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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
六章 高校二年、三学期
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番外編 無責任の信頼と理不尽な理屈

はい。何故か分かれたので、番外編という形にしました。


今回も会長が暴走中。




在校生は休みであるはずの、卒業式当日に登校する羽目になった僕は、卒業生がまだいない体育館で、音楽の準備、マイクテスト、来賓の方への挨拶、段取りの確認など、生徒はしないであろう仕事も押し付けられ、うんざりしながら、司会の原稿の最終確認を行っているであろう幡木の元へと向かった。


「…………」


「楽しみですね先輩‼︎」


別室に待機していた幡木は何故か、淡いピンクのパーティドレスを身に纏っていた。


「…お前……、その格好は、何だ?」


「え?司会といえばドレスですよね!テレビとかでは司会の人が綺麗なドレスとか着てるじゃないですか!」


「…………」


僕は泣きたくなった。幡木の偏った知識による愚行に。

どこに一般的な高校の卒業式に、卒業生より派手な格好をする馬鹿がいるんだ?


「今すぐ制服に着替えろ」


「家からこの格好で来たので、制服なんて持って来てません‼︎」


「………はぁ」


学校に幡木サイズの着替えがない為、仕方なくその格好のまま卒業式に出すことになった。

式が始まってもないのに、この疲労感はなんだろうか……。




そして、式は始まった。


「えぇ、っと、これより!卒業生、かんそうしき…?をはじめたいと思います‼︎」


疑問符を飛ばすな。振り仮名つけておいただろうが。


「卒業生、入場‼︎」





拙いながらも、ちゃんと司会を務めた幡木の努力により、卒業式は滞りなく進んで行った。

その司会をするための原稿も、僕が全ての漢字に振り仮名を振り、尚且つ幡木でもわかる言い回しに直し、教師から許可を取り、と、非常に苦労して作成した原稿である。

失敗したりふざけたりしたら、放送委員はクビだという書状も担当の教師にしたためてもらい、それをチラつかせながら、幡木の練習にも付き合わされた。保険で、内心にも響くぞ、と脅しをかけておいて正解だった。

幡木は真面目に司会に取り組んだ。




しかし、問題が起こったのは、式が終わってからだった。





卒業生、来賓の方など、皆が退場し、数人の先生と、僕、幡木だけが残った体育館で、片付けを始めようとした時だった。


「っ少年‼︎‼︎」


体育館の入り口から会長が僕を睨みつけていた。


「…………」


一瞥だけくれてやり、会長から視線を外した僕はパイプ椅子の片付けを始めた。しかし、会長は駆け寄ってくるなり、僕の肩を掴み自分の方へと向けたかと思うと、胸倉をつかんで揺すり始めた。


「なんっだあの式は‼︎なんて普通な‼︎平凡な‼︎頼んだではないか!面白い可笑しく楽しい卒業式を‼︎他でもない君に‼︎」


「ただ丸投げされただけなんですが……」


「つべこべ言うな‼︎なんで!なんであんなに普通にただ泣けるだけの卒業式にしたんだ!音楽をかけるタイミング‼︎完璧な司会の原稿‼︎なんの面白みもなく、普通に泣ける卒業式ではないか!」


「……それの何が悪いんですか?」


「言ったではないか!泣けるだけの卒業式なんてつまらないと!私が参加する卒業式がそんなにつまらないものでいいはずがないと‼……︎言ったではないかっ」


力なく項垂れ、涙を流す会長。しかし僕の胸倉はしっかりと握って離さない。


「いや、そんなことで泣かれても困るのですが……」


「私は!君だから頼んだのだ!君なら、と!あの、グリシーヌなら面白い式にしてくれるとっ‼︎」


泣きながら睨みつけてくる会長に、僕は呆れるしかない。


「……僕も言いました。僕は普通で平凡な一高校生でしかないんですよ。横断幕の時点で気づいて下さいよ。それに、あの劇のストーリーを書いたのは僕じゃありません。無責任に式の進行を押し付けておいて、よくそんな風に怒れますね」


会長は手を離し、近くで静かに、僕達の様子を見ていた幡木を指差し叫んだ‼︎


「じゃああのドレスはなんだ!あれも君にとっては普通なのか⁈入場して、後輩君のあの格好を見て期待した私の気持ちが、君に分かるのか⁈」


僕は思わず固まった。そう、そこを突かれたら僕は何も言えなくなる。

体育館に入ってきた卒業生が、幡木を見て皆同様に足を止めたのを知っていたからな。そんな中、期待を込めた眼差しで僕達の方を見ていた会長が、ここまで落胆し、激怒するなど、誰が分かる?

普通の式だと、安堵していた生徒しかいなかったというのに……。


「私は、君のユーモアセンスを信頼していたんだぞ!」


そんな無責任な信頼はいりません。


「幡木後輩の読み間違えや、君との言い合いで場が和み、笑いに変わるのを期待していたのに!なのにっ‼︎」


そんな期待もいりませんし、知りません。


「私の、最後の卒業式が、こんな普通の、卒業式になるなんてっ……!」


床に膝をつき、顔を覆った会長に、静まり返る体育館。

僕が折れ、仕方なしに謝ろうと、声をかけようとした瞬間、


「校長に卒業式のやり直しを申請してくるっ‼︎」


勢いよく立ち上がり、風の様に走り去っていった会長。


「……さすが、宇宙人」


思わず呟いてしまった僕の言葉に、体育館に残っていた幡木以外の人全員が頷いた。



当然、卒業式のやり直しなど認めてもらえず、会長の嘆きの叫びが人気のない学校に響いた。



卒業おめでとうございます。

二度と戻って来ないで下さい。

一応、卒業式編で会長の出番はなくなります。

書いててすごく楽しいキャラでしたので、番外編とかなんかでまただせたらな、と思います。

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