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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
六章 高校二年、三学期
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103話 なぜ僕が、と何度問いかけても答えは出ない

卒業式編、終わりませんでした!

しかし、番外編としてもう一話更新します!






卒業式当日。僕は何故か幡木の隣に立っていた。


「えぇ、っと、これより!卒業生、かんそうしき…?をはじめたいと思います‼︎」


疑問符を飛ばすな。振り仮名つけておいただろうが。


「卒業生、入場‼︎」


拙い進行にため息が漏れそうになるのを必死で嚙み殺しながら、僕は誰にでもなく問いかけた。


なぜ僕が、と……。







「よろしく頼んだぞ、少年!」


いい笑顔でそう言う生徒会長に、僕もきっぱりと返事をする。


「お断りします」


「だが断る‼︎」


「………………」


「………………」


会長の頼みをすっぱりと断ったが、即答で断り返され、無言の睨み合いが勃発。


「司会を頼みたいのなら自分で頼んで下さい。僕を巻き込まないで頂きたい」


「頼みにならもう行った。しかし、とあることを理由に断られてしまってな。私が頼むだけではダメなのだ」


「その理由とは?」


理由を問うと会長は、カッと目を見開き僕を指差し叫んだ。


「君が彼女に制限をかけたのが理由だ‼︎放送室の使用制限!その他放送機器の使用制限!挙句の果てにはマイクのみの使用も制限したそうではないか‼︎」


「………………ああ」


「ああ、じゃないだろう‼︎君の所為で彼女はどんなに苦しんでいると思うんだ!放送委員に入ったにも関わらず、放送に関して制限をかけられ、自由に放送できない彼女の気持ちを、君は考えた事があるのか⁈」


…はい?


「彼女は苦しんでいる!マイク一つ自由に使えず、委員としての仕事を何一つできていない現状に!先輩命令という上下関係に‼︎彼女を苦しめるのはもうやめ給え‼︎一度や二度の失敗くらいなんだ‼︎先輩なら心を広く、許してやるくらいの優しさを見せたらどうなんだ⁈後輩の指導をするのも先輩の宿命というものだろうがっ‼︎」


…………はぁ⁈


「どうなんだ⁈幡木後輩君の先輩の佐藤少年‼︎」


「……………………」


その理屈なら貴方も先輩なのですが……。

僕は言葉を失った。

つっこみ所満載な会長の言葉に。

幡木掬という後輩に迷惑しているのはこちらだというのに、まるでこちらが悪いみたいに言われていることに。

マイクの使用を制限したのは、僕ではなく教師連中だということを知らない、生徒会長に。

直々の後輩である幡木にかけられた迷惑の数々を知らない、会長の無知さに。


「……一ついいですか?」


「ああ、謝るなら今のうちだぞ少年」


……耐えろ僕。会長も幡木と同種の人間だ。真っ当な僕が我慢すればいいだけの話なんだ。

そう自分に言い聞かせ、しかしこれだけは言わないと気がすまなかった。


「幡木掬という馬鹿の馬鹿さ加減を知らない奴が、迷惑をかけられていない呑気な奴が、とやかく言ってこないで下さい‼︎」


僕は会長を睨みつけそれだけ言い、生徒会室を後にした。


「これは、新しいタイプのツンデレか…⁈とにかく頼んだぞ少年‼︎」


生徒会室から顔だけ出した会長は、僕に向かってそう叫んだ。



僕は、宇宙人には何を言っても通じない、ということを再認識した。








昼休み、僕は放送室の前で幡木と対峙していた。


「………………」


「どうしたんですか先輩?いつもなら、放送室の中で鍵かけて私が入れないようにしてる、そんな先輩が外にいるなんておかしいですよ!」


「……今日は放送はない」


「そんなっ……‼︎先輩が帰ってきたからやっと放送室に入れると思ったのに!」


「さっき自分が言った言葉を思い返してみろ。僕がいたって放送室には入れないだろ」


「……はっ‼︎」


この馬鹿に僕が頼むのか?

"卒業式の司会をしてくれ"と……?


なぜ、僕が?

今日だけで、もう何度問いかけたかわからないこの言葉も、誰も答えてはくれない。


「あっ、先輩!」


なにかを思い出したのか、笑顔で両手の平を突き出してくる幡木。


「……なんだ?」


「お土産下さい‼︎」


僕は幡木の頭に無言で手刀を落とした。


「いたっ!なにするんですか‼︎」


「お前を相手にしてると頭が痛くなる」


そう言い、小さな丸い箱を幡木の手に落とす。


「煩そうだと思ったからな。予想通りだったな…」


「これ何ですか?」


「子供舌であろうお前にも食える、飴だな」


幡木はそれに喜び、箱を掲げてその場でクルクルと回った。


「ありがとうございます先輩‼︎」


「さて、ここでお前に一つ頼みがある。断るならそれは返せ」


そう言うと幡木は、ピタリと止まり目を見開き僕を見る。


「なっ!卑怯ですよ、私を物で釣ろうなんて!なんでも言って下さい!」


こいつ、やっぱり馬鹿だ。

僕は宝来以上に馬鹿な幡木の今後が、少し心配になり、ため息をついた。

そして、本題を切り出す。


「生徒会長からの依頼だ。卒業式の司会を頼みたいそうだ。放送機器の使用については僕が許可を取る。放課後、生徒会室に行け」


まさか僕が幡木に"放送"を頼むことになろうとは、人生なにが起こるかわからないものだな…。

僕の言葉を理解した幡木のはしゃぎ様に、"人選ミス"という言葉が頭をよぎった。いや、初めから分かってはいたんだがな……。







なぜ、僕が。

今日何度目だろうか。いや何百回と問いかけたこの疑問の答えは未だに出ない。

しかし、答えは無くとも言わずにはいられないのだから仕方ないというものか……。


「さて、それではこれより、卒業生歓送式の打ち合わせを始める!」


帰宅しようと靴を履き替えようとしたところで、なぜか生徒会長に捕まり、外履きの靴を仕舞うこともできず靴箱の前に置き去りにし、生徒会室に連行された。

生徒会室にいたのは、幡木だけだった。この人数で打ち合わせとは、笑わせてくれる。


「まず、この計画は私以外の卒業生には一切知らせていない!つまり、彼等は観客!ただ楽しんでもらうために参加するのだ!その為、現在自由登校になった三年生には、生徒会長の権限を利用し、余程の用事がない限りの学校への出入りを禁止した」


……三年生が誰もいなかったのはその所為か。


「そして、卒業式の計画、立案、実行、進行、全て、ここにいる者で行う!」


「ちょっと待て」


「なんだ?質問は受け付けてないぞ少年。というか、この時点で疑問があるのか?物分かりの悪い後輩君だな」


「アハハハッ!先輩わからないんですか?私でも分かりましたよ!もうお馬鹿ですね!」


ギリッと、歯を食いしばり、グッと拳を強く握り、襲いかかってくる怒りをやり過ごす。

この宇宙人と馬鹿と僕の三人だけで、卒業式を取り仕切る……?

これは一体どんな悪夢だ…………。


「まぁいい話を進めるぞ。質問は後で纏めて聞こう。肝心の式に関することだが、司会進行は幡木後輩!」


「はい!」


「司会進行補佐その為音楽雑用等は、佐藤少年‼︎」


「……はい?」


司会進行"補佐"?

聞いたこともない役職名に思わず聞き返すが、当然会長は気にせず続ける。


「そして横断幕を作り、計画だけを告げて後は君達に任せるのが、この私!生徒会長の皇凰羅である!」


「…………は?」


会長のセリフが頭に入ってこない。あまりの意味のわからなさに僕の頭は、理解することを拒否した。

呆然としている僕を、放って会長は続ける。


「私だって卒業生!楽しむ権利は十分にあるはずだ!だから後は任せたぞ、少年……」


ポン、と肩に手を置いた会長は、今まで見たことのない、優しい笑みを僕に向け、


「ではさらばだ!卒業式当日を楽しみにしているぞ‼︎後輩君達よ‼︎」


次の瞬間、そんな笑みなど記憶から吹っ飛ぶくらいの勢いで、生徒会室から逃げるように出て行った。


「で、どうしましょうか先輩‼︎」


笑顔でわくわくしている幡木の言葉に我にかえった僕は、初めて幡木に助けを求めた。ある意味人生の汚点である。


「どうしようね……?」


計画だけを告げ、と会長は言ったが、何も聞かされていない。

丸投げされた事実に僕は愕然とし、力なく椅子にもたれかかった。


卒業式は来週である。


僕は何度でも問いかけよう。


なぜ、僕が……、と。

会長の暴走の所為で脱線しまくりましたが、なんとか完成。

次に更新する番外編で卒業式編は終了します。

会長の暴走をお楽しみに、というとこですかね……。

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