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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
五章 高校二年、二学期
103/178

89.5話 佐藤君のいない4日間

佐藤君は登場しません。

掬ちゃんが書きたかった、とだけ言っておこうか…。

これは、佐藤君が高熱で欠席していた4日間の、逢真高校での出来事を記したものである。






佐藤君不在1日目。


朝起きたら、珍しく佐藤君からメールがきていた。


《熱が下がらないから休む。

学校へは連絡済みだ。

宝来を近づけないよう配慮してくれ。

ノートを写させてもらえると助かる。


あと、放送の後始末はお前と金見に任せた。

教師連中はなんの役にも立たない、ということだけは覚えておくといい。


よろしく頼む》


用件だけを端的に纏めた佐藤君らしい内容に、クスリと笑った。

先生達を役立たずだって言うのは良くないよ。


しかし、放送の後始末とはなんだろうか、とその時は首を傾げた。






それが分かったのは昼休みのことだった。





『ついにこのときがやってきました‼︎今日、私幡木掬、ソロデビューします‼︎』


ポロリと、箸で持ち上げていた唐揚げが滑り落ちた。


「……は?」


教室で彼方達と昼食をとっている時のことだった。

昼休みは始まってまだ数分。突然、スピーカーから大音量で聞き覚えのある後輩の声が、教室内…いや、学校中に響き渡った。今まで騒がしかったのが嘘の様に一気に静まり返った学校内。そんな様子に気づきもせず、幡木さんの放送は続く。


『今日はなんと、佐藤先輩はカゼで休みだそうです!私はこのときを待っていました!なんと喜ばしいことでしょうか。あのいまいましいイジワルな先輩はぶざまにもカゼでダウン‼︎いま、この学校にいない!これは前回失敗した私のソロデビューのチャンスです‼︎』


佐藤君佐藤君。君の後輩ちゃんが好き勝手やっているので止めてほしいのですが、どうしたらいいでしょうか?

僕は目を伏せ、静かに箸を置いた。それを見た俊も同様に箸を置いた為、俊の方にもメールが行っていたのだと理解する。

そして、僕等二人は顔を見合わせ、一つ頷く。


「……………行くか」


「…………そう、だね…」


広げていた昼食を一度仕舞うと、僕と俊は立ち上がった。


「ん?どうしたんだ二人共。メシまだ途中だろ」


席から立った僕等に首を傾げ、パンを頬張りながら尋ねてくる彼方。夏野と晴汰も同じく首を傾げていたので、僕と俊は一つ弱く笑いながら言った。


「佐藤君がいないから、ね…」


「後輩の不始末の処理をしてくるよ」


その言葉に、夏野と晴汰は僕等二人に憐れむ視線を向けてきて、無言で手を合わせた。彼方はというと、理解できていないのか以前首を傾げていた。

そんな彼方は放って、僕達は廊下に出ると走り出した。


『今日はなにをしましょうか?せっかくですから私のソロデビューを飾るにふさわしいことをしたいと思うのですが、なにがいいですかね⁈もう私は先輩がいないというだけで嬉しくてしょうがないです!だって、邪魔されずにこうして放送ができているのですから‼︎』


放送室に全速力で向かっている間も当然、幡木さんの放送は止まらない。


「佐藤君、めっちゃ邪魔者扱いされてるね」


「幡木さんにとっては、そうなんだろうね」


放送室は遠いため、運動部でそれなりに足の速い僕達走っても、着くのには多少時間がかかる。途中、先生達とすれ違ったが、廊下を走っているというのに咎められることもなく、見送られた。

僕達がなにをしに行くかは分かっているようだ。だけど一つだけ言わせてくれ。


教師なんだから、あんた達がこの放送を止めてくれ‼︎


この時理解した。

佐藤君のメールは、このことを指していたのだと。

確かに役立たずだね‼︎

心の中でそう吐き捨てていると、幡木さんは予想外のことを始めようとしていた。


『実は私、ソロデビューでやりたいことがあるのですよ。ソロデビューらしく、私のオリジナルソングをみんなに聞いてほしいのですよ‼︎』


「はぁ⁈」


「あの子、自分のことアイドルかなんかと勘違いしてない⁈」


そう叫んだときにやっと、放送室が見えてきた。


「よっしゃあ‼︎さっさと放送止めるぞ‼︎」


そう言うと俊は、放送室のドアに手をかけ、勢いよく開け放った。


「それでは聞いてください。

【この電波は私が支配しました!】」


僕はその曲名を聞き、転けそうになったが、なんとか踏みとどまり、放送室の主電源をオフにする。そして俊も、念の為放送台のマイクのスイッチをオフにした。


「「ま、間に合った…」」


二人で脱力し、思わず床に膝をつく。

そして、主犯はたきさんはというと、突然入ってきた僕と俊を見て、何度か目を瞬かせたかと思うと、


「佐藤先輩のとこの先輩さんじゃないですか‼︎」


僕達を指差し叫んだ。そしてキッと目を吊り上げ、


「先輩達も佐藤先輩みたいに私の邪魔をするんですか⁈」


怒りを滲ませながら、また叫んだ。


「そうだね。君にとって僕達は邪魔者なんだろうけど、君のこの放送にこの学校にいる全員が迷惑しているよ」


「そんな嘘に騙されませんよ‼︎」


「嘘じゃないよ」


「だって、先生達はなにも言いに来ないじゃないですか‼︎」


「「……………」」


幡木さんのその言葉には何も言い返せず、僕等二人は顔を見合わせ、ため息を吐いた。


「佐藤君が言ってた。時々この子は正論を言うからタチが悪いって」


「本当だね。バカなのに偶に確信をつくから始末が悪いとも言ってた」


「「………………」」


俊と二人、大きくため息を吐いた。


「あっ、先輩方も佐藤先輩みたいにため息ばっかりついてると幸せが逃げますよ!」


誰のせいだと…。

言いたいことを歯を食いしばって堪え、幡木さんに近づく。


「俊は放送の方お願い」


そして幡木さんの腕を掴み、無言で放送室の外まで引っ張って行く。抵抗されたが、そこは体格、力の差でなんとでもなった。


「幡木掬は無事に放送室の外へと出しました。このあと職員室に連行しますので、安心して残りの昼休みを過ごして下さい」


そして後始末ほうそうを終えた俊も放送室から出たところで、幡木さんが持っていた鍵を使い施錠した。

返せと煩かったが、もちろん鍵は返さない。


その後幡木さんを職員室に連行し、放送室の鍵を教師に預け、僕達は教室に戻った。


昼休みは残り五分になっていた。

慌てて昼食を掻きこみ、その後は普通に授業を受け部活に向かった。



幡木さんは放課後、校長室にて説教を受け、反省文を書いたそうだ。


こうして佐藤君が不在な1日目は終わった。




お願いだ佐藤君、早く戻ってきて……。

by水城橙里





佐藤君不在2日目。


佐藤君の回復を願いながら登校したが、その願いは叶うことはなかった。

空席のその場所を見て、俺を含めクラスメイトの何人かは肩を落とした。



そして、今日もあの小さい後輩は止まらなかった。



「佐藤先輩が不在の今!放送室は私のものです!いつ、どうやって、どんな放送をしようと、注意してくる先輩はいません‼︎」


彼女は昨日、俺達と教師に注意されたのを覚えていないのだろうか?

校長に怒られ、校長室で反省文まで書かされたのにも関わらず、懲りもせず今日も彼女の放送は始まった。

鍵は没取したはずなのに何故、と聞きたいが、今はそんな場合ではなかった。


昨日と同様、昼休みにスピーカーから聞こえてくる大音量の声。

教室内からは、耳や頭、額などをおさえ、ため息をつく奴らが多発していた。

かく言う俺もその一人だ。


俺と橙里は無言で席から立ち、全速力で放送室に向かった。


『さてみなさん!昨日は佐藤先輩とは違う先輩に邪魔されましたが、今日はそうはいきませんよ‼︎私は学びました!放送室はしっかりと鍵をかけました‼︎』


それを聞いた俺は、橙里にアイコンタクトを送る。橙里が一つ頷いたのを見て、俺は階段の方へと向きを変え、橙里は直進し二手に分かれた。

俺は階段を駆け下り、幸いにも近くにあった職員室に駆け込んだ。


「放送室の鍵を下さい‼︎」


右手を突き出し、鍵を要求する。

挨拶もなしに職員室に入ったにも関わらず、又しても咎められることはなく、一人の教師から差し出された鍵を奪うように取り、職員室を後にした。



その鍵を取りに行く間に、幡木掬によるコンサートは始まってしまった。



『電波ジャック‼︎電波ジャック‼︎この電波は私が支配しましたーー‼︎』


大音量で流れるその歌には耳を塞ぎたくなった。

下手なわけではないが、ただただ煩い。音量をマックスにしているのか、時々キーンと、機械音が混ざる。


その曲名、歌詞に違わず、まさしく『電波ジャック』というのに相応しい歌であった。


鍵を手に急いで放送室に向かう。

階段を駆け上がり、放送室に差し掛かる最後の廊下を曲がると、放送室前で橙里が片耳を塞ぎながら、ドアを叩いていた。


「幡木さん、開けなさい!お願いだから、せめて音量下げて‼︎」


「橙里‼︎」


俺は走りながら橙里に向かって鍵を投げた。それを難なくキャッチした橙里は、それを鍵穴に差し込み回す。

ガチャ、と鍵が開いた音がすると同時にドアを勢いよく開け放った。

橙里はそのまま中に入り、少し遅れて俺も、走る勢いのまま中に入った。


そして昨日と同様、放送室の主電源を切る橙里と、放送台のマイクのスイッチを切る俺。


「あーーー‼︎なにしてくれるんですか‼︎せっかく2番に入るところだったのにー‼︎」


放送を止められたことに脱力して座り込んでいると、幡木さんはきゃんきゃんと騒ぎ始めた。


「……………1番、終わってたんだ」


そう呟いた橙里の言葉に、思わず乾いた笑いがもれた。


そして、色々な意味で疲労困憊の俺達は、昨日と同様の放送をし、幡木さんを職員室に連行して、また昼休みを無駄にした。



幡木さんはまた校長室で説教&反省文を書いたらしいが、どうせ学ばないだろうから、いっそのこと停学にしてくれ、と思わずにはいられなかった。





佐藤君、今まで幡木さんのことを甘く見てたのは謝る。俺達が悪かった。だから早く治って戻ってきてくれ。

by金見俊一







佐藤君不在三日目、四日目は、土日で幡木さんがいない上、合宿だった為、特に何も起こらずに無事に終わった。

なにか言うとしたら、合宿中彼方が見舞いに行こうと煩かったことと、合宿中のご飯の用意が大変だったこと、かな。





月曜日に回復して登校してきた佐藤君を拝んでいる生徒が複数いたのを見て、幡木さんを上手く扱っている佐藤君の偉大さを改めて知った。

僕や俊も佐藤君にバレないように、密かに拝んだのは、言うまでもない。






佐藤君が卒業した後の一年間を思うと、残る生徒、先生方には同情するよ…。

と言うわけで、今回は水城君、金見君、掬ちゃんのお話でした。

佐藤君の偉大さがわかったか!

というような内容になっています(多分)


次回は、12月に入るので、何か季節ものをかけたら、と思います。それかテストの結果発表とか…かな?

それでは次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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