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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
六章 高校二年、三学期
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102話 嫌なやつは忘れた頃にやってくる

修学旅行編が無事に終わったので、日常編です!

いやー、特殊な知識(京都のとか)がいらないから、まだ書くの楽だった!




修学旅行を無事に………無事に終えた僕等は、帰ってくるなり、面倒事に直面した。








「…………なんだ、これ」


修学旅行の翌々日、登校するなり僕が目にしたのは、屋上から垂れ下がる巨大な横断幕。それが目に入った瞬間、僕は…いや、僕だけでなく、全員が言葉を失っただろう。

何故なら、


〈卒業生 大送葬式‼︎〉


と豪快な字で書かれていたのだから。



……とりあえず、僕達が修学旅行に行っている間に卒業生は皆死んだ、という認識で間違ってはいないか?

この学校は至って平凡なただの高校のはずなのだが……?

三年生はバトル・ロワイアルにでも参加してきたのか?

生き残った奴だけが卒業できます、的なことか?


なんにしろ、疑問しかでてこないこの横断幕の説明は、今日"偶然にも"行われる全校集会であるのだろう。

そう思い至った僕は、横断幕から目を外し、止めていた足を動かした。







全校生徒が集まりつつある体育館では、ざわざわと、話し声が多く聞こえた。何故か三年生は不在である。

やはり、あの横断幕についてのことが多かった。かく言う僕もその一人である。


「ねぇ、佐藤くんはなんだと思う?」


「……さぁな」


話しかけてきた金見に曖昧に返事をすると、水城がなんとも楽観的な意見を述べる。


「僕は書き間違えだと思うな」


「…………それはないと、思うがな」


僕は頭に浮かんだ人物の顔を頭を振って否定し、水城と金見との雑談に相槌を打つ。校長が壇上に上がった事により、その会話は終わった。三年生不在のまま、校長はマイク前で咳払いをし、話しはじめた。


「えー、二年生の修学旅行も無事に終わり、全員が登校しているのを見て嬉しいです。やはり、一学年分の生徒が不在だと、静かで寂しいですからね」


……その一学年、三年生が不在のまま集会を始めた理由は何かを聞いてもいいか?

あの横断幕を見た後だと、その言葉は違う意味を持ってくるのだが……?


「そして、二年生が戻ってきてすぐではありますが、もうすぐ三年生が卒業します。その卒業式はとても笑える、楽しい式にしたいとの希望があり、卒業式の演出を、その生徒にお任せしました。その生徒から、卒業式についての説明があるそうです」


校長がそう言った次の瞬間、体育館前方の扉が勢いよく開け放たれ、マイクを持った一人の女子生徒が入って来た。


「全生徒に告ぐ‼︎生徒会長である私、皇凰羅の権限によりここに、〈卒業生 大送葬式〉の開催を宣言する‼︎」


やっぱり犯人はお前か……。

ああ、バトル・ロワイアルの勝者はお前か?


肩を落とす僕や、納得し頷く生徒達のことなどお構いなしに、会長は続ける。


「卒業式は泣けるものだというその認識は間違っている‼︎よく聞け後輩ども‼︎私は私の卒業式を、涙あり笑いありの、楽しい卒業式にしたいのだ!どうかそれに協力してほしい‼︎」


頼むなら頭を下げろ。


そう思った生徒は多いだろう。何故なら会長は、協力するのが当然だとでも言いたげに堂々と胸を張っているのだ。


「さて、卒業式に関しての説明を始めようと思ったのだが、まだ構想ができていないのだ!」


笑ってんじゃねぇよ。卒業式は来週だぞ。


「私は協力者の帰還を待っていたのだ‼︎その者は今すぐ私についてくるのだ‼︎」


協力者、ねぇ。なにを協力させる気かは知らないが、関わりたくないな。


「二年!放送委員の佐藤少年‼︎私と共に生徒会室に来い‼︎貴様に拒否権などない‼︎」


……フラグの回収を、どうも。


僕はため息をつき、苦笑する水城や金見、憐れむ生徒達に見送られながら、会長に連行されながら、体育館を後にした。







「さて、少年よ」


生徒会長に連行された僕は、いわゆるゲンドウポーズをしている会長の正面に座らされ、説明を待つ。


「先程言った通り、この卒業式は私が計画をしている。ある程度の構想はできてはいるのだが、完璧ではない」


さて、僕はなにを協力させられるのだろうか?


「君に協力してほしいことは二つ。一つは、横断幕の作成の手伝いだ」


「…横断幕はもうできているでしょう?」


「あれは仮なのだ。なにせ、大送葬式というのは仮タイトルだからな。そのタイトルを君にも考えてもらいたい」


仮なのにあんなに大掛かりな物を作成し、尚且つ下げたというのか?

学校の前を通ったやつはさぞ驚いただろう。SNSでアップされるくらいには驚きのタイトルだろうからな。しかも、それが仮だというのだから、笑うしかないというものだ。まあ、僕は笑わないがな……。


「さて、タイトルについて意見を聞きたい。なんでも言ってくれたまえよ!」


立ち上がり、ホワイトボードの前に立った会長は、僕が口を開くのを待つ。

言いたいことはいくらでもあるが、とりあえずは、


「送葬式というのはどうかと思います。死んだ訳でもあるまいし、縁起が悪いです」


「なに⁈卒業式は"送る"のだから、問題はないはずだろう?」


「送葬とは、死者を"葬"るのを見"送"るという意味になります。卒業生が皆死んでて墓地に葬るのなら正しいですが、人生の門出の日ともいえる卒業式で、送葬式とはどうかと思います」


僕が説明すると、会長は目を見開き固まった。口が、なんと、と動くが音にはならなかった。


「で、では!これではどうだろうか‼︎」


ホワイトボード全体を使って、文字を書いていく会長。書かれた言葉に僕は呆れ、ため息を吐く。


「佐藤少年よ、"卒業生を贈る会"これならどうだ!」


どうだ!、じゃない。

卒業生はどこかに贈呈されるのか?

ここは人身売買を行なっている学校だとでも言いたいのか?

送葬式では"送"と書いてあるのに何故そうなる?


「……それでは、卒業生がどこかにプレゼントとして"贈られる"のような意味を持ってしまいますが、それでもいいんですか?」


「くっ、君は厳しいなっ!」


「常識的と言って頂きたいです」


「私に常識がないとでも言いたいのか⁈」


「………………」


「何か言いたまえよ‼︎無言は肯定という常識を知らないのか⁈」


「そんな常識は初めて聞きましたが、肯定というのは間違ってないので、否定はしません」


会長は悔しげに顔を潜め、勢いよくホワイトボードの字を消し、バンッと叩いた。そして、僕にマジックペンを突きつけ怒鳴った。


「それじゃあ君も案を出したまえよ‼︎君を呼んだのはその為でもあるんだからな‼︎」


「……もう普通でいいでしょう」


差し出されたペンを取り、ホワイトボードに滑らせる。


〈平成〇〇年度 卒業式〉


そう普通に書いたが、会長はバンバンと机を叩き批判を始めた。


「つまらん‼︎面白い可笑しい卒業式にそれはないぞ少年‼︎私の参加する卒業式がそんな普通で平凡なタイトルでいいはずがないだろうが‼︎」


「すみませんね、僕は普通で平凡なもので」


そんな言い合いをしながら、タイトル決めをしていたが、会長から提案されるのは、ふざけたものばかりだった。


「これならどうだ!」


〈卒業生 送還式〉


「どこに送り返す気ですか?留年生を高校に送り返す会か何かですか?」


「これで、どうだ‼︎」


〈卒業生 還送式〉


「だからどこに送り返すんですか。それ、さっきのと意味同じですからね」


色々と論議いいあいを行った結果、タイトルは〈卒業生 歓送式〉となった。

普通でいいと何度言っても聞かないので、いい意味の単語で僕が折れた。



【歓送とは、その人の出発を喜び、励まして送ること】






「さて、本題に入ろうか」


「今までのは本題ではないと?」


「ああ、君に頼みたいのは二つと言ったであろう?もう一つは君にしか頼めないことなんだ」


じゃあ一つ目は他の人に頼んでくれ、とは思っても口にしないのが、先輩へのせめてもの礼儀だろうか。


「卒業式の司会を頼みたい後輩君がいる。その後輩君の説得と指導を君に頼みたい」


会長が言った言葉に、僕は頬を引きつらせた。


「…………因みに、その人物は?」


なんとなく、予想はついた。しかし、その予想を覆したくて、否定したくて、確認の為に、会長にその人物の名前を問う。


「幡木掬君だ‼︎放送委員である君の直々の後輩だ!君にしか頼めないことだ!」


……幡木が卒業式の司会か。世も末だな。


「よろしく頼んだぞ、少年‼︎」



笑顔の会長に殺意が沸いたのは、言うまでもない。

そういえば、三年生がいなかった理由も聞いていないな……。

ということで、卒業式編です。

佐藤君が嫌いな会長さんが、卒業してくれる話です。

終われば次で完結。


今回は会長の会でしたね。名前しか掬ちゃん出さなかった。次回はちゃんと出ます!


という訳で、次回も卒業式の話になります。どうぞよろしくお願いします!

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