番外編 新年小ネタ集
あけましておめでとうございます。
新年一発目。小ネタ集になりました。
まぁ、楽しんで頂ければ幸いです。
・今年はなに年?
「なぁ、佐藤」
僕の部屋で宝来が、年賀状をジッと見ながら、真剣な声音で言う。
「……なんだ?」
嫌な予感がし、宝来に横目を向けつつ、続く言葉を待つ。
「なる年ってなんだ?」
嫌な予感的中だ。小学生ならまだしも、宝来は高校生。そんな読み間違えはなければいいと、そう思っていたのに…。
「……なる年なんてものは存在しない」
「じゃあ!カレンダーとか年賀状とかにさ!"戌"って書いてあんじゃんよ‼︎」
年賀状を僕の目の前に突きつけ、"戌"の文字を指差す。
「……携帯で調べるか、辞書をひけ」
成と戌。
間違えやすいから気をつけよう…と言いたいところだが、間違えるのは馬鹿だけだ。お馬鹿発言をしないよう、気をつける事だな。
・派閥争い
「あーー‼︎なんで今年は丸餅なんだ⁈」
「安かったから」
「俺、四角い切り餅が好きなのに‼︎」
「文句があるなら食うな」
僕が餅をオーブントースターに並べている横で、騒ぎ立てる宝来に、一言スッパリ言い放つ。
「そうだぞ、彼方。丸だろうと四角だろうと、形が違うだけで味は変わらない」
宝来の後ろからひょっこりと、岬が顔を出す。
「でもぉ…」
「男がそんな細かいことにこだわるなよ!」
シュンと肩を落とす宝来の背を、岬は笑いながらバシバシと叩く。
「うぅ、わかった‼︎俺、丸も好きだ‼︎」
見事な手のひら返しである。
これで少しは静かになるかと思った、その時、
「ん?なぁ佐藤。この餡子、つぶあんじゃないか…?」
「………それが、なにか?」
雲行きが怪しい。この先の言葉は簡単に予想ができる。
「俺、こしあんが好きなのに‼︎」
ほらきた。男ならそんな細かいこと気にするな、じゃなかったのか?
何故、こうなる?去年はこんな事はなかった。皆、文句なく食べていたはずだ。これは、遠慮がなくなったと喜ぶべきことなのか?
いや、こいつらには初めから、"遠慮"なんて謙虚な言葉は当てはまらなかった。
「それは、聞き捨てならないぞ!あんこはつぶあんだろ‼︎」
宝来は激怒した。つぶあんの袋を手に取り、岬に突きつける。
「いいや、こしあんだ‼︎あの滑らかな舌触りがいいんじゃないか‼︎」
「あずきの粒が残ってる感じがいいんじゃないか‼︎」
つぶあんVSこしあん論争が始まった。
ヒートアップする二人に、みたらしや砂糖醤油などを調理していた手を止め、
「文句があるなら自分で買って来い‼︎」
僕は二人をキッチンから蹴り出した。
二人がスーパーに買い出しに出かけた間に、金見と水城と新井山にも聞いてみた。
「え?餅が丸か四角か?」
「こしあんかつぶあんか?」
「…そんなの、別に」
「「「腹に入れば同じだろ」」」
奇遇だな。僕も同じ意見だ。
・お年玉
1月1日
昼近くに起きた僕達六人は、解散した。年越しは一緒にしたが、正月まで一緒に過ごすつもりはない。
が、そう上手くいくものではないと、僕は何度も思い知っている。
「佐藤君はいくらもらった?」
「何をだ?」
「お正月なんだから、お年玉に決まってるじゃない」
「…それを、なんでお前に教える必要がある?」
「俺に、じゃなくて、俺達に、でしょ」
今現在、なぜかまたしても僕の家に集まった。
僕の家のリビングにいる五人。この暇人共め。
皆一度家に帰り、そして長方形の小さな袋片手に、また押しかけてきた。
だから、何故僕の家に集まる?
「それでは、これよりお年玉金額発表会を始めます!」
おい水城、お前まで悪ノリするな。
『イェーイ‼︎』
騒ぐな、煩い。
「じゃあ、夏野から時計回りにいこうか」
…勝手に始まった。
時計回りだと、岬、新井山、金見、宝来、水城、僕の順番になる。
僕はやるなんて言ってないぞ。
「じゃあ俺から。ハイ!…どうだ?」
岬がポチ袋から勢いよく取り出したのは、三枚のお札。
「……中途半端だね」
「一万二千円か…」
「うぉぉ!今までの最高金額‼︎去年よか千円増えた‼︎」
毎年千円ずつ増やしてるんじゃないか?千円増えただけでこの喜びようだからな。多分五百円でも同じように喜ぶだろうな。
「次は俺。はい」
テンションの高い岬の隣で、スッと静かにお金を取り出した新井山。
「おお!二万!よかったな晴汰‼︎」
「うん。あれ?他にも何か入ってる」
そう言い新井山がポチ袋から取り出したのは、一枚のメモ。
「"二連覇おめでとう!三連覇目指して頑張れ‼︎ 母より"。……」
それを読んだ新井山は、フワリと小さく笑った。他の奴らも微笑ましそうに見ている。
…いいな。そんな人が母親で。僕のは"アレ"だからな。
「んじゃ次は俺な。どれどれ〜」
金見が取り出したお札は五千円札一枚。
「うん。これでも多いくらいだよ」
いつもではありえないくらい、優しく微笑んだ金見。
「よし!じゃあ次は俺‼︎」
待ちきれなかったのか、金見を押し退け、前のめりになる宝来。
少しは空気読もうな。
「じゃーん!」
バシンッ、とテーブルにお金を叩きつける宝来。
「おぉ!五万‼︎」
「さすが、甘やかされてるだけはあるね」
「そのせいで脳味噌が足りてないから、どうしようもないけどね」
「まだ、話の通じない宇宙人の方がマシだろうよ」
水城、金見、僕と続けて言うと、宝来は半泣きになりながら叫んだ。
「なんで俺にはそんなあたりが強いの⁈」
「自業自得…」
ポツリと呟いた新井山の言葉に、岬は頷き、宝来はいじけた。
「はい。じゃあ僕の番だね」
一つ手を打ち、流れを切った水城は、ポチ袋の中身を取り出した。
「うん。毎年かわらないな」
「一万か。まぁ無難だな」
金見が水城の手元を覗き込みながらそう言うと、
「バイトをしてない、高校生からしたら大金だよ」
水城は笑いながら正論を言う。
それには激しく同意だな。
最近は、"課金"なんてものも存在してるからな。もう少し金の有り難みというものを知ってほしいものだ。
僕みたいにな。
「じゃあ最後は、佐藤君」
「ほらほら、早く出せよ」
ニヤニヤと笑いながら促してくる宝来。
「悪いが、僕はもらってない」
「え?」
「ごめん。…もう一回、言ってもらってもいい?」
聞き返してくる宝来と、何故か丁寧語になった岬。
何度言っても結果は同じだ。
「だから、僕は、お年玉をもらっていない」
『…………』
シン、と静まり返る室内。
次の瞬間、
「うわぁぁぁ‼︎ごめんな!俺がこんなことやろうなんて言ったからぁ‼︎」
宝来が叫びながら顔を覆い、机に突っ伏した。
やっぱり、事の発端はお前か。
「…うん。なんか、ごめんね?」
水城、申し訳なさそうに謝るな。
「あー、、。うん」
金見、気まずそうに目をそらすな。
「……」
「…悪い」
新井山、岬、哀れんだ目で僕を見るな。
「……じゃあとりあえず、しまおうか」
水城がそう言い、皆申し訳なさそうにお金をしまった。
こうして、勝手に始まった、
【お年玉金額発表会】とやらは終わった。
更新遅くなりましてすみません。
なかなか話がまとまらず、結局は小ネタ集という形になりました。
今年もこんな作者ではありますが、どうぞよろしくお願い致します。