95話 馬鹿によって気力は削がれていく
今週も無事更新。
番外編ぽいけど、一応本編です。
風邪が治った僕は、学校へ登校した。そして、全ての授業を終え、馬鹿共に絡まれることなく無事に帰宅してすぐのことだった。
家のインターホンが来客を知らせた。
僕はなんの確認もせず、玄関を開けたことを後悔した。
「それではこれより、祝!佐藤回復祝いの会を始めたいと思います!」
来客者は、宝来その他4名だった。
さてまずは、頭に"祝"とついているのに、"祝い"を入れる意味のなさに誰かツッこんでくれ。僕は病み上がりでそんな気力も体力もないんだ。
「なに言ってるんですかほーらい先輩!今日は楽しい新年会のはずでしょう‼︎」
「あ、バカ!佐藤の家でやるんだから、本当のこと言っちゃダメだろ!カモフラージュしないと!」
「彼方!」
幡木の発言に宝来がツッコミ、宝来の発言に、岬がツッコンだ。自分の失言に気づいたのか、宝来は、ハッとしたように口をおさえ、恐る恐るといった様子で僕の顔を伺う。それに僕は頬杖をつき、宝来の方を見ることなく、吐き捨てた。
「バカはお前だ」
僕の快気祝いと言う名の新年会は、こうして始まった。
さて、もうわかっているやつもいるかと思うが、今日のメンバーは、いつものメンツではない。
来客は、宝来含め"5人"。
人数だけでいえば、いつも通りだが、その中には、馬鹿でやかましい後輩の幡木が含まれている。
さてさてお待ちかね。本日のメンバーを発表しよう。
一人目は、宝来 彼方
二人目は、幡木 掬
三人目、岬 夏野
四人目、新井山 晴汰
ここまではいいな?岬がいれば新井山がいる、ということは理解してくれ。
そして、最後の一人だが、こいつが問題なのだ。
「さあ少年少女達よ!盛り上がっていこうではないか!家主の回復祝いだ!盛大に祝ってやろうではないか!」
なんでお前がここにいる?
「さすが会長!せっかくのパーティーなんだから、盛り上がらないと損だよな‼︎」
おい宝来、お前今"パーティー"って言ったか?快気祝いどこいったよ。
「それでは改めまして、佐藤少年の回復祝い基、新年会を始めたいと思います!」
五人目、皇 凰羅
常識人(水城、金見)が不在な新年会は、家主である僕の許可なく進んでいく。
「んじゃ佐藤、なんか作って」
お菓子を広げ始めた宝来の一言目は、僕をイラつかせた。グラスを持つ手に力が入る。
「お菓子しか買ってきてないから、なんかこう、ガッツリ食えるもんがいいな〜」
「いいですね!私もお腹すきました。どうせなら先輩、夕飯も作ってくださいよ!」
僕は力を込めすぎて震える手に、中身を零さないようにグラスをテーブルに置き、拳を握る。
「それはいいな!よし今日は少年の手料理のご相伴にあずかるとしようか」
僕は怒りを鎮めるため、静かに目を閉じて、心の中でこう唱えた。
"馬鹿の相手はするだけ無駄だ。人語を解さない奴らの言葉は聞き流せ。騒ぐ連中から離れられるんだ、料理なんてやすいものだろ。いくら腹が立とうと、あいつらは馬鹿だから仕方ないと割りきれ。"
「どうした佐藤、寝てんのか?まだ夕方だぞ?」
瞑想中にポン、と肩に手が乗り、失言していることすら分かっていない宝来の声が、耳に入ってくる。目を開き、横目で宝来を見る。
「お、起きた。大丈夫か?」
「………」
ため息を噛み殺し、静かに立ち上がり、キッチンへと向かおうと宝来の後ろを通ったときだった。
「腹へったから早く頼むな!」
僕は拳を振り下ろした。
「そういえば、来週は先輩達修学旅行なんでしたっけ?」
僕が作った料理を食べながら、ふと幡木が口を開いた。
「そうだったな。二年は修学旅行があるんだな。今年は京都だったか」
「そうですね。会長の時はどこに行ったんですか?」
岬が会長に向かって問いかけると、会長は、よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに笑顔で立ち上がり、
「北海道だ‼︎」
拳を握り叫んだ。
「そんな寒い時期に、北海道に行ったんですか?」
新井山が続けて問うと、会長は頷いた。
「当初は京都から沖縄だったんだが、その時期には是非とも北海道に行きたくてな。原稿用紙10枚に及ぶ嘆願書を作成し、学年主任と校長に提出して行き先を変えて頂いた」
学年主任と校長も、その熱意に答えたかったのだろう。しかし、そんなにしてまで北海道に行きたかった理由はなんだ?
「だが、最初は渋っていたんだ。過去、我が学園では、修学旅行で北海道に行くことはなかったそうだ。京都か沖縄と決まっていて、変更は難しいと。しかし、そこを曲げて頼む、と土下座をしたら校長が折れてくれてな。無事に北海道へと行くことが叶った」
「そんなにしてまで、なんで北海道に行きたかったんだ?」
宝来も気になったのか、会長に疑問をぶつける。
すると会長は、嬉しそうに語り始めた。
「二月の北海道では、雪まつりというイベントがあるんだ。それに是非とも行きたくてな。親が合法的に旅費を出してくれる修学旅行という機会を無駄にしてたまるか、と思ってな。私一人で行こうにも、学校がある上、尚且つ未成年だから難しくてな」
……行きたい理由はわかったが、なんというか、発言の端々が気になる。
「雪まつりってあれだろ。毎年テレビで放送してる、雪の置物がいっぱいあるやつ!」
「間違ってないが、高校生ならせめて"雪像"という言葉を使え」
「私も知ってます!最近はキャラクターとかのも多いですよね!」
「それだっ‼︎」
幡木を指差し、カッと目を見開き、突然大きな声を上げた会長。
「私の目的の一つがそれなのだよ。アニメキャラクターの雪像があると聞いて、オタクとしてこれは行かねばならんと思ってな。しかし、一番の目的はそれではないのだ」
「雪像以外になんかあったっけ?」
「いや、なかったと思うが…」
岬と新井山は、二人首を傾げている。会長はその二人の言葉に、わかってないな、と言いたげに首を横に振り、
「とあるキャラの雪まつり限定グッズが出るのを知らないとはっ!これだから一般人は…」
態とらしくため息をつくと、呆れたかのような目で僕達を見る会長。
「…………」
しかし僕達は呆れて物も言えない。
「限定、グッズ…?」
「如何にも」
「その為だけに、修学旅行先を変更したのか…?」
「如何にも」
確認するかのように、宝来と岬が呟くと、力強く頷く会長。
「先輩先輩。限定グッズってなんですか?」
こんな時も空気を読めない馬鹿な後輩は、僕の裾を引きながら、説明を求めてきた。
……一般人である僕に聞かないでくれ。
しばらく何を言っていいのか分からず、微妙な空気になったが、会長はその空気の中、爆弾を投下していく。
「今年は少し早い卒業旅行と称して行く予定だ。まぁ、一人でだかな。旅費は母が、卒業祝いで出してくれるそうだ。母はアニメやら漫画やらが嫌いでな。それ目的で行くと知ったら、怒鳴り散らされるだろうからな。ああ安心してくれ、母には友人と行くと言ってある。写真は合成で作ればいいし、土産も買っていけば、偽装工作は完璧だ」
母親には同情するしかない。
「父には内密に限定グッズを頼まれていてな。成功報酬は、来月に出る"キミメモ"の新作だ!これは頑張らないとな!」
聞いてもいないことを、嬉々としてベラベラと話していく会長。
本当、会長の母には同情しかない。
夕飯を食べ終え、僕が片付けを"一人で"やっている間、奴らは騒いでいた。
しかし、僕が片付けを終えると、帰ってくれる気になったらしい。
「それではな少年。今日は世話になった」
「またきますね!」
「二度と来るな」
そう言い、女子二人は揃って去って行き、
「じゃ、俺たちも帰るわ」
「ご馳走様。また明日」
岬、新井山も帰って行った。
そして、隣の家だから仕方がないのだが、一人は未だに家に居座っている。
「なあ、佐藤。修学旅行楽しみだな!」
「……そうか。僕は全然楽しみじゃない」
「そんなこと言うなよな!高校での修学旅行は一回きりなんだから、楽しまないとダメだからな!」
お前の所為で楽しめそうにない、と言ってやりたい。言ったら面倒なことになるから言わないが…。
「あっ、佐藤!一つ聞いとかないとと思ったことがあってな」
いつになく真剣な表情で、僕の方を見た宝来。そんなに真剣に悩んでいるのなら、答えてやるかと、姿勢を少し正したが、宝来の発言によってすぐに崩れた。
「おやつはいくらまでだ⁈しおりにも書いてなかった‼︎」
高校生にもなって、気にすることがそれか、と怒鳴り飛ばしてやりたかったが、僕にそんな気力はもう、残っていなかった。
僕は頭を押さえた。
「……頭が痛い」
「風邪か⁈まだ治ってなかったのか⁈」
治らなかったらよかったのに、と思わずにはいられなかった。
来週には修学旅行が待っている。
頭痛の種は増える一方だ。
というわけで、新年会だか回復祝いだかの会の話でした。
なんのとりとめもないお話ですが、まぁ、楽しんで頂ければ幸いです。
次回、修学旅行編にはいります。
二月中に終わらせられるか……。
次回もどうぞよろしくお願い致します。