間話 傍観者の独白
今回は趣向を変えて、とあるクラスメイト視点のお話です。
はじめまして…じゃないな。覚えてないかと思うが、久しぶりだな。俺の名前は黒田 二郎。長男なのに二郎と名付けられ、若干グレた元いじめっ子だ。三年生への進級を期に、いじめっ子は卒業した。何故なら、今年は受験生。俺だって先生の評価が気になる年だ。内申に響くのは困る。
二年生の時に、原と村田はいじめっ子から不良にランクアップした。遅刻早退、カツアゲは当たり前、夜中にバイクに乗り、未成年なのにタバコを吸うまでに成長した。俺はそんな二人についていけず、早々に縁を切った。無遅刻無欠席は俺の自慢だ。学校行事にも参加するいじめっ子である。抜けると言った俺に、二人が言った言葉は「このヘタレ」だ。そうとも、俺はヘタレでビビりである。そこだけは自信を持って言おう。なら何故、いじめっ子だったのかと言われたら、そう高校デビューというやつだ。若気の至りだ。あまり気にしないでくれ。原と村田を左右に配置して、強くなった気でいただけだ。ただ1つだけ言っておく。俺は喧嘩は強い。
さて、今回俺が語るのは、俺のことではない。クラスメイトの佐藤の事だ。なんの因果か三年間同じクラスになった俺は、一年のあの日から、佐藤をそれとなく目で追っていた。ああ、勘違いするなよ。恋愛とかそういう意味ではない。ちょっと痛い目にあわせてやりたいな、と思ったのがきっかけだ。
まぁ、時間が経つにつれ、そんなことは思わなくなったがな……。
入学当初、佐藤に対するクラスの奴らの認識は『めんどくさい奴』だった。いつも一人で、無表情でいつも本を読んでいるちょっと根暗な奴だと思っていた。
あいつが始めて教室で口を開くまでは……。
ただの好奇心だったのだと思う。クラスの女子の一人が、佐藤に絡みに行った。友達の影もなく、一人なのが気になったのだろう。偶然隣の席だったそいつは、"本を読んでいる"佐藤に話しかけたのだ。
「佐藤くんだよね?私は佐渡 紗絵。せっかく隣同士なんだし、仲良くしよう。よろしくね」
佐渡は明るい女子だった。友達だっていっぱいいて、顔も可愛い。つまりはクラスでも男女問わず人気のあるやつだった。そんな奴に話しかけられて、ぼっちの男が喜ばない筈がない。見ていた奴らは皆そう思った。
「…………」
しかし佐藤は返事どころか、本から目を離す事もなく、ガン無視だった。
それに俺たちはただ照れているだけだと思った。めげずに佐渡は更に言う。
「佐藤くんは中学はどこだった?私はね、すぐ近くの南中なんだ。この高校も、近いからって理由で決めちゃった」
あはは、と笑う佐渡の声は、パンッ!、という音でかき消された。
「……あのさ」
その音は、佐藤の手元の本が閉じられた音だった。漸く口を開いた佐藤に、佐渡やその教室にいた奴らにも緊張が走る。それもそのはず、佐藤の目は冷め切っていて、発せられた声にも熱はない。ゆっくりと佐渡に目を向けた佐藤は、無表情のまま続けた。
「僕は君が誰だろうとどうでもいいんだ。それに僕には君と仲良くするメリットがない。僕に友達がいようがいまいが、君には全くもって関係がないし、"隣同士だから"なんて理由で仲良くしてもらわなくていい。寧ろ構わないでくれ。放っておいてくれ。僕がどこの中学だったか聞いて、それで?聞いたところで君にとってはなんの意味も持たない情報だろう。それに君がこの高校を選んだ理由なんて聞いてもないし興味もない。僕が今何をしてたかなんて見たら分かるだろ?本を読んでたんだ。そんな無駄なことで邪魔しないでくれるかな。お節介も大概にしないと嫌われれるよ」
口を挟む間も無く、怒涛の勢いで紡がれた言葉は、拒絶を表す言葉だった。
ただ俺の感想は、よくそんなにスラスラと言葉が出てくるな、と検討違いのことを思っていた。
「折角紗絵が話しかけてあげてるのに、なんなのよその言い方‼︎」
佐渡の友達の一人が怒って佐藤を睨みつけた。しかし、佐藤の返事は冷たいものだった。
「折角、とか話しかけて"あげてる"とか押し付けがましく言わないでくれ。僕はそんなこと、一言も頼んだ覚えはない。その佐渡さんがどれだけ人気なのか知らないけど、さっきも言ったようにお節介も大概にしたら?僕みたいな奴には迷惑でしかないんだ。それと君も、関係ないのに話に割って入ってこない方がいいよ。僕は佐渡さんに言ってるのであって、君に言ってる訳じゃない。佐渡さんが僕に何か言うなら分かるけど、部外者が口出ししないでくれる」
誰かが何か言えば、それの倍以上の言葉が返ってくる。その上、正論な為反論が難しい。
その後、何度かそんなやり取りをしていたが、全て言い返され誰も佐藤に対して何も言わなくなった。静かになったのを見て、佐藤は本を開いた。
これが、1-Aで佐藤が『めんどくさい奴』と認識された日である。
しかし数日後、佐藤の元に幼馴染だという宝来彼方が来て、佐藤への認識は変わっていく。
宝来彼方が佐藤の元に来たのは、金を借りる為だった。財布を忘れ、昼飯が買えないと言い、一悶着ありつつも佐藤は金を貸した。その時の俺らクラスメイトの感想は、"佐藤友達いたんだ"だ。ひどく驚いたのを覚えている。しかし、戻ってきた宝来に佐藤がした質問によって、納得してしまった。
宝来彼方は馬鹿だった。
馬鹿だから佐藤に付き合っていられるのだと、そう納得してしまったのだ。
その数日後に行われたオリエンテーションの班分けで、一人余った佐藤は、宝来の班に入り、その後、その班の奴らと一緒にいるのをよく見かけるようになった。
オリエンテーションでも色々驚かされ、放送委員になった佐藤にも驚かされた。だが、一番驚いたのは、文化祭だ。
俺は思わず目を疑った。
俺らのクラスはメイド喫茶をやることになった。そこで佐藤は、メイド服を着せられていたのだ。
「…………かわ、」
思わず開いた口を慌てて手で押さえたが、衝撃は凄まじかった。化粧のせいもあるだろう。服の所為もあるだろう。しかしそこには、美少女ともとれる可愛いメイドがいたのだ。佐藤を着飾って満足げにしている坂本に、女子連中はよくやったと親指を立てた。
そのメイド姿のままB組の劇に攫われたりしたらしいが、そのシーンは見られなかったのが残念だ。
他にも色々あったが、一年間観察して思ったのは、
口も達者だが、温厚そうにみえて、意外と手も出るのな…まぁ宝来限定だが。
これが俺の一年目の佐藤のざっくりした観察記録である。
メイド姿の佐藤がどストライクで、思わず惚れそうになった、という事は墓まで持っていこうと思う…。
二年生の時にも佐藤は派手な衣装やらメイド服やらを着せられており、思わず写真を撮った(隠し撮り)のは誰にも言わないでおこう。
気になった人は1話を読んでみよう。黒田くんはそこで登場してまーす。
文化祭の話は一番気に入っているので、是非読んでもらいたいです。
それでは次回はきちんと本編書く予定ですので、よろしくお願いします!