11話 佐藤君は苦労人 5
遅くなりました!
読んでいて下さる方、すみません!
肝試し編開始です。…一応……。
「…………ねぇ、佐藤くん」
「なんだ?」
「何で俺達、室内でホラー映像見てるの?」
時刻は20時。
逢真高校一同は、旅館の一室の広間を借り、スクリーンでホラー映像を見ていた。
次のイベントの肝試しは、20時30分から始まる予定だ。
旅館に着いたのが17時。
「広間に20時。広間で肝試しの説明をする。1秒でも遅れたら肝試しの参加資格はなくなる。覚えておけ」
旅館に到着し先生の説明の後、佐藤のその一言で解散した。そこから3時間は自由時間だった。各々が休んだり風呂に入ったりと、自由時間の名の通り自由に過ごしていた。
1秒も遅れる事なく広間に全員が集まり、佐藤が説明を始めた。
肝試しはここから始まっていたのだった。
「この後20時30分より肝試しがある。その為の注意事項をこれから説明する。心して聞け」
僕のその言葉で全員の視線が僕に向いた。
「ルールは簡単。この旅館の裏に人の歩ける獣道が2本と、その先には祠がある。そこにお札を置いてきた。そのお札を1枚持って帰ってくる事だ」
簡単じゃん、とあちこちから声が上がるが、まだ説明の途中だ。人が話しているときは静かにするのが常識だと僕は思うのだが?
僕はわざとらしくため息を吐き、続きを説明する。
「その道には各班のイベント担当24人が配置してある。まぁ単なる脅かし役だ、気にするな。とりあえず、お札を1枚持って帰って来てクリアだ。以上の事で質問は?」
宝来が真っ先に手を挙げるのを視界の端で捉えたが、そんなものは無視だ。バカの話に付き合っている暇はない。
「ないようなので、ルール説明は以上だ。次に人数だが、男女各2人の4人班で行ってもらう。班は行く直前にくじで決める。説明は以上だが、こんな簡単な事で質問がある奴はいないな」
「はいはいはい‼︎」
「……言ってみろ」
煩いので、仕方なく発言権を与える。
「何で30分も早くここに集まったんだ?」
的を得た質問に思わず目を見開く。
そう広間に30分も前に集まってもらったのには、理由がある。
「お前にしてはいい質問だ。これからこの広間にあるスクリーンで、20分間のある映像を見てもらう。その後旅館の裏に移動だ」
察っしのいい奴は気づいただろう。当然、ホラー映像だ。顔を青くする者、ニコニコ笑う者、首を傾げる者、反応は様々だ。それらに横目をやりつつ、上がっていたスクリーンを下ろし、プロジェクターを設置する。
「黙って、静かに見ろ。特に宝来。途中退場は許さない。目を瞑るのも耳を塞ぐのも自由だが、見ていて損はない。見ないと後悔するかもな」
名指しで注意すると、本人から抗議の声が上がったが無視して、部屋の電気を消す。先生方には出入口に立っていてもらい、脱走対策は万全だ。
そして、映像を再生した。
その映像の中身は、最初8分はこの旅館そっくりの場所で起こる怪奇現象と心霊映像の詰め合わせ。殺人が起きた、自殺者が多い、幽霊が住み着いている等、程度の低い物ばかりだが、怖がりな奴は怖いだろう。わざわざ僕が加工して祠の映像も入れた。先程の僕の言葉で、その映像の場所がここだと勘違いする奴は多いだろう。まぁ当然それが狙いだが。
後半の12分は、ちょっとしたホラー映画だ。とびっきり怖いものの、怖い部分だけを切り抜いて作った。もちろん、祠、旅館、裏山等、今回の肝試しの場所と似ているものを厳選した。大音量で流しているから、怖くなかろうが効果音の大きさで驚きはするだろう。
「俺達何で、ホラー映像見てるの?」
「……教えてやろうか?」
僕の隣に座って映像を見ている水城が疑問を口にする。横目で見てみると、さして怖がっている様子が見えない水城と金見。その奥には、宝来と岬と新井山が身を寄せあって震えている。
「答えてくれるのか?」
ひとつ首肯し口を開く。
「お前らは、文化祭のお化け屋敷と屋外での肝試しの違いが分かるか?」
「お化け屋敷と肝試しの違い?」
「あんまり変わらないんじゃないか?」
「そうだ。さして違いはないが、違う部分が大きく分けて2つある。
1つ目は環境。屋内か屋外か、昼か夜か、都会か田舎か。それだけで違うだろう?文化祭でやるお化け屋敷は、昼間の室内でやる。対して肝試しは、夜間の屋外だ。加えてここはど田舎。
2つ目は、怖がらせる必要があるか、ないかだ」
指折り数え説明していると、黙って続きを促してくる2人。
「文化祭では、別に怖がらせる必要がない。客が楽しめるかどうかが問題だ。収益を考えて、客が楽しめる空間を作るのがお化け屋敷。恐怖ではなく驚愕、程度で十分だ。”あのお化け屋敷楽しかった”という感想程度で十分だからな。怖かった、という評価は別に必要ない。
逆に肝試しは、要は度胸試しだ。つまりは怖がらせる必要がある。屋外でやる事、夜にやる事、祠もしくは神社や寺でやるのが好ましい。そしてお化け役と企画が重要だ」
「お化け役が重要って?そりゃ企画は大事だけどさ、お化け役はお化け屋敷とあんま変わらないだろ?」
金見のその見解は正しい。僕も同意見だ。
「そうだ、変わらない。お前らは、同級生がお化けの扮装をして突然飛び出してくるだけのものが怖いのか?
こんにゃくやらスライムやら、古典的な方法で脅かされるのが怖いのか?
夜の神社で只々お札やらを取って戻って来るだけのものが怖いのか?
だから僕がそう思わせないように、苦労して裏で手回しをしている。その為のこの映像だ」
スクリーンを指差す。要所要所で、主に女子から小さい悲鳴が上がっている。作っておいて言うのもなんだが、何が怖いのか分からん。
「まぁそういう訳だから、黙って見てろ」
それに頷きスクリーンに目を戻す2人。
映像も後半に入った。
その時、映像がプツンと途切れ広間から光が消えた。
「えっえっ?何?」
「どうしたの?故障?」
「おい佐藤!ふざけんなよ!」
真っ暗な部屋の所々から、不安そうな声と、僕を責める怒号が聞こえる。だがすまない。僕も知らない。
「おっと、スマンスマン。俺がコードに引っかかって抜いちまったみたいだ」
入口付近の壁際にいた五井先生が、謝りながら電気を付けた。
一瞬静まった部屋だが、五井先生へ文句を言う者が多数。それに平謝りで悪びれた風もなく、飄々としている。だが僕も言いたい。お前のせいで仕込みだと僕が疑われたじゃないか。
「五井先生。コードを刺して、電気を消してもらえますか?」
僕は睨みつけながら催促する。先生が慌てもせず、緩慢に動く。コードが刺さり、電気が消えたのを確認し、持っていたリモコンで再生ボタンを押す。
ヴォァァァァァア
スクリーンに、血走った目で口を大きく開けた血塗れな女のドアップと、地を這うような叫びが大音量で流れた。同時に周りから悲鳴が上がる。
「あ、ミスった」
再生する場所を間違えてしまった。僕は自分に視線が集まっているのを理解していながら、淡々とリモコンを操作し、先程の続きの場所から再生を始めた。
だが、残りの12分間は皆、目と耳を塞いでいた。
…僕の数時間の苦労を返せ。映像の編集にどれだけかかったと思っている。
また中途半端なとこで切ってしまって申し訳ないです。
続きは頑張って書きます!
色々な話のネタだけが思いついて、本編が進まないという、本末転倒な状況です。
もう1つの双子の話の方も、のらくらと書いていきたいと思っております。