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平凡少年佐藤君の人生傍観的記録  作者: 御神
五章 高校二年、二学期
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88話 宇宙人と対峙した時の対処法を求む

今回は、ちょっと今までとは違った、変わった(?)話になっていると思います。


楽しんで頂けると幸いです。

僕にとって、不快で不愉快で地獄でしかなかった文化祭も終わった。振替休日を挟み、登校した僕は、予想通りの展開にため息を吐いた。



「あ、グリシーヌだ」


「藤先輩、制服だと普通だ…」


「あの人がミス逢真か…」


去年と同様、僕の名は正しく呼ばれない。

後輩からの好奇の視線、同輩からのニヤニヤとした嫌な視線、先輩からの同情の視線。登校するのに道を歩いているだけで、それだけの視線に晒された。

不名誉極まりない、”ミス逢真”という、本来女子で、尚且つ出場しないと取れないはずの肩書きを、男子高校生である僕が持っている。しかも二年連続で。それだけでも可笑しな話なのに、今年は何故か、妙な噂がいくつか出回っているらしい。


曰く、二年の佐藤は女装趣味だ

曰く、実はツンデレで口を開けば毒を吐くが、内心は喜んでいる

曰く、同性愛者である

曰く、宝来彼方と付き合っている

曰く、バスケ部の同級生に愛人がいる



誰だこんな噂を流したのは‼︎

特に後半三つ‼︎

全て全くのでまかせだが、後半三つに関しては悪意しか感じない。

どこからそんな噂が流れたのかは分からないが、皆が僕を遠巻きに見てヒソヒソと話しているのがとてつもなく不快だ。


玄関までのたかが数メートルの距離で怒りが募ったところで、僕は一番遭遇したくない人物に遭遇してしまった。


「せっ、先輩!ウソ、ですよね?先輩が、そんなっ…!」


「何を言いたいのか分からないが簡潔かつ端的に要件だけ言え」


「先輩が、女装趣味でツンデレで男が好きで宝来先輩と付き合ってて他に愛人もいるって言うのは本当なんですか⁈」


「全部の噂を集約するな。僕が正気でそんな人間だったなら、こんな真面目にまともに学校に来る訳ないだろ」


二年の下駄箱で待っていたのは、眉を寄せ、真剣な表情で噂を鵜呑みにした幡木バカだった。

馬鹿には冗談が通じないんだから、変な噂を流すのはやめて頂きたいのだが…。


「ウソ、なんですか?今、学校はその話で持ちきりみたいですけど」


「よしわかった。その噂の出所を教えろ」


とんだ有名人になったものだ。悪ふざけが過ぎる。

幡木の口からでた、”諸悪の根源たる人物の名”に、僕は額に青筋を浮かべた。







放課後、僕はとある場所に来ていた。

近づきたくない場所の一つではあるが、噂について文句の一つでも言ってやらないと、僕の気がすまない。

時間がなかった為放課後にしたが、それまでの間、噂がひとり歩きし、休み時間の度に僕を見にやって来る輩が山程いた。宝来達にも、いつもは見ない真剣な表情で真実を問われた時に、無意識に手が出たのは仕方がない事だ。

力加減ができずに、鼻血が出ていたが、まぁ死にはしない。

そして僕はやっと来た放課後に、諸悪の根源を断ちに、態々来たくもない場所に足を向けた訳だ。


「………」


またあの変人…いや変態か?…に会わなくてはいけないのだと、辿り着いたドアの前で一つため息を吐き、意を決して、戸を叩いた。


中から出て来たのは、仏頂面の男子生徒。


「……何か?」


低い声で、簡潔に要件を問われる。目付きが悪く、身長もそこそこで見下ろされて、ピクリとも表情が変わらない為、威圧感がある。


「……生徒会長に用があるのですが」


「ああ。……どうぞ」


噂を知っているのだろう、納得したように一つ頷いた彼、生徒会副会長の相模さがみ 郁人いくとに奥まで通される。

そして僕は目的の人物の前に立ち、口を開いた。


「どうも生徒会長。この度は随分と、お世話になったようで…?」


「ああ、君か。待っていたよ。いずれ来ると思ってこの生徒会室に一日中いたが、遅かったな」


「教室にいないと思ったらこんな所でサボっていたんですね。受験生なんですから少しは考えて行動したらどうですか?お陰様で私は無駄足を踏みました」


生徒会長の言葉に反応したのは、生徒会書記の能美のうみ 花奏かなでだ。眼鏡の中から、鋭い眼光で生徒会長を睨みつける彼女に、生徒会長はビクリと肩を震わせた。


「そっ、それにしてもよく来たな佐藤少年。要件を聞こう」


話をそらした会長は、吃りながら僕に向き直り、姿勢を正した。会計の方から舌打ちが聞こえたが、まぁ僕には関係ないな。


「あの噂を流したのは生徒会長だとバカから聞きましたが、それは事実ですか?」


「うむ、如何にも。私が噂を流した張本人である。して、なにか問題でも?」


芝居掛かった口調で、頬杖をつき足を組んだ会長。薄っすらと笑みを浮かべ、僕を見据えてくる。


「何故あんな噂を流したのか、理由を聞きたいのですが」


僕がそう聞くと、会長はフッと僕から視線を逸らし、窓から空を見上げる。


「知っているか少年よ。噂というものにはな、リアリティが大事なのだよ」


「リアリティがカケラもない噂しか耳にしないのですが」


「君が知らないだけだ。真実は時として残酷なものだ。自分の胸に手を当て、問いかけてみるといい。自ずと真実こたえが見えてくるはずだ」


「あんたが僕の何を知っている」


遠くを見つめたまま、悟りを開いたかのような表情で、意味の分からない事を口にしていく会長。


「よく考えてみろ。嫌だ嫌だと言いつつ、”喜んで”女装しているのは誰か。”緩みそうになる表情”をグッと堪え、無表情でいるのは誰か。君が好きなのは誰か。君が好きなのが、どんな人物であるのかを」


「どんなに考えた所で僕の中にある真実は変わらねぇよ。人の気持ちを勝手に決めつけるのやめてもらえますか」


「ああ、いいんだ。すぐには受け入れられないのも分かる。これからゆっくりと納得して、受け入れていけばいい。私は、君がどんな人物であろうと君の味方だ。どんな性格だろうと、どんな性癖を持っていようと、同性が好きだろうと、二股していようと、私だけは君の味方でいよう。安心したまえ」


「……………………………」


話が通じない宇宙人と話したのは初めてだ。馬鹿なだけじゃないのがまたタチが悪い。僕がどれだけ否定したところで、返ってくるのは自分の意見が真実だと疑わない意味の分からない高説ばかりだ。

ギリギリと歯を食いしばり、震える拳を抑えながら、僕は再度問う。


「…どうしてそう思ったのか、聞いても?」


「私の目に狂いはない。私の知るキャラクター達は皆そういう人物なのだ。君はその素質を持っている」


「……キャラクター?」


答えにそぐわない単語に、思わず首を傾げると、会長はバンッとテーブルに片手をつき、もう片方の手で拳を作り、興奮した様子で立ち上がった。


「よくぞ聞いてくれた‼︎」


「いや、聞いてませんが」


僕の声など聞こえていないのか、ロッカーに入っていた鞄から長方形の箱を取り出し、僕に突きつけてきた。


「この真ん中の子、主人公のあかりくんに君はそっくりなのだ!」


「…………」


思わず受け取り、”それ”を見ると、頬がヒクリと震えた。

それは、

『君と僕のメモリアル〜禁断の恋が叶う時〜』

というタイトルの恋愛ゲームだった。


「キミメモは最高なんだよ‼︎そして、その中から出てきたかのように、君はその主人公、いやヒロインというべきか、とにかくその子にそっくりなのだよ‼︎」


「………男しかいないうえ、18禁とか書いてありますが…」


「安心したまえ。私の誕生日は6月、つまり私は18歳だ。なんの問題もない。それと、男しかいないのは当然だろう。それは所謂BLゲームというものだ」


「………………」


絶句。

その言葉をこれ程までに正確に使用したのは初めてだ。

そんな僕の様子に気づかず、会長は饒舌に語り始める。


「灯くんが恋心に気づくのは、そう高2の秋だ。明るくて人気者の幼馴染の弘也ひろやと文化祭で劇をするんだ。クラスメイトの女の子が怪我をして急遽代役をやることになった灯くんだが、女装…いや衣装が似合い、クラスメイト全員から歓声が上がる。そんな中弘也は少し頬を染め、灯くんから目を逸らさずに見つめているんだ。そんな弘也の前に若干不安そうな表情で立つ灯くん。そして弘也は、眉を下げ微笑みながらこう言うんだ。

『…似合ってる。あんまり可愛いからびっくりした』

安心させる為に言っただけかもしれない。だけど、その言葉に灯くんは顔を真っ赤に染める。そして劇を終え、帰宅し自室のベッドに顔を埋める。そして、その言葉を思い出し、再度顔を真っ赤にしながら、

『僕、もしかして、弘也のこと、、』

そう、ここで灯くんは弘也が好きだと自覚するんだ」


一呼吸置いて、会長は僕を指差し叫んだ。


「そんなかわいい灯くんに、君はそっくりなんだ‼︎」


「……いや、別にそんなことを聞いた訳ではないですし、興味もないです」


会長の言葉が理解できず反応が遅れたが、スッパリと言い放つ。

しかし会長には”聞く耳”というものが存在しないのか、続ける。


「キミメモはな、本当に純愛なんだ。こんなに焦らされたゲームは初めてだったよ。二人が結ばれたのは高3の夏。それまでイチャイチャ展開もキスのひとつもない!そんな焦らしプレイをされたゲームだったよ‼︎感謝しかないがな‼︎」


「いや、だから」


「そして、目の前には同じ案件が転がっているではないか。灯くんよりも自覚がなく、結ばれる前に卒業してしまいそうな人物が。…そう君だよ!」


「…………」


何を言っても無駄なようだから、僕は口を噤む。


「君と宝来君は結ばれるべき存在なのだ。だから私が協力してやったのだ。現実での焦らしプレイ程もどかしいものはないからな!感謝してくれていいんだぞ‼︎」


「っっっっ‼︎」


「どうしたどうした?嬉しすぎて言葉も出ないか?嬉し泣きか?良い良い。今まで誰にも気持ちを打ち明けられないのは、さぞ辛かっただろう。苦しかっただろう。だが大丈夫だ。私が付いている。私は君の味方だ」


怒りで俯き震える僕の肩に手を置き、優しく語りかけてくる会長。


「…………会長」


「どうした?」


「先に謝っときます。…すみません」


僕は会長に一言謝り、腕を振りかぶった。


「ん?なにおぉぉぉっ‼︎」


「一回死んだらどうですか?」


バァァン、という音と共に僕の手の中にあったゲームソフトが、壁に叩きつけられた。

カシャン、と、ディスクが飛び出し床に落ちるのを見て、会長は膝をつき頭を抱え、奇声をあげた。


「いぃやぁあぁぁぁ‼︎」


「噂を消して頂けないのであれば、そのディスクを粉々にしますが」


会長が床に落ちたディスクに近寄るより早くディスクを拾い、無表情で床に座る会長を見下ろす。


「なんてことをっ…!君は悪魔か‼︎」


「おっと、手が滑りました」


「いやぁぁぁ‼︎消すから!噂消しますから‼︎お願いだから割らないでぇぇ‼︎初回限定ディスクなのぉぉ!プレミア付いてて買い直せないんだよぉぉ‼︎」


僕がディスクの両端を持ち、軽く折り曲げる動作を見せると、会長は這って寄ってきて僕の足に縋りついた。


「ではこれはお預かりします。明日、きちんと噂が消えていたらお返ししますので。それでは、生徒会の皆様失礼しました」


ケースも拾い、縋りつく会長を蹴って剥がした僕は、他の生徒会メンバーに軽く頭を下げ、取り返そうと飛びついてくる会長をヒラリと避けながら生徒会室から出た。ドアを閉めた瞬間会長が激突したが、僕は気にせず足早に立ち去った。

背後では、「キミメモォォォ‼︎」と、嘆きの叫びが聞こえたが気にしない。





翌日、どんな手段を使ったのか噂はなくなっていた。

朝、昼と放送があった為に休み時間に会長と出くわさなかった所為か、放課後物凄い勢いで僕の元へときた会長に、ゲームは返却した。

が、壊れていないか確認する為か、その場でプレイし始め、


「はぅん。キミメモ……最高」


と、僕や僕のクラスメイト達から奇異の目を向けられながら、18禁のBLゲームをプレイし(大音量)、偶々通りかかった先生に没収されていたので、頭が悪いとしか言えない。


その後会長は、校長室で説教を受け、反省文を書かされたそうだ。


…どうでしたでしょうか?

生徒会長大暴走の回でした。

生徒会長と佐藤君の話を一回書きたかったんですよね。書けてよかったです。


次回も、何か書きます。書けたらテストの話でも。無理そうだったら、また日常的な話になります。それでは、次回もどうぞよろしくお願い致します。

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