔を見て引き返そうと踏み出した足を止めると、震える声で答えた。


「…はい、すみ、ません……」


お化けなんかよりよっぽど怖かったと、宝来は後に語る。



ギャアギャアと騒ぎながらも、祠に辿り着いた宝来達。

血濡れた服で木の根元に座り込んでいる奴や、首吊りを模して黒い椅子に立ち、木からぶら下げた縄を首に巻く奴、途中追いかけて来るチビもいた。

その度に騒ぐ宝来。しかし金見のご機嫌を伺いながらで、始めよりは静かであったとは言えよう。金見とお化け(脅かし役)2つの脅威に怯えながらもなんとか祠まで辿り着いた宝来は、達成感に満ち溢れていた。


「俊!お札だ!」


祠に置いてあったお札の束を頭の上に掲げる。


「彼方、必要なのは1枚だけだよ。あとは戻して」


頷き1枚だけ抜くと、残りを祠に戻す。その時、祠から出てきた血塗れの手がガシッと腕を掴む。


「うわっ‼︎ななななんか掴まれた‼︎俊助けてっ!俊‼︎」


腕を振りほどこうと左右に揺らすが、祠から出た手は力強く握っていて離れない。金見に助けを求め泣きながら顔を向けるが、ニコニコと笑っているだけで動く気配がない。女子2人は悲鳴をあげて身を寄せあって遠くに避難していた。


「2人とも行こうか。彼方は楽しく遊んでるみたいだから」


女子2人に歩み寄ると、軽く肩を抱きそのまま帰りの道へと進む。宝来はその様子をポカンとしながら見ていた。腕を掴まれたまま。


「ちょ、ちょっと待って!おいてかないで!せめて、せめて電気置いてって‼︎」


我に返りあいている左手で金見に手を伸ばしながら、必死の形相で叫ぶ。祠には辛うじて蝋燭ろうそくが1本あるだけで、ほかに灯りはなかった。唯一の救いは薄く光る月がある事ぐらいだろうか。それも三日月の為、あまり役にはたっていないと言えるが。

先程腕を振りほどこうと暴れた時にその火も消えた。懐中電灯を持つ金見が宝来の側を離れると辺りは真っ暗だ。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい‼︎俺が悪かったから!お願いだから戻って来て俊‼︎」


泣き叫ぶも、金見は一度も振り返らない。その後ろ姿が見えなくなったその時、宝来の腕を掴んでいた手が離れた。後ろに重心をかけていた宝来は、突然解放された勢いでひっくり返った。離れたことを喜ぶ間もなく、素早く立ち上がると金見達を追いかけて走った。とにかく全力で。目的の人物は、そんなに遠くはなかった。


「しゅーーーーん‼︎」


勢いを止めずにその背に飛びついた。

身長180オーバーの大男が飛びかかってきて、同じくらいの身長とはいえ、勢いに負け金見は踏ん張り切れずに宝来共々倒れた。


「っ、いったいな。彼方さぁ、「バカ薄情者!おれ怖かったんだからな!暗いし怖いし置いてかれて1人だし腕は離れないし!なんで助けてくれないんだよ!ううっ〜グスッ、」


金見が文句を言う前に捲したて、金見の背に顔を押し付け泣く宝来。そのまま大泣きする宝来に、1つため息を吐くと


「とりあえず、重いからどいて」


背にしがみついて泣いている宝来をなんとか退かし、立ち上がり砂を払う。それでも尚背にしがみついて泣いている宝来。


「彼方。ひとつきみにとって残念なお知らせがあるんだ」


2歩程歩き、足元に落ちている懐中電灯を拾った。


「君のせいで灯りがなくなったよ。どうしようか?」


壊れた懐中電灯を宝来の目の前に持っていき、楽しそうに笑った。


「俺は全然構わないよ?別に怖くないし、道なりに行けば戻れるし、夜目もきくしね。でも同じ班の小林さんと成田さんには悪いと思わない?」


「……スミマセン」


「じゃあ行こうか。もちろん君が先頭で」


「えっ…?」


笑顔で灯りのない道を指差す金見。思わずその背から離れた。確認するように顔をみると、貼り付けた笑顔がそこにあった。


「大丈夫。懐中電灯の光がなければ、脅かし役の奴らも気がつかないよ、多分」


仄かに光る月を背に、有無を言わさない微笑を浮かべ静かに怒っている金見。


「俺たちは君の後をついて行くからさ。

さ、早く行こうか…?」


肯定する以外の返答は許してはくれないだろう。金見は普段はいい奴だし、好青年と言っていい。しかし、怒ったときの様子は佐藤のそれに似ている。佐藤の無表情と違い、笑顔なのがたちが悪い。佐藤の捲したてるような言葉の羅列とは違い、意見を求めてくる。返答次第ではただじゃ済まないだろう。返事は”ハイ”以外認められない。


宝来は泣く泣く先頭を切って進み始めた。




「遅かったな。まぁ宝来がいる分予想通りではあるが」


僕におふだを手渡す金見。怖いくらい笑顔だった。宝来は、水城にしがみついてわんわんと子供のように泣いている。帰りの道の方が若干短いのだが、聞こえてくる悲鳴の数々に呆れた。女の悲鳴ならまだ可愛げがあるが、男の悲鳴だ。耳障りでしかない。懐中電灯は壊したらしく、月明かりだけを頼りに戻って来たらしいが、宝来が先頭だったのにはいささか驚いたものだ。


「まぁクリアだが、お前汚いな…」


宝来を見てみると、白TにGパンといったラフな格好だったのが、ビジュアル系顔負けの血塗れのTシャツに赤黒いパンツといった格好になっていた。手や顔にも赤い血糊が飛んでいる。それを見てか残りの班の連中が、ザワザワとし始める。「そんなに怖いのか?」「彼方くんあんなに泣いてるよ…」「すごい悲鳴聞こえたし…」等不安の声が多い。

僕の目論見通りだ。

極度の怖がりの宝来を2番目にしたのはわざとだ。他のくじに細工はしていないが、宝来には2番目のくじを引かせた。

まぁこの後行く班は、怯えながら進むといいさ。


「で、どうだった?怖くなかっただろう」


金見に向かってそう問いかける。


「うん。ビックリする程普通だったよ。仕掛けも人も」


「所詮人工的に作る事のできる恐怖なんてその程度だからな。本格的なものが見たいのであれば、環境の整っている遊園地にでも行けばいい。一高校生の僕等ができるのは、”怖がりな奴だけは怖がる肝試し”ぐらいが限度だ。怖くない奴も多少はビビるように映像、暗転、再生ミス、宝来、と仕掛はしたがな」


機械的に次の班を送り出し、金見に懐中電灯を渡してもらう。小声で話している為周りには聞こえていないだろう。


「あ、やっぱり五井先生のもワザとか」


「当然だ。コードを引き抜くとは思わなかったがな。仕掛で多少恐怖は伝染するだろ。なにせ入学から2ヶ月かそこらで、宝来のヘタレっぷりを知らない奴の方が多いからな。あの様子を見れば多少なりとも身構えるだろ」


未だ水城から離れようとせず、赤く汚れ泣いている宝来を指差す。


「ああ、警戒してるとなんでもない物まで気になるからね。風とか草の揺れる音とか」


「余裕で行かれると釈だから、そのくらいは必要だと思ってな」


「そうだね。帰り道は楽しかったよ。薄暗い道をビクビクしながら、進む彼方。彼方には懐中電灯がないから大丈夫って言ったけど、脅かし役の子達もちゃんと出てきてくれたし。ベタにこんにゃくとかもあったし。その度に悲鳴は上がるし」


「……………」


満面の笑みで楽しそうに彼方の様子を語る金見に、僕は冷めた視線を送り

《こいつ、やっぱり腹黒か…》

と心の中で呟いた。


「まぁ後は滞りなく終わるのを待つだけだな…」


宝来が壊した為予備の懐中電灯を用意しながら、次の班を見ると大きな子供に取り憑かれた奴がいた。


「ごめん彼方、僕の番次だから離れてくれないかな?」


眉を潜め宝来の頭を撫でながら、やんわりと離れるよう促す水城。勢いよく首を横に振り否定する宝来。その様子に苦笑しながら、僕に助けを求める水城。宝来に視線をやり、僕はひとつ提案した。


「もう一度行きたいなら水城にへばりついてても構わない」


泣き声が止まった。ゆるゆると水城から離れると、金見の方へ行こうと1歩踏み出したが、すぐに足が止まった。


「水城行っていいぞ。懐中電灯壊すなよ」


そんな宝来を無視し、水城に懐中電灯を渡しスタートさせる。そして次の班がスタンバイしたのを見ていると、何を思ったのか水城が僕の背後から覆い被さってきた。


「重い、退け」


「………グスッ…」


渋々といったように僕の足下に座り込んだ。体育座りで膝に顔を埋めている。何がそんなに怖かったのか、教えて欲しいものだ。小学生でも泣かないような、程度の低いものだったはずなのだが…。


「はい次の班〜」


僕はそんな宝来に目もくれず、ただ役割を果たした。


「まぁ今回の目的は達成したから満足だな」


「目的?」


僕の呟きを拾い、隣に立つ金見が首を傾げ聞き返してくる。


「仕事を押し付けられた上に僕の休み時間及び自宅での自由時間の全てをこのオリエンテーションに費やされたことへのささやかな報復」


冷めた目で言うと金見が軽く吹き出した。


「それは、仕方ないね。彼方が悪いから」


クスクスと口元に手を当て笑っている金見に、軽く肩が震えた宝来。


「祠で手を掴んだのは誰だったの?あれが一番効いたと思うよ」


その言葉に今度は僕が首を傾げる。何を言っているんだ?


「祠には札だけで人は配置していないが?」


「「……え?」」


こうして無事に肝試しは終了した。

一部の人間に恐怖を残したまま。

毎回変なところで終わってすみません。今回はちゃんと終わらせました。


毎回”引き”の部分で終わらせたりしてるのは、

そこまでしかネタが浮かんでいないからです!

またかよ、とか思わず読んで頂けると嬉しいです。

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