101話 修学旅行へ行こう そのろく
とりあえず、修学旅行編終了、です。
清水寺は予想より広かった。
僕、水城と金見、岬、新井山で別れ捜索を開始した。僕と水城は、成就院、千体石仏群方面を探し、金見達は一番奥の子安塔方面を探し、30分後に本堂で落ち合った。が、何故か宝来は見つからなかった。
「いたか?」
「いや、こっちにはいない」
「ああもう‼︎あいつどこ行ったんだよ⁈」
水城と金見が簡潔に報告をし合う側で、頭を抱えて叫ぶ岬と、ため息を吐く新井山と僕。
「一通り中は回ったはずなのに、なんでいないんだ?」
「あの馬鹿のことだ。三連覇の為に、清水の舞台から飛び降りたとかだったら笑えるよな」
「「「「………………」」」」
「……黙らないでもらえるか?」
僕が冗談で呟いた言葉を拾った4人は、真顔で黙り込んだ。
「いや、彼方ならありえるかなって……」
金見のその言葉に、勢いよく頷き同意を示す岬と新井山。
気持ちは分かる……。だが、例えあいつが救いようのない馬鹿だとしても、死への恐怖はあるはずだ。あの高さから飛び降りるなんてことはしないはずだ。……多分。
僕達は宝来の一度捜索をやめ、本堂へと向かった。
決して多少の不安があったからとかではない。
「……いないな?」
「ああ、よかった」
「とりあえず一安心だな!」
「探しているはずなのに、いなくてホッとするおかしな状況……」
「……はぁ」
本堂に宝来はいなかった。いないことな安堵する一方、僕は呆れと精神的疲労からもはやため息しか出なかった。
そんな時、水城は大きく息を吐いたかと思ったら、いい笑顔でこう言った。
「彼方のことは置いといて、僕達だけで観光しよう!」
水城は仲間を素晴らしい笑顔で切り捨てたのだった。
水城の提案を否定する者はおらず、迷子の宝来は放って、清水寺の観光を始めた僕達5人。
参拝したり、写真を撮ったり、水城の希望により胎内めぐりをしたりと、一時間強、清水寺を満喫した。
そして、宝来を一番来させたかった、音羽の瀧にて、柄杓を手に僕等はため息を吐いた。
「ここでほんの少しでも頭がマシになってくれたらって、思ってたのにな……」
「俺たち、来年受験生だぜ?彼方は大学に落ちる未来しか見えない……」
「……来年は教える余裕はなくなるだろうから、落ちたとしても自己責任だ」
水城、金見、僕は虚ろな瞳で、一番左の学業成就の水を飲んだ。
「俺たちも受験頑張らないとな…!」
「ああ」
岬、新井山の二人は、来年は受験生だという自覚を持ってくれて助かる。あの馬鹿を反面教師に随分と成績が上がったからな。
ああ、よかったな。お前の馬鹿な頭が初めて他人の役に立ったぞ。
「少し休憩しようか。境内に茶屋があるんだ」
音羽の瀧を離れる時、水城はそう言うと先導して歩き始めた。
音羽の瀧から出口の方へ歩いていく途中にその茶屋はあった。
"舌切茶屋"
そう書かれた茶色の横長暖簾が見え、店の前に着いた瞬間、僕達は固まった。
「よう!遅かったな‼︎」
呑気に団子を頬張りながら、片手を挙げる宝来彼方がそこにはいた。
「「「「「………………」」」」」
休憩に来たはずなのにどっと疲労が押し寄せて来て、僕達は脱力した。
店側に迷惑をかける訳にはいかない為、茶と団子を頂いた僕等は、店を出て、ついでに清水寺も出て、人気のなかったなんの変哲もない普通の道端に宝来を正座させ、迷子になった馬鹿を見下ろしていた。
「去年のオリエンテーションの方が確立は高かったはずなのに、わざわざ京都に来てまで迷子になれるとは、いやはや恐れ入ったよ。なあ、自分ではどう思う?」
「…………」
俯き何も言わない宝来に、僕は続ける。
「だんまりか?いつもの騒がしさはどこへいった?ほら、なんか言えよ」
「……な、なんか」
「ほう……」
"面白い返し"に思わず関心した僕は、冷めた目で宝来を睨みつけた。
「「「「…………」」」」
水城達は宝来に呆れた目を向けた。いつも通り正座で説教されているにも関わらず、ふざけた返答をするその勇気と無謀さに。
その後、道端での説教は1時間に及んだ。僕だけでなく、金見に岬や新井山までもが文句を言ったが、水城の言葉が一番きつかった。
「僕、学習できないバカは嫌いなんだ。目を離した僕らも悪かったとは思う。だけどね?一人で清水寺回ってたかと思ったら、迷子のくせに呑気に茶ぁしばいてんじゃねぇよ」
相当ご立腹だったようだ。言葉が荒くなっている。僕達は思わず水城の顔を二度見した。
そんな感じで、僕達の京都二日目は、宝来の説教で幕を閉じた。
翌日。
帰りは新幹線ではなくバスだった。ガイドさんをつけて、観光しつつの帰路は心配事がなく非常に助かった。
暴走する教師や、迷子になる馬鹿もおらず、バスに乗って説明を聞いているだけでいいのだ。これ以上に素晴らしい観光はないと言える。
そうポツリと呟いたら、聞こえていたのか五井先生が、それでいいのか高校生…。と呆れ顔で言ったが、先生はこっちの苦労を知らないからそんなことが言えるんだ。同級生のお守りをさせられるこちらの身にもなってくれ。
オマケ
「そういや、お前らが言ってた瀧の水飲んだぞ!」
「ちゃんと学業のところを選んだのか?」
胸を張り、勿論だと言いたげな表情でこのバカは、言った。
「どれがそうかわからなかったから、全部飲んどいた‼︎いっぱい飲んできたからこれで安心だな‼︎」
「……バカ」
「阿保」
欲深いと一番御利益のなくなる飲み方をした宝来に、神様はきっと微笑まない。
なんやかんやで、修学旅行編終了しましたー!
書けてないところが見つかったら、後で編集しておきます。
いやー、こんなに苦労するとは思わなかった…。京都のこと全然知らないから、本当書くの難しかった。
とりあえず、次回もどうぞよろしくお願い致します。