表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
五章 高校二年、二学期
106/178

92話 最悪なクリスマスの過ごし方 前編

クリスマス編、前後編でいきます。

楽しんで頂けたら幸いです。

12月。

それは一年の中でとても静かな月である。

一般的に考えれば、冬休み、クリスマス、年末と騒がしいイメージだが、それは”一般”の人に当てはまるのであって、僕には当てはまらない。










と、思っていた時期が僕にもあった。



「佐藤先輩佐藤先輩‼︎私、これが欲しいです‼︎」


「ほう…。これを選ぶとは中々に見所のある後輩君だな。どれ、少年ではなく私が取って差し上げよう。なに気にするな。私は先輩であり会長だからな」


街中で、最悪の二人に出会うまでは……。







12月24日 クリスマスイブ

宝来彼方含む逢真高校バスケ部一同は、大会の為不在。

決勝まで勝ち進めば、23日〜29日まで会うことは殆どないと言っていい。

この一週間が待ち遠しかった。

まぁ今年は、夏に祖父母の家に行ったリフレッシュ週間があったが、この一週間はまた違う。

この時期は忙しいのか、出張であくまも不在なのである。

つまりは家で一人。なんと素晴らしいことだろうか。

さて、そういう訳だから僕は今年も一人で、クリスマスに彩られた街に繰り出すとする。




今思えば、この考えが愚かだったのだ。

そう、今年は去年とは違う点が三つある。

一つは、僕が高二になったこと。

一つは、後輩ができてしまったこと。

そして最後は、一年の時は一切関わらないように努力した、現生徒会長せんぱいと関わってしまったことだ。


この三項目で、僕が言いたいことは理解できたはずだ。







街に繰り出し、早数時間。

服屋に行き服を数点買い、靴屋に行き靴を買った。そしてファストフード店にて昼食を取り、近くにあったゲームセンターに入った。


そこで事件は起こった。


適当に遊ぼうと、クレーンゲームコーナーを見ていたときだ。後ろから肩を叩かれ振り向いた。振り向いたのが失敗だと気付くのに、一秒もいらなかった。


「せーんーぱいっ!」


にっこりと、いい笑顔の幡木掬がそこにいた。


「……………………」


「どうしたんですか?可愛い後輩に会えて、嬉しくて言葉もでませんか!」


「それは違うから今すぐ訂正しろ」


絶望に言葉を無くしていた僕に、無言を全く逆の意味で捉えた幡木に、即答で否定する。


「またまたぁ。本当は嬉しいくせに〜。もうっ照れ屋なんだから!」


しかし、こいつに話は通じない。

僕の背をバシバシと叩きながら、片手を自分の頬に添え、へらりと笑う幡木。

今現在、卒業するときにこいつをタコ殴りにしても許されるかを、自分の理性と真剣に検討中だ。


「………それで、僕になんの用だ?」


ため息を吐きながら、僕は幡木に向き直る。


「ここに入る先輩が見えたから、追いかけてきました‼︎」


「今すぐ帰れ」


仁王立ちで何故かドヤ顔をする幡木に、入口を指差し帰宅を促す。

まぁ言ったところで聞かないのはわかってるがな…。

しかし、幡木が抗議する為の口を開く前に、指差した入口の方向から別の声が聞こえてきた。


「おやおや、女の子にその言い方はないんじゃないかな。直属の後輩には優しくしたまえよ、少年」


僕が指差した方向には、最悪の人物が立っていた……。


「生徒会長として、君のその言動は見過ごせないな。後輩には優しく!基本だろ?」


僕が会いたくない人物トップ3の一人、生徒会長のすめらぎ 凰羅おうらだ。

僕がさらなる絶望に固まっていると、会長は腕を組み、カツンとヒールを鳴らし、ニヤリと笑った。


「さぁて、特別指導だ‼︎」


僕はクリスマスを呪った。








「さて、では幡木君!」


「はいっ‼︎」


ビシッと幡木を指差し、意味がわかっていないにも関わらず、元気に返事をする幡木。

いいか幡木。そんな返事をしても、褒めてくれるのは小学生までだ。


「ちょうど今日はクリスマスだ。そこの少年になにかお願いしてみるといい」


「おい、ふざけんな。こっちの都合は無視か?」


「わぁぁ‼︎なんでもいいんですかっ⁈」


「なにもよくねぇよ。話を聞け」


「ああいいとも。さぁ君は少年になにを願う?」


「お前が返事するな」


「ええっと、どうしようかな」


「僕は頷いてないぞ。だから話を聞け」


話を聞く気のない二人に、僕は頭痛がしてきた頭を押さえる。


「じゃあ、ここでなにか取って下さい‼︎」


幡木は嬉しそうにクレーンゲーム機を指差し、僕に向かってそう言った。

僕は願いを聞いてやるとは一言も言っていない。


そして冒頭の会話に戻る。





「佐藤先輩佐藤先輩‼︎私、これが欲しいです‼︎」


「ほう…。これを選ぶとは中々に見所のある後輩君だな。どれ、少年ではなく私が取って差し上げよう。なに気にするな。私は先輩であり会長だからな」


幡木が指差したぬいぐるみを見て、会長は感心したように頷き、財布を取り出した。


「あ、そういうことでしたら僕は不要でしょうから、お先に失礼します」


これ幸いとばかりに、僕は踵を返しその場から離れようと試みるが、


「いかんよ少年。これは私が(欲しいから)取るが、他のものは君が取りたまえよ」


会長に腕をつかまれ、逃走に失敗する。

そして、会長の言葉に思わずつっこむ。


「おかしな副音声がありましたが…」


「気のせいだ。例えこれが、私の大好きなアニメのマスコットキャラのぬいぐるみでも、取ったら後輩君にあげるつもりだ(二個取るがな)」


「………………そうですか」


もう何も言うまい。


「じゃあ先輩!これ、これ取って下さい‼︎」


後ろから服の裾を引っ張られ、僕はため息を吐きながら幡木の方に振り向いた。幡木が指差す先にあったのは、


「……お菓子か」


アニメ、漫画などに興味がない人向けのお菓子の景品だった。


「なんでもいいのでいっぱい欲しいです‼︎」


「…はぁ、わかった。じゃあ一つ約束しろ」


「なんですか?」


僕は財布を取り出し、すぐ横にあった両替機で千円札をくずしながら幡木に提案する。幡木は首を傾げながら続きを待っている。


「取ったら景品もって即座に帰ってくれ」


「少年‼︎だからその言い方がダメだと言っておるだろう‼︎」


ぬいぐるみを取っていた会長が、勢いよく振り返り怒鳴りつけてくる。


「あなたには言ってません。それで?約束できるなら、取ってやる」


僕は怒る会長の方を向くことなく、幡木に再度問う。

幡木は顎に手を当て、なにやら考えている。そして一つ頷き、生意気なことに僕に挑発的な笑みを向けた。


「いいですよ。じゃあ、全部でお菓子30個取れたら帰ってあげます」


「30個、ね。それはお菓子なら”なんでも”いいのか?」


「いいですよ!取れるもんなら取って下さいよ」


取れないと思っているのだろう。笑みを崩さず腕を組み、僕を挑発してくる幡木。それに僕は、


「わかった。じゃあお前は会長と遊んでろ」


ふっ、と一つ笑い小銭を手にお菓子コーナーへと向かった。


「やったー‼︎一つ目ゲットー‼︎」


背後では会長が景品を天に掲げていた。


……少しは空気を読んでほしいものだ。





幡木達と別れてから10分後。




「ほら。お菓子30個」


幡木に小さめの景品袋を差し出し、約束の物を渡す。

それを喜んで受け取った幡木は、袋の中を見て叫んだ。


「なんですかこれ⁈」


「………少年。これはズルいんじゃないか?」


「お菓子なら”なんでも”いいと言質は取った。きちんと30個はあるぞ。文句を言われる意味がわからないな」


僕が渡したのは、バラのお菓子30個だ。クレーンゲームで100円で三回のサービス台や、すくって落とすタイプのやつで取った。ワンコインで済んだぞ。

幡木は大袋のお菓子を想像していたのだろうが、これもお菓子であることに変わりはない。


「これじゃないですよ‼︎私は、あそこのとか、あっちの、大きいやつ30個って言ったんです‼︎」


「なんでもいいのかって聞いたら、いいって言っただろ。僕はちゃんと確認したぞ?お前が悪い」


「うぅ〜、、」


唸りながら睨みつけてくる幡木など無視し、ゲーセンから出ようとすると、目の前に立ちはだかる、デカいぬいぐるみを両脇に抱えた会長。


「待ちたまえ‼︎せめて、せめて慈悲を…!後輩君が悪かったのは認めよう。だが、だがしかし、あれではあまりにも、あまりにもっ…!30とは言わない…。せめて、せめて3つ、大袋のを取ってやってはくれまいか?」


慈悲もなにもないと思うのは僕だけだろうか?

一銭も出さないやつに取った物を快くくれてやれと?

集られてるだけだよな?なあ?

僕、なにか間違ってるか…?


クッ、と悔し気に顔を俯かせ、慈悲を、と言う会長に冷めた目を向けながら、なんだなんだ、と集まりかけている野次馬に思わず舌打ちし、いつも通り、ため息を吐く。


「……わかりました。3つですね。取ったら帰って下さいね」


結局は僕が折れるしかないのだ。

なぜなら、この二人は人の話を聞かないからだ。


この後ちゃんとお菓子を3つ取って、二人には丁重に、迅速にお帰り頂いた。




幡木達と別れた……言い直そう。帰ってもらった後は、最後の目的地の本屋に寄って、何冊か買い帰宅。

こうして僕のクリスマスは無事に終了した。






はずだった……。


翌日、予期せぬ事態に僕は思わず床に崩折れた。

佐藤君のクリスマス前編です。

来週は後編をお届けします(当たり前か…)


掬ちゃんと会長と街でバッタリ遭遇。

学校でもないのに出くわしてしまった佐藤君の絶望…。

12月25日クリスマス当日。佐藤君の運命や如何に…!


後編に続きます。

次回もどうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ